前世はバンパイア?   作:おんぐ

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 三話目です

 ご注意下さい


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 「あ、あれって」

 

 そろそろ引き上げようとしていた矢先、金木の目に入ったものは、グールと捜査官の戦闘風景だった。まだ遠目でしか見えないが、グール側が劣勢なようだ。

 眺めているうちに、金木は気づく。立っているグールが減っていくのに対し、捜査官側の消耗が少ないことに。

 元々、金木達がグールを排除して回ってたのだ。捜査官の数に対して、戦えるグールの数は大幅に減少していた。

 捜査官側は、そこをついた。数の利を生かし、持久戦に持ち込んでいた。守備に徹し、隙が出たところをつく。負傷者が出ても、連携をとって後ろに下がる。包囲したからこそ可能な作戦だった。逃げ出そうとするグールがいるも、殺到する捜査官から逃げる術を持つグールはいなかった。

 

 

 「あ」

 

 

 金木は見知った顔を見つける。それは、以前、CCG二十区支部で会話した亜門捜査官。そして、グール側で先頭に立って戦っているアヤトだった。

 

 

 「あれ、トーカちゃんの弟のアヤト君ですよね…」

 

 「…そうだね。しかし、あのままだと彼は…」

 

 

 今回事に当たるにいたって、芳村は捜査官の前に姿を見せないことが、前提にあった。いくら姿を変えているとはいえ、仮に隻眼の梟が現れたとなると、注目されるのは免れない。芳村に選択肢はなかった。

 

 

 「トーカちゃんの弟だし、フリットで助けにいきます。でも、まだそこそこグールいるし、もう少し見てます…」

 

 

 「…そうか」

 

 

 芳村は複雑な気持ちだった。

 今の金木は、一貫してはいるが、それは非常であると言える。トーカが襲われる以前にも、兆候はあった。しかし、今はその時までにあったユトリがない。他者の、命に対して、明確な線引きがされていた。

 今の金木に、自分の望んでいる人間とグールの共存の話をするのは無意味なことだというのを、芳村は理解していた。

 金木は、力を持っている。しかし、それを使うのは、きっと自分の手が届く範囲よりでることはないのだ。

 

 

 実力のあるグールのみが生き残り、戦局が佳境に入る。そこで、捜査官側も動きを変えた。

 

 

 「うわ…あれ、何ですか?あの人、グール…?」

 

 

 前に出てきたのは、一人の捜査官だった。その捜査官の身体を赫子が覆ったかと思えば、それが鎧のように固定されたのだ。

 

 

 「あれは、ね…クインケだよ。…赫者へと至った者の赫包を使用したものだ」

 

 金木の疑問に、芳村が答える。話す口調は、重々しかった。

 

 

 「そうなんだ…でもなんだか……あ」

 

 

 アヤトが、赫子の鎧を纏った捜査官に向かっていった。それは、今までの動きとは違う、感情的なものだった。首を傾げる金木に、芳村は顔をしかめて言った。

 

 

 「あれが、自分の父親のものだと、気づいたんだね…」

 

 

 えっ、と金木は芳村に大きく見開いた目を向ける。芳村は、頷くだけだった。

 金木は察した。そして、運命を呪った。またか、と思った。リョーコとヒナミの時といい、あんまりだった。それに、そのクインケを所持しているということは、アヤトにとって仇であるのだ。金木は、同情した。

 金木の感情は、アヤトへと傾倒する。元々、一応は庇護の対象だったのだ。勿論、グールが家族を奪われたといっても、グールに家族、友人を奪われた人間とは数の比較にはならない。極論だが、クインケにされた家族と対峙するのも、喰われてグールの血肉とされた家族の一部と対峙する捜査官のこと考えれば、そう変わりのないようにも思える。

 しかし、そんなものはただの一つの理屈である。当事者でもない、他人である金木の障害には、結局の所、なり得なかった。

 アヤトからすれば、その命を弄った、父親の仇だ。つまり、トーカの父親の仇でもあるのだ。以前、一緒の布団で眠った時の、トーカの呟きが脳で再生される。しかし、捜査官に手を下すことはできない。

 金木の取るべき手段は決まった。

 

 

 「芳村さん。すみません、少しだけ待っていて下さい」

 

 

 「…気をつけてね」

 

 金木は、芳村に小さく頭を下げる。そして、マスクを深く被り直し、建物から飛び降り、フリットをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ■

 

 

 

 

 

 

 「くっそ……」

 

 

 アヤトは悔しさと情けなさ、そしてなにより自分の弱さに怒りを覚え、悪態をついた。

 何度かの衝突で、目の前の男に敵わないのは、理解していた。

 全身が、悲鳴をあげている。無茶を繰り返したため、脳にも負担がかかって頭が割れそうなほどの激痛。赫子など、まともなものはもう出なかった。

 しかし、アヤトは止まらなかった。止まれなかった。

 悔しい、悔しいと自分の弱さを呪う。もっと強かったら、もっと力があったら…目の前の憎敵を葬ることができたのだろうか。

 親父が今も生きていたら…アヤトに朦朧とした頭に過った。

 

 

 「もう、君だけだよ」

 

 

 父親の赫子を纏った男が宣告する。

 アヤトは周りを見渡す。調度、瓶兄弟が、一人の捜査官によって、命を終わらせられていた。もう、だめだとわかった。

 立っているのは、自分だけ。皆、地に伏せていた。身体から分かれた首。穴だらけにされて、もう再生しない身体。まだ、辛うじて息のある者もいる。しかし、手遅れだった。立っているのは、自分一人だった。

 アヤトは、目を閉じた。

 

 

 「…投降の意思は?」

 

 その言葉に、アヤトは目を開いた。

 

 「するわけ、ねえだろ」

 

 「……そうかい。全員、待機。ここは私がやるよ。まだ残っているかもしれない。警戒を続けるように」

 

 

 アヤトは、最後の力を振り絞り、赫子を形成する。しかしそれは、本来のものと比べると、小さく、あまりに弱々しいものだった。

 それでも、アヤトの意思は衰えない。朦朧とする意識のなかでも、その瞳に火は灯っていた。

 

 アヤトの赫子は、その鉄塊のような一刀に、防がれる。弾けて、霧のように消滅した。

 斬撃が迫る。

 アヤトは、逃げなかった。ただ、一つだけを見つめていた。

 

 身体に届く、その時⎯⎯

 

 アヤトの身体を、浮遊感が襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 「がんばったね」

 

 体温が下がった冷たい身体に感じる、確かな温もり。アヤトはそっと僅かに目を開いて、見上げる。

 

 

 「…おとう、さん?」

 

 

 これは、夢だろうか。朦朧とする意識の中で、記憶のなかの父の姿が見えた気がした。

 

 

 「…今は、ゆっくりお休み」

 

 

 少し低めの、落ち着く柔らかな声が、スーと耳を通り抜ける。

 

 

 「…うん」

 

 

 アヤトは素直に目を閉じる。そして、安らかな顔で意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「芳村さん、すみません。アヤト君をお願いします」

 

 「それはかまわないが、君は?」

 

 再び芳村のいる高台へと戻った金木は、アヤトをそっと芳村の手へと移した。

 

 「あの鎧…クインケをちょっと。このままじゃ、目覚めが悪くなるので」

 

 「それは…」

 

 「今と同じ要領でいくので、大丈夫だと思います。できれば、決めておいた地点に先に行っていてほしいのですが…」

 

 「それはいいが、しかし」

 

 「大丈夫です、待っててください」

 

 




ルートaを参考にしました。

店長は苦労人。
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