蒼い光が淡くその広場を照らす。広場は中世のコロシアムの様になっており、その中心に二組の影が見える。
一組は赤と蒼。遠坂凛とランサーだ。凛は何時もの自信ありげな表情を隠し、静かに毅然と前を見ている。対するランサーはこれから行われる戦いに昂ぶる闘志を隠そうとせず、獰猛な笑みと共に視線を前の二人に向ける。
一組は黒と翡翠。黒いスーツを着た少年と紅と黄の長短二本の槍を持ったサーヴァント。少年はやや緊張しながらも凛の視線を受け止めている。サーヴァントは泣き黒子が特徴的な美貌にランサー同様、獰猛な笑みを浮かべてランサーの視線に応える。
「さぁて、やるかね。お互い、真名は殆ど分かってるし、名乗りでも上げるかい?」
「ランサー………」
最初に声を発したのはランサーだ。獰猛な笑みは鳴りを潜め、人懐っこい笑みの言葉に凛がため息を吐く。翡翠のサーヴァントは視線を自身の主に向ける。その視線に驚きながらも、少年が頷く。
「良かろう。俺も貴方の名には興味が尽きない」
サーヴァントの言葉にランサーがハッ、と笑う。
「そうこなくっちゃ!!」
「はぁ、分かったわよ。好きにしなさい。けど、絶対に勝ちなさい。いいわね?」
凛の言葉にランサーは笑みと共に頷き、肩に担いでいた槍を一回転させ、低く、構える。
「赤枝の騎士。クー・フー・リン!!!さぁ、テメエも名乗りを上げな、ランサー!!!」
雄叫びの如き名乗りを前に、相対するもう一人のランサーは歓喜に震えた。そしてその歓喜に流されるように両手を鳥の翼の様に広げた構えをとる。
「フィオナ騎士団が一番槍!!ディルムッド・オディナ!!!この電子の海で最高の好敵手に出会えた事。光栄の極み!!!!」
その表情には至福の笑み。身体は歓喜の武者震い。対するクー・フー・リンは短く笑い。
「まさか、こんな場所で後輩に会えるとはな、正に聖杯戦争様々って所か」
「同じ戦場を共に出来なかったのは無念でしたが、まさかこんな形で我が願いが叶うとは。有難いことです」
そう告げ、二人は笑みを浮かべる。
「んじゃ、まぁ」
「えぇ、いざ!!」
そしてソレは唐突に。二人の声と共に空間が二人の闘気で軋む。
『勝負!!!!』
声は互いに、地面が砕けたと感じた時には二人の間、丁度中心から爆音が響く。
「雄ォォッ!!!!!!!」
「破ァァッ!!!!!!!」
互いに雄叫びを上げ、三つの軌跡が火花と音で音楽を奏でる。
火花は消えるよりも速く、新しい火花を生み、槍がぶつかり、奏でられる音は際限無く高くなる。
▽
「っと、これでどう?」
「くっ!?この!!!」
凛が投げたルビーは拳大の炎に変わり、少年を襲う。少年は手に持っている小瓶を炎に投げる。炎が瓶を溶かすと同時に爆発。瓶に入っていた砂が地面に落ちると同時に電子の床が変形する。
「ちょっ!?」
驚きながら、凛が後退する。そうして、見上げれば、そこには電子の床と同じ色のゴーレムが三体、立っていた。
「凄い、あの炎にこれだけの魔力が込められていたなんて」
驚愕は少年も同じ、少年の持っていた小瓶の砂は魔力を吸収する代物。それが床に散らばれば、魔力を吸収した砂が地面を巻き込み、砂同士が引き合って、ゴーレムを作るのだ。吸収の力を持つ水とゴーレムを作る為の強化、変化を持った土の二重属性を持った少年の魔術礼装だ。
「ってことは、コレも魔力を吸収する筈、だけど」
ゴーレムは目算で、三メートル強。それが三体。強度は強化の魔術が施されているので、鉄よりも硬い筈だ。俊敏性はこの大きさ、更にゴーレムという事を踏まえれば、囲まれない限り、問題は無い。
「行け!!!」
少年の言葉と共に三体のゴーレムが凛に襲いかかる。
「この!!!」
即座に放られた翡翠と赤の宝石は炎を伴った竜巻と化して、ゴーレムの内一体を溶解させ、近くにいたもう一体の右側を溶かす。
「一つ!!!」
叫びと共に攻撃が来ない方向に跳び、着地と同時に地面に宝石を叩きつける。地面に落ち、砕けた宝石は地面を砕きながら、振り向いているゴーレムに重なる様にバランスを崩したもう一体を半分に割る。
「うし!!思った通り、ゴーレムになれば、魔力吸収も無くなってる」
会心の笑みと共にガッツポーズを取る。少年のゴーレムもそこまで万能ではないようだ。だが、動きを止めた凛の足元が揺れる。
「へ?」
疑問の呟きと共に揺れていた地面がグシャリと握り拳になる。
「よし!!」
地面に手を置いている少年が声を上げる。凛がいる地面を遠隔で変化して作り上げた即席のトラップ。だが、その握り拳は次の瞬間、爆発する。
「くっ!?」
苦悶の声と表情を浮かべながら地面に着地する凛。同時に凛の周囲から腕が伸びる。
「どんだけ、余裕あんのよ!!!」
悲痛な叫びと共に凛は走り出す。宝石は残り四つ。残り三試合を考えればかなりギリギリである。
「キツイ……かな?」
走りながら、呟く声とは裏腹に凛の表情はとても活き活きしていた。
▽
「ハッ!!!中々追い付くじゃねえか!!!」
「これしきで驚いて貰っては困る!!!」
互いの言葉と共に際限なく、槍の応酬が速くなる。もはや、互いの腕はおろか、槍の軌跡すら見えない。見えるのは二つの赤と黄の光だけである。大地は衝撃で捲れ、槍がぶつかる摩擦の熱で溶けて消える。
「よっと。ふぃ~」
槍の応酬を止めたのはクー・フー・リン。彼は後ろに大きく距離を取り、一息吐く。ディルムッドも同じように息を整える。
「どうした?よもや、かの大英雄がこの程度で息を乱すか?」
「阿呆。準備運動で終わらせるにゃ、勿体ねえだろ?」
ディルムッドの軽口にクー・フー・リンも軽口を返す。そしてお互いに笑いあう。
「さて……、お互い、身体が温まって来た所だ」
「えぇ、続きと行きましょう」
低く、弓の様に引き絞られた構えを取るクー・フーリン。片や、柳の様に柔らかな構えを取るディルムッド。
「全力で行く。付いて来れるか?」
「何の、貴方こそ付いて来い!!!」
ディルムッドの言葉と共に先程よりも速く、激しくぶつかりあう二つの影。まだまだ始まったばかり、と言わんばかりに槍が交差する。
「うわっ!?」
だが、二人が激突すると同時に彼らの背後でディルムッドのマスターが爆発に煽られて地面を転がる。
(主!!!)
一瞬、ディルムッドの身体が固まる。だが、それも一瞬、襲いかかる魔槍を捌く。
(ディルムッド。君はそのサーヴァントの相手に集中してくれ)
(しかし!!)
拮抗状態が傾き始めたマスターの身を案じるディルムッドに少年は少し間を置いて。
(僕は君と出会った時に言った筈だ。君に守られる程、弱くは無い、と)
ソレは初めて彼らが出会った時の事。正直、少年にとっては見栄を張った一言だ。だが、ディルムッドと戦う事で少年は思った。
(ディルムッド。僕は君と肩を並べて戦いたい。主として、君の戦友(とも)として)
その思いにディルムッドは眼を見開き、次いで笑みを浮かべる。
「あん?」
目の前で相対するクー・フー・リンが怪訝な声を上げる。その視線の先、ディルムッドの頬に一筋の涙が流れる。
「電子の戦場で真の主に出会えた事。この巡り合わせに感謝を!!!」
そう叫び。雄々しく、力強く構えるディルムッド。
「さぁ行くぞ、クランの猛犬。貴方の槍は我が二槍、そして主の力で打ち破る!!!!」
叫びと同時、ディルムッドの背後で地面が盛り上がり。五メートルのゴーレムが立ち上がる。ゴーレムの肩には上着を脱ぎ捨てた少年が立っている。
「ハッ!!!好い顔だ。さっきのも良かったが。今のテメェの顔は一段と好い顔だ!!!!」
闘気を、魔力を昂ぶらせるクー・フー・リン。そして彼の横に並び立つ凛。その手にはエメラルドが二つ握られている。
「さぁ、来な!!!」
「いざ、参る!!!」
叫びは共に目の前に立つ敵に。そして背中を預け合う主と共に力強く、その一歩を踏み出す。
▽
「ランサー!!!!」
「応ッ!!!!」
少年の叫びと共にゴーレムの右腕が振るわれる。その見た目通りの一撃はクー・フー・リンの一撃で砕かれる。だが、砕かれた破片を縫うように粉塵を突き破って、突き出された紅い槍には一瞬、反応が遅れる。ソレは死角を突いた攻撃だという事もあるが、それよりもディルムッドの一撃は先程よりも比べる程も無い様な速さだった。
「チィッ!!!!」
舌打ちと共に身体を強引に曲げて槍を回避する。だが、回避した瞬間、気付いた。その槍には持ち主の腕が無い。そして粉塵を吹き飛ばしながら黄色の短槍を構えたディルムッドゴーレムの右腕を走りながら突撃していた。
「糞が!!!!」
吐き捨てる様な叫びに心臓目掛けて突きだされた黄色の短槍は直前で横合いから飛んできた大量の黒い塊を防ぐ。
「うわっ……勘でもやってみるものね」
「勘で俺は救われたのか……」
自分の行動の結果に唖然としている凛とその結果に微妙な表情をするクー・フー・リン。
「それにしても、いきなり動きが良くなったみたいだけど」
「まぁ、相性の良さって奴だな。あのゴーレムは土が元なんだろ?だったら速さが売りの俺達にとっては最高の相棒だ」
土であるならば踏みしめられる。つまり、ゴーレムの身体の何処だろうと足場に出来るのだ。そしてその足場自体が攻撃も出来るのならば厄介、という程ではないが、面倒だ。
「あの程度のゴーレムがどれだけいようと関係ねえが、それと一緒にアイツも攻撃してくるんなら話は別だ」
ディルムッドに気を取られれば、ゴーレムによって隙を作らされ、ゴーレムを排除するなら背後からディルムッドの槍が来る。
「厄介ね。倒せる?」
「愚問だな。自分の勝利に疑問を持つような女じゃないだろ?」
問いかけに問いかけを返すと凛は息を吐いて視線をゴーレムに向ける。
「五秒。今の手持ちじゃそれが精一杯よ」
「了解、少々荒っぽく行くぜ?」
言葉と共に動いたのはクー・フー・リン。彼は右手の指で宙に何かを描く。
「主!!お下がりを!!!」
ディルムッドの叫びと同時、彼らの目の前で炎が上がる。ルーンを用いた魔術。クー・フー・リンの持つ技術だ。
「くっ!!」
先手を取られ、こちらの出鼻を挫かれた事に歯噛みしながらもディルムッドの反応は速い。彼は右手に持つ紅い長槍で炎を薙ぎ払う。瞬間、視界の端で赤い軌跡が抜ける。
「くっ!?」
「おいおい、俺を無視する気か?」
その赤い影が凛だというのは分かる。だがクー・フー・リンの相手をしなければならない為援護に行けない。反射的に彼は主である少年を見る。
「まだ宝石が残っているなら出し惜しみはしない方がいいですよ?僕もしませんから」
「ちょ、ちょっと!?どんだけ余力あるのよ!?」
少年の言葉と共に三メートルほどのゴーレムが五体現れ、凛が悲鳴を上げる。少年の顔には緊張も、恐怖も無い。そこにあるのは自らの力とディルムッドの力を信じて浮かんだ笑みだけだ。
「余所見をした事はお詫びします」
「お?マスターは守らなくていいのかい?」
少年はディルムッドが勝つ事を信じている。ならば、主の信に答えるのが騎士の務め。
「我が主は私が守る程、脆弱ではありません」
「それならさっさと続きを始めようぜ?」
その問いにディルムッドは己の槍をクー・フー・リン目掛けて突きだす事で答える。
▽
「こんのぉぉっ!!!!」
叫びと共に小さな宝石から溢れた炎と大量のガンドがゴーレムの内一体を砕く。
(凄い……)
それを横目に見ながら少年は心の中で驚嘆する。
(この人は才能だけじゃない。努力もそれ以上にこなしている)
才能だけではいずれ、底が見える。既に凛の才能としての底は見え始めている。だが、彼女が培った努力は才能に勝るとも劣らない程だ。
(けど、僕だって)
少年も努力は人一倍行っていた。少年の家系が扱う魔術はゴーレムの創造とその運用だ。古くからゴーレムを造ってきた技術はしかし、現代では時代遅れと揶揄される物だった。現代であればもっと効率よく、ゴーレムを造る事が出来る。
当然、古い製造方法を扱っていた少年は同じゴーレムを造る者達に馬鹿にされていた。その悔しさをバネに必死に努力した。
(新しい方法なんて僕には理解できなかった。だから僕は僕の一族が培ってきたモノを高速で運用するしかなかった)
そしてその結果が目の前で展開、撃破されている。悲しまない筈が無い。怒りを覚えない筈が無い。自分が今までを懸けて造り上げた物を簡単に砕かれる。その怒りはどれだけの物だろうか。
(……綺麗だ)
だというのに、少年は襲いかかるゴーレムに毅然と立ち向かう凛に見惚れていた。
「これで、ラストォォッ!!!!」
叫びと共に少年を乗せていたゴーレムが砕かれ、少年が地面に転がる。
「勝負……アリね」
顔を上げた少年に指を突き付け、勝利の笑みを浮かべている。
「そうですね……」
そう告げた瞬間、凛の後ろではサーヴァント達が決着を付けようとしていた。
▽
「さて、名残惜しいが……」
空間を軋ませるほどに高まった魔力がクー・フー・リンの槍を紅く輝かせる。
「えぇ、決着と参りましょう」
対するディルムッドも赤と黄の槍を構える。
「右か左か、決める手を間違えるなよ?」
「貴方も、我が心臓は此処ですよ?」
互いに告げる。そして、一瞬、二人の視線が交差する。
「刺し穿つ(ゲイ)―――」
「必滅の(ゲイ)――――」
共に紡がれる一言目は同じ、先に動いたのはディルムッド。彼は右の長槍を離し、短槍を両手で構え、最速で突撃する。その疾走を見て尚、クー・フー・リンは笑みを浮かべる。
「死棘の槍(ボルグ)――」
「黄薔薇(ボウ)―――」
ディルムッドが狙うはクー・フー・リンの額。その一点に向かって生前以上の速度で放たれた一撃は回避不可。
「その心臓、確かに貰い受けた」
だが、その一撃が届く事は無かった。その一撃は無視できない衝撃によって僅かに逸れ、クー・フー・リンの頬を霞めるに留まった。
「……ぐっ!?」
喉から競り上がった血を気合いで飲み込む。目の前の英雄。光の御子を我が血で汚す事などせぬように。
「我が力、我が技。未だ届かず……無念です」
その言葉と共に心臓に深々と突き刺さった朱槍が引き抜かれる。ディルムッドは膝を付き、そのまま倒れる。
「ランサー!?」
だが、その寸前でディルムッドの身体を少年が支える。
「主……申し訳ありません」
告げられた言葉を少年は笑みを浮かべ。
「構いません。君は全力を出して、その果てに敗れました。それは僕が良く知っています。それなのに何故、君を責めなければいけないのですか」
「主……」
ディルムッドの声と共に赤い壁が現れる。
「行くわよ、ランサー」
それを見た凛は横にいるクー・フー・リンに声を掛けると歩き出す。
「楽しかったぜ、ディルムッド・オディナ」
そういって、去っていく二人の後姿を見送る。
「終わってしまいましたね」
「えぇ……」
呟いた言葉にディルムッドが答える。
「敗北は……やはり悔しいですね」
そういって、小さく息を吐いた少年。
「次は負けない様にしませんと」
「次……ですか?」
少年の言葉にディルムッドが驚く。
「えぇ、確かランサーは前に聖杯戦争に招かれましたよね?」
「えぇ……」
そういうと、少年は笑みを浮かべて。
「ニッポンの諺に『二度ある事は三度ある』という言葉があります。もしかしたらまた聖杯戦争に招かれるかもしれません。その時は勝ちましょう」
そう告げられたディルムッドは苦笑を浮かべる。
「そうですね。もし、次があるなら勝ちましょう」
「はい」
その言葉を最後に主従は電子の海に溶けて消える。
大変お待たせしました。今回はZEROランサーとの試合です。次回は五回戦突入です。下手したらCCCをプレイして遅れるかもしれませんが、その時はご容赦ください。では、次回もご期待ください