前世はバンパイア?   作:おんぐ

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6話目です


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 暗い森の中で、木々の間を軽々と駆け抜けていく影があった。

 時折、鋭く尖った枝が身体を引っ掻いていくが、気にする様子はない。グール故に、その程度では身体に傷はつかない。ついたとしても、直ぐ治る。だが、見に纏っている服は千切れ、ほつれて、明らかにボロボロだった。

 

 

 「くそっ、何ださっきの」

 

 

 アヤトは苛立ちを言葉にする。まず、後ろから付いてきていた金木が消えた。そして、突然、何かの叫び声が聞こえたかと思うと、一瞬、雷が落ちたような、衝撃が走ったのだ。

 

 

 「くそ、くそ、くそトーカ!簡単に捕まってんじゃねーよ!何でおまえが捕まってんだよ‼」

 

 

 アヤトは先のことは考えていなかった。姉に会えたとして、自分がどうするのかもわからなかった。ただ、考えるよりも先に、身体が動いていた。

 進行のスピードが増す。赫子を出して、邪魔な障害物を排除しながら進む。

 そして、突如視界に、まばゆい光が満ちたかと思えば、開けた場所に出た。アヤトがまず目にしたもの、それは赤い地面の中心にいる、片腕を失った姉の姿だった。顔色は死人のように青白い。

 

 

 「あ、あね…き?」

 

 

 フラフラとした足取りで、トーカの元へ歩くアヤト。目の焦点は定まっておらず、信じられないものを前にしたような表情だった。

 

 

 「あ…きみは「くそっ」…」

 

 

 アヤトは崩れ落ちた。もう、それ以上は見たくないというように。

 

 

 「ごめん、守れなかった」

 

 

 淡々とした声がアヤトの耳に絶望を届けた。

 

 

 「……っ…くっ」

 

 

 ぽたっぽたっと地面に染みが出来る。

 こんなはずじゃなかった。アヤトの心を後悔が埋め尽くした。

 

 そんなアヤトの様子を、金木は冷めた目で眺めていた。

 

 

 「…アヤト君だっけ。勘違いさせてごめん。…大丈夫。トーカちゃんは、ちゃんと生きてるよ」

 

 

 「……え?」

 

 

 アヤトがゆっくりと頭を上げる。目の先にいたのは、愛しさに溢れた表情で、トーカの髪を優しく撫でる、金木の姿だった。その瞳は慈しみに満ちていた。

 

 

 「こっちはくっついたんだ。でも、右はもう…傷口も綺麗にとじちゃってて…」

 

 

 唇を噛み、吐き捨てるように金木は話す。だが、アヤトには、その言葉が何よりの救いだった。

 生きてる、ちゃんと、生きている。アヤトは心で何度もその言葉を反芻させた。

 

 

 「……あ、ヤモリとカマ野郎は?」

 

 

 落ち着き、思い出したように、アヤトは金木に訊ねた。

 

 

 「白髪は殺したよ。もう一人もそこで……あ」

 

 

 「ひっ……アヤト君!‼」

 

 

 金木は首を傾げる。先ほど、雷撃を飛ばしたはずだった。白髪頭は消し飛んだのに、なぜ。そう考えたが、金木は思考を続けなかった。まだ、敵はそこにいる。ならば、もう一度やればいいだけなのだ。

 

 

 「ごめん、アヤト君。ちょっとお願い」

 

 

 金木はトーカをアヤトに預け、右腕を“赫”で覆い、電気を発生させる。そして、逃げようともがくニコに雷撃を飛ばした。

 

 

 「あっっぶらあああはぁああああ……!‼」

 

 

 「あ、そっか。赫包が一つ無かったんだ」

 

 

 その分、威力が落ちただけ。そう金木は納得した。そもそも、まだ自分の身体に赫包が残っているのかすらわからない。

 ニコは、焼けただれていたが、原型を残していた。直ぐに、再生が始まる。金木は追撃するべく、手を再びニコへと向けた。

 

 「ま、まって」

 

 

 

 

 ■

 

 男は運命を呪った。いや、正確には、今日の運勢を呪った。一位だったと喜んでいた、朝の自分を叱咤してやりたい気分だった。

 ヤモリによって、半分に分けられた身体も既に治していたのだ。地面の下から赫子を伸ばして、バレないように、細心の注意を払って、分かれた身体を繋げた。一度雷撃を受けたのは、予想外のことだった。だが、やられた不利をして、後は機を見て、逃げ去るだけだった。だけだったのに……なのに‼アヤト君っ!‼

 だが、今となっては、アヤトを恨んでも仕方がない。ニコはこの場を切り抜けるべく、頭を回転させた。

 

 

 「ま、まって‼」

 

 

 「うるさい死ね」

 

 

 金木に、ニコを生かしておく理由はなかった。むしろ、殺す理由しかない。顔を見られた。隻眼であることも、気づかれているだろう。それに、自分や、トーカの特異性についても、何か感づかれた可能性もある。

 何より、トーカがこんな目になったのは、この男のせいでもある。

 だから、殺す。金木は躊躇いなく、その選択肢を選んだ。

 力の使い方はもうわかっている。幾分か弱体化したが、まだ強くできる。対象を消すには充分だと判断した雷を、金木は腕に纏わせた。

 

 

 「じゃあ「アヤト君っ!‼同じ組織の仲間でしょっ」」

 

 

 不吉にバチバチと鳴る音に怯みながら、ニコはアヤトに助けを求めた。しかし、反応を示したのは金木だった。ピタリと動きを止める。

 

 

 「組織?」

 

 

 「……え、ええ、そうよ。アオギリの樹って聞いたことないかしら」

 

 

 「……」

 

 

 金木の耳に、覚えはなかった。だが、組織という言葉が、引っ掛かる。相手を仮想して、金木の心に不安が生まれた。

 

 

 「…それは、規模はどれくらいですか」

 

 

 「…そうね、私はそこまで詳しくないけど、十一区のアジトだけで、百のグールはいたわね」

 

 

 「おい、勝手に喋んな」

 

 

 剣呑とした声を上げたのは、アヤトだった。アオギリを裏切るのかと、目で訴えていた。

 

 

 「あら、さっきの様子を見る限りだと…お姉様がいなくなってたら、アヤト君はどうしていたかしら」

 

 

 「……っ」

 

 

 「アタシは抜けるわ。ヤモリがいないんじゃ、意味ないわ。…知っていることは、話すわ。だから」

 

 

 ニコは、金木に視線を送る。

 

 

 「だから見逃して、ですか?無理だ。あなたは口が軽そうだ。僕のことも、きっと誰かに話すのでしょう。リスクが大きすぎる」

 

 

 組織の情報は、アヤトから聞き出せばいいと、金木は思っていた。

 

 

 情報の開示を渋るべきだったと、ニコは後悔した。いや、渋れば、その時点で、自分は攻撃されていただろう。

 …ニコは、手札を切る決意をした。金木にだけ聞こえる声量で、ヒソヒソと話す。

 

 

 「アタシ⎯⎯⎯」

 

 

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