「はい。アトラス院からの参加者なら。私で間違いないでしょう」
見事に大当たりでした。でも、彼女も遠坂さんとの闘いが迫っているし、流石に頼めないよね。とか、思いながらも『ヴォーパルの剣』を作成できないかと、聞いてみる。すると、彼女は顎に手を当てる。
「恐らく『マカライト』が必要ですね。それさえ、あれば練成出来るのですが………どうかしましたか?」
「え?あ~、手伝ってくれるんだ。って、驚いて」
私の言葉にラニは頷き。
「確かに私と貴女は敵同士。ましてや、お互いに試合を控えている身。ですが、貴女は私を友として接してくれています。なら、私も同じようにしようかと思ったのです。友達として貴女を助けたいと」
正面から堂々とそう言われて、思わずこっちが恥ずかしくなる。
「うん、と。ありがとう。じゃぁ、その『マカライト』探して来るね」
といっても、そんな簡単に見つかる訳じゃ無く。さて、どうしたらいいか。と一階の下駄箱で悩んでいると。
「あら、秘羽さんじゃない。どうかしたの?」
遠坂さんに声を掛けられた。駄目もとで聞いてみようか。
「『マカライト』?あるにはあるけど」
流石にタダで譲ってはくれないだろう。
「その『マカライト』、譲って下さい!!代わりに私に出来る範囲でお返しするから」
私の言葉に彼女は意地悪く笑って。
「次の試合負けてくれない?」
「お断りします」
笑顔で答える。あれ?何処となく遠坂さんが引いている。なんか、選択間違った?
「ま、まぁ期待はしていなかったけど。そうね、売店で特大のルビーを売っているんだけど。それを持って来てくれない?それと交換で『マカライト』を渡すわ」
「特大のルビーね。取り敢えず見て来る」
そういって、売店へ行くと、確かに大きなルビーが売っていた。
「えぇっと、零が一、二………」
これは高過ぎる。
「買えるかな?」
『常識的に考えるんだ。君の所持金では到底届かない』
いやいや、まだ諦めるには早い。もしかしたらローンが効くかもしれない。
『分割払い……いや、無理なんじゃないか?』
「とにかく、お姉さん。このルビー買いたいんですけど」
と、意気込んでいたのだが、どうやらある物を持ってくればタダで譲ってくれるという。そのある物とは。
「え?私が作ったお弁当ですか?」
「うん、貰えるかな?」
保健室の天使(命名、廊下ですれ違った男子マスター)であり、最初に会ってからマトモに会っていなかった桜の手作り弁当だ。
「えぇ、丁度次の試合の為に作っておいた試作でよければ」
そういって、渡してくれたお弁当は中々手の込んだ物だ。なんか、女性として負けた気がするけど。気にしないで行こう。
▽
その後、売店で桜の弁当と特大のルビーを交換し、ルビーと『マカライト』を驚きの表情を浮かべていた遠坂さんと交換した後、ラニに頼んで『ヴォーパルの剣』を作ってもらった。そして今私達はアリーナの奥。ジャバウォックの目の前にいる。が、その巨体は膝をつき、かなり弱っている『ヴォーパルの剣』が粒子となってジャバウォックに吸収された影響の様だ。
「ハッ!!!」
鋭い息と共にセイバーがジャバウォックを両断する。
『―――――――ッ!!!!!』
断末魔の叫びを上げながらジャバウォックが粒子となって消える。私達は周囲を警戒しながら奥へと進み。トリガーを手に入れる。
「ほんとに『ヴォーパルの剣』を手に入れるなんて。お姉ちゃんは凄いね」
感嘆の言葉は後ろから聞こえた。振り向くと、ありすがもう一人のアリスと笑顔で会話していた。
「ね、言ったでしょ。今度は今までよりもっと遊べるって」
「うん!!ねぇ、お姉ちゃん。今度もありすたちと遊んでね」
そういうと、二人はアリーナから消える。私は端末を取り出し、画面を確認する。特に連絡事項は入ってない。という事は。
「ありすのサーヴァントはジャバウォックじゃない」
「もしくは、あのジャバウォックは何らかの復活効果を持っている、という事かな」
その後、問題なくトリガーを入手した翌日。アリーナの第二層へ入る。
「やはり、いるか」
アリーナに入ると、目の前にはありす達がいた。そして彼女達が踊りながら何かを呟くと。
「………え?」
世界が変わった。無職の空は白く、白かった風景は黒く。
「これは、固有結界か!?」
セイバーの驚きの声に私も驚く。
魔術の中でも最高峰の大魔術。空想具現化の亜種であり、術者の心象風景で世界を塗り潰し、世界そのものを変えてしまう結界だ。
「やっぱり、そっちのアリスがサーヴァントだったのね」
理性の無いバーサーカーに固有結界は不可能。出来るとするならば魔術師のキャスターが妥当だろう。ならば先日のジャバウォックは宝具の一つだろう。
「取り敢えず、捕まえないと」
そういって、隣を見る。
「あれ?」
「どうした、マヤ」
疑問の言葉に隣に立つ『青年』が訝しげに聞いてくる。
「あ……ごめん……セイ…バー」
ゆっくりと思いだしながら彼を呼ぶ。何故、咄嗟に彼を忘れていたのか、その答えは目の前にいる少女達が教えてくれた。
「成る程、時間と共に存在を削る固有結界か」
セイバーの納得した声と共に私は抱きかかえられる。少女達は既にアリーナの奥へ進んでしまった。
「しっかり捕まっていてくれ」
言葉と共に彼が加速する。その速度に驚きながらもしっかりと彼に捕まる。
▽
結論から言えば、今回は惨敗だった。相手の術中に嵌まり、手も足も出ずに、個室へ戻ったのだ。
「でも、収穫はあった」
寝起きの様な曖昧な意識を頭を横に振る事で吹き飛ばし、情報を整理する。
「先ず、ありすのサーヴァントはあの黒い少女で間違いない。そして黒いアリスは固有結界を展開できる程の英霊だ」
セイバーの言葉に頷く。
「彼女達が呼びだしたあのジャバウォック。アレはアリスの宝具か、何かを媒体に召喚した存在。そして厄介な固有結界は時間と共に敵対者の存在を削り取る」
簡単に言えば、記憶の欠落から始まり、自己の存在が認識できなり、最終的に魂ごと世界から消滅する。
「一見、無敵に見える魔術だけど。必ず欠点という物は存在する」
「それがこれだね」
そういって、アリーナで拾った紙切れを見る。
『あなたのなまえは』
一見、何の意味も無い文だが。真っ先に名前を失う、あの固有結界では重要な物なのだろう。
「もしかして、自分の名前を言えば、結界が外れる仕組み?」
「だろうね。真っ先に名前を忘れる結界内にその名前を尋ねるメモ。後は自分の手か何かに名前を書き込んでおいて、アリーナでそれを読めば、大丈夫だろう」
セイバーの言葉に頷く。
▽
「なんとも、呆気ないね」
アリーナに入ると同時に手に書いてあった自分の名前を言うと、アリーナを覆っていた固有結界が消え去る。そして現れた二人のありすは楽しそうに喋った後、消えてしまった。
「名無しの森……」
ありすが告げた固有結界の名前。心当たりはある。『ヴォーパルの剣』『ジャバウォック』そして『名無しの森』これは総て創作物の中にある物だ。共通しているのは作者が同じな事と、総て子供の為の物語だ。
「取り敢えず、トリガーを手に入れよう」
セイバーの言葉に頷く。ここで立ち止まっても仕方ない。
▽
「ふむ、時間と共に存在を削る固有結界か。そして名前は『名無しの森』と来た。特定は出来るものの、そこから連想する英霊はいない筈だが」
ふむ、と足を組み直し、新しい電子煙草を咥える。
「他に特徴的な所とかは?」
セイバーの強化を行っている青子さんが聞いてくる。私は顔を横に振る。
「今、話した事で全部です」
そういって、私は顎に手を当てる。今までの情報で相手の真名は分からない。そもそも、その情報から得られた物は英雄の物語ではないのだ。
「あの、橙子さん」
「うん?」
私は自分の推測を正直に言う事にした。
「多くの人間に愛されたモノは生き物だろうと物だろうと『英雄』という概念になる事ってありますか?」
荒唐無稽にも程がある、だが、私の言葉に橙子さんは驚いた様に目を開いた後、クスクスと笑う。
「君は本当に飽きないな」
そう言って、真面目な顔に戻る橙子さん。
「そうだな。あり得なくないだろう。長い年月を経て意思を持つ存在もあるからな。成る程、物語のジャンルである『ナーサリーライム』が英霊となったか。さしずめ『子供達の英雄』といった所か。ならばマスターである少女と瓜二つなのも説明が付く」
「物語故、カタチが無いからですか?」
聞くと、彼女が頷く。
「そのサーヴァントは固有結界を操れるのだったな?」
橙子さんの言葉に頷く。すると、橙子さんは一人でブツブツと小さく呟いている。
「まぁ、なんにせよ。相手の真名に近づいたのは良いことじゃない。後はどうやって勝つかね」
青子さんの言葉にゆっくりと頷く。私はあの子を倒すことが出来るのだろうか。勿論、キャスターとセイバーの優劣じゃない。幼い少女を殺すことが本当に出来るか、という事だ。
「はぁ~」
深いため息と共に横になる。天井を見上げながら気持ちの整理が付かない自分にイライラする。
そしてそんなイライラを抱えたまま、決戦当日を迎えてしまった。
少々駆け足気味で申し訳ありません。次回は決選です。前の二試合より地味になるかもしれません。では次回もお楽しみに