七日目の朝。気付けば私は神父の前に立っていた。この戦争に慣れたのだと、自覚して少し寂しい気分になる。
「引き返すかね?」
「まさか」
神父の言葉に苦笑で返す。トリガーを示してエレベーターに乗る。
「やはり、来たね」
何処か寂しそうに告げるトロワさん。その隣には今にも襲いかかりそうに震えているバーサーカー。トロワさんはバーサーカーの魔力供給で今にも倒れそうだ。
「あの……聞いてもいいですか?トロワさんが戦う理由」
つい、口に出してしまった言葉はトロワさんにも意外だったのか、苦笑される。
「そうだね……どうせ、最後だから話してもいいかな」
そういって、彼は一度呼吸を整えて。
「俺には救わなくちゃいけない人がいるんだ」
絞り出すような声。
「その人は俺の幼馴染なんだ。けど、戦争で死んでしまった。だから俺は聖杯に望むんだ。彼女を生き返らせてくれ、と」
それはきっと、凄く真っ直ぐな願い。
「君にも願いがあるのだろう。だけど、俺は負けられないんだ」
言葉と共に激しく咳き込む。同時にエレベーターが決戦場に着く。
「初めてだ。他人にこんな話をしたのは」
そう言い残してトロワは決戦場へと向かった。セイバーは静かに私の肩に手を置いて。
「行こう、マヤ。此処に居ても何も始まらない」
「………うん」
頷き、決戦場へと足を踏み入れる。
▽
目の前には黒い靄が掛かったバーサーカーが立っている。その視線、気配からは確かな殺意と憎悪が感じられる。狂化しているとはいえ、ここまで憎まれるとは。なんと、僕は罪深いのだろうか。視線を後ろのマヤに移せば、彼女は俯いている。やはり、先程のマスターとの会話が尾を引きずっているのだろう。死者を生き返らせる。ありすの事を思い出しているのだろうな。
(セイバー……)
すると、マヤが念話を送ってきた。
(私は戦っていいのかな?)
その問いは何処か縋る様だった。それは卑怯だ、と思わずにはいられない。けれど、それは仕方ない事だ。彼女はまだ年端もいかない少女だ。けれど、この問いには答えなくちゃいけない。
(君は負けてもいいのかい?)
(負けたくないよ。でも、その為に……)
(君は決断したんだろう?なら、進むんだ。先に何があろうと、誰がいようと。選り好みできるほど、此処は甘くは無い)
僕の言葉にマヤは黙る。だが、直ぐに頬を両手で思いっきり叩く。パァン、という凄い音が静かな決戦場に響く。
(ありがとう、セイバー)
そう告げた彼女の表情に迷いはなく、あるのはただ決意した戦士の顔だ。僕は笑みを浮かべて。
(どういたしまして)
そして正面を向けば、バーサーカーがいる。
「待たせたな、サー・ランスロット。さぁ、始めよう」
僕の言葉と共にランスロットの身体を包む靄が消えた。現れるのは無骨ながら数々の戦場をランスロットと共に駆けた一級の鎧。そして鞘から抜き放たれるのは魔剣として禍々しくも聖剣の如き輝きを放つ。彼の剣。僕の持つ剣と同等の聖剣『無窮の湖光(アロンダイト)』
「あぁ、貴公の剣を見るのは何時振りだろうな」
言葉と共に右手に持つ聖剣の封が解かれる。拘束が解かれ、真の姿を見せる黄金の剣。ソレを両手で持ち、構える。
「さぁ、あの日の清算をしよう。裏切りの騎士よ」
嗚呼、どうか君の罪が晴れる様に全力でその憎悪を受けよう、湖の騎士よ。
▽
「セイバー…………」
目の前ではもう百を超えた剣戟が繰り広げられている。
「A――――urrrrrrrrrrr!!!!!!」
「オォッ!!!!」
雄叫びを上げながら剣を振り下ろすバーサーカーに下からの切り上げで対抗するセイバー。弾かれた反動を利用してのバーサーカーの攻撃を流れる様にセイバーが受ける。まるで、踊る様に動く二人の英雄。その攻防は地面を砕き、風を爆発させ。音を響かせる。
「くっ!?あぁっ!?」
苦悶の声はトロワから。彼は口や目から血を流しながらも魔力を捻りだしている。もう痛みすら麻痺しているのだろう。だが、どうやって魔力を出しているのか。
「くっ!?考えてる状況じゃないか……」
身体から容赦なく、力が抜ける。私もセイバーから魔力を取られているのだ。今回はセイバーに任せるしかない。私は四肢に力を込め、魔力を絞り出す。
「頑張って、セイバー……」
目の前ではセイバーが押され始めていた。
▽
「ハッ!!」
横薙ぎの斬撃を下から弾き、掲げた剣を振り下ろす。だが、それも彼の剣技の前に弾かれる。
「ク、ハハハ………」
自然に笑いがこみ上げる。狂化しても尚、これ程の剣技を誇れる。それでもなお、いやだからこそ。彼はこんなになってまで苦しんでいるのだろう。
「済まなかったな。ランスロット」
呟きは届かずとも。例え、目の前にいるのが、己が知る者でなくとも。言わなければならない。
「済まなかった。だから……終わりにしよう」
言葉は決意と共に。上段からの振り下ろしに風の魔術を加え、迎撃しに来た剣を叩き落とす。地面に孔を作った剣には傷一つない。
「決着だ」
静かに告げる言葉と共に振り下ろした剣を横に薙ぐ。
数瞬の後、グラリと揺れた彼は前へ倒れる。無言で支える。
「貴公は強く、気高く。そして弱かったのだな。貴公のその弱さに気付けず、済まなかった」
「……良いのです。仮初とはいえ、同じ王である貴方に裁かれたのならば……悔いはありません」
狂化が解け、本来の彼の言葉に胸が掴まれる様だ。
「貴方の……その迷い無き剣……貴方に仕えた私は………さぞ幸せだったのでしょうな」
その言葉を否定したくても声が出せない。僕はただ、彼が消えるまで支える事しか出来なかった。
▽
「ねぇ、ちゃんと帰ってくるよね?」
それは遠い思い出。過去にあった己の過ち。
「あぁ、帰ってくる。それと……帰ってきたらお前に言わなくちゃいけない事がある」
「それは今じゃ駄目なの?」
何故、あの時言わなかったのだろうか。
「あ、うん。今じゃ駄目なんだ。帰ってきたら言うから」
もし、断られたら。それが怖くて告げられなかった彼女への想い。けれど、そんな臆病な俺に彼女は心底嬉しそうな笑みを浮かべて。
「うん、分かった。待ってるから、ちゃんと帰って来てね」
「あぁ……!!!」
何故、俺は彼女の前から去った?彼女と自分が釣り合わないから?それは言い訳だ。そんな事は俺も彼女も気にしなかった。でも、俺は臆病で彼女には相応しい男が見付かる筈だ。そう勝手に決めて、彼女の為に去る、なんて自己満足に酔いしれていた。彼女の本当の想いに気付いていたのに。
意識が遠のく。あぁ、俺は死ぬのか。それもいいかもな。そう思えば、俺の意識は更に深く沈みこむ。
ふと、目を開けた。そこは懐かしい場所だった。彼女と一緒に歩いた街道に俺は立っていた。何の疑問も無く、歩き出す。そして視線を上げれば。
「やっと、帰って来た。お帰り、トロワ」
嬉しそうに、恥ずかしそうにはにかむ彼女が立っていた。あぁ、俺は帰って来たんだ。懐かしい故郷に。
「あぁ、ただいま。アンナ」
そういって、彼女の手を取る。
▽
赤い壁の向こうで相手マスターが消える。
「セイバー……」
セイバーは無言で佇んでいる。その背中に声を掛けたいけど、どう言えばいいか分からない。
「行こう、マヤ」
そう言って振り向いたセイバーは何時もの笑みを浮かべていた。
「僕たちは勝ったんだ。それなのに此処で立ち往生していたら彼らに申し訳が無い」
「うん……」
頷く。何処か無理をしているように思える。セイバーは私の横まで来て。
「僕は大丈夫。昔ならいざ知らず、今ならそう言える」
そういって、笑うセイバーは儚い。何時の間にか私は泣いていた。
「どうして……君が泣いているんだい?」
優しく、頬の涙を拭ってくれるセイバー。泣いている理由なんて私にも分からない。あるとするならば。
「セイバーが泣かないから……代わりに泣いているんだよ」
私の言葉にセイバーは驚いたのか、少しの間無言で私の頬に手を当てていた。
「そうか………君は本当に優しいんだね、マヤ」
そういって、頬に置かれた手は後頭部に回されて、そのまま顔をセイバーの胸に押し当てられる。鎧を脱いだセイバーは質素なシャツとズボンで私は布一枚隔てたセイバーの鼓動を感じていた。
「ありがとう……僕の代わりに泣いてくれて」
「あ………うん」
実を言えば、胸に顔を埋めた瞬間、涙は止まっている。代わりに私の心臓がバクバクと高鳴り、顔が熱くなる。
「………落ち着いたかい?」
全然。むしろ、さっきより色々とヤバイ。
「う、うん。落ち着いたから!!」
これ以上はマズイ。そう思って、慌てて離れ、歩き出す。
連日投稿!!!ちょっと疲れました(苦笑)四回戦決着です。短いのは長くするとダレるのでこの長さです。力量不足ですみません。次回もお楽しみに