Fate/EXTRA~騎士王との出会い~   作:フィロ

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第10話「それぞれの闘い」

 青と緑の影が互いにぶつかり火花を散らす。

 

「ハッ!!奇襲掛けなくてもそれなりに動けるじゃねえか!!えぇ?アーチャー!!」

 

 獰猛で愉しげな口調で告げるのは青の装束に鎧、首には銀の首輪と三日月を咥えた犬を象ったアミュレットを下げ、手には長槍を携えた『槍兵(ランサー)』のサーヴァント。

 

「ったく、こっちは一杯一杯だってのに。言ってくれるぜ!!」

 

 言葉を返すのは緑の装束に緑のマント。整った顔立ち。金の髪で右目を隠した青年。右腕には毒々しい紫の短弓を携えた『弓兵(アーチャー)』のサーヴァント。

 

「ふむ、あまり長引かせるとこちらが不利だな」

 

 冷静に言葉を作るのは白髪の老人。だが、その身体から発せられる圧力は熟練の戦士そのものだ。彼はダン・ブラックモア。軍人であり、騎士でもあり、『弓兵』のマスターである。

 

「ペナルティを負っていて。ここまで食い下がるなんて。ランサー、一気に決めなさい!!!」

 

 対して、言葉を吐くのは若い、まだ十代中頃の少女。豊かな黒髪をツインテールにし、トレードマークである真っ赤な服を着た少女はサーヴァントであるランサーに告げる。告げられたランサーは驚く様に口笛を吹く。

 

「いいね~、そう来なくっちゃ」

 

「チッ!!旦那!!悪いがこっちも一気に行くぜ!!」

 

「存分に力を振るうがいい。魔弾の射手よ」

 

 ダンの言葉と共にアーチャーが動く。ランサーは後ろに跳ぶ。警戒ではない。彼もまた次の一撃を確実に決める為に準備をしなくてはならないのだから。

 先に動いたのはアーチャーだ。彼はゆっくりと弓を構える。

 

「我が墓地はこの矢の先に………」

 

 呟きと共に弓から魔力が流れ。闘技場を犯していく。

 

「懐かしいな。イチイか」

 

 苦笑を浮かべたランサーはアーチャーの宝具にいち早く気付く。それは彼がアーチャー『ロビンフッド』と同じケルトの英雄だからだろう。

 

「これは結界!?」

 

「あぁ、毒の結界だな」

 

 言葉と共にランサーは槍に力を込める。顔には隠しきれない怒りの表情を浮かべている。

 

「貴様、この毒で兵士の誇りと想いを幾つ踏み躙った………!!!!」

 

 静かに、無理矢理ねじ伏せた様な怒りの言葉にアーチャーは肩を竦めて。

 

「さてね~。こっちは必死だったんだ。そんなの数える暇無いだろ?まぁ、人間ってのはたったこれだけで死ぬってのを教えてくれたのは感謝してんだぜ?」

 

 その言葉が引き金になり、ランサーから噴水の様に殺気と怒りが魔力と共に迸る。

 

「貴様の心臓。必ず貰い受ける。それが貴様に殺された兵士たちへの手向けだ」

 

 ハッキリと告げる言葉にアーチャーはため息を吐いて。

 

「あぁ、やだやだ。これだから騎士ってのは困るんだ。人は何時か死ぬもんだぜ?それが刃か毒かの違いだろ?」

 

 更なる挑発。だが、ランサーは静かに魔力を溜めている。もはや、彼はアーチャーと交わす言葉を持たない。その反応に鼻を鳴らしたアーチャーは構えた弓をランサーに向ける。

 

「森の恵みよ……圧政者への毒となれ」

 

 呟きが生まれ、弓から樹の根の様な魔力が放出される。決して速くないソレは幾本もあり、蛇の様に蠢いて迫って来る。対するランサーは低く駆ける。

 

「オォッ!!!」

 

 低く、吠えながら走る。迫る樹の根を横に、下に、上に動いて避ける。彼は理解している。あの根に触れれば致命傷を受ける事を。それは外傷ではなく、身体の中に入り、今尚身体を蝕んでいる毒が更に凶悪になるのだと。だから彼は根を避ける。『最速のサーヴァント』に恥じぬ、その速度で。

 

「受けろ!!!!」

 

 遂には根を抜け、眼前にアーチャーを見据える。そして手にした槍を引き、狙いを定める。

 

『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』

 

 告げられた名と共に槍は弾丸の様にアーチャーの心臓目掛けて放たれる。距離は三メートル。宝具を走り抜き、放たれた必殺の一撃。避けられる筈が無い。

 

「やっぱ、抜けるかよ!!!」

 

 だが、アーチャーはソレを読んでいた。相手は最速のサーヴァントであり、ケルトの大英雄『クー・フー・リン』避けられる可能性はあった。故にアーチャーはランサーが宝具を発動する前に後ろへ跳んでいた。タイミングはバッチリ。これなら手傷は負う物の、反撃から逆転できる。そして逆転までの工程を構築しながら、弓を構える。狙うはランサーの額。そしてアーチャーは見る。ランサーの顔に浮かぶ、笑みを。

 

 

 

 

 

 

「おいおい………どういうこった?」

 

 言葉を作ったのはアーチャーだった。ランサーの槍は避けた。筈なのに自分の胸。心臓の部分に彼の槍が深々と刺さっている。

 

「成る程、因果逆転の槍か」

 

 納得したかのように呟くのはアーチャーのマスターだ。アーチャーはマスターの声を聞いて、自分が負けたのだと理解する。

 

「はぁ~……」

 

 ため息と共に槍が彼の胸から抜ける。同時にアーチャーとランサー。ダンと凛との間に赤い壁が出現する。それを確認した凛は踵を返して歩き去る。アーチャーはあっさりと去る二人を見送りながら後頭部を掻きながら。

 

「悪い、旦那。勝たせてやれなかったわ」

 

「いや、構わぬさ。敗北は悔しいが、ワシも歳なのだろう。若い者には勝てぬという事だ」

 

 何処か、清々しそうに告げるダンにアーチャーは苦笑する。

 

「全く、一人だけ満足するなよ」

 

「そういうお前はどうだ、アーチャーよ。満更でもない顔をしとるが?」

 

 ダンがそういうと、アーチャーはそっぽを向く。

 

「んー、いや、なんだ。たまにだったらやり馴れない事も悪くは無いんじゃない?旦那との共闘はつまんなかったけどよ。くだらない騎士の真似事は、いい経験になった。……ああ。生前、縁はなかったがね。一度くらいは格好つけたかったんだよ、オレも」

 

 一息入れ、彼は満足そうに言葉を作る。

 

「まぁ、なんだ。今回は旦那に合わせて貰ったけどよ。次があるんなら今度はオレに合わせてみない?」

 

 胸まで黒くなりながら、朗らかに笑い、告げられた言葉に。ダンもまた笑いながら。

 

「そうだな。次があるならお前に合わせるのもいいだろう」

 

 嬉しそうに答える。ダンはその言葉を最後にアッサリと消える。マスターの最後を見届けたサーヴァントは静かに電子の空を見上げながら。

 

「………約束だぜ………旦那」

 

 小さな、囁く様な言葉を最後に彼もまた消える。

 

 

 

 

 

 

「―――――――ッ!!!!!!!!!!!」

 

 獣の様な。否、それ以上に狂気を孕んだ叫びが決戦場に木霊する。叫びを放った巨漢の武人はその手に持つ。巨大な『戟』を振るう。その一撃は目の前で群れを為す『海魔』を斬り裂き、叩き潰し、砕き、突き穿つ。まるで暴風に煽られる様に次々と海魔が数を減らす。

 

「………キリがありませんね」

 

 そう、呟いたのは武人のマスターであるラニだ。戦闘が始まってからかれこれ、三十分が経過した。その間、やっている事といえば目の前の武人が延々と海魔を駆逐しているだけで。目的のサーヴァントとマスターが遥か彼方で海魔を召喚しているようだ。

 

「しかし、これ程の海魔を召喚するとなるとこれはもう、サーヴァント本体の魔力やマスターの魔力量では不可能ですね」

 

 だとすると、サーヴァントの宝具か魔術師の魔術にカラクリがあるのだろう。そして思考の渦に呑まれかけた彼女に武人の暴力から逃れた一匹の海魔が襲いかかる。

 

「やはり秘密は宝具にあるようですね」

 

 だが、海魔は彼女の手前で武人の拳に潰される。

 

「仕方ありません。突破口を開きなさい、バーサーカー……」

 

「―――――――ッ!!!!!!!!!!」

 

 低く、呟いた言葉に武人、バーサーカーは雄叫びを上げる。その声の圧力だけで近くにいた海魔が吹き飛び、他の海魔を巻き込む。そして一瞬だけ開いた空間の中心にバーサーカーは大樹の様に立つ。その手には巨大な戟と弓が握られていた。

 

「――――――――ッ!!!!!!!!」

 

 雄叫びを上げながら、戟を弓に矢の代わりとして番え、引き絞る。

 

「放ちなさい……」

 

 ラニの号令と共に矢となった戟が放たれる。戟は音速を超える速度で海魔達を蹴散らし、さながら『モーゼの十戒』の様に道が開く。

 

「殲滅しなさい………」

 

「―――――――――ッ!!!!!!!!!!!!!」

 

 ラニの言葉に応じる様に雄叫びを上げたバーサーカーは真っ直ぐ、愚直に突進する。ラニは近くの高い場所に登ると、バーサーカーを見据える。

 

 

 

 

 

 

 前へ、前へ、唯前へ。愚直なまでに狂戦士は走る。既に先の攻撃で開けた道は無くなり『海魔』が襲いかかってくる。だが猛る狂戦士の前ではなんと非力な存在か。

 狂戦士が吼える。拳を振るう。或いはただ、速度を乗せた体当たり。ただそれだけ。技も何もないその原始の一撃に海魔は肉を、血を撒き散らしながら絶命する。そして走る狂戦士は地面に深々と刺さった己の得物を見付ける。

 

「―――――――ッ!!!!!!!!!!」

 

 ソレは歓喜か、はたまた深々と刺さり、抜きにくくなった相棒への怒りか。咆えた本人にさえ判別不可能な雄叫びは近くの海魔を砕き、空白を作る。その空白に狂戦士は腕を突っ込み、一息で己の相棒を引き抜き、円を描くように振るう。それだけで、戟の長さと同じ円の空間が出来上がる。

 

「ッ!!!!」

 

 だが、彼の仕事は海魔の殲滅では無い。自らの主君から授かった命はこの視界を埋め尽くす海魔の大本。

 そして彼は見付けた。この『作業』を始めた敵を。その敵はまるで魚の様な顔で、目が大きな偉丈夫だった。呪術師の様な服を纏った男は右手に奇妙な蔵書を持っていた。それが何なのか、それは彼が知る事ではない。唯、彼が行う事、それは。

 

「―――――――――ッ!!!!!!!!!!」

 

 速やかなる敵の排除。それだけだ。故に彼は跳ぶ。一瞬だけ、足を曲げ、一気に跳躍。眼下に敵とそのマスターを補足する。

 

「オノレ!!!!邪魔をするか匹夫めが!!!!!」

 

 彼を見上げた敵が何か叫ぶ。だが、彼は気にも留めない。当然だ、彼には男の言葉を理解するだけの知性と理性が欠落している。だが、構わない。今の彼は一つの炸薬だ。生きた嵐だ。今の彼は正しく『狂戦士(バーサーカー)』。

 

「――――――――――ッ!!!!!!!!!!」

 

 雄叫びと共に片手で持っていた戟を両手で持つ。眼前の敵を確実に、絶対に砕く為の行動である。それに気付いた男は未だ慌てている彼の主と自分を護るように近くの海魔による壁を作り上げる。壁に使われた数は数十を下らないだろう。本来ならかなり骨が折れるだろう。

 

「――――――――――ッ!!!!!!!!!!!!」

 

 だが、たかが肉の壁如きに彼が負けるなどあり得ない。故に彼は全力を以って戟を振り降ろす。上段から振り下ろされた戟は海魔達にぶつかるものの、一瞬で叩き潰し、その下で逃げなかったサーヴァントとマスターごと足場諸共打ち砕いた。

そして勝利の証拠である赤い壁がバーサーカーの目の前に現れる。

 

「―――――――――――――――ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 勝利による歓喜、はたまた物足りない、という不満と怒りを含んだ雄叫びが決戦場に木霊する。

 

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