前世はバンパイア?   作:おんぐ

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三話投稿します。


突入。


46 フラッシュバック

 

 

 

 

 「…来たか」

 

 男は、複数あるモニターの一つの映像を一瞥して、無感情に呟く。

 ‎モニターには、白いスーツを着た者が複数人映っている。

 

 「パパ、」

 

 男の背後に佇む白と黒が緊張した面持ちで声をかけた。

 

 「何も心配することはないよ、シロ、クロ。…ただ、もう逃げ回る生活はおしまいだ」

 

 柔和な声で話す男の様子に、二人の少女は無表情ながらも、内心ホッと息を吐く。

 

 「ではお出迎えを……おや、これは──」

 

 男の瞳が色を点ける。爛々と輝く。

 ‎男が目にしたものは、地下への入り口付近のカメラの映像───そこに映っていた白衣の集団だった。

 

 

 

 

 

 □

 

 

 

 

 一人で住むには広すぎる西洋風の屋敷。壁には蔦が絡みつき、雨の汚れが目立つ。木に囲まれ、手入れの行き届いていない外観は、怪しげな雰囲気を纏っていた。

 

 「お化け屋敷…」‎

 「幽霊見たいです」

 ‎「見ても、そんなにいいものじゃないよ」

 ‎「ハイセは見たことあるです?」

 

 一階部分の捜索中、客間の本棚に吸い寄せられた佐々木が手に取ったのは、一冊の本。ページに挟まれていたのは、この屋敷の前で撮ったのだろう──寄り添う夫婦に、二人の少女の写真。おそらくこの家に住んでいた家族の写真だろう。

 

 「ん?これ、ナシロとクロナ?」

 ‎

 ‎集合して、佐々木が見せた写真に反応したのは、鈴屋だった。

 ‎そして、その名前で亜門が気づく。

 

 「まさか…安久か?」

 

 数年前、OBとしてアカデミー候補生のスクールにて行った講演。写真に映っているのは、あの場で熱心に話しかけてきた、双子の姉妹だった。

 

 

 

  ‎

 

 

 

 「ひさびさのぶよぶよでした」

 ‎「ハイセ、私たちもひさびさですね…」

 ‎「だね」

 「……」

 ‎

 緊張感のない、緩い雰囲気で前を行く三人組に、亜門は思わず力が抜けていく感覚を覚えた。ここ一週間で少しは慣れた光景とは言え、眉を潜めるのは変わりない。

 

 「おいおい…」

 ‎「本当に捜査官か…?」

 ‎「ガキの遊びじゃないんだぞ…」

 

 後ろの協力隊の面々からの、ひそひそと雰囲気の良くない声。亜門は同意するように小さく頷く。

 ‎

 ‎「篠原特等、よろしいので?」

 「って言ってもなあ…いや、まあそうなんだけど」

 

 流石に見かねて、篠原に意見を求めるも、頼りになる上司も苦笑を漏らすばかりだった。

 

 「…」

 ‎

 亜門は失礼だと思いつつも、‎内心愚痴を漏らす。條原は什造に甘い。その気持ちも分からなくも…いや、分からない。だが、そうなった理由は分かる。

 主な理由は、‎鈴屋の変化だろう。先月から鈴屋の人が変わったように──とまではいかないが、少なくとも“変わった”と思えるほどの変化が目に見えてあったのだ。捜査にも真面目に取り組む──あくまでも以前と比べればだが──姿に、遂に什造も…と篠原は目頭を熱くしていた。何故突然真面目になったのかと尋ねるも、鈴屋ははぐらかして答えなかった。だがその理由も、すぐに分かったが。

 

 『僕が案内しますよー』

 『お願いします。…鈴屋先輩?』

 ‎

 この会話と、鈴屋と佐々木が出会った日から考えて…亜門は何となく察した。

 ‎そしてこの突入の日に至るまで一週間と期間はなかったが、ハイルを含めた三人の仲の良さは目に見えて理解できた。

 

 

 

 ‎「おい君たち、もう少し緊張感を──」

 

 さすがに目に余ったのか、協力隊の一人、上等捜査官の磯山が口を開いたところで──

 

 「ハイル、今」

 ‎「うん」

 

 次の瞬間。

 ‎‎ちゃぷん、と水面が揺れた。

 ‎

 ‎「あぶぅぅ」

 

 奇声を上げながら掴みかかってきたのは、肥大した身体の人型だった。

 

 「しッ」

 ‎「うらっ」

 

 ハイルが身体を反らして蹴り上げ、佐々木がその上から横凪ぎに払う。

 ‎水面の上を這う配管に激突した人型に、鈴屋が追撃にサソリ数本を急所へと投擲する。

 誰もが警戒体制に入った中、‎うつ伏せになった人型は二度三度痙攣して、その動きを止めた。

 

 「やったです?」

 ‎「ばぶるるるるる」

 ‎「うわっ、赫子です」

 

 ナイフが刺さった箇所から吹き出すように出てきたのは、複数の赫子だった。そして、向かってくると思われたそれは──人型自らの身を貫いた。

 ‎しん、とした空間にグチャグチャと咀嚼する音が反響する。その口からは、見た目からは想像もつかない甲高い奇声が鳴り響く。

 異常な状況に、一同が水面から距離を取り、警戒すること数秒。

 ‎ついにそれは、赫子もろともその動きを止めた。

 

 「あれは、グールだよな…?…鈴屋、伊丙、佐々木はよくやった」

 「やったですね」

 ‎「作戦成功ですね…」

 ‎「ありがとうございます」

 

 息の合ったコンビネーションを目の当たりにして、それ以上鈴屋達に意見する者はいない。

 ‎そして、あの什造が連携を…と、内心じぃんと感動していた篠原だった。

 

 

 

 

 □

 

 

 

 

 コツコツと、四人分のほんの僅かな靴音が、やけに大きく聞こえる。

 ‎時折、監視カメラが稼働する音を耳が拾うだけだ。Rc細胞壁に囲まれた空間は、嫌でも新人時代の“もぐら叩き”の記憶を呼び覚ましていく。‎悔やみきれない想いが沸き上がり、亜門の表情を険しくさせる。

 ‎更に先ほどの出来事も相乗し、漂うのは不気味な雰囲気。実際に何が出てくるかわからない。一つの物音として見逃してはならない。

 ‎亜門はピリピリとした緊張感を発する。

 後ろからの話し声がなければ続いただろう。

 ‎

 

 「ハイセ、今だけユキムラ貸して…?」

 ‎「無理です」

 ‎「…しょうがないなぁ。ほら、交換してあげるから…」

 ‎「ハイルはいいだろうけど、僕はハイルのクインケに登録してないから使えないよ」

 ‎

 ‎ハイルのクインケに佐々木の生体登録がされていないのは、佐々木の階級が三等であるからだ。多くの三等捜査官は基本的にQバレッド、または例外として低レートのクインケ所持のみ認められている。

 

 「素手でいいしょ。殺せないんだし」

 ‎「……そうだけど」

 「……はぁ」

 

 後ろから聞こえる話し声に、亜門はピクピクと眉を動かした。

 現在は、篠原達とは二班に別れての捜索中だ。亜門を班長に、暁、ハイル、佐々木の四人。今回所持するクインケは順に、甲赫、羽赫、鱗赫、甲赫となっている。

 ‎篠原と鈴屋の班には協力隊四人という編成だった。

 

 「ユキムラは、以前有馬特等がお使いになっていたそうだな?」

 ‎「はい。僕の前には平子上等が使用されていたそうですが」

 ‎

 興味を示したのは暁だった。クインケ狂い、とまではいかないにしても、彼女はクインケに対して非常に勤勉であった。あの親あっての子と言うべきだろう。

 ‎と、考えつつも亜門も興味を惹かれている。何せ、あの有馬特等が使っていたクインケだ。暁ほどではないにしろ、誰もが気になるところだろう。おそらく、その刃で駆逐したグールは十や二十では利かない。

 

 「…」

 

 しかしやはり、今は捜査中だ。話が脱線する前にと、亜門は叱咤の言葉を投げ掛けた。

 

 

 

 

 「……!とまれ!」

 

 薄くドアを開けた先に見えたのは、数人の影だった。亜門は他の三人が頷くのを確認して、中を除く。

 ‎ドアの先には、数本の配管が通っているだけの何もない空間が広がっていた。そしてその中央に位置する場所から、言い争うような声を拾う。

 

 「あれは…」

 

 亜門が目にしたのは白スーツの集団と、三枚刃率いる仮面の集団だった。亜門が知るのは資料からの情報のみだが、その危険性は承知している。

 ‎しかし、どちらも簡単にはいかないグールの集団だ。現在の四人で、あの人数を相手にするのは厳しいだろう。

 ‎亜門は目を細める。

 ‎ここで奴等を見逃すべきではない。ここで見逃せば、別のルートを行く篠原達とぶつかる可能性がある。そして、それだけではない。見逃せば、多くの人の命が奪われることになる。

 ‎だが今ここで、上官として部下の命を懸けることが正しいとも思えない──

 

 “だから、こちらが正しいと言っているだろうッ”

 ‎“うるせえ!命令すんじゃねぇっこのババァ!”

 ‎“なっ”

 ‎“俺に命令していいのはなあ、ヤモリの兄貴だけっ……?”

 

 こうしていても、直に匂いで気づかれるだろう。

 ‎亜門は一時撤退の指示を出すべく、後ろを振り返る。

 

 「グールの集団がいる。…ここは我々では厳しい。篠原さん達と合流を……さ、佐々木は?」

 

 暁もハイルも、亜門を見ていなかった。目線はその後ろ、ドアの向こう側に向いていた。亜門は再度、勢いよく振り返る。

 

 「ぅぎ、なん…ぉ」

 ‎「死ね

 ‎ 死ね死ねッ!!」

 「兄貴ィッ!‼」

 ‎

 佐々木が、白スーツの集団の中に飛び込んでいた。そればかりか、展開したクインケを“白スーツ”の一人に突き刺し、何度も斬撃を浴びせている。

 ‎他の“白スーツ”の背後からの攻撃も一瞥もせずに回避、ただ一人に刃を集中させていた。

 ‎その動きはまるで、あの有馬を彷彿とさせるような…しかしあの急な激情は────?

 

 「ハイセぇっ!」

 

 ハイルが脇から、ドアの向こうへと飛び出す。クインケは既に展開し、敵を葬るべくその刃を光らせながら翔ぶように駆けていく。

 

 「亜門上等、脱獄した十三区の“ナキ“がいる。おそらくアオギリでしょう」

 ‎

 ‎Sレートのグール二体に、加えてあの数だ。やはり、四人で対処できる数ではない。しかし、

 

 「どちらにせよ、このままにはしておけん。…佐々木が取り乱している。私達は援護に向かおう」

 

 亜門の言葉に暁は頷く。

 “ナキ”は甲赫。他の赫子持ちもいるようだが、こちらは鱗赫持ちの伊丙に任せていいだろう。対して三枚刃を頭とする集団はその多くが尾赫と聞いている。アキラが今回、羽赫のクインケを装備しているため、相性は問題ない。後は自分が壁になればいいだけだ。

 ‎亜門は、自らの標的を絞った。

 

 

 

 

 

 

 ハイルは驚いていた。驚愕していると言ってもいい。グールの赫子を捌きながらも、意識の半分は佐々木へと向いていた。

 ‎ハイルにとって、佐々木の豹変は劇的だった。

 ‎“もぐら叩き”でも、こんな状態の佐々木を見たことはなかった。記憶にあるのは、命を摘む間際まで、有馬のように淡々とグールを狩る佐々木の姿。

 ‎それがどうだ。なぜ、突然こんなに感情をむき出しに?

 ‎ハイルは困惑と言い様のない不安を覚える。

 

 「こいつッちょこまかと‼」‎

 「兄貴を逃がせッ!」

 ‎

 そして、少しだけ安心した。激情に駆られているように見えて、佐々木は一体として、その手に掛けていなかったのだ。ただ、相手の数が多いからその暇がないだけ──それだけの勘違いかもしれないが。

 ‎馬鹿な考えだ。だがそれでも、ホッとしている自分がいるのも事実だった。

 

 “白スーツ”の首領らしきグールは、既にこの場にはいない。佐々木によって瀕死になったところを、他の“白スーツ”が盾となって逃がしていた。

 ‎今ここにいるのは、“ナキ”と白スーツ二人を除いた残りだけ。今では最初にいた十数体から、半数までその数を減らしている。

 ‎佐々木とハイルは言葉を交わすことなく、順調に“白スーツ”を駆逐していった。佐々木が傷を負わせたところに、ハイルが追撃をかけその首を飛ばす。見た目だけはいつも通りの形、その繰り返しだった。

 ‎今の佐々木に合わせるのは正直きつい。まるでグールの…いや違う、人外じみた動きだ。

 ‎体力が削れていく。全身が悲鳴を上げている。あと何分この動きが続けられるだろうか。しかし、このままいけばなんとか──ハイルはそう思った。

 ‎だが、それは続かなかった。

 ‎ハイルが気づいたのは、ほんの偶然。 

 ‎佐々木が一撃を入れ、離脱する瞬間。その着地地点にちょうど、力尽きたグールが転がった──佐々木は気づいていない。普段の彼ならば気づいていただろうに。

 ‎ハイルは追撃の手を中断し、バランスを崩した佐々木の背を押す───二つの線が、ハイルに重なる。

 

 「くぅ…ぁあ"あ"ッ」

 

 灼熱が襲う。

 ‎ハイルはクインケを持ち代え、歯を食い縛りながら、伸びてくる赫子へと振り上げる。

 ‎未だ経験したことのなかった痛みが押し寄せてくる。

 ‎涙で視界が滲んでいく。

 そして‎目の端で、佐々木の顔を捉えた。

 情けない顔だった。‎あんまりな表情だった。

 ‎ハイルは痛みも忘れて、思わず口の端を歪めた。

 ‎

 ‎「何て顔しよるんよ」

 

 自分でも少し驚くほどに、優しい声が口からぽろっとこぼれ落ちた。少し気持ち悪い。

 ‎そうだ、全然。ちょっと痛いけど、耳が無くなって、腕が少し削れただけ。それだけだ。だから。それよりも、ボーッとしてないで早く手を貸せ。

 ──そう考えたのがいけなかったのだろうか。

 

 「ぁぁ…」

 

 掠れ声と共に、首が一つ宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 ‎

 

 □

 

 

 

 駆ける、駆ける。翔ぶように進む足音は一つ。壁には、二つの影が重なって映し出されている。

 

 「ねえ…みみ、どうなってた?」

 

 ハイルの左耳は、包帯に覆われていた。既に止血、消毒はされ応急処置は終えている。 断続的な痛みはある。しかしそれよりも、音が拾えないことへの違和感が大きかった。

 

 「っごめん…」

 ‎「そう」

 ‎「ごめん…本当にごめん…」

 

 腕は自分で確認した。鱗赫によって肩から指先まで削られ、加えて摩擦によって爛れた皮膚と、所々に浅くはない裂傷。しかし見た目ほど傷は深くなかった。

 ハイルは自分を抱き上げて走る、苦渋の表情を浮かべた男の顔をぼんやりと見つめた。

 先ほどまで──自分が負傷した後の、冷たい面影は微塵にも残っていない。いるのは、涙を浮かべて謝罪の言葉を繰り返すだけの弱々しい男だけだった。

 

 「泣くな、顔に落ちてくる」

 

 ハイルは空いている手で、乱暴に佐々木の顔を拭った。

 ‎

 

 

 

 

 「降りるよ」

 ‎「…うん」

 

 突き当たりの右手から聞こえてくる戦闘音。漂う血臭と鼻をつく異臭に顔を強ばらせた佐々木とハイルは、それぞれのクインケを構える。そして、一息に駆けた────その先は地獄だった。

 

 

 

 

 

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