そこは屍が支配する光景だった。ある者は両断され、ある者は身体中に幾本の槍に付き刺され、ある者は立ったまま果てていた。そこは死が支配する世界。どれだけ誉れ高い騎士であろうと、無残に死に絶える世界。
「―――――――ッ!!!!!!!!」
その世界の中心で彼は叫ぶ。見事な金の髪を己と敵の血で染め、その白銀の鎧すらも赤く染めている。
ソレは慟哭だった、後悔だった、懺悔だった。彼は自らが抱えた男とこの荒野で果てた者達総てに対して詫びていた。
自分が王とならなければ、王となった自分に彼等が付き従わなければ、自分がもっと人の心を理解しようとすれば、こんな事は起きなかっただろうに。
だが、それは総て過去の事。全ては過ぎ去り、目の前の光景が結果となった。彼は天を仰ぎ、泣く。その碧眼から透き通った涙が流れる。その涙は彼が抱えた男に落ち、その男もまた泣いている様に見えた。
「すまない………すまない」
彼は地面に膝を付き、男を降ろす。そしてその男と荒野総ての屍に頭を下げた。彼の横には黄金の剣が衰えぬ輝きを放っていた。
▽
「ん……」
哀しい夢を見ていた気がする。でもそれも直ぐに靄が掛かった様に思いだし辛くなる。夢なんてそんな物だ。そう思うモノの、何故だか忘れてはいけない気がする。
「どうかしたかい?」
「わっ!?」
いきなりセイバーの顔が現れる。突然の驚きと、寝起きの顔を見られた恥ずかしさに思わず布団を被る。
「だ、大丈夫……だから」
「?なら、いいけど」
そういって、セイバーが遠のく。一度深呼吸してから、私は起き上がる。
「変な………夢」
アレが私の過去なのだろうか?いや、それは無いだろう。あの戦場はどう見ても数世紀も前の戦場だ。では、誰だろうか。
「おはよう。といっても、此処は時間の流れが分かり辛いけど」
セイバーの記憶だろうか。
「はぁ~」
深々と息を吐いて、頭を切り替える。そして私のため息の理由が分からなく、目を白黒しているセイバーに笑って。
「何でも無いよ。さ、朝食にしよ」
▽
「おや、貴女は。やはり、貴女も本戦に来ていたんですね」
廊下に出て、暫く歩くと声を掛けられた。視線を向けるとそこにはあの時、出会ったレオが立っていた。
「久しぶり………かな?」
私の言葉にレオは少し考え。
「そうですね。貴女とはあの時以降会っていないので、久しぶり。というのが適切でしょう」
そうにこやかに返される。
「おぉ、此処にいたのかレオ!」
そう、声が聞こえ視線を向ける。そこには黒のライダースーツを着た金髪の男が立っていた。
「貴様は!!」
いきなりセイバーが私の前に立つ。すると、目の前のサーヴァントは感心したような笑みを浮かべ。
「久しいな『聖剣使い』しかし、お前も因果な男だな。前回に続いてマスターが女とは」
そういって、彼は右手を上げる。
「まぁ、そういきり立つな。今日の我(オレ)は機嫌がいい。特別に今回は見逃そう」
「その言葉を私が信じるとでも?」
油断なく構えるセイバーに黄金のサーヴァントは大きくため息を吐いて。
「我としては貴様との決着は大いに構わん。だが、今此処で闘ってもお互いのマスターに不利益があるのでは無いか?」
「………」
その言葉にセイバーは暫く黙ると構えを解く。それを見てからレオが笑みを浮かべて。
「紹介します。僕のサーヴァントのギルガメッシュです」
「ギルガメッシュって………」
古代メソポタミア、シュメール初期王朝時代のウルク第1王朝の王であり、世界最古の英雄だ。そのギルガメッシュは鼻を鳴らして。
「ほう、我を知っているか。まぁ、当然だな」
そういうと、私をゆっくりと眺める。
「ふむ………」
「な、なにか?」
「いや、何。見た目通り、ひ弱な人間かと思ったが、中々どうしてその瞳の奥に強い物を持っている。アヤカといい『聖剣使い』のマスターは悉く我好みの女だ」
アヤカというのはセイバーの前のマスターだろうか。
「まぁ、いい。行くぞ、レオ。では、またな聖剣使い。精々、我に当たるまで負けてくれるなよ?」
そういって、高らかに笑いながら歩き去るギルガメッシュ。
「では、お互いの健闘を祈りましょう」
レオはにこやかにそういうと、ギルガメッシュの後に付いて行く。そして彼等が見えなくなると、セイバーが霊体化する。
『まさか、奴がこの戦争に参加しているとは』
「もしかしてセイバーが昨日言っていた『無数の宝具』を扱う英霊って」
『あぁ、奴だ。あの男は総ての宝具を『原典』という形で所持している』
確か、ギルガメッシュはこの世界総ての王であり、不老不死の薬さえ手に入れた人物だ。更に世界の文明の起源はシュメールに遡る、という説もある。なら、宝具の原典を持っていても可笑しくない。
「厄介な敵だね」
『あぁ、間違いなくこの戦争、最強のサーヴァントだ』
セイバーの言葉に頷く。だが、今は慎二だ。即座に頭を切り替える。
「でも、今は関係ない。ギルガメッシュについては彼と当たってから考えよう」
私の言葉にセイバーが驚いているのが雰囲気で分かる。
『ふふ、そうだね。今はあのサーヴァントの正体を探ろう』
▽
「あれ?こんな所で会うなんて奇遇だね?」
図書室で調べ物をしていると慎二がやってきた。
「まぁ、マスターが情報収集するなら此処が一番だからね。さっき君のサーヴァントの重要なキーワードを聞いてしまったしね」
上機嫌に告げる慎二。どうやら先程のレオとの話で出てきたギルガメッシュの『聖剣使い』という単語の事だろう。
「じゃぁ、私のサーヴァントの真名も分かったんだ」
聞くと、慎二は目に見えて焦る。
「と、当然じゃないか!!調べれば直ぐに分かったよ!!」
どうやら、まだ分からないようだ。少し期待していたんだけど、こういうのは自分でやらないといけないよね。
「と、ところで秘羽の方は如何なんだよ?少しは僕のサーヴァントの真名が分かったかい?」
「ん?絞り込めてきたよ」
勿論、嘘だ。だが、慎二には思いのほか効果があるようだ。面白い様にうろたえる。
「でも、後一歩って感じかな。やっぱり女性の英霊だから中々見つからないんだ」
そういうと、慎二は嫌らしく笑い。
「そうだよね~。めぼしい本が見つからないんだろ?残念ながら対策済みさ。あの海賊女に関連する本は、既に隠蔽済みだよ!!少しでも君が楽しめるようにと思ってね。アリーナに隠しておいたよ。最弱のマスターの君に見付けられるかな?」
ふむ、要約すると『ヒントはアリーナに隠してあるので見付けてみろ』というらしい。
「ちなみに、君のサーヴァントは働くのに何を要求するんだい?やっぱり、お金?そうだよねぇ!!」
慎二が一人で喋り、高笑いしながら図書室を出る。私も続いてアリーナに向かう。
「それにしても、近世、海賊の英霊か」
『益々、分からなくなったね』
セイバーの言葉に苦笑する。そして一階に降りると生徒の会話が聞こえた。
「なぁ、教会でサーヴァントの強化が出来るって本当か?」
「あぁ、俺もさっき強化して貰ったぜ。でも、あそこの二人、セラフから何も言われねえのかな?」
サーヴァントの強化?
「行ってみよう」
もしかしたら、セイバーを強化できるかもしれない。
▽
「おぉ~」
教会の中に入り、思わず声を上げてしまう。そして教会の奥に二人の女性が座っていた。
「お?これまた可愛いマスターね」
先に声を掛けて来たのは赤い長髪が特徴の女性だ。隣にいる青い短髪の女性は無言で煙草を吸っている。
「此処に来たって事は『改竄』しにきたのかな?」
「改竄………ですか?私は此処でサーヴァントの強化ができるって聞いたんですけど」
「それが『魂の改竄』よ。私達が無償でやってあげているのよ」
「正確にはお前一人でやるんだがな」
青い女性の言葉に赤い女性がグッと言葉を詰まらせる。なんというか、この二人は仲が悪そうだ。
「えっと、その『魂の改竄』というのは?」
「まぁ、言ってしまえば。サーヴァントとの魔力供給を良くしたり、その過程でサーヴァントが使えなかったスキルなんかを取り戻したりする手助けみたいな物かな」
それは便利だ。だが、便利すぎて少し怪しい。そんな私の様子に気付いたのか、赤い女性は朗らかに笑って。
「大丈夫。私達はマスターじゃないの。単に此処の聖杯と契約して協力者として来ているだけ。だから、対価とかは必要無いわ。まぁ『魂の改竄』をするにはレベルが上がった時に振り分けられるポイントが必要なんだけどね」
彼女の言葉に端末を見る。確かにレベルが上がった時に謎のポイントが与えられていた。成る程、コレはその為だったのか。
「じゃぁ、お願いします」
「OK!あ、私は蒼崎青子。こっちは姉貴の橙子ね」
そういうと、青子さんは立ち上がる。すると、彼女の前に青いディスプレイが現れ、彼女が何か操作すると。彼女の後ろの空間が青く光る。
「この光りの中にサーヴァントが入るの」
「セイバー」
青子さんの言葉に私はセイバーを呼ぶ。彼は無言で青い場所に向かう。
「それじゃ、行くわよ」
ポキポキと指を鳴らした後、ディスプレイを操作する。そしてセイバーの身体が光りに包まれ、晴れる。
「はい、完了」
青子の言葉と共に光が完全に無くなる。そしてセイバーが近づいてくる。外見の変化は特に見られない。だが、感じられる魔力は先程よりも上回っていた。
「うん、さっきよりも君からの魔力供給が多くなっている」
その後、青子さんに感謝して(素直だね~、と言われてしまった)アリーナに向かう。
▽
「此処が第二層みたいだね」
「第一層とは風景とかが違うね」
そう呟きながら進む。アリーナの違いは何も外見だけでは無い様で他にも見たことが無いエネミーが襲ってきた。だが、以前よりも動きが速くなったセイバーの敵ではなかった。
「本当に魔力供給が良くなってるんだ」
「そうみたいだ」
そして『ザフィエルの瞳』がある通路を捉えた。元々この瞳は獣道など、普段なら見つからない通路を見付けるのに役立つ物で、こうやって隠し通路を見付ける事も出来る様だ。
「それにしても、見えない床なんて趣味が悪いな~」
そう愚痴りながら歩くと広い場所に出る。そしてその中心、そこに箱のプログラムが置いてあった。そのプログラムを開くと古びた書物が出てきた。
「えっと『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』これがヒントみたいだね」
そう聞くと、セイバーは驚いた様に表情を変える。
「驚いたな。まさか、彼が女性だったとは」
「え?やっぱり、セイバーも知っている英雄だったの?」
セイバーが頷く。
「でも、そう考えると彼女のクラスは『アーチャー』ではなく『ライダー』だね。大砲はその宝具の一部を使っているんだろう」
そういうと、セイバーは私達がやってきた方向を睨む。
「慎二?」
「あぁ、どうやら僕達がソレを見付けた事にかなり焦ったようだ」
そして暫くして息を荒げた慎二と楽しそうな笑みを浮かべたサーヴァントがやってきた。
「く、くそ。随分必死じゃないか。だけど、ここまでだ。さぁ、その本を返せよ。そうすれば命だけは助けてあげるよ」
「うん、いいよ」
あっさりと、私は本を返す。私の行動に付いていけなかった慎二が顔で書物を受け取る。その滑稽な様に思わず笑ってしまう。
「良かったのかい?アレを返してしまって」
「だって、中身は大体覚えたし、あのサーヴァントの真名も分かったしね。アレはもう必要ないよ」
そう、答えが分かってしまえば。あんな嵩張る物など必要無い。
「へぇ、アタシの事が分かったのかい?」
「あぁ、まさか貴公が女性だったとはね。フランシス・ドレイク」
そう、彼女こそ初めて世界を一周し、祖国であるイギリスに大量の財貨を与え、当時の覇者スペインと互角に戦えるまでに鍛えあげた英雄。かのアーサー王の再来とまで言われた人物。その人物がまさか女性だったとは。これならあの慎二が強気に出ていたのも頷ける。だが、分かってしまえばもはや意味が無い。
「おやおや、その言い分だともしかして同郷かい?是非、名前を聞きたいんだけどね~」
「それとこれとは話が別だ。君とそのマスターが自力で私の真名を暴きたまえ。そういえば、その書物を返せば私達を見逃すと君のマスターが言っていたが、まさかマスターの意向を無視して戦う気か?」
セイバーがそういうと、彼女、ライダーは慎二を見る。
「さて、雇われてる身として、雇い主の意向に沿わないと駄目なんだがね。どうする、シンジ?」
「決まってるだろ!!!!僕をコケにした秘羽とそのサーヴァントはお前の大砲で粉々にしてやるんだ」
慎二が叫ぶと同時にライダーの身体から魔力が溢れる。
「そういう事だ。悪いね~」
「なに、気にするな。こちらとしても決着が付けられるならソレに越した事はない」
そういうと、セイバーは右手に不可視の剣を構える。ライダーも倣って二丁拳銃を構える。
「おっと、慎二のリクエストは大砲だったね」
そういうと、構えを解く。だが、代わりに彼女の後ろに大砲が四つ現れる。
「砲撃用意!!!」
彼女の号令と共に大砲が私達に狙いを付ける。そしてセイバーが深く構える。
「藻屑と消えなぁっ!!!」
四つの放火が私達に向けて襲いかかる。私は魔力弾を砲弾の一つに向けてぶつける。魔力弾がぶつかった砲弾は向きが僅かにズレ、隣にあったもう一つの砲弾にぶつかり、爆発する。そして身体を強化して。爆風の真下に跳ぶ。
「くっ!?」
真上からの圧力と熱に思わず、悲鳴を上げそうになるも、何とか砲撃の直撃は免れた。そしてセイバーは砲撃の合間を凄まじい速さで駆け抜け、ライダーに接敵していた。
「ハッ!!中々度胸があるじゃないさ。アンタのマスター!!」
「私も少々、驚いている。だからこそ頼もしいマスターだよ!!」
言葉と共に一撃を放つセイバー。その一撃を銃で受け流し、銃撃するライダー。その一撃に身体を翻して避け、ほぼ真下からの斬撃を繰り出すセイバー。
「凄い………」
一進一退、青と赤は互いに踊る。二人の顔には笑み。赤の英霊は強者に出会えた笑み。青の英霊は赤の英霊の武勇を讃えた笑み。
-戦闘を強制終了します-
セラフからの警告と共に両者が離れる。両者ともに余裕の表情。私も強化していたお陰で掠り傷すらない。ただ、服が軽く焦げたようだ。対して慎二は信じられない、といった表情。
「う、嘘だ。この僕と秘羽が互角だなんて。く、くそ!!この程度で調子に乗るなよ!!!今はセラフの監視があるせいでこうなったけど、本番では圧倒してやるからな!!!!」
そう捨て台詞を残した慎二は走り去る。私は身体から力を抜いて地面に膝を付く。
「こ、怖かった~」
無論、慎二ではなく、あの砲撃だ。一瞬でも判断が遅ければ良くて大怪我。悪くて死亡だ。そして横にいるセイバーも私の言葉にやや渋い顔をする。
「それはこっちのセリフだよ、マヤ。いきなり前に跳び出すなんて。僕でも少しヒヤッとした」
「あう、御免」
素直に謝るとセイバーはふぅ、と息を吐き。
「まぁ、過ぎた事を言っても仕方ない。次からはあまり無茶をしないでくれ」
そういって、手を差し出してきた。私はその手を握って。
「うん、分かった」
その後、アリーナを散策し、襲いかかって来たエネミーを倒しながら進んでトリガーを手に入れた。因みにレベルも二つほど上がった。
セイバーの一人称ですが。身内に対しては僕。敵、もしくは他人に対しては私と使い分けています。紛らわしくてすいません