光が晴れると、そこは青い空間だった。そして目の前に見えるのは赤い輝き。
「なっ!?なんでアンタが!?」
「あ?おいおい、テメエ!!!」
「おや、誰かと思えば」
遠坂さんの驚きの声と青いサーヴァントの殺気交じりの声に飄々と答えるセイバー。そして目の前では徐々に光りを増す赤。
「今はアレを止めるのが先決。お願い、遠坂さん。手伝って!!!」
私の言葉に遠坂さんは驚いたまま、固まる。そしてゆっくりと吐きだす様に。
「アンタ、自分が何言ったか分かってるの?」
「私が此処に来た事で証明になりませんか?」
逆に問いを投げる。すると、キョトンとした顔を作った遠坂さんはフッと笑って。
「いいわ!!私のサーヴァントが決めるから」
「分かりました!!セイバー!!!」
声の向こう、セイバーは微笑みを浮かべた顔で頷いてくれた。そして鋭い瞳で光りの前、城壁の様に立ち塞がる巨躯を見据える。
▽
「おい、セイバー。お前、アイツを何秒止められる?」
ランサーの言葉にセイバーは笑みを苦笑に変える。
「そうだな。どうやらセラフから干渉されているようだ。今の私では二秒が限界だろう」
それは絶望の数字。だが、ランサーは笑みを深くし。
「ハッ!!余裕!!!しくじんなよ、騎士王!!!!」
「そちらこそ!!外すなよ、クランの猛犬!!!」
言葉が互いに聞こえるや、否や二人の英雄は風となって駆ける。此処にアイルランドの猛犬とイギリスの王が同じ戦場を奔る。
「オォッ!!」
先に動いたのはセイバー。右からの大振りの薙ぎ払いでバーサーカーの胴を狙う。
「―――――――ッ!!!!」
だが、相手も英雄。その程度の攻撃を易々と受ける事もない。右に掲げた戟で剣を受ける。だが、異様に軽い。
「遅い!!!」
言葉は後ろから来た。振り返る暇もなく背中に斬撃を受けた。そう、セイバーは戟で受けた衝撃を利用して背後に廻ったのだ。そして一瞬だけ、バーサーカーに隙が生じた。
「ハッ!!!上出来だ、騎士王!!!」
そう言い残して駆け抜けるは青の槍兵。喜びを抑えられない未熟さを今の彼は恥じない。何故なら全ての騎士の憧れであり、騎士の象徴たるかの英雄の援護を受けたのだ。そして王の期待を受けて奮起しない騎士などいない。
「悪いな、嬢ちゃん」
跳び上がり、バーサーカーに傷を負わせたセイバーに気を取られている少女に告げる。そして赤く輝く光の中心、彼女の心臓に向けて、弓の様に限界まで引き絞った槍を放つ。
「突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!!!!!!」
▽
音も衝撃も、後から暴風という形でやってきた。ランサーが放った一撃は刹那よりも速く、ラニに届き。刹那で突きぬけ、ラニの背後。電子で構成された床を破砕した。
「くっ!?ラニ!!!!」
次いで、やってきた衝撃に屈んで耐えていると、衝撃で吹き飛ばされたラニが空を舞っていた。私は彼女の名前を呼び、両足を全力で強化して走り出す。
「――――ッ!!!」
後ろで遠坂さんらしき声が聞こえた。だが、暴風に邪魔されて上手く聞き取れない。もしかしたらセイバーの声かもしれない。けれど立ち止まる訳にはいかない。
「くっ!?」
暴風が、破砕された電子の屑が走りを邪魔する。それでも、走る。
破片が脇腹に当たる。息が詰まったが、構わず走る。
暴風で足が滑る。咄嗟に右手を強化して、腕だけで跳ぶ。
着地と同時に額に破片が掠る。額が切れただけだ。問題ない。
流れる血が視界を塞ぐ。後、少しで手が届く。気にするな。
「と……ど……けぇー!!!!!!!」
叫びと共に前に跳び、落ちるラニを抱える。ラニは突然の衝撃に驚き、私を見て更に驚いた。私も心臓を貫かれて平然と生きているラニに驚く。
そのまま転ぶ、前にセイバーが抱えてくれた。体中が痛いけど、死んでないなら安い。そして見上げれば輝きが最高潮に達した光が見えた。
「マヤ!!令呪を!!!!」
セイバーの叫びに私は右手を掲げた。けれど、間に合わない。アレが爆発する方が速い。これまでか、そう思った瞬間。光りから私達を護る様にバーサーカーが現れる。
「…………」
そして私達とバーサーカーの間に赤い壁が生まれる。
『イレギュラーを排出します』
機械的な音声が響くと、急速に後ろに引っ張られる感覚に襲われる。そして遠くなる視界の中、バーサーカーが私達を見ていた気がする。けれど、その目は狂気に満ちた目ではなく、誇り高い武人の目だった。
▽
「ん……」
目を開ければ、広がるのは白い天井。薬品特有の臭い、そして身体を包みこむ暖かい、布の感触。
「う……ん~」
あぁ、私は寝ているんだな、と思いながら寝返りをうつ。
「って、ラニ!!!~ッ!?」
叫び、跳び起きると全身に鈍い痛みが奔る。同時に意識を失う前の記憶が蘇る。一瞬で捻りだした魔力量にソレ総てを利用した魔術行使。よくこれで魔術回路が無事なのか、と不思議に思う。
右側だけ視界が塞がっているのは、包帯だろう。確か、額の傷は右側だった筈だ。脇腹も手を当てると鈍い痛みが奔るものの、骨に異常は無さそうだ。
「あ、気が付きました」
すると、カーテンを開け、白衣の桜がやってきた。何故だか、桜の背後に黒いオーラが見えた様な気がした。彼女はベッドの横に置かれた椅子に腰かけ、花の様な笑みを浮かべる。
「取り敢えず、貴女が行った乱入行為ですが。一応、勝敗は乱入する前にラニさんの自爆を試合放棄とセラフは捉えました。よって、貴女の乱入行為にペナルティや何らかの制約は発生しません。しかしですね―――」
そしてそのまま一時間弱、桜の説教が続いた。申し開きも出来ずに私はその間、必死に謝っていた。もう一生分は謝ったんじゃないだろうか?
▽
「何故、私を助けたのですか………?」
桜の説教を終えた私に開口一番、ラニが問いを投げてきた。だけど、ラニは私の答えを聞かずにそのまま告げる。
「あのまま戦闘を続ければ、私の敗北は決定的でした。師から受けた最優先の命令を実行できなくなった私に残された選択肢は最終手段しか無かった。けれど、貴女の所為でその手段も無効化しました。答えてください。何故、私を助けたのですか……?」
無機質な瞳で告げられた言葉には怒りが含まれていた。それは自身の使命を邪魔された事への怒り。けれど、それは自分が死ぬ事になんの疑問も持っていない、という事だ。私にはその事がどうしても理解できなかった。死ぬ事を覚悟する。それは分かる。私も未熟だけど覚悟している。けれど、死が当然なんて考えは私には我慢できなかった。
「っ!?」
パン、と乾いた音が保健室に響いた。私はラニの頬を叩いた。そう、死が当然なんて間違っている。例え、彼女の出自がそれを自然に感じさせるものだとしても、私には理解できないし、納得する理由もない。
「他人を助けるのに理由がいるの?友達を助けるのに理由がいるの?」
「…………」
本当に怒ると人は冷静になる。と昔、誰かが言っていた気がするけど。確かに、と納得してしまう。
「確かに、この戦争は勝者が生き残って、敗者が死ぬ。参加者は誰もが、死を覚悟する」
多分、ラニは理屈を述べても、絶対に自分を曲げないだろう。短い、ほんの数十分の付き合いだけど、何となく分かる。だから私は感情で述べよう。そうしなければ、彼女に『私』は伝わらない。
「でも、死ぬのが当たり前なんて。間違っている。ラニの考えは間違ってる」
「私はそうやって生みだされました。それが私の―――」
「この世に生み出されたんなら、自分で考えなさい!!!」
言葉と共に今度は反対側の頬を叩く。
「確かにこの世に貴女を生み出したのはその人かもしれない。けれど、貴女は自分を確かに持ってる。なのに何で貴女は他人に自分の生を任せるの?貴女の生は貴女だけの物よ!!」
私の言葉にラニは驚き、固まって聞いていた。そんなラニを見ながら私は真っ直ぐラニを見て。
「ラニは私の友達。だから助けたの。それが貴女を助けた理由よ」
そう言い終わって、私は保健室を出る。
▽
「自爆しようとした友人を助けた?はっ、随分と酔狂じゃないか」
なんでか、来てしまった教会の姉妹に先程の事を話すと。早速、橙子さんの嫌味が飛んできた。
「まぁ、この戦争では駄目な方法よね。令呪、一画使っちゃったんでしょ?」
頷き、右手の一画減った令呪を二人に見せる。青子さんは静かに息を吐いた後。
「後悔してる?」
「いいえ」
そこははっきりと答える。そうとも、ラニを助けた事に後悔なんてない。令呪だって、本来なら帰還の為にもう一画必要だったのだ。そういう視点から見れば、この結果は上々である。私の答えを聞いた青子さんはニッと笑って。
「なら、よし!!」
サムズアップで褒めてくれた。そんなやり取りを橙子さんは長めのため息を吐きながら。
「まぁ、困るのはこの後だがな。精々、敗退しないようにな。なんだ?その顔は」
「いや、橙子さんにそんな言葉貰うなんて思ってなかったから」
なんだか、調子が狂う。青子さんは楽しそうにニヤニヤしている。それを気にしてか、橙子さんは咳払いを一つして。
「それで?此処に来たのはその報告だけじゃないだろう?」
「はい。ちょっと面倒な事になりまして」
そういって、私は視界が塞がっていると錯覚していた右目を触る。橙子さんが目を細くしながら。
「見えなくなったか。いや、その反応からすると『元から』見えてなかったようだな」
彼女の言葉に頷く。そして私は。
「橙子さんにお願いがあります」
▽
『目が慣れるまで暫く掛かる。無理をすれば魔術刻印ごと使えなくなるから気を付けろ』
昨日言われた橙子さんの言葉を思い返しながら、私は廊下を歩く。右目には包帯が巻かれており、視界が塞がっているが、距離感は掴めている。
「暫くは右側。お願いね、セイバー」
『分かっているよ』
彼の返事に少しだけ嬉しかった。階段を上り、左に曲がれば対戦発表者を表示する掲示板がある。
「次は誰だろ……」
一瞬、ありすを思い出してしまうのは未熟な所為だろうか。すると、掲示板に対戦相手が浮かび上がる。
マスター:トロワ・ラーンスロー
決戦場 :四の月層海
「俺の相手は君か……?」
声に振り向くと、そこには青年が立っていた。
「君は今までの相手とは何処か違うな。いや、関係ないか。敵ならば倒すだけだ」
白髪交じりの茶髪。白、というより生気が感じられない蒼白の肌。動きやすい服を着崩したソレは何処か近寄りがたい雰囲気を放っている。顔立ちは整っている方で身形(みなり)を整えれば、きっと美系なのだろう。けれど、彼の瞳には憎悪と哀しみが混ざった色をしていた。
「ここまで勝ち上がったんだ。君は強いのだろうね。けれど、俺は負けられないんだ……!!」
そう、絞り出す様に告げると青年は去って行った。
「あの男……マヤ、今回はかなり厳しい戦いになりそうだ」
思わず、セイバーを見る。セイバーは去って行く青年の後姿を見ながら。
「彼は僕達には想像できない様な苦しみと決意を持っている。その想いは既に執念になっている。生半可な気持ちでは勝てない」
「うん。でも、それは私も同じだから」
記憶も少しずつだけど、蘇って来ている。なら、私は勝たなきゃいけない。
力を持つが故に道を踏み外す
道を踏み外す為に逸脱した力を願う
この矛盾もまた、人間の証である
紛争のない世界
調和に満ちた世界でさえ、特例は表れる
なんのために
ラニルート突入。そしてオリジナルキャラ登場。サーヴァントは原作のラニルート同様バーサーカークラスですが。英霊は違います。といっても、分かる人はラーンスローという単語で分かるのですが。そして主人公の説教。正直、こういうのは書き慣れていないので、少し違和感を感じるかもしれません。次回もご期待ください