セイバーの言葉を聞き、少しだけ気持ちを落ち着かせた私は二階に上がった。今日はもう、個室に戻って寝よう。そう思っていると、視界の端に気になる物を見付けた。
「あれ?この部屋って扉開いてたっけ?」
目の前には視聴覚室の扉が少しだけ開いていた。記憶を探ってみるも、この戦争に参加してからこういう部屋には行った事が無いので、覚えていない。
「入ってみようかな」
気分転換にもなるだろうし、そう思って扉を開け、中に入る。
「暗いね」
隣に立っているセイバーが呟く。視聴覚室には会議に使う様な長い机とパイプ椅子が均等に並んでおり、中央には映写機がポツンと置かれている。
「ふむ、どうやら誰かが作業していた様だね」
セイバーの言葉を聞きながら、私は徐に映写機に触れる。
「え………?」
瞬間、全身に強い痺れを感じた。
▽
「さて、思ったより貴様に罰を下せるのが早まったな」
三回戦。決戦場にて黄金の英雄王は目の前で対峙している漆黒の男。ユリウスに告げる。
「しかも、暗殺者のサーヴァントはこの我との決戦でも姿を見せん不届き者ときた。これはもう、弁解の余地など無いぞ?」
「クハハハ!!!済まぬな。王の中の王よ。儂はしがない武人故。お主の前ではどうも萎縮してしまうのでな」
誰もいない空間からさも愉快そうな声が響く。その言葉に英雄王は背後の空間から小さな麻袋を取り出す。
「よい、この我の対戦相手なれば、その素顔を晒す事を許す」
言葉と共に袋の中身を目の前に振り撒く。中身は粉。だが、かの英雄王の蔵の中に普通の粉などある筈が無く。
「おぉ!?」
「なっ!?」
驚愕の声は二つ。共に相手のサーヴァントとマスターからだ。声の理由は、先程まで姿が見えなかったサーヴァントの姿が完全に確認出来たからだ。
「さて、これで互いの面識も分かった。レオよ。肉親と戦うに至って。何を思う?」
王は後ろに控えている少年に語りかける。だが、少年は首を横に振り。
「特には。でも、兄さんにはお願いがあります」
「……なんだ?」
少年の言葉にユリウスは少年を見る。
「全力で戦って下さい」
笑みを浮かべ、告げられた言葉にユリウスは頷く。
「応とも!!なに、死合うのは変わらぬ!!!存分にやり合おうぞ!!!!」
「いいぞ、暗殺者。その澄んだ殺気。実に心地よい」
その言葉が合図だった。言葉を終えた英雄王の背後から剣と槍が一本ずつ、男、アサシンに向かう。
「噴!!!!破!!!!!!」
その破壊の矢を裂帛の咆哮と共に己が拳で弾き、逸らす。アサシンの背後で武器に寄る爆発が起こる。
「クハハ!!!宝具を射出するアーチャーとは何とも規格外よな!!!」
言葉を吐きながら、爆風を利用して近づくアサシン。そして迎え撃つ英雄王の弾丸は斧、剣、槍、鎚。その数、十二本。
「さぁ、此処まで来れるか?」
問いと共に弾丸が射出される。音を超えた死の弾丸を前に。アサシンは笑みを浮かべ。
「応とも!!!そこでゆるりと待たれよ。英雄王!!!」
叫びを上げながら、更に加速するアサシン。最初の槍を屈んで避け、続く鎚に拳を軽く当て、向きを変えて、後から続く剣と槍を弾く。流れる様に一歩を踏んで、真っ直ぐ腹目掛けて跳んできた剣を蹴り上げる。
「破ァ!!!!!」
裂帛の気合と共に突きだした掌底は空気を叩き、目の前まで迫ってきた斧を明後日の方向に弾く。そして身体を返す様に動くと、その脇を槍が擦り抜ける。ソレを見送る様にアサシンを叩き潰さんと跳んでくる鎚に裏拳を叩きこむ。そのまま、屈むように身体を動かし、剣を避け。突きあげる掌底で槍を上へ逸らし、その槍を盾とし、斧を防ぐ。そしてその隙を狙っていたかのように眉間目掛けて跳んできた剣を顔だけ逸らして避ける。
時間にして5秒。アサシンはアーチャーの弾幕を無傷で突破した。
「ほほう、暗殺者にしては勿体ない技だ」
宝具の弾幕を避けきったアサシンを褒めると共に先程より半分ほどの宝具を放つ。だが、放たれる宝具が発する魔力は先程の物より数段上。
「ハッ!!何とも、豪胆な王よ。それほどの宝を儂一人に費やすか」
言葉を放つと共に宝具の雨を避けるアサシン。
「それほどの相手ならば充分に見合う物だ。それに貴様もこれ程の宝に殺されるのだ。誉であろう?」
言葉と共に更に数が増える宝具の弾幕。これにはさしものアサシンも苦笑を浮かべる。
「流石に儂一人でコレを突破するのは不可能だな」
「ふん」
呑気な言葉に鼻を鳴らしたユリウスが令呪を掲げる。三画の内、一画が赤く光る。
「令呪を以って命ずる。『英雄王の眼前まで突破せよ』」
「応とも!!!!」
アサシンの叫びと共に彼が消える。そして彼がいた場所に無数の宝具が爆発を起こしながら着弾する。
「む?」
これにはさしもの英雄王も眉を潜める。瞬間、英雄王の眼前にアサシンが現れる。その顔にはしてやったり、という笑みが浮かんでいる。
「貰うぞ!!英雄王!!!」
アサシンは令呪によって英雄王の目の前に転移したのだ。
「我が八極に二の打ち要らず!!」
言葉と共に必殺の一撃が英雄王に迫る。だが、その一撃は届く事は無かった。
「むぅ」
「中々に面白かったぞ」
アサシンの全身には大樹の様な太さの布が巻かれており、動きを完全に止めていた。
「どうだ?かの狼の動きすら止めた紐に縛られた感想は」
猫の足音、女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液から作られた紐。ソレはたった一匹の狼を縛る為だけに作られた。
獣、それも幻想種に対して絶対の拘束力を持つ宝具。かの北欧神話『神々の黄昏』において主神オーディンを飲み込んだ巨大な狼『フェンリル』を縛った『貪り食うもの(グレイプニール)』の原典である。
「人もまた獣。それゆえ、拘束力は弱まるものの、動けない事には変わりなかろう」
「全く、お主の宝庫を一度覗いてみたいわ」
力を抜きながら告げるアサシンに英雄王は新たな剣を取り出す。それは黄金で出来た一対の双剣だった。片刃の剣を掲げる英雄王。
「我の目の前までやってきた褒美だ。何、遠慮するな」
言葉と共に英雄王はアサシンの首を刎ねる。
▽
「ねぇ、お父さん。お父さんはなんで『こんげん』をめざさないの?」
子供の頃。時々、こんな風に質問をした事がある。けれど、父は何時も苦笑を浮かべ、私の頭を優しく撫でながら。
「僕は魔術師として及第点を貰えなかったからね」
そういって、答えてくれた。けれど、父さんは一族の中では最高ランクの使い手だった筈だ。なのに、何時も自分は魔術師ではない、と言っていた。幼い私にはその意味はよく分からなかった。
▽
「マヤ!!」
「あ………」
声を掛けられ、意識を取り戻す。同時に、セイバーの整った顔が目の前に広がる。カッと頬が熱くなる。
「大丈夫かい?」
「う、うん」
そういって、セイバーの手を借りながら、立ち上がる。ふと、視線を前に向けると、映写機が映像を映しだしていた。
「遠坂さんとラニ……?」
そこには見知った二人と見知らぬ二人が戦いを繰り広げていた。
「君が倒れてから映像が流れ始めたんだ。けど、そろそろ決着だね」
セイバーの言葉通り、徐々にだが、ラニが押され始めている。すると、ラニは一旦、目を伏せる。すると、ラニの心臓部分が赤く輝きだす。
「なに、アレ?」
「アレは。不味いな」
セイバーが私の手を取って、視聴覚室の入口まで引っ張って行く。
「恐らく彼女は、自爆する気だ。あれ程の魔力量。下手をすれば、こちらまで影響を及ぼしかねない」
「自爆って。それじゃ」
ラニは遠坂さんに勝てない事を悟り、遠坂さんを道連れにする気なのだろう。
「ラニ……」
彼女は人間を知りたい、と言った。そして私は彼女と友達になって、人間を学ぼうと誘った。それは多分、彼女の為なんかじゃなくて、私がこの戦争で『壊れない』為に無意識に欲した物。それでも私はラニの友達だ。
「もう、失うのは嫌だ」
それは多分、自分勝手で我が侭なのだろう。失う事でしか前に進めない場所で失いたくない、と足掻くなんて。
「……恐らく、僕は君の願いを叶えられる」
「え?」
セイバーの声に彼を見る。彼は私の顔を真っ直ぐ見て。
「だが、かなり分の悪い賭けだ」
その言葉通り、セイバーの提案は分の悪い賭けだ。失敗すれば必死確定。だが、成功すれば二人を救えるかもしれない。
「行こう、セイバー」
言葉と共に右腕を掲げる。例え、私の行いが、この戦争でどれだけ愚かだろうと構わない。私はもう、誰も見捨てたくない。
「令呪を以って告げる。セイバー、私をあの空間まで連れてって」
「それでこそ、僕のマスターだ」
彼の優しげな、けど、力強い声に後押しされる様に私は目の前の赤い輝きに吸い込まれて行く。
お待たせしました。はい、遅くなって申し訳ありません。Gジェネやったり、プロジェクトクロスゾーンやったり、バイオ6やってたら、こんなに遅くなりました。次回は三回戦、乱入と四回戦突入までかな?そして四回戦、と五回戦の間は二回戦同様、相手を変更します。あ、サーヴァントクラスはそのままなので、何が出るか、予想するのもいいかもしれませんね。では、次回の更新もお楽しみに