Fate/EXTRA~騎士王との出会い~   作:フィロ

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第5話「決戦」

 いよいよ今日が決戦の日だ。相手のサーヴァントの情報は完璧に揃っている。前日に図書室に閉じ籠って情報収集した甲斐があった。そして私は一階のとあるドアの前に立っている。そしてドアの前には言峰神父が立っている。

 

「ようこそ、決戦の地へ。扉は一つ、再び校舎に戻れるのも一組。覚悟を決めたのなら闘技場の扉を開こう」

 

 その言葉に私は深く息を吸う。

これから行われるのは互いの命を掛けた戦い。負ければ死に、勝てば生き残れる。私は死にたくない。けれど、その為には対戦相手という犠牲が必要になる。それが善なのかそれとも悪なのか。私には分からない。けれど、分からないからってそこから目を背けていいわけじゃない。死ぬのは嫌、人を殺すなんて真っ平御免。でも、生き残る為に誰かを殺すなら、せめて殺す相手を記憶に刻もう。

私は息を吐くと共に視線を真っ直ぐ前へ向ける。

 

「覚悟は出来ました」

 

 

 

 

 

 

「なんだ、逃げずにちゃんと来たんだ。あぁ、そういえば学校でも真面目さが取り柄だったっけ」

 

 決戦の場へと続くエレベーターの中で私と慎二は薄い壁を隔てて向かい合う。無言の私に慎二は芝居がかった様に続ける。

 

「でもさ、学校でも思ってたけど、空気読めないよね、ホント。せっかく僕が忠告してやったのに。悪いけど、君じゃ僕には勝てないよ。どうせ負けるんだからさっさと棄権すればいいのに」

 

 その言葉に思わずため息を吐いてしまう。

 

「慎二も空気読めないよね。せっかく私が教えてあげたのに。悪いけど、貴方じゃ私には勝てないよ?どうせ負けるんだから棄権すれば恥もかかなくていいのに」

 

「なっ!?」

 

 私の言葉に慎二が声を荒げる。私は何となく、慎二に問いを投げる。

 

「ねぇ、慎二。貴方が優勝した時に聖杯に奉げる願いって何?」

 

 それは私の迷いだったかもしれない。この戦争に参加する者は皆、聖杯に奉げる願いや目的がある筈だ。そして相手に勝つという事はその相手の願いや目的を踏み台にするという事だ。だから私はせめて相手の願いを聞きたかった。

 

「はぁ?聖杯に奉げるだって?なに言ってるんだよ。たかだかゲームに大袈裟だねえ。お前、気付いてないの?これは単なるゲーム。遊びなんだよ」

 

 だが、慎二には願いなんて無かった。それはそうだ。彼にとってこの戦争は唯のゲームなのだ。ゲームチャンプと知られた彼にとってはこの戦争も一つの遊びに過ぎないのだと。

 

「じゃぁ、貴女は?」

 

 私は慎二の隣にいるライダーに問いを投げる。彼女は少し考えると。

 

「私としては特に無いね~。特に生に頓着しないから。でも、まぁこの戦争は有難いよ。これ以上なく、生きてるって思えるからね~」

 

 どうやら彼女は刹那的な快楽で充分らしい。そう思っていると、エレベーターが止まる。どうやら決戦場に着いたようだ。

 

「いいよ。お前がその気なら遠慮なくやってやる。圧倒的な力を見せつければ嫌でも分かるだろ?僕のエル・ドラゴのカルバリン砲で粉々になりながら後悔するんだね!!!」

 

 慎二の言葉を聞きながら、私とセイバーは決戦場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 そこは闘技場だった。観客席に囲まれた場所。だが、観客はおらず、闘技場は静かに私達を迎え入れた。

 

「へぇ~、中々趣味がいいじゃないさ。さ~て、派手にやるかい?騎士様!!!!」

 

「確かに。互いの武を競うには十分な場所だ。では遠慮なく行くぞ。海賊よ!!!」

 

 今此処に白銀の騎士と赤い海賊の決闘が幕を上げる。

 

「はん!!弱い犬ほど、よく吼えるってね!!もう直ぐ変えようのない現実を見せてやるよ!!」

 

「貴方は御託を言わないと戦えないの?勝負は最後まで諦めない者が勝つ。昔から決まっている事よ?」

 

「ハッ!!中々いい事言うじゃないさ。お嬢ちゃん!!その通り、勝負は時の運。その運を掴んだ方が勝ちってね!!!」

 

「貴公らしい言葉だ、ドレイク提督。だが、今回の運を掴むのは生憎、貴公ではなく私だ」

 

 そしてセイバーの言葉が合図の様に二人が駆ける。

 

「それにしても、不可視の剣とはねぇ、もしかして剣で真名がバレるタチかい?」

 

「質問する余裕があるのか?まぁ、答える気は無いが!!!」

 

 言葉の応酬。そして闘技場に剣戟と銃火の二重奏が響く。

 

「おっと、決闘に横槍は駄目でしょ?」

 

「ぐっ、この!!!調子に乗るなよ!!!!」

 

 そこに私と慎二の破砕の音が重なる。やっていることは慎二の術式を私が砕いているだけなのだが。

 セイバーはその不可視の剣と速度を以ってライダーを両断しようと駆ける。本来なら不可視の剣によって間合いが分からない状態での高速剣撃。回避は不可能。だが、ライダーはその幸運とスキル『星の開拓者』によって紙一重で回避。至近距離の銃撃で反撃する。彼女は最高ランクの幸運:EXと『不可能なまま』『実現可能な出来事』という反則染みたスキル『星の開拓者』によって回避を可能にしている。

 

「それにしても、此処に来てまだケチるなんて、卑しい男だね!!もう少し派手にパァ~っと、使いなよ」

 

「生憎、私は貴公とは違うのでね。無駄遣いはしたくない!!」

 

 言葉を交わし、二人は離れる。そしてライダーは片手で頭を掻くと。

 

「しっかし、見えない剣も面倒だね~。アレ、使っていいかい?シンジ」

 

「あぁ、やっちゃってくれよ。エル・ドラゴ、その生意気なサーヴァントの鼻っ柱を折ってやれ!!!」

 

 言葉と共にライダーの顔に特大の笑みが浮かぶ。アレは切り札を使う気だ。彼女の象徴。英霊の切り札、宝具を。

 

「アーサー王の再来と呼ばれた宝具。見せてもらおう!!!」

 

 セイバーも昂ぶっているのか。剣を正眼に構える。覚悟を決め、私は一度目を瞑り、改めて慎二を、ライダーを見る。

 

「野郎共、時間だよ!!」

 

 彼女の言葉と共に空が暗くなる。いや、空にあったのは巨大な艦隊だった。

 

「嵐の王、亡霊の群れ、ワイルド・ハントの始まりだ!!」

 

 何時の間にか、彼女は先頭の『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』に乗っていた。

 

「これは驚きだな」

 

 セイバーの感嘆と彼女と彼女の宝具を讃えた言葉。

 

「アタシの名前を覚えて逝きな!!テメロッソ・エル・ドラゴ!!太陽を落とした女ってな!!」

 

 言葉と共に艦隊からの一斉射撃が私達に放たれた。

 

「キャアッ!?」

 

 爆風に煽られながら、何とか踏ん張る。そして私は見たセイバーが立っていた場所はクレーターになり、その中心にセイバーの姿は無かった。

 

「ハハハハハ!!!!どうだい、秘羽。これが僕のエル・ドラゴの力だ。どんなサーヴァントかとヒヤヒヤしたけど、どうやら僕の杞憂だったみたいだね!!!!」

 

 慎二が笑みを浮かべて近づいてくる。私は大きくため息を吐く。よかった。

 

「僕のかぺっ?!」

 

 無防備な慎二の顔に強化した拳を叩きこむ(かなりスッキリした)。どうやら慎二は本当にセイバーの事を知らないようだ。

 

「いい事教えてあげる。セイバーには面白いスキルがあるの」

 

「す、スキルだって!?」

 

「そう………」

 

 私は上を見上げる。そこには艦隊の隊列を乱す一隻の船があった。

 

「セイバーは風の魔術を扱えるの」

 

 

 

 

 

 

「なんとかなる物だね」

 

 苦笑を浮かべて呟く。あの一瞬、砲弾を潜り抜けて跳び上がり、風の魔術と爆風を利用してこの小型船に取り付けた。というより、突き抜けたといった方が正しいだろう。お陰で、今乗っている船がそろそろ落ちそうだ。

 

「船員はいない。どうやらこの艦隊は総て彼女が動かしているのか」

 

 もし、総ての船員を連れて現れたら骨が折れたろう。だが、そうと分かれば、後は彼女の場所へ行くのみ。

 

「それにしても『太陽を落とした』……か」

 

 呟き、とある騎士を思い出す。彼がこの艦隊を見ればどんな顔をするかな?

 

「いや、今はいいか。いざ!!」

 

 言葉と共に駆ける。だが、そこはエル・ドラゴ。すぐさま、砲撃の雨を浴びせて来る。どうやらこの船は使い捨てる様だ。

 

「全く、君という女性は贅沢な人間だ」

 

 この船一つでどれだけの価値なのか、皆目見当が付かない。だが、それを簡単に手放す彼女の豪胆さには呆れを通り越して畏敬の念が生まれる。

 

「だが、負けるわけにはいかないな!!!」

 

 飛び交う砲弾の合間を抜け、邪魔な砲弾を切り裂き、避ける。だが、足は止めない。

 

「見えた!!!」

 

 視線の先、エル・ドラゴが笑みを浮かべて大砲を構えている。その数、10。正面から迎え撃つようだ。

 

「望む所!!!!」

 

 こちらとて、正面以外の道を選ぶつもりは無い。一歩目を深く踏み込み、跳ぶ。

 

「放てえぇぇっ!!!」

 

 砲撃。その内二つを切り裂く。二歩目で身体を沈め、三発目をやり過ごし、高く跳び上がり、続く四と五の砲撃を避ける。

 

「風よ……!!」

 

 呟き、剣に貯め込んだ風の魔力を解放。加速しながら迎撃に放たれた六から九の砲弾を擦り抜ける。

 

「ハッ!!!!」

 

 目の前に降り立った僕に彼女は笑みを浮かべ最後の砲撃を放つ。それを横に跳んで避ける。

 

「ハァァッ!!!!!!」

 

 そして隙だらけの胴体に斬撃を叩きこむ。

 

 

 

 

 

 

 合計で十の爆音が響き、フランシス・ドレイクの象徴である『黄金の鹿号』が沈んでいく。そしてその船から二つの影が私と慎二の前に降り立つ。

 

「ただいま」

 

「お、お帰り」

 

 鎧の一部、そして髪の一部が煤で黒くなっているが、当の本人は涼しい顔だ。そして膝をついているドレイク。彼女は左脇から右肩までバッサリと深い切り傷が刻まれていた。両断されてないのが奇跡だ。

 

「ハッ!!まさか、アンタみたいな優男がそうだとはね」

 

「見えた、ようだな。私の剣が」

 

 彼女は船上の戦いでセイバーの剣を見たようだ。

 

「ま、イイもん見せて貰ったよ。代償がこれじゃ、ちょっと高い気がするけどね」

 

 そう、清々しい笑みで語りかけるライダー。だが、反対に慎二は子供の様に騒ぐ。

 

「な、なんでだよ!?なんで、僕のサーヴァントが負けるんだよ!?どう考えても僕の方が優れている!!天才の僕が!!こんな所で負けるなんて!!!そ……そうだ!!全部お前のせいだぞ、エル・ドラゴ!!お前が不甲斐ないから、こんな事に」

 

「……うん?致命傷のアタシに鞭打つかい?さっすが私のマスターだ。筋がイイ」

 

 慎二の八つ当たりに彼女はそう茶化す様に告げた。が、その顔に不満など無かった。

 

「っ、憎まれ口叩く余裕があるなら、立てよ!!僕が、僕達が負ける訳ないんだ。それも、秘羽みたいな奴にさ!!」

 

「あー、そりゃ無理だ。この傷、ギリギリ心臓に行ってないけど、致命傷だから。もって、数分かね~、勿論、戦闘なんか無理。まぁ、今回はあの二人に運が廻って来たってのもあるけど、アタシより格上の英霊なんだから負けても仕方ないさね」

 

「な、なに他人事みたいに言ってんだよ!!それに秘羽が格上だって?僕が秘羽なんかに劣る筈ないだろ!!!」

 

「認めろ、エル・ドラゴのマスターよ。コレが、この光景が結果だ」

 

 静かに告げるセイバー。だが、慎二は癇癪を起したかのように騒ぐ。

 

「う、煩い!!サーヴァントの癖に!!!これは間違いなんだ。本当は僕が勝ってたんだ。全部、コイツが悪いんだ。コイツが!!!!」

 

 そういって、慎二はライダーを指さす。ライダーは何処か諦めの表情だが、それでも笑みは絶えない。

 

「な、なぁ秘羽、お前に話があるんだ。僕に勝ちを譲らないか?だだ、だってほら、今回は偶然だったけど。次は100%負けるんだ。だから僕に勝ちを譲ってくれよ!!!!」

 

 懇願する慎二。

 

「私が勝ちを譲ってもサーヴァントの彼女があれじゃ、貴方も負けるんじゃない?」

 

「馬鹿言うなよ。お前は僕に勝ちとそのセイバーを一緒に譲るんだよ!!!!」

 

 私の言葉にそう怒鳴る慎二。私はセイバーを見る。

 

「拒否しよう。私のマスターは此処にいるマヤ一人だ」

 

「なっ!!!お前に聞いてるんじゃない!!!僕はコイツに言っているんだ!!!」

 

「だとしても、お断りよ。私は死にたくないから」

 

 そういうと、慎二は信じられない、といった風に笑う。

 

「ハハハ!!死ぬ?何を言ってんの?これはゲームなんだよ?死ぬ訳ないじゃ―――――」

 

 慎二の言葉が最後まで告げられる前に彼の腕が黒く染まる。否、染まるのではなく消えていく。

 

「な、なんだよ、コレ!?し、知らないぞ。こんなアウトの仕方、僕は知らない!!!」

 

 慎二の悲鳴と共に私達を隔てる様に赤く透明な壁が出現する。どうやらセラフが勝敗を確認したようだ。敗者は言うまでもない。

 

「聖杯戦争で敗れた者は死ぬ。マスターとして最初に訊いた筈だろ?」

 

「はい!?死ぬってよくある脅しだろ?」

 

 ライダーの言葉に尚も現実を受け入れない慎二が叫び返す。ライダーは鼻を鳴らす。

 

「あんだけ立派に悪党やったんだ。この死に方だって贅沢なもんさ。愉しめよシンジ。そしてアンタ等も容赦なく笑ってやれ。ピエロってな笑ってもらえないと、そりゃ、哀れなもんだからね」

 

「貴公を笑う?私には無理だよ。貴公は私と私のマスターの初陣として最高の敵だった。もし、私の口からでる言葉があるなら、貴公に対しての賛辞のみだ」

 

 ライダーの言葉にセイバーが目を伏せて答える。ライダーは調子が狂ったのか、半分以上消えかけた腕で後頭部を掻く。

 

「全く、生真面目な騎士様だよ。いや、騎士ってのは生真面目なモンか。ま、偶にはこういうのも………悪くないかな」

 

 呟きと共に呆気なく、どこか滑稽に彼女は消える。星を廻った海賊は最後まで楽しげに笑っていた。

 

「お、おい!!勝手に消えるなよ!!助けてくれよ!!!」

 

 彼女がいた場所に叫ぶ慎二。彼は私と視線が合うと。

 

「お前!!そうだ、お前が助けろよ!!!僕がこうなったのもお前が原因なんだから!!!」

 

「それは無理だな。この壁は英霊がどうにか出来る物ではない」

 

 セイバーの言う通り、この壁には『ザフィエルの瞳』でも弱所が見当たらない。

 

「マヤ………?」

 

 それでも。例え、助けられなくても。

 

「御免ね、慎二。恨んでくれて構わない」

 

 頭を下げる。

 

「はぁ!?なんだよ、ソレ!!!謝るんなら助けろよ!!!僕はまだ八歳なんだぞ!!こんな――――」

 

 言葉を続ける前に慎二の身体が完全に黒く染まり、彼女の様に消える。それを見て、私は再確認した。私は生き残る為に慎二を殺した。そしてこれからも殺すのだろう。

 

「………後悔しているのかい?」

 

「………うん」

 

 顔を上げる。

 

「でも、決めたから」

 

 恨まれるだろう。憎まれるだろう。私はこれから他人の命を、願いを、想いを踏みにじるのだから。それでも、生きよう。

 

「だから、前に進む」

 

 けど、せめて。私が殺した人だけはちゃんと覚えよう。それが私に出来る。唯一の事だから。

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