パチ……パチ……
始まりは、小鳥の鳴くような、小さな音。
それから先は、一瞬の内の出来事だった。
金木の身体から、“赫”が吹き出した。それは、流動しながら全身に行き渡り、生身を隙間なく埋めていく。そして、次第に、それが最初から決まっていたかのように、形を成していった。
まず、尾をつくった。いや、尾というには、あまりに長く巨大。対象としたものを叩き潰し、粉砕する形をしていた。表面には針のように細かい突起が、無数に生えている。
次に、四肢に。体積を増やし、まとわりついた“赫”は先端に鋭利な五本の爪を伸ばす。肩は厚く、両腕は二重、三重にも“赫”が渦巻き、固定され、両腕は地へと降ろされた。両足は、腕と比べると“赫”の量は少ないながらも、地を蹴り出すために適した柔軟な鎧に。
首から上を覆った“赫”が形づくったのは、荘厳なる竜の仮面。しだいにそれは、獣染みたものへと変化していく。
竜と混ざりあったものは、狼だった。聡明で、その気高さを意識させる、威風堂々とした容貌。
⎯それが、憤怒に染まる。口が裂け、牙が剥き出しになり、グルグルと喉から響く、低い唸り声。それに呼応するように、背から幾筋もの雷が発生する。
「⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯」
獣の咆哮が轟いた。
咆哮は、幾重にも木霊し、辺りを支配した。その体躯から、暗く深い底なし沼のような、どろどろとした濃厚な怒りが溢れだす。
それを合図に、獣は憎敵へと牙を剥いた。
その瞬間、生存本能というべきか、命の危機を感じたヤモリに、僅かだが意識が戻る。
だが、遅すぎた。
ばちゅんっ
「げ……へひゅ……?」
違和感に気づいたときには、ヤモリの右上半身は弾けるように、消失していた。
「がぁあああ"あ"…‼…おぉ、おれのぉ…」
ヤモリが悲鳴を上げる。纏った赫子が、すぐに失った肉を埋める。だが、再生に使われた分の赫子は、すぐには戻らない。
肉が、肉は
奪ったのは、あいつか
ヤモリに、意識を失っている間の記憶はない。だが、目の前の存在が、自分から奪わんとする敵だと、それだけはわかった。
「殺す、コロす……俺が奪う側なんだァ……‼!」
ヤモリの纏う赫子が剥がれ、全方位から、獣に殺到する。しかし、赫子が到達した時、そこにはもう何も残っていなかった。
「あ…?え」
巨体がゆっくりと、地に墜ちていく。それを、ヤモリは上から眺めていた。
巨体の上半身は、その大部分を喪失していた。残っているのは、腰以下の下半身だけだ。そして、獣の手の中にある、頭部のみであった。
「まだ……まだだァああ"あ"…!‼」
半身を失ったヤモリの身体から、触手が伸びる。身体の再生を。頭部との結合を。
だが、それは許されなかった。
しゃく
頭部は五本の恐爪が中程まで食い込み、握り潰されて、弾けた。そして、獣の尾が伸び、残ったヤモリの胴体をうねる触手ごと叩き潰していく。何度も、何度も殴打し、終いには平らに慣らされた肉のかたまりに。止めに、放電して雷撃の雨を降らせた。
残ったものは、地面にある焦げ跡と、僅かな炭のみ。ヤモリは、この世から消えた。
■
堅牢な獣の鎧が、元の流動的な“赫”に戻る。そして、金木の肌に溶け込むように消えていった。
「トーカちゃん」
金木が、トーカのもとへ急ぐ。
「トーカちゃん……あ」
安堵からの声だった。トーカには、まだ息があった。生きていた。安堵から、金木の視界が滲む。
金木には、自分のすべきことがわかっていた。“赫”に包まれ、一瞬頭が真っ白になった時、その時に気づいたこと。
答えは、とても単純で、簡単なことだった。
トーカはヤモリによって、赫包を奪われている。金木の大量の血で命を繋いでいるが、長くはないだろう。だから、それならば、足せばいい。無くなったのなら、また足せばいいのだ。それだけのことだった。金木はその行動を取ることに、躊躇いはなかった。
「ぐ……ぎ」
金木は自身から抉り出したものを、そっと、トーカの身体に押し込んだ。
短期決戦。
描写下手なだけですごめんなさい
見た目のイメージは色的に獄狼竜です。狼と竜で検索したら出ました。ピンときたので決まりです。
でもなんか、いきなり1飛ばしてスーパーサイヤ人2にでもなったような…そんな感じがしますね。