前世はバンパイア?   作:おんぐ

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原作クインクス登場は持ち越しです。すみません。

アニメ観ました。シラズーー!ってなりました。

wifi使えないので、iPhone投稿です。


51 三人旅行

 

 

 

 

 

 

 

 

肌を焦がすような、ギラギラと照りつく太陽に、雲一つない青い空、キラキラと輝く青い海。そして、サラサラの砂浜が広がっていた。

そこに、砂で巨大な山を作って、戯れる影が二つ。一人は海パン、もう一人は海パンにパーカーと言った適した出で立ちだが、二人とも片手をギプスに覆われているのだから、何とも奇妙な光景である。

 

「什造くん…どう?」

「うーん…あ!ハイセ!」

「やったねっ。繋がった!」

「やりました〜」

 

ハイタッチして、喜びを身体で表現する男二人。繋がったトンネルに手を入れて、その出来を確かめる双子の姉妹。

それを、砂浜にレジャーシートを敷いて、パラソルの下で眺めている三人がいた。

 

「おい、伊丙…あいつら幾つだ?」

「えっとぉ…ハイセと鈴屋さんは二十いってますね。全く、子どもで困りますね…」

「まあ、伊丙も人のことは言えんがな」

 

一緒にしないでくれ、とハイルは暁に非難めいた視線を向けた。

自分は、キチンと準備しているのだ。前回の捜査でついた傷の跡が目立つのは仕方ない。塞がっているし、気にしない。ギプスだって、もう自分は外れている。左耳が半分になったからって、キャップを被れば分からない。

日焼け止めは塗ったし、シュノーケルに足ヒレ、浮き輪だってある。準備体操も今終えた。あと、エッチなビキニなんか着てるアキラさんとは違って、機能性重視のちゃんとした水着を着ている。あとは、泳ぐだけなのだ。

因みに、佐々木と鈴屋の二人はギプスが取れていないため、泳ぐことはできない。

 

「はしゃぐのもいいが、怪我を悪化させる…なんて、間抜けなことはしてくれるなよ?泳ぐなよ。その可愛らしい浮き輪で浮かぶだけだからな伊丙《一等》」

「ほろりと涙を一滴流すルフィの顔は、オレンジ色の朝日で彩られている。はーい…真戸《一等》。ところで、亜門上・等?」

「…なんだ」

「どうですか?塗り心地は…」

 

亜門が黙って何をしているかというと、暁の背にサンオイルを塗っているだけである。知り合いからプライベートビーチを借りているため、人目を気にする必要もない。

亜門は、ハイルの問いにぴしりと固まっていた。

 

「こらこら、伊丙。これも、円滑な人間関係を持続、発展するために必要なコミュニケーションの一つなんだ。亜門上等、私は心地よいですよ。手を止めないで続けて下さい。背の次は足の方もお願いします」

「…なぁ、暁。足は自分で…背中も伊丙に頼めばどうだ。私は男だしそのほうが…」

「何か問題でも?ないよな、伊丙」

「…まあ、背中くらいは。私もハイセに洗って貰ってますし、別に…」

 

ハイルの言葉に、今度は暁と亜門の二人がぴしりと固まった。ハイルは、ぼーっと海を眺めている。ハイセ達四人は、更に大きな砂山を作り始めていた。

 

「…ん?お前達、そういう仲なのか?そうは見えなかったが」

 

我に返った様子で、暁が気にしてない風に尋ねる。内心はそうでもない。

 

「違いますよ…アパートの部屋が隣なので、背中擦ってもらったり、ご飯作ってもらったり、洗濯してもらったり、お掃除してもらったり、それだけしょ…です」

それ、もはや佐々木は主夫じゃないのかと、暁と亜門は思った。そして、生活風景を想像して佐々木に同情した。家政婦もしくは、とんだ亭主関白である。

 

「そうか。まあ、色々あるのだな。…亜門上等、良ければ今晩、我々も温泉でーー」

「泳いできまーす…」

 

助けを求める様な視線を振り切って、ハイルは海へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

ひゅるるるどーん。

真っ暗な夜空に花火が打ち上がった。

 

「おおー」

「いい場所取れたね、よく見える」

「うわぁ…」

 

ズラリと並ぶ様々な屋台に、むわりと湿気が立ち上るほどの大勢の人の波。

鈴屋、佐々木、ハイルの三人は、レジャーシートを広げた上に腰を降ろして、それぞれの思いを抱き、空を見上げていた。

亜門と暁、黒白姉妹に関しては、流石に考慮して祭りには来ていない。それでも、近くの宿でこの花火を眺めていることだろう。

あと亜門さんどんまい、とハイルは合掌した。りんご飴をぺろりと舐めながら。

 

「ハイセ、おなか空いた」

「あーうん、そうだね。何買ってくる?」

「何があるのかよくわかんないから、おいしいのがいいしょ」

「文句言わないでね。什造くんは、何がいい?」

「そうですねぇ。僕もおまかせです」

「了解。じゃあ、いってきます」

 

ハイルは、器用に人混みを避けていく佐々木を見送る。佐々木の姿が見えなくなった頃、花火に視線を戻した。

鈴屋と二人、何か会話するでもなく花火を観賞して一分ほど経った時、ハイルは花火に目を向けたまま、ポツリと口を開いた。

 

「あの、鈴屋さん」

「何です?」

 

鈴屋が反応して、ハイルの方を向く。

ハイルは変わらず、花火に目を向けていた。

 

「ハイセの…ハイセの頭どう思いますか?」

「おいしそうで、おしゃれです」

「あ、それは同感です…胡麻プリンで、見てると食べたくなる…」

「それと、今の方がハイセらしいと思うです。白と、黒の割合が絶妙なバランスです、ハイセを表してるみたいで」

 

ハイルは、時が止まったように感じた。

唐突すぎる。

 

「…あの時、聞いてたんですか」

 

何とは言わない。

 

「もーろーとしてましたケド、僕、耳いいですから」

 

ハイルは言葉に行き詰まった。

花火の音が聞こえない。自分の心臓の音だけが、大きく聞こえている。

落ち着け。

 

 

「ハイセは何かを隠してる。ハイルも隠していることあるです?」

「…」

 

ハイルは、虚を突かれて、再度言葉に詰まった。失礼だとは思うが、鈴屋が色々考えているようには見えなかったのだ。

 

「入院している時に考えました。いえ、考えようとしました。でも、考える前に気づいたんです。別に、どうでもいいって」

「それは…」

 

どう云う意味だろう。続く言葉を待つ。

鈴屋は、「あ、今の花火おっきいです」と一言漏らして、今度はもう、こっちを見なかった。

二人で、無言のまま花火を眺める。さっきよりも時間が長く感じる。

 

「篠原さんに言われたです。友達は、一生の宝だって。篠原さんの言うことは分からないことが多いですけど、これは僕もわかりました。

僕は、例えばハイセが喰種(グール)でも、お化けでも、吸血鬼でも、ハイルが人間じゃなくても、何だったって、どうだっていいです」

「…」

「僕は、今がとても楽しいです。ご飯食べたり、遊びに行ったり、お泊まりしたり、一緒にお仕事したりーーずっとこうがいいです。だから、ハイセがどうかなんて…それに、僕もイロイロ変わってますし」

「そう…ですか」

「ハイ。…えへへ、こんなに誰かに話したのは初めてです。今日だって奈白に玲は変わりすぎだって言われちゃいましたし」

「…話できて、良かったです。ありがとう鈴屋さん」

 

ハイルは、ぺこりと頭を下げた。

心は依然として晴れない。モヤモヤは存在する。でも、ちょっとだけだけど、胸が軽くなった気がした。

その後すぐに、佐々木は戻ってきた。頭に変なお面を着けて、片手に沢山のビニール袋を携えて。

ハイルと鈴屋が一番に手に取ったのは、綿菓子だった。

 

 

 

 

 

かっ、かっ、ポーン

 

「あ''〜あ''〜」

「ハイル、声、声」

「あ''、あ''、ぁあ〜」

「僕もアレ後でやりたいです」

 

佐々木と鈴屋は温泉上がりに卓球を、ハイルは順番待ちでマッサージチェアに沈んでいた。ちなみに全員がギプス装着中。少し前まで、従業員から心配した目を向けられていた。

 

「ぅあ''あ''あ''〜」

 

浴衣から覗く肌は紅く色づいている。湯上がりだから、という訳ではなく、完全に日焼けのせいだ。温泉に浸かる時のヒリヒリに大変苦労したハイルである。折角の貸し切り温泉は、泣く泣くカラスの行水だった。

今はその鬱憤を晴らすようにとろけている。

 

「ハイルー、代わって下さい〜。卓球、ハイルの番です」

「も、う、ちょっとぉぉ''」

「あと五分ですからね。そしたら交代です」

「は〜あぃ」

「ハイセ、もうひと勝負です」

「うん、あはは…」

 

五分後。

 

「これい、い、でぇ、すよ」

 

ウィーンと大き目の稼働音。ハイルは鈴屋とマッサージチェアを交代して、佐々木とラリーをしていた。

 

「さっきメールが来たんだけどさ、よっと!来週僕達が行くの、ホッと!第七アカデミージュニアだって、あっ…幾つもあったんだね。知らなかった」

「下手くそ」

「いや、今のハイルのミスだよ。ハイルは知ってた?」

「知らんけど…」

 

ハイルは、チラリと鈴屋に目を向ける。

鈴屋は、アカデミージュニア出身だったはずだ。前の調査の時に、有馬から情報を聞かされていたのだ。

 

「僕は第二でしたよ。途中で追い出されましたけど。そして篠原さんに」

「だそうですよ、ハイセ」

「だそうですよって…什造くんグレてたんだね」

「アハハ、そうです。グレてましたです。更生できましたかね?」

「してるしてる」

 

ハイルは、佐々木の能天気さを本気で尊敬している。本当にすごいと思う。困った時のハイセである。

 

「明日も楽しみですねぇ」

「絶対、絶叫系は制覇するんよ」

「亜門さん達は、昼頃には帰っちゃうんだよね。何だかわるいなあ」

 

旅行は、あと三日残っている。特別休暇として一週間貰った…ではなく、実際は入院期間中を利用しただけだ。一応許可は出たので何の問題はないが。亜門達四人に関しては、普通に休みが続いたので一緒に来ただけ、旅館だって別だ。一足先に、明日帰ることになっている。つまり、アトラクションにも乗れないのだ。

そう思うとわるい気もするなと、ハイルも少しだけ思った。

 

「来週は…ハイルは同年代の子もいるだろうし、友達出来たらいいね」

「おー、そうなんです?」

「別に…」

 

友達はいないけど、別に欲しいとも思わない。

ちょっと癪だが、ハイルはさっきの鈴屋と同じ気持ちだった。今は、この時間が楽しい。

ずっと続けばいいのに。

 

 

 




原作金木確保より二ヶ月ほど先に、
白黒姉妹が確保されてるので、つまり…

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