遊戯王GX ―ウィンは俺の嫁!―   作:隕石メテオ

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TURN-1

 あれから2週間。俺は他の一般高校の合格発表と時を同じくして合格通知を受け取り、無事ラーイエローとして無事に地元中学からデュエルアカデミアへの進学を果たした。

 一口にアカデミアといってもいくつか候補が出てくるが、俺の言うアカデミアはデュエルアカデミア本校のことだ。姉妹校がいくつか立てられ、各地で運営されているがいまは何ら関係は無い。 ちなみに一般中学におけるデュエルは部活動のような扱いであり、専門授業があるわけではない。そしてデュエルアカデミアは工専等の専門高と同じ扱いだ。

 

「やっぱ可笑しいだろ、コレ」

 

 つい声として漏れてしまった本心は、目の前の光景を目前にすれば仕方の無いことなのかもしれない。火山島を丸々1つ使って建てられた学園、それがデュエルアカデミア本校だ。まず移動をヘリですること自体普通じゃあない。アカデミアを運営するKC社の常識はどうなっているのか。

 まぁ、その会社自体も本社ビル屋上にV-TOL(垂直離着陸)機の離発着場があるのだから、これ以上はなにも言うべきではないと確信できる。それにどう思ったところで変わる訳ではないのだから考えるだけ無駄なことだろう。金持ちのやることは理解できない。とはいえその恩恵を甘受させてもらっている身ではあるから、感謝はしているのだが。ヘリのローターの振動が伝わって小刻みに振動を続ける機内で、俺はそっとデッキケースに手を触れる。ここから先、このデュエル専門校で自らの武器になり得るのはこのカード達だけだ。蓋を開けたケースから無造作に取り出した1枚は、確認せずとも"彼女"のもの。

 ――ホント、頼むぜ?

 一言念じてカードをデッキに戻した俺は、随分と近くに見えるようになったアカデミアに視線を定めた。

 

 ◆

 

 当分は着慣れないであろう黄色の制服に身を包んで臨んだ入学式は、とにかく退屈だとしか記憶してない。

 島に降りてから碌に休む時間も無く始まった恒例の儀は学校が変わっても景色以外代わり映えしないもので、ダラダラと長い校長の話を聞く気にもなれず、気分に任せて意識を半分は飛ばしていた。他にも同じようなヤツは居たから、問題なんてないだろう。そして入学式直後の指導をホールのような教室で受けた後、俺たち新入生はそれぞれの寮――成績の良い順でオベリスクブルー、ラーイエロー、オシリスレッド。だが最初のブルーは中 等部からの繰り上がりのみ――ごとの案内を受けて解散。各々知り合いと組むなりで教室を後にしていく。とは言うものの、俺は同じ中学のよしみで知っている顔はあっても友人と呼べるヤツが居るわけでもなく、ひとり座ったまま出入り口の混雑が解消するのをボーっと見つめていた。そこまで時間も掛からずガラガラになった教室を出ようとしたところで、俺は机に突っ伏す 茶髪を見つけてしまった。

 

「……馬鹿かアイツ」

 

 このまま放置しても俺個人としては別段困らないが。まぁ、俺の席と出口の直線上に居るし、よく見ればさっき入学式でも俺と同じで上の空だった奴だ。声を掛けてやればいいだろう。しかし初っ端から睡眠学習とは肝が据わってるヤツだ。

 

「おい、起きろ。おい」

 

「んぅ……あれ? 他のみんなは?」

 

「ほとんど寮に行っちまってる。あとは俺らと駄弁ってる連中くらいだ」

 

 俺が教えてやるとその茶髪はバッと立ち上がり、辺りをキョロキョロしだすと、合点がいったように頷いた。

 

「終わってたのか。翔も先にいっちまったみたいだし……」

 

 終わったことにすら気づいてなかったのか……って、寝てれば当然か。

 

「あ、そういや起こしてくれてサンキュー! おれは遊城十代。あんたの名前は?」

 

「俺は天風遊斗(あまかぜゆうと)。見ての通りイエローだ。それより、呑気に自己紹介してて良いのか? さっきの独り言を聞いてた限り、知り合いは先に行ってるらしいが」

 

「そういやそうだ。早くいかねぇと! -―あ、1つだけいいか?」

 

 走り出そうと俺に背を向けた遊城が振り返って、俺の返答を待たずに聞いてくる。

 

「今度さ、おれとデュエルしようぜ!」

 

 それだけ俺に投げかけて、今度こそ遊城は走り去ってしまう。

 忙しない奴だったなと思う傍ら、あいつから感じた風は嵐の前の静けさとでもいうように澄んだ風だった。

 これから何かが起きるような、そんな感じの。

 

「遊城十代-―面白そうな奴」

 

 俺がボソリと呟いた一言は他の人間の耳に入ることもなく、ほとんどがらんどうの教室に消えた。

 

 

 ◆

 

 

 俺と遊城との出会いから少しして辿り着いたイエロー寮は、黄色い屋根と高さよりも縦横に長いことが特徴のアパートといった風情だった。

 事前に受け渡されていた鍵についているストラップに刻印された番号の部屋をさほど時間を掛けることもなく見つけ、これから自室として過ごすことになる部屋のドアを開ける。

 見渡してみた感じ、部屋の内装も外見から想像できるような、至って普通の独り暮らし用アパートの一室といった感じだ。

 簡易キッチンとトイレに加え、ベッド等の必須とも言える家具一式、さらに学習机にはPCが備え付けてあり、それについては若干豪華というか、賃貸目的では無いからこその備品だろう。

 ボストンバッグ1つ分持ってきた手持ちの荷物をとりあえずベッドの脇に投げ置き、俺はベッドに腰かける。

 この島に来て3時間ほど。ようやく一息つける環境になった。

 時間はもう昼を過ぎていて、夕方からは寮で歓迎会があるとのこと。昼は早速学食や購買で各自確保と言われたが、腹はそこまで減ってないから食わなくても歓迎会位までは持つだろう。

 一息ついた勢いでこのままベッドに身を沈めたくなったが、部屋の中を吹き抜けた風-―ドアも窓も閉まっているこの部屋に吹くはずの無い風に意識を引き戻された。

 

「そっちも疲れたのか――ウィン?」

 

 俺の呼び掛けに答えるかの如く、ベッドのスプリングが更なる加重にギッと軋む。

 

「――こんなに引っ込んでいたのは久しぶりでしたから、少し」

 

 背後から聞こえる涼やかな風のような声音。

 振り返ると緑がかっている髪を揺らし、俺に背を向けてベッドの反対側に腰掛ける少女の姿があった。

 シンプルな白地に軽い装飾の付いたキャミソールに、黒に近い濃緑のミニスカート。若草色のパーカーを羽織り、その上から茶色のローブを羽織っている。

 彼女がウィン……正確には、デュエルモンスターズの精霊《風霊使いウィン》。

 本人曰く精霊も成長はするということで、カードに描かれたウィンより大人びていて、どちらかといえば憑依装着した状態のウィンに近い。パッと見では俺と同年代に見えるだろう。それでも髪色は僅かに暗めで傍らに置かれた杖も細め……と、差はハッキリしてるが。

 なにはともあれ、彼女-―ウィンが俺の最高(最愛)相棒(パートナー)だ。

 

「ユート、なにか良いことがありましたか?」

 

「ああ、数時間ぶりにお前の姿が見れて嬉しいのさ」

 

 背を向けてるくせにこちらの心情を悟ってくるウィン。だが返した言葉は事実であっても、深い意味の無い咄嗟に放った言葉には違いない。

 

「……そういうことではなくてです。やはり、あの遊城十代ですか?」

 

 言葉通りそういうことじゃない、といった口調で先を促してくるウィンが口にした個人の名前は、先程突っ伏していたレッドの茶髪。

 カードの中に引っ込んでいたとはいえ、外のことは視ていたらしい。

 

「やっぱ感じたか。あいつの風はどうも特別みたいだったしな」

 

「私も感じていましたが、ユートが話し掛けたのもそれが理由でしょう?」

 

 そこまでお見通しとは、流石だ。

 

「纏ってる風は澄んでるのに、奥には嵐みたいに暴力的なものまで内包してる……正直視たこと無い風だった。興味深いけど、どんなものを引き寄せてくるのかは未知数だな」

 

 上体をそのまま後ろに倒して、ベッドに寝転がる。

 と、ほぼ同じタイミングで横からもボフッとベッドに倒れ込む音がして、俺の顔のすぐ横に上下逆になったウィンの横顔があった。

 

「真似しないでください」

 

「心がシンクロしてるのは良いことだろ」

 

 翡翠色をした瞳だけが一瞬こっちを見たが、ウィンは顔を背けて反対側を向いてしまう。

 だが、緑の髪から覗く耳が仄かに赤い。

 俺も素面で恥ずかしいことを言ったという自覚はあるが、ウィンのこういう所を見れるのなら安い出費だ。

 

「……よくそんなことを言えますね。馬鹿じゃないんですか」

 

「相手がお前だからな」

 

 べし、と裏拳が降ってきた。

 もちろん力の入ってない、ただ腕を上げて重力に任せて下ろしただけの一発。

 

「痛て」

 

「ユートが悪いんです」

 

 はいはい。とおざなりな返事を返して、腹に力を込めた俺は上体を起き上がらせた。

 それから腕をウィンの頭に伸ばして、その髪の毛をくしゃくしゃ撫でる。もちろん、結ってあるポニーテールが解けないように気をつけながら。

 視線は向けられたが拒否られはしなかったので、しばらく続けてから乱したウィンの髪を梳いて直して立ち上がる。

 

「俺は羽伸ばしに外行くけど、どうする? ここで寝てるか?」

 

「……ついていきます」

 

 不機嫌そうなフリをして見せているウィンだが、軽く釣りあがっている唇の端を誤魔化せていない。

 外に出れることが嬉しいのか、いま頭を撫でてやったのが良かったのか。個人的には後者が嬉しいが、実際のところ俺には確認する術はないためわからない。

 それでもまぁ、ウィンにとっていいことをするのはやぶさかではないので、どちらでも構わないが。

 ウィンを傍らに引き連れ、ドアに手をかけて、そこで思い出した。というよりは、改めて気づいたという方がいいか。

 ここはアカデミアの寮であり、学校内だ。

 つまり、ウィンのような生徒でない者が入れる場所ではなく、それにここは男子寮。見つかればどちらの意味でも騒ぎになる。

 俺たちは顔を見合わせて、

 

「あー、そういや忘れてた」

 

「……霊体になってます」

 

 呟くやいなや、スッと空間に溶けるようにしてその姿を消す――といっても、俺には少し薄くなっただけで見えているのだが。

 正確には、デュエルモンスターズの精霊を認識できる者にしか見えなくなった。

 

「すっかり忘れてたな。ウチじゃ特に問題はなかった訳だし」

 

 本土にある俺の街では実体化して外にいても問題は無かったが、ここではそうもいかない。

 

「行くなら早く行きましょう。遅くなると、歓迎会が始まってしまいます」

 

「ああ、そうだな」

 

 霊体といっても透明なままでこちらの世界に干渉することもできるのはこれまでの経験則でわかっているので、俺はウィンに手のひらを差し向ける。

 そっと触れてくる柔らかくて暖かい感触を優しく捕まえて、俺は改めてドアを開けた。

 




見てくれた人が予想以上に居て、少し予想外でした。
お気に入り登録、評価を入れてくださった方、ありがとうございます。

ウィンちゃん、素直デレ的なキャラを目指したつもりだったのにどうしてこうなった……。

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