Fate/EXTRA~騎士王との出会い~   作:フィロ

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第17話「狂えし騎士」

 四回戦にもなればアリーナに入った時の驚きはそこまで大きくないのだな、と呑気に考えてしまう。

 

「どうやら相手もやって来ているようだ。慎重に進むとしよう」

 

 セイバーの忠告を聞きながら歩き出す。途中のエネミーも難なく撃退しながら進んでいくと、広い空間に出た。

 

「やぁ、君も来たのか」

 

 そこには今にも倒れてしまいそうな、苦しそうな表情をしたトロワが立っていた。何処か負傷をしている訳ではない。では、彼の状態の原因は何処だろうか。

 

「……au……thur……」

 

 恐らく彼の後ろに立つサーヴァントの所為だろう。宝具かスキルか。判別できないが、サーヴァントの身体は黒い靄の様な物で包まれており、姿が全く判別できない。

 

「此処で会ったのも何かの縁だろう。君に恨みは無いが」

 

「A――――urrrrrrrrrrrrrr」

 

 トロワの言葉と共に黒いサーヴァントが突撃してくる。トロワは素早く、右手に剣を作りだす。

 

「投影魔法!?でも実戦じゃ」

 

 投影魔法はその使い勝手の悪さから儀式用に使われる事が多い。それを武器として作りだし、戦闘に使うなんてあまりに効率が悪い。そう思った瞬間、作りだされた剣は黒いサーヴァントの手に渡り、剣の柄はサーヴァントが触れた場所から黒い血管の様な物が侵食する。

 

「マヤ!!下がるんだ!!!!」

 

 何処か、焦った様に聞こえるセイバーの言葉に従って、後ろに下がる。それと同時に突撃したサーヴァントにセイバーが迎え撃つように剣をぶつける。

 

「え……?」

 

 そして戦いが始まる。だが、疑問が幾つか浮かび上がる。先ず一つ。相手のサーヴァントの剣技だ。一目見ただけで一流だと分かる。その動きは、正に英雄と謳われるに相応しい。

 

「A――urrrrrrrrrrrrrrrrrrrr」

 

 だが、そのサーヴァントから発せられる声はおよそ、人とは思えない狂った叫び声。時節繰り出される力任せの一撃は理性があるのか疑わせるほどだ。

 そしてもう一つ気になるのは投影した剣の強度だ。普通の剣なら、聖剣と名高いセイバーの剣と一度でも打ち合えば直ぐに砕け散る筈だ。だが、その予想に反してサーヴァントの剣は未だその姿を残している。しかも、投影には多大な魔力が必要であり、短時間で魔力となって霧散する筈だ。それなのに剣は消えない。これは一体どういう事なのか。トロワに秘密があるのか、そう思い、彼を見ると。

 

「はっ……あっ…ぐっ!?」

 

 息も絶え絶えに、両膝を落として、胸を抑えている。これはサーヴァントにかなりの魔力を吸われている様だ。なら、あのサーヴァントは『バーサーカー』のクラスだろうか?だが、理性を失った狂戦士があんな鮮やかな動きを取れるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 相手の剣を弾き、逸らす。だが、逸らされた剣は水平に胴を狙ってくる。

 

「っと」

 

 それをバックステップで避ける。この剣技。見事な物だ。そして二回戦の彼女と同様、覚えがある剣技だ。

 

「さて、私の名前を知っているようだ。そして私に恨みがある英雄……意外と候補があるな」

 

 恨みを買う相手など掃いて捨てるほどいる。だが、その中でこれほどの剣技を繰り出せるのは一人しかいない。だが、僕が知っている彼はもう少しスマートに動く騎士だった筈だ。なら、これは。

 

「成る程、貴公も彼女と同じ、並列の歴史から招かれた騎士、という事だろう。恐らく、彼女に仕えたのだろうな。そして同じ存在である私と出会った。………これも運命、という奴なのだろうな」

 

 言葉と共にお互いの距離が強制的に離される。

 

「なぁ、湖の騎士よ『私達』がそれほどまで憎いか?あの時、貴公を裁かなかった『私達』が」

 

「a……thur……」

 

 私の言葉にセラフへ抗い、こちらに襲いかかろうとするサーヴァント。

 

「ならば、これは私の償いでもあるのだろうな。なら、今度こそ貴公に裁きを下そう。貴公の主である彼女に代わって」

 

 私の言葉に初めて彼が反応した。彼はゆっくりと抵抗を止め、私を見つめている。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 その後ろでは彼のマスターが震える手と息で懐から取り出した『リターンクリスタル』を使用する。

 

「今日は此処までだな」

 

 

 

 

 

 

「それで、今回の相手なんだけど」

 

 あの後、トリガーを入手して、私達は個室で向かい合っている。

 

「やっぱり、セイバーが知っている英霊だよね?」

 

「そうだね。正確には二回戦の彼女と同じ歴史の英霊だけど」

 

 という事はセイバーが知ってる英雄とは少し差異があると見ていいだろう。

 

「セイバーは『湖の騎士』って言ったよね?なら、真名は『ランスロット』?」

 

 私の言葉にセイバーが頷く。

 

「恐らく、あの靄も剣に現れた黒い血管も彼の宝具だろう。だが、それ以上に気を付けなければいけない物がある」

 

「えっと『無毀なる湖光(アロンダイト)』だっけ?」

 

 セイバーが頷く。

 

「彼の剣には充分に注意が必要だ。剣としての性能なら彼の剣を上回る物はそうそう、無いだろうね」

 

 セイバーがそこまで言う程の宝具なら忠告通り、注意が必要だろう。

 

「それで、君の目は大丈夫なのかい?」

 

 唐突に話題を変えてきたセイバーに少し驚く。だが、彼にとってランスロットの話題は話しにくい、そう考えて私は唸る。

 

「どうだろ?処置はしてもらったから大丈夫だと思うけど、橙子さんも初めてみたいだし、ちょっと不安かな」

 

 処置が終わった後、朗らかな笑みで『貴重な体験だった』とか言ってたけど、それがちょっと怖い。

 

「まぁ、明日行けば、分かるからそれまで、待つかな」

 

「そうか」

 

 そういって、私とセイバーが同時にため息を吐く。それが少し可笑しくて笑ってしまう。すると、セイバーが何処か安心した顔を作る。

 

「どうかした?」

 

「いや、君の笑顔を見るのは久しぶりな気がしたんだ。ほんの二、三日の筈なんだけどね」

 

 なんで、このサーヴァントはそんな恥ずかしい台詞を普通に言えるのだろうか?

 

「そ、そうかな……もう、寝るね」

 

 そういって、私は布団を被って、横になる。背中でセイバーがお休み、と言われる。あぁ、どうしよう。不意打ち気味でまだ心臓が高鳴ってる。今夜は眠りが遅いかも。

 

 

 

 

 

 

「ふむ、上々だな」

 

 翌日、教会で包帯を取った橙子さんの第一声に思わず安堵の息を吐く。

 

「移植そのものは大丈夫だろう。後は起動する時に不具合が無いかどうかだ。取り敢えず起動してみろ」

 

 言われ、右目に移植した『ザフィエルの瞳』を起動する。

 

「おぉ……」

 

 再び見えた右側の景色に思わず感嘆する。

 

「どうやら問題は無さそうだな」

 

「それにしても、面白い事を考え付くわね、貴女の一族」

 

 橙子さんの言葉の後に青子さんが頬杖を突きながら話す。

 

「右目が自然に腐食する呪いを生まれた時に掛けて、成長した後、腐食した目に一族の魔術刻印を刻んで作った魔術礼装の瞳を移植し、その魔術礼装で『根源』を観測する」

 

「発想自体は悪くない。だが『人が耐えきれる』という所だけ抜けているな。よほど、君の祖先は焦っていたようだ。もしくは単に抜けていたか」

 

 そう、私の一族は『世界を観測する魔眼』を作りだし『根源』を観測しようと考えたのだ。大事なのは『至る』のではなく『観測』という点。そう、私の一族は他の魔術師から見れば少々変に映るだろう。そしてこの『ザフィエルの瞳』は本来、見えない物を見える様にする物だ。普通なら気付かない抜け道や獣道を見分けられるのは本来の能力の一部でしか無い。逆に言えば、本来の用途で扱えば霊等の目には見えない物。霊体化した英霊すら見る事が出来る。

 

「私の一族は『根源』とは『目に見えないが其処にある』と考えていたみたいです。ですから霊やそれに近い存在。普通の人間では知覚出来ない存在を視認する事で情報等を取得してその果てに『根源』を見付ける。という物らしいです。何故『根源』を観測しようとしたのかは分かりませんけど」

 

 そして相手の先読みなんかも、説明が付く。

 そもそも、生物や霊、ほかにもホムンクルスの様な『造られた』存在や『生まれた』存在は『世界』という大きなシステムに記録される。そして何か行動を起こす度に世界に逐一上書きされるのだ。そしてその情報は行動を起こす刹那より早く世界に記録される。この瞳は『世界』という名の『新聞紙』を細かく見る為の虫眼鏡なのだ。故に相手がどう行動を起こすのか、どんな動きをするのか。それら総てが記録された『世界』を見る事によって、相手の次の行動が文字通り見えるのだ。これが先読みの仕組み。といっても、万能という訳ではない。『世界』の一部である人間一個人が全体を見渡すのはほぼ不可能。更に言えば、膨大な情報量に魂が耐えられない。故に使用には幾つもの制約とデメリットがある。

 

「聞けば聞く程、戦闘に使うには便利な物よね」

 

「だが、本来戦闘用としては作られていないせいで欠陥もある」

 

 欠陥その一。使用時間が極めて短い。最短で一瞬。最長で三秒。それ以上は魔術刻印どころか魂すら破損する可能性があるようだ。但し、コレは飽く迄、戦闘に用いた場合のみ、普通に起動している分には少々目が痛む程度。それも少し時間を置けば収まる。

 欠陥その二。魔力消費がかなり酷い。大体、数秒で魔力が空になる。勿論、相手の先読みや、本来の用途で扱う時だ。普段の生活ならば問題は無い。

 

「挙げてみれば、こんなモン?」

 

「充分、欠陥だな」

 

 橙子さんの言葉に同感。よくもまぁ、こんな欠陥品で根源を観測しようと思ったのだろうか。

 

「まぁ、君が人間じゃなくて強力な死徒だったらもう少し上手く活用できたかもね~」

 

「死徒になる研究でもしていたんじゃないか?」

 

「う~ん、思いだせる限りじゃ、そんな文献は見た覚えが無いです」

 

 そういって、右目に触れる。確かにヒトを越えた存在ならこの瞳はそれなりに使えるだろう。だが、私は人間だ。無い物ねだりしても仕方ない。

 

「でも、一瞬でも使い所を間違えなければいいだけです。それに私にはこれで充分ですから」

 

 笑みを浮かべる。そうだ。これ以上を望んでも恐らく私は持て余してしまう。ならば、自分が使える範囲で充分。リスクもあるが、逆にそのリスクのお陰で使い所を見極められる。そんな私の返事に橙子さんは肩を竦める。

 

「やれやれ、忠告する必要もないか」

 

「まぁ、自分で分かっているなら大丈夫でしょ」

 

 そういって、朗らかに笑う青子さんに橙子さんも笑みを浮かべて新しい電気タバコを咥える。

 

「まぁ、その様子なら君は大丈夫だろ。それで?確か、今回の対戦相手の事だが」

 

「はい、トロワ・ラーンスローというらしいですけど」

 

 と、私が対戦相手の名前を告げると、二人が唖然とした表情を作った。

 

「え?ラーンスローってあの没落の?確かかなり衰弱した一族じゃなかったっけ?」

 

「驚いた。余程、強力なサーヴァントでも引き当てたか。いや、だとしても魔力供給が満足に出来ない筈だ」

 

 などなど、何やら二人で独り言を始める。

 

「あの~?」

 

「あぁ、ゴメンゴメン。さて、君の対戦相手だけど。サーヴァントはともかく、マスターの方ははっきりいって、雑魚よ」

 

「え?そうなんですか!?」

 

 いや、確かに剣一本投影するだけで膝を着いていたほどだ。魔力の殆どをサーヴァントに取られているのだろう。

 

「あぁ、ラーンスローは二代前から魔術回路が急激に減っていってな。今じゃ、三流魔術師と同等か、それ以下だ」

 

「でも、バーサーカーを従えてましたよ?」

 

「…………恐らく、令呪か何かで魔力の代用を行っているのだろう。今でこそ落ちぶれているが、全盛時ではアトラス院の錬金術師並みに礼装作成が盛んな一族だったからな。恐らくはその礼装の中にそういう類の物があったのだろう」

 

「成る程」

 

「それで?相手の魔術は?」

 

「投影魔術です。でも、剣一本で疲れてましたから魔力量はかなり少ないと思いますね」

 

「投影?なに、白兵戦でもしてきたの?」

 

「いえ、投影した剣はバーサーカーが使いました。驚いたのはその剣で互角にセイバーと打ち合ったんです」

 

 私の言葉に橙子さんが顎に手を当てる。

 

「投影した物が優れていたか……いや、彼でもあるまいし、ソレは無いな。君のサーヴァントはどう考えている?」

 

 橙子さんの言葉に私の隣で実体化したセイバーは静かに。

 

「あの男は恐らく私の知っている英霊だ」

 

「ふむ、見当は付いている様だな」

 

 ならば、後は君達の話だ、と言って、ヒラヒラと手を振る橙子さん。私はお礼を言ってから教会を出る。

 

 

 

 

 

 

「それにしても、姉貴も結構肩入れするじゃない。どういう風の吹き回しよ?」

 

 誰も居なくなった教会で赤い妹は青の姉に問いを投げる。姉は無言で宙に出した表示枠を妹に投げる。難なく受け取ったソレはとある魔術師たちのデータだ。それを読む内に妹の顔から表情が消えていく。

 

「成る程……ね。興味が出る訳だ」

 

「あぁ、彼女は現代に置いて最も希少な魔術師だ。流石に死なす訳には行かないだろう」

 

 そういって、不味そうに電子タバコを咥える姉。妹はもう一度、表示枠を見る。この時代に於いて今もなお、魔術を継承している一族の一覧表だ。そしてその蘭の上。つまり、重要度が高い一族の中に『秘羽』という二文字が映っている。

 

「十五代続いた一族か………世が世なら、かなり優遇されているわね」

 

 

 

 

 

 

 個室に戻り、セイバーは真耶を真っ直ぐ見る。

 

「先ず、前提として今回の相手、バーサーカーは僕が知っている英霊と少しばかり誤差があるんだ」

 

「それって、二回戦のセイバーみたいな?」

 

 二回戦の相手である、アルトリアはセイバーの並行的存在だ。セイバーは真耶の言葉に頷き。

 

「ソレを踏まえて、あの英霊はランスロットだ」

 

 湖の騎士と呼ばれ、アーサー王伝説を語る上で欠かせない存在である『裏切りの騎士』ランスロット。王妃であるギネヴィアとの恋慕により、国を崩壊させる切っ掛けを作った騎士だ。

 

「勝てる……?」

 

 その問いは多分、勝敗の事ではない。真耶の言葉はもっと深い物だ。セイバーはゆっくりと頷く。

 

「あぁ、勝つさ。何より、コレを通して『彼』が太鼓判を押してくれたからね」

 

 そういって、セイバーは『約束されし勝利の剣(エクスカリバー)』を見せる。

 

「そっか」

 

 無理をしているようには見えない。なら、大丈夫だ。

 




皆様、明けましておめでとうございます。投稿が遅くなってもうしわけありません。少々リアルが立て込んでまして。
さて、17話ですが、今回のお相手は皆様の予想通りランスロットです。ランスロットを出して欲しい、という声が結構多くて、自分なりに頑張ってみました。では、次回もお楽しみに
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