「どこだ!?どこから来る!?」
俺達3人は武器を構えながらそれぞれ違う方向を警戒する。
しかし、あたり一面緑の草木が広がっているだけでコマンダーの姿は見えないのだ。
「そこまで早くないけど…ヒデオが見ている方からこっちに迫ってるよ!気を抜かないで!!」
銀髪の子が敵感知というスキルを使って指示を出す。
俺には一つ、奴を倒す考えがあった。銀髪の子の出す指示で奴の居場所を把握し、奴が見え接近しようとしてきたらすかさずレイスフォームかシャドウ・ステップで奴の裏に回り込み後頭部へショットガンを連射。もしかしたら倒せないかもしれないが、確実に奴は怯むだろう。そこへクリスとダクネスが追い打ちで攻撃を仕掛ければ倒せるかもしれないと思っていた。
しかし、こうも姿が見えないのではそれも難しい…。
俺は言われた通り前方を警戒する。
「木の上だ!!」
俺は叫ぶ。
前方の木の葉が上からバラバラと落ちてきている。この森、見れば太く、背の高い木が多い。奴は木の上を飛び移ってきているのだ!あの図体で何という身のこなしを…。
「近い!もう見える距離まで来てるよ!!」
…見えた!!一瞬だが奴の胴体が見えた。
しかし、木の上の葉が邪魔でよく見えない。
俺はけん制で何発か奴のいるであろう場所へ射撃する。
「ちぃっ!正確な場所がわからん!!できるだけ奴の対角線上には出るな!!」
俺がそう言い、奴がいるであろう場所の対角にある木に2人を退避させる。
同時に木の上から射撃が飛んでくる。
「ぬぅ…」
流石に分厚い木を貫通する威力はないようだが、隠れている木の端が削り取られているのを見るに掠りでも相当なダメージを負うだろう。
奴の射撃、そして連射。先程より正確で小慣れた感じになっていないか…?
まさか少し試し撃ちをしてきたのだろうか…?
何発かすると射撃は止んだ。
再び緊迫した空気が流れる。
「奴は今どこにいる?移動したか?」
「いや、まだ移動は…!!来る!!」
と、再び木の葉が舞い落ちる音が聞こえると奴は俺たちの目の前に現れた。
奴は回り込むように対角線上に隠れていた俺たちの目の前へ飛び込んできていた。
…更に驚くことに奴は先程とは違っていた。
何と、俺と同じようにショットガンを2丁構えていたのだ。
俺のショットガンはどういうわけか捨てたものは時間経過で消滅する仕組みになっている。
しかし、奴が持っている物は消えていない。完全に奴の装備となっているようだ。
そして奴が最初に持っていた剣が見当たらない。捨てたのか!?
「まずい!!」
俺はすぐにショットガンを構えるが、遅い。このままでは奴の射撃も来る。
誰かしら食らってしまう。
「させるか!うぐっ!?」
その時、再びダクネスが俺と銀髪の子を守るように前に出た。
結果散弾を近距離でモロに受けてしまい、その衝撃から俺たちの背後にある木にたたきつけられた。
「ダクネス!!」
銀髪の子が心配そうな声を上げ、傍に駆け寄る。
一瞬だが、ダクネスの様子を見ると何と出血がない。装備こそボロボロになってはいるが。それを見るにどうやらまだ息があるようだ。とりあえずよかった、直撃したように見えたが気のせいだったか…?
「くそっ!!」
だがダクネスの献身を無駄にはできない。
俺もすかさずショットガンを放つ。ここで仕留めなければ、確実にまずい。
「うおおおおお!!」
1発、2発、俺は奴の頭を狙い射撃する。
しかしまだ体力のあるコマンダーは射撃の度にうめき声をあげ少し後退するがこちらに向かって2射目を撃とうと銃を構える。
まずい、この距離の射撃。確実に誰かやられる。
仕留められなかった。
俺の責任だ。
「ぐっ…!!」
しかし、諦めはしない。俺は銀髪の子と倒れているダクネスの前に踏み出した。
「ヒデオ!!」
銀髪の子の声が聞こえる。
射撃はもう間に合わないだろう。しかし、もし一瞬でも間に合えばもう1撃奴の頭に散弾をお見舞いできるだろう。例えそれで奴が倒れなかったとしても、俺は最後まで戦う。
それが奴を倒しきれなかった俺のせめてもの償いだ。
…いや、待て。
ヒーローは最後まで立っていることが条件?言い出しっぺの俺が守れなくてどうする?
いや、守らなくてはならない。ヒーローはピンチになってからが本番。お約束じゃないのか?
ここは異世界だ。元の世界とは違う。諦めなければ、きっと、何かが起きる!!
そう、俺はヒーローだ!!ここからでも2人を守り切って見せる!!
『レベルアップ!!』
突然ファンファーレがあたりに鳴り響く。
…え?
と、同時に俺とコマンダーを遮るように空から何かでかい物がドスンと降ってきた。
それが遮蔽物となったようでコマンダーの射撃はガキンと不発に終わったようだ。
「何…?それ?」
突然の展開に銀髪の子も驚きを隠せないようだ。
コマンダーも戸惑っているのかでかい何かの向こうからうなり声が聞こえる。
いや本当に何だこれは?見た限り鉄製で大きさ的に3mほどはあるようだが…。
「!!!」
俺はこれに見覚えがあった。
そう、オーバーウォッチプレイヤーなら誰もが知っている報酬、トレジャーボックスだった。
トレジャーボックスはプレイヤーのレベルがアップするごとにもらえるご褒美の入った箱で中からはスプレーやボイスライン、ヒーローのスキンなどが出てくる。
というより、こんなに大きかったのかこの箱。
いや、まぁそれは置いておこう。それより、これが降ってきたということは…。
俺は恐る恐るトレジャーボックスに触れる。
すると、ギギギ、とネジの回るような音と共に箱が少し縮んだ後、花火のような音と共に何かを飛び出させた。
飛び出したものは俺の目の前にゆっくりと落ちてきた。
「こ、これは…!!」
それは2本の刀だった。
1本は短い小太刀。もう1本は少し長めの太刀だった。
これも見覚えがある。
「なるほど…。これを使えということか」
俺は少しニヤリと笑みを浮かべる。
もしかしたらやれるかもしれない。
俺はショットガンをしまい、太刀を背中に装備し、小太刀をベルトに差し込んだ。
刀を出した後、トレジャーボックスは段々と薄くなっていきどこかへ消えてしまった。
再びコマンダーの姿が見えた。コマンダーはこちらの装備が変わっていることを不思議がったのか一度首を傾げたが、すぐにショットガンを向けてきた。
「決着を付けるか…」
俺はすぐにコマンダーの方へと走り出す。
「え、ヒデオ!?何やってるの!!やられるよ!!」
しばらくフリーズしていた銀髪の子が叫ぶ。
いいや問題はない。むしろ、これでいいのだ。
俺はコマンダーの構える銃の目前まで迫った。
「グフフ…」
血迷ったとでも思ったのか勝利を確信した笑みでコマンダーは引き金を引く。
「甘い!!」
それよりも速いスピードで俺は腰に差した小太刀を抜き、ガードするように前に構える。
次の瞬間ショットガンより発射された弾丸はコマンダーの頭に全弾命中し、その頭部は粉々に砕け散った。
叫び声をあげる暇すら無く、自身の装備で強化された散弾により頭部を破壊されたコマンダーはゆっくりその場に崩れ落ちた。
「ふん、阿呆が…」
俺は小太刀を一振りしゆっくり鞘に納める。
これぞオーバーウォッチヒーローゲンジの能力だ。