無機質な電子音が流れ、私は端末を確認する。
『二階掲示板にて、一回戦の対戦者を発表』
「いよいよだね」
セイバーの言葉に頷き、掲示板に向かう。
「これかな?」
二階の踊り場にある掲示板を見る。そこには自分の名前と対戦相手の名前が書いてあった。
「間桐慎二………」
この名前は知っている。
「へぇ、まさか君が一回戦の対戦相手だとはね。この本戦にいるだけでも驚きだったけどねぇ」
後ろを振り返れば、見覚えのある軽薄そうな男が立っていた。間桐慎二、仮初の日常で友人同士だった生徒だ。嫌味な奴だったけど嫌いじゃなかった。そう嫌いじゃない。そして顔見知りだ。彼と戦う?私が?
「けど、考えてみればそれもアリかな。僕の対戦相手って事は君もそれなりの魔術師なんだろう?まぁ、僕の方が上だろうけど。まぁ、楽しく友人やってたわけだし?取り敢えずは本戦出場おめでとう」
そういって、彼は楽しそうに語りだす。だけど、その言葉は私の耳に入って来ない。この戦争の意味は大体理解していた。けど、ちゃんとした自覚は無かった。セイバーの言葉通りなら私と慎二。否、この戦争に参加している人たちは全員殺し合う敵。記憶が戻ってないから、などと言い訳は出来る。でも、人を殺す覚悟を自覚していなかった。ただ生き残りたいだけ、死にたくないだけ。でもその為には目の前の慎二を犠牲にしなくちゃいけない。
「どうしたんだよ?さっきから顔色が悪いぜ?まさか、僕がどんな人間か、分かっちゃった?嗚呼!!メジャーな人間って辛いよね!!なんせ―――」
「そこまでにして貰おう」
凛とした声に思考の海から引き戻される。顔を上げると何時の間にか、セイバーが私の前、慎二から護る様に立っていた。
「先程から黙っていれば好き勝手に戯言を言っているようだが。まさか、もう勝った気でいるのか?」
「なっ!?あ、当たり前だろ!?僕とコイツとじゃ魔術師としての格が違うんだよ!!少し強いサーヴァントを引いた位で勝てる程、この戦争は甘くないんだ!!!」
慎二の言葉が深く突き刺さる。そうだ、私もセイバーという優秀なサーヴァントを引いただけ。少し運がいいだけなんだ。すると、セイバーはニヒルな笑みを浮かべ。
「その通り、この聖杯戦争はサーヴァントの実力だけでは勝てない。マスターの魔術師としての力、技量が必要だ。そしてそれ以上に戦いに臨む覚悟が必要だ。君の様に遊び半分で戦う人間が勝てる程、この戦争は甘くは無い。その点、私のマスターは優秀だ」
そういって、セイバーは私の肩にポン、と手を置いた。
「彼女はちゃんとこの闘争に立ち向かう覚悟がある。ソレは見方によっては無様で滑稽でしかないだろう。だが、それでも覚悟すらしていない君よりはマシだ」
静かに告げる言葉に初めて、セイバーが怒っているのだと気付く。嗚呼、このサーヴァントは私の為に怒ってくれているのか、そう感じた瞬間、私の中で渦巻いていた嫌な感情は嘘の様に晴れていた。
「ハッ!!好い事言うじゃないさ、色男!!!」
実に楽しそうな言葉と共に慎二の隣に刺激的な女性が現れる。
「まぁ、覚悟云々は後々分かる事さね。その時は精々楽しませてくれよ?」
「期待には応える、とだけ言っておこう」
セイバーがそういうと、現れた女性は笑みを浮かべて消える。そして慎二は鼻を鳴らして去っていった。
「セイバー……あの……」
何を口にすればいいのか、否定?感謝?混乱している私に彼は笑みを浮かべて。
「御免、どうにも見ていられなくって」
そういうと、彼は私の両肩に両手を乗せ。
「マヤ、君はこの戦いを勝ちたいか?」
「………分からない。けど、死ぬのは嫌」
でも、その為に他人を蹴落としていいのだろうか?そう考えていると、彼は笑みを浮かべて。
「君は優しいね。でも、それは甘さだ。戦場では一番持ってはいけない感情だ」
「っ!?」
ハッキリ言われ、私は俯くしか出来ない。
「けれど、無理にソレを捨てようとしないで欲しい」
「え?」
彼の矛盾した言葉に顔を上げる。
「君のその甘さはとても尊い物だ。だから大切にしてくれ。そして自分で考えて答えを見付けるんだ。この先、君がどうやって戦い抜くのかを。そして君がどんな答えを見出しても僕は否定しない」
何故なら、と彼は一息おき、私の肩から手を離すと輝く様な、でもとても儚い笑みを浮かべて。
「僕は君のサーヴァントだから」
その笑みに思わず見惚れてしまう。そして端末の音で我に返る。
「あ、えっと」
慌てて端末を確認する。
『第一暗号鍵を生成 第一層にて取得されたし』
「第一暗号鍵(プライマトリガー)……?」
言峰神父の説明で聞いた単語だ。確か、七日目に両方のマスターが赴く闘技場の鍵だ。その鍵は二つ必要な筈だ。
「取り敢えず、行動しよう」
考えるだけなら後でも出来る。私の言葉にセイバーは笑みを浮かべた後、霊体化して後を付いてくる。
▽
アリーナに入ると、セイバーの雰囲気が変わる。
「どうやら先程のマスターが既にアリーナにいるようだ。十中八九戦闘になる」
「大丈夫。闘う覚悟はもう出来てるから」
私は『ザフィエルの瞳』を起動しながら告げる。セイバーは一瞬、目を開いた後、笑みを浮かべる。
「それは何よりだ。では行こう」
そういって、私達は歩き出す。途中出会ったエネミーを倒していく。すると、セイバーが何か驚いている。そして障害となるエネミーを倒しながら進んでいると。
「マヤ、レベルが上がった」
「レベル?」
突然の言葉に思わず、首を傾げる。それが面白いのかセイバーはクスリと笑って説明してくれた。どうやら今のセイバーは私から満足な魔力供給を受けられない状態だという。そしてレベルは私の魔術師としての力量が上がり、そしてセイバーに対して魔力供給が正しく行えるというのだ。
「御免、セイバー。私が未熟な所為で」
「気にしてないよ。それに大丈夫。これでも僕は最優のサーヴァントだからね」
そういって、セイバーは左の拳を胸に軽く当てる。その後、レベルが上がったかどうかは端末に表示されるのを確認してからアリーナを進む。
「遅かったじゃないか、秘羽。お前がモタモタしてるから、僕はもうトリガーをゲットしちゃったよ!あははっ、そんな顔するなよ?才能の差ってやつだからね。ついでだ、僕のサーヴァントの力を見せてあげるよ。君のサーヴァントも強そうだけど、僕とのマスターとしての力の差って奴を教えてやるよ。蜂の巣にしてやれ!!」
そういうと、慎二は隣にいる赤い長髪のサーヴァントに命令する。顔に大きな傷があるスタイル抜群の女性サーヴァントは私を見てから慎二を見て。
「うん、お喋りはもうおしまいかい?もったいないねぇ。ほら、うちのマスターは人付き合いが下手糞だろ?お嬢ちゃん相手は珍しく饒舌だから、平和的解決もありかと思ったんだけどねぇ」
そういって、彼女は両手にクラシックな拳銃を出現させる。私は一歩後ろに下がる。そして私の前にセイバーが前に出る。
「因みに平和的解決とはどんな物かな?」
「うん?決まってるじゃないか。穏便にアンタ等が敗北宣言してくれ、って頼むだけさ」
「成る程、どうやらその解決方法は無駄な様だ」
そういって、セイバーは右腕を軽く振る。それだけで、風が巻き起こる。
「私は最初から負けるつもり等、無い」
-WARNING- セラフより警告>>アリーナ内での戦いは禁止されています
そんな警告と共にアリーナの空が赤く染まる。瞬間、それが合図の様にセイバーが掛ける。
「意外と速いじゃないさ!!」
驚きと感嘆が含んだ言葉と共に相手サーヴァントから弾丸が放たれる。だが、セイバーはソレを不可視の剣で弾きながら肉薄。真一文字の斬撃を放つ。
「ハッ!!見えない得物とは面白い武器だね」
だが、相手サーヴァントは空に跳んで避ける。
「ん?」
視界の端で慎二が何か操作している。どうやら魔術を行使しているようだ。そしてその光景を『ザフィエルの瞳』越しで視た私は青く染まっている箇所(魔力の弱い部分は青くなって見える)に魔力弾を放つ。
「うわっ?!」
放たれた魔力弾が慎二の魔術を破壊する。驚いて身を竦ませている慎二に少しだけ罪悪感を覚える。
「な、何するんだよ!!!お前は震えながら蹲ってろよ!!!」
だが、その罪悪感も慎二の言葉を受けて引っ込み、思わずイラッとした。横を見ると、セイバーと女性サーヴァントは少し遠い場所で闘っている。どうやらあのサーヴァントはセイバーの剣に手を焼いているようだ。
「ま、見えないんじゃ仕方ないよ、ね!」
言葉と共に魔力弾を数発、慎二の足元に叩きこむ。地面にぶつかった魔力弾は地面を砕き、即席の煙幕の出来上がりだ。といっても、普通の地面と違ってそこまで効果は無い。
「ハッ!!やっぱりさっきのはマグレだったみたいだね」
何故だか、慎二の勝ち誇った声が聞こえたが、無視して走り出す。強化の魔術を脚に掛けて、速度を上げる。
「なっ!?」
慎二が驚いて固まる。地面をしっかり踏んで跳躍。両手を伸ばし、慎二の頭をしっかりと掴む。
「さっきから………!!」
引いていた右足を思いっきり前に出す。一瞬、慎二が私ではなく翻ったスカートの中を見たのに気付いて、更に力を込める。
「煩いのよ、このワカメぇぇぇっ!!!」
「ごっ?!」
固定した慎二の顔面に強化した膝を叩きこむ。そして反動を利用して華麗に着地。
「これぞ、本当の『シャイニングウィザード』よ!!!」
ビシッと倒れた慎二を指さし、告げる。
「お………おまへ~」
顔を押さえた慎二がヨロヨロと立ち上がる。
-戦闘を強制終了します-
セラフからの通告と同時にセイバーと敵サーヴァントが引っ張られるように離れる。
「どうやら時間切れみたいだね。それにしても、お嬢ちゃん。見事な膝蹴りだったね」
と、女性サーヴァントは笑みを浮かべながら告げる。見られてた、そう思った瞬間、顔が熱くなる。
「く、くそ!!!いい気になりやがって。今日は見逃してやるけど、次は覚悟しろよ!!」
そういって、走り去る慎二。それを見送った後。
「それにしても、驚いたよ。まさか、あんな大胆な行動にでるなんて」
「あ、えっと、アレは……」
セイバーの言葉にまた顔が熱くなる。
「でも、あんまり危険な事はしないようにね」
「うん。そうだ、あのサーヴァント。何か分かった?」
我ながら上手く話を変えられた。セイバーは顎に手を当てながら。
「そうだね。銃を使ってるし、最後に大砲が現れたから、多分アーチャーだと思う」
「あれ?弓使ってないよね?」
そういうと、彼はクスリと笑う。
「アーチャーのクラスに該当するのは何も弓を使う英霊だけじゃないさ。武器を投擲、射出する遠距離タイプが該当するんだ。僕が出会ったアーチャーなんて数多の宝具を雨の様に射出する英霊だったからね」
「そんなサーヴァントもいるんだ」
というより、そんな数の宝具を凌げるのだろうか?と、思考が違う方向に行く前に気を取り直す。
「慎二もいなくなったし、トリガーを回収して引き上げよう」
序でにレベルも上げなくちゃ。
その後、レベルが更に二つ上がり、トリガーも難なく手に入れることが出来た。
▽
「えぇっと、取り敢えず慎二のサーヴァントであるアーチャー(仮)の情報を詳しく聞きたいんだけど」
翌日、個室で私は購買で買ってきた紅茶を飲みながらセイバーに聞く。セイバーは頷き。
「そうだね。彼女の武器である拳銃。そして一瞬現れた大砲。これを踏まえると彼女は近世の英霊だと思う」
「近世かぁ………」
西洋史ではルネサンス・宗教改革・大航海時代が主な時代でアジアだと江戸時代・明朝~清朝の時代だ。そして彼女が持つ拳銃は西洋の物。
「でも近世の西洋で女性の英霊なんていないよね?」
というよりも、女性が英雄になるなんて事態、昔では不可能に近い。思い付く限りでは『ジャンヌ・ダルク』位だろうか?
「けれど、僕達が知らないだけで存在するかもしれない」
セイバーの言葉に確かに、と納得する。なら調べるに限る。
「取り敢えず、図書室だね」
あそこなら色々揃っているし。私の言葉にセイバーも頷く。私は紅茶を飲み干して個室を出る。
廊下に出て、図書室に向かう途中。慎二と赤い少女が話している。といっても、慎二が一方的に話しているだけのようだ。
『もしかしたらサーヴァントの情報が聞けるかもね』
少し卑怯な気がするも、それは相手の所為だ。そう思い、隠れて会話に集中する。
「君はもう、アリーナに入ったかい?中々面白い所だったよ。ファンタジックな物かと思ったけど、割とプリミティブなアプローチだったよ。神話再現的な海って所かな。
そうそう、さっきアームストロングをサーヴァントにしているマスターも見かけたしねぇ。いや、洒落てるよ。海ってのはいいテーマだ。このゲーム、よくできているよ」
『どうやら、あのマスター。この戦争を本気でゲームと勘違いしている様だな』
慎二の言葉に何処か苛立ちを含んだ様なセイバーの呟きが頭に響く。対して、少女は涼しげに髪を払い。
「あら、その分じゃいいサーヴァントを引いたみたいね。アジア圏有数のクラッカー、間桐慎二くん?」
少女の言葉に少し驚く。どうやら慎二の言葉は虚栄や見栄では無かったようだ。
「まぁね。僕と彼女の『艦隊』は正に無敵。幾ら君が逆立ちしても、今回ばかりは届かないさ」
「艦隊………?」
慎二の言葉が本当ならかなりのヒントだ。けど、艦隊を所持した女性などいたか?
「へぇ、サーヴァントの情報を喋っちゃうなんて、間桐くんったら随分余裕なのね」
嫌味を含んだ彼女の言葉に慎二が焦りを含んだ声で答える。
「そ、そうさ!!あんまり一方的だとつまらないから『ハンデ』ってやつさ。で、でも大したハンデじゃないか、な?ほら、僕のブラフかもしれないし、参考にする価値もないかもだよ!!」
『彼はもう少し動揺を隠す訓練をした方がいいな』
そう、セイバーの声が聞こえ、私も頷く。これじゃ、今の言葉が本当だと言っているようなものだ。
「そうね。さっきの迂闊な発言からじゃ、真名は想像の枠を出ない。ま、それでも艦隊を操るクラスなら、候補は絞られてくるようなものだし、どうせ攻撃も艦なんでしょ?艦砲射撃とか、或いは…突撃とか?まぁ、私はもしもの為に物理防御を強化しておくわ」
スラスラと彼女が慎二のサーヴァントに対して対処法を並べていく。
「あ、そうそう。私の分析が正しいなら『無敵艦隊』はどうなのかしら?それは寧ろ敵側の渾名だし。折角のサーヴァントも気を悪くしちゃうわよ?」
「ふ、ふん!!まぁ、いいさ。知識だけあっても実践できなきゃ意味ないし。君と僕が必ず戦うとも限らないしね」
そういうと、慎二は早足で去っていく。途中、隠れていた私を見付けて焦った表情をしたものの、鼻を鳴らして立ち去る。私は慎二の後姿を見送った後、壁から離れる。
「貴女は……ふぅん、貴女が間桐くんの相手ね?」
先程の赤い少女が話しかけてきた。私は緊張しながらも頷く。彼女は笑みを浮かべて右手を差し出す。
「私は遠坂凛よ」
握手だろうか、差し出された右手に一瞬迷いながらも、私は彼女を真っ直ぐ見て彼女の手を握る。
「秘羽真耶です」
すると、彼女は驚いた様に眼を開き、次いで感心するように私を見る。
「へぇ、中々大胆ね。私がこの右手にハッキングの術式を掛けてると思わなかったの?」
「確かにその可能性もある。けど、これは多分違う」
そう確信があった。
「単に試したいだけ………?」
聞いてみる。すると、彼女はクスクスと笑って。
「へぇ、意外と洞察力が高いんだ。これは少し注意しなくちゃ」
そういうと、彼女は手を離して歩いて行く。
「秘羽……さんね。覚えておくわ」
そういうと、優雅に歩いて行く。
『さて、有益な情報が入手できたから調べ物も捗るね』
「あ、そうだね」
セイバーの言葉に頷き、図書室へ向かう。
「うぅ~、凄い量」
そういって、取り敢えず『無敵艦隊』という単語を頼りに数冊の本を読みふけるものの、一向にあの女性サーヴァントに結び付かない。
「そもそも、女性が艦隊を指揮するなんて聞いた事ない」
そう、女性が戦場で活躍するなんて先ず無いのだ『ジャンヌ・ダルク』といった例外もあるにはあるが、それでもかなり有名になる筈だ。
「もしかして、歴史書に男と書かれているだけで、本当は女性、とか?」
呟いてみた物の実感が沸かない。
「はぁ~、取り敢えず今日は一旦切り上げよう」
ため息と共に呟き、取り出した本を棚に戻していく。
「セイバーはどう思う?」
『そうだね。無敵艦隊という渾名を与えられた人物は僕も知っている』
尋ねた問いにセイバーは答えてくれる。
『けれど、史実だとその人物は男なんだ。だから僕の考えは多分間違っているだろう』
「そうだね。普通、女性が英雄になるなんて稀だもんね」
そういって、ため息を吐き、図書室を出る。調べ物の所為か、それとも別の所為か頭が痛い。今日はアリーナに行くのは止めて早めに寝よう。
Prototypeの本が出ました。作者はまだ手に入れてませんが。手に入った場合、サーヴァントの設定が変更になるかもしれません。では次回の更新は明日のお昼ごろです。お楽しみに