聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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(・3・)お待たせしました!
まじこい×クェイサー「クリス編」の最新話です。更新は相変わらず遅いです……ですが遅くても自分は良い文章を書いていきたいと思っております(良い文章かどうかは疑問ですが)。
読者の皆様には、気長に待って頂けると幸いです。

では、どうぞ。



65話「クリスの苦悩、強さへの憧れ」

ひったくりの一件後、和菓子屋を後にしたクリスとジータ。二人は会話を弾ませながら多馬川の土手道を歩いている。

 

 

ジータ=フリギアノス。武道を極め、現在は武術を伝える為に各地を旅しているという。ジータは事情があって川神市を訪れていた。用事が済むまでしばらくは川神市に滞在するつもりでいるらしい。

 

 

「ジータはどんな武術を使うんだ?」

 

 

「私の武術は……槍術、棒術、棍術……色々だな。混合術と呼べばいいか」

 

 

ジータの武術は、棒術を中心とした総合術らしい。何でも、ジータの師から叩き込まれたのだとか。今でも師からの教えを受け、日々鍛錬に明け暮れているとジータは話す。

 

 

「自分は主にレイピアを使った剣術だ。混合術か………興味があるな。ジータがよければ、自分と手合わせ願いたいのだが」

 

 

武術を学ぶ者として、武道を極める者として。クリスはジータと一戦交えてみたい、と思った。するとジータは笑って、

 

 

「奇遇だな。私もクリスの剣術には興味がある……クリスとは気が合いそうだ」

 

 

快く承諾するのだった。クリスも楽しみだと心を弾ませる。

 

 

偶然出会った、気の合う二人。土手道を歩きながら会話をする二人の姿は、まるで始めから親友であるかのようである。出会って間もなく、クリスとジータはすぐに打ち解けていた。

 

 

「これからジータはどこに?」

 

 

「ああ……寄りたい場所があってな。もし時間があるなら、少し付き合ってくれないか?」

 

 

少し歩いた先に、目的の場所があるとジータ。また、手合わせをするにはうってつけの場所だという。

 

 

クリスは迷わずジータと同行する事にした。幸い時間もある。何よりもジータと手合わせができるのだ……このチャンスを逃す訳にはいかない。

 

 

高まる期待と緊張を胸に、クリスはジータと共に歩き出した。

 

 

 

 

クリス達がついた場所は、小さな道場であった。古くから建てられているのか、壁と屋根はボロボロで今にも崩れてしまいそうなくらい所々朽ちかけている。

 

 

しかし、中からは掛け声と打ち合いの音が聞こえる……まだ使われているようだ。

 

 

「ここだ」

 

 

戸を開けるジータ。開けた先には広々とした道場に、子供達が練習試合をしている最中だった。子供達はジータに視線を向けるとすぐに、笑いながらジータに駆け寄ってきた。

 

 

「わー!お姉ちゃんだ!」

 

 

「ジータお姉ちゃん!今日もお稽古して~!」

 

 

「お姉ちゃん勝負勝負!」

 

 

駆け寄ってきた子供達が我先にとジータの周囲に集まり始める。慕われているようだ……ジータは苦笑いしながら、子供達の頭を優しく撫でる。

 

 

「そう慌てるな……今日は先生と師匠はいないのか?」

 

 

道場の周囲を見回すジータ。すると、子供達の一人が首を振る。

 

 

「先生はお姉ちゃんが来るから買い物。タバコのおばちゃんならまだ来てないよー」

 

 

「おいおい。おばちゃんなんて言ったら殺されるぞ」

 

 

無邪気に笑いあう子供達と、まるで我が子のように接するジータ。その姿は暖かくて、絵になるとクリスは思った。

 

 

日本に来訪したジータは、師匠からこの道場の事を知り、滞在している間は師匠と共に稽古をつけているらしい。

 

 

「よし――――それじゃあ先生が戻るまで、試合再開だ。しっかりやるんだぞ」

 

 

「「「はーーーい!」」」

 

 

子供達は元気の良い返事をすると、道場に散らばり練習試合を再開するのだった。

 

 

 

 

クリスとジータは道場の片隅に座り込むと、試合をする子供達を観戦する。

 

 

子供達はこうして武器を交えながら、日々鍛錬を重ねている。こういう子供達が武術を学び、育ち、ゆくゆくは武人として羽ばたいていくのだろう。

 

 

「皆真剣だな……それに、よく鍛られている」

 

 

洗練された動き、立ち回り、太刀筋。まだ幼く未熟な部分はあるものの、どれをとっても申し分ない技術。両親もさぞ鼻が高いだろうとクリスは賞賛した。

 

 

するとジータの表情に、少しだけ影が刺した。

 

 

「……この子達に両親はいない。皆孤児院で引き取られた、身寄りのない子供達だ」

 

 

「え……」

 

 

この道場にいる子供達は、全て孤児院出身であるとジータは話す。両親を病気で亡くし、または捨てられ……様々な事情で孤児となった子供達の現実。クリスは自分の失言に、すまないと視線を落とした。

 

 

「……いや、いいんだ。私もそれを聞いた時には、正直驚いた。この子達の境遇は………私とよく似ている」

 

 

ジータは子供達を眺めながら、ふとそんな言葉を口にした。寂しげで、遠い昔を思い出すような黄昏の表情。

 

 

「……ジータも両親を?」

 

 

クリスの問いに、ジータは首を縦に振る。物心ついた時には両親は既にいなかったという。

 

 

しかし、代わりに4人の兄妹がいた。兄が家事をこなし、親のようにジータ達兄妹を育ててくれていた。

 

 

両親はいなくとも、小さな村で貧しくも幸せに暮らしていた、幼い頃の日々。あの暖かかった頃が懐かしい、とジータは語った。

 

 

だが……それも長くは続かなかったとジータは続ける。紛争が起こり、ジータの住んでいた村は焼かれ、村の人間の殆どが命を落としてしまった。

 

 

「生き残ったのは私と……兄だけだった」

 

 

兄に助けられ、辛うじて生き残る事ができたジータ。だが弟や妹達は……とジータは言葉を止めた。ジータはまるで自分と重ねているように、道場の子供達を眺めている。

 

 

突然語られたジータの過去。クリスはどう声をかければよいか戸惑っていた。するとジータが我に返り、気を悪くさせたとクリスに向き直る。

 

 

「すまない。つい昔を思い出してしまってな」

 

 

「……いや……」

 

 

問題ないとクリス。両親もいて、不自由なく育った自分。それが当然だと思っていた自分が、少しだけ許せないと感じていた。

 

 

しばらくして、買い物を終えた道場の先生が戻ってくる。子供達は練習試合を中断し、先生の元へと駆け寄っていく。どうやら休憩の時間らしい。

 

 

「よし……ちょうどいい。あの子達の休憩が終わったら、私とクリスで試合をしよう」

 

 

子供達にも見せてやりたい、とジータ。クリスもそうだなといって立ち上がると、試合の準備を整えるのだった。

 

 

 

 

休憩の時間が終わり、クリスとジータの練習試合が始まろうとしていた。

 

 

二人は互いに一礼をすると、それぞれ武器を手に向かい合う。

 

 

クリスはレイピアを構え、ジータは道着に着替え木製の薙刀を手にしている。周囲には目を輝かせる子供達。これから始まる二人の戦いに期待を膨らませていた。

 

 

試合の立会いの為、先生が二人の間に入る。互いの準備を確認すると、うむと頷いて試合開始の合図を取った。

 

 

「では――――――はじめっ!」

 

 

先生が合図をした瞬間、先に動いたのはクリスだった。先手必勝。刺突による攻撃で先に切り込み、流れを掴めば勝機は見える。

 

 

「ここは……自分の距離だ―――――!!」

 

 

ジータの武器は薙刀……一子と同じ中距離による戦闘であると予想できる。間合いではジータが有利だが、先に距離を詰め、間合いを消してしまえばクリスの独断場となる。

 

 

しかし、クリスとは対象的に、ジータはただ静かにクリスを待ち受けていた。薙刀は構えたままである。

 

 

仕掛けてこないのか。それともクリスの速度に反応できなかったのか。どちらにせよ、今更警戒して留まる気はない。クリスはレイピアを突き出しジータの懐を狙う。恐らく薙刀で迎撃をするつもりだろうが……間に合う筈もない。

 

 

だが、

 

 

「見えたぞ!」

 

 

ジータはレイピアが触れる直前に攻撃の軌道を読み取り、身体を僅かに逸らしただけでクリスの攻撃を避けてみせた。

 

 

無駄のない動き。そして回避力。しかしそれだけではない。さらにクリスの移動速度によって生まれた運動を利用し、薙刀の柄の部分をクリスの腹に減り込ませたのである。

 

 

「が――――はっ!?」

 

 

衝撃で胃が逆流してしまいそうになる。だがこの程度で倒れるわけにはいかない。初手で距離を詰める事ができたのだ……距離を取ればこちらが不利になる。

 

 

クリスは減り込んだ薙刀を払いのけ、ジータに向けて再び刺突を放つ。

 

 

(一度は読まれてしまったが、次こそは―――――!)

 

 

次は読み取る暇さえも与えない程のスピードで繰り出してしまえばいい、目では追えない程の連続刺突がジータを襲う。

 

 

(見事な剣捌きだ……だが!)

 

 

目で追えなければ……とジータは突然目を閉じ、クリスの攻撃の感覚だけを頼りに一つ一つを避けきっていく。

 

 

(くっ……どうしてこうも攻撃が当たらない!?)

 

 

幾度となく攻撃を躱され、次第にクリスは苛立ちを覚え始めていた。

 

 

ジータは未だに反撃をしてこない。舐められているのかとさえ思う程に。決してそれはないだろうが、その衝動は焦りを生み、さらに苛立ちを募らせていく。

 

 

(あの時も………)

 

 

そしてふと、サーシャと決闘した時の事が脳裏に蘇る。

 

 

全力で挑んだ自分と、クェイサーの能力を使わずに戦ったサーシャ。また、手加減をされているのではないかと疑念が生まれてしまう。相手にはそのつもりがなかったとしても、クリスにはそう感じてしまう……疑念が雑念となり、剣技が僅かに鈍った。

 

 

その瞬間を、ジータは見逃さなかった。レイピアの先端が触れる寸前に目を見開き、その刀身を指二つで挟み止めてみせる。

 

 

白羽取り――――しまった、クリスが思った時にはもう、薙刀の反撃がクリスの腹に直撃していた。薙刀の尾の先端がクリスの身体を押し出し、ジータとの距離を広げていく。

 

 

距離は取った……それはつまり、ジータの本当の意味での反撃を意味していた。

 

 

「次は―――――こちらからいくぞ!」

 

 

ジータが床を蹴り動き出す。薙刀を構え、高速の連続突きをクリスに放った。カウンターからの蓮撃……クリスは防戦一方どころか、ジータに接近する事もできない。

 

 

隙のないジータの槍術。そこには一切の無駄がなく、全てにおいて研ぎ澄まされている。

 

 

しかもただの槍術ではないのだ……ジータの言う通り、槍術だけではなく様々な武術がジータの動きを完成させているといっても過言ではない。

 

 

邪道といえば聞こえは悪いが、ジータの強さは本物である。先の読めない戦術は、クリスにとってこれ程怖いものはないのだから。

 

 

ジータの攻撃を目で置いながら、辛うじて避けているクリスにも徐々に限界が訪れていた。反撃すらもできない状態が続く中、クリスはこの状況を抜け出す方法を模索する。

 

 

(………ダメだ、隙がなさ過ぎる……!)

 

 

圧倒的だ、とクリス。接近を許されない今、クリスには攻撃手段がない。つまりは完封状態。クリスにできる事は、ジータの攻撃を避け続ける事だけである。

 

 

完全にジータのペースに呑まれてしまったクリス。現場を打破できる策はないかと思考を続けるが、既に心のどこかで感じ取ってしまっていた。

 

 

 

 

“――――――勝てない”、と。

 

 

 

 

自分の敗北を自覚した瞬間、思考が止まり、そしてクリス自身の動きも、僅かに止まる。それは戦いにおいて致命的な敗因。諦めという名の境地。

 

 

「うっ!?」

 

 

瞬間、ジータの蓮撃がクリスの身体に打ち込まれた。まるで機関銃のような槍の蓮撃は、クリスの体力を削り取っていく。

 

 

そしてジータの最後の一撃――――薙刀の刺突がクリスの腹に入り、クリスの身体は勢いよく吹き飛ばされた。持っていたレイピアが投げ出され、クリスは床を転がっていく。

 

 

自ら勝てないと、少しでも戦いを放棄してしまった事が招いた結果だった。自分自身の甘さを呪う。再び戦いを再開する為に立ち上がろうとするクリスだったが、

 

 

「―――――まだ続けるか?」

 

 

ジータの薙刀の木製の切っ先が、突き付けられていた。クリスの動きが止まる。

 

 

続けるかと言われては望むところだが、圧勝と言わざるを得ない程の決定的な差を目の当たりにしては、続けたとしても結果は同じだろう。

 

 

「いや……自分の負けだ」

 

 

クリスは首を横に振る。すると、先生が試合終了の合図をかけた。周囲の子供達からは歓声が上がる。勝敗に関係なく、ジータもクリスも賞賛されていた。

 

 

――――完敗だった。いつもなら負けず嫌いで納得するまで続けるクリスだが、今回ばかりは納得せざるを得ない。

 

 

ジータに一矢報いる事なく、手も足も出せず、一方的に負けてしまったのだから。

 

 

「いい太刀筋だった」

 

 

ジータが手を差し伸べる。クリスはすまないと言って、ジータの手を取り立ち上がった。

 

 

「ジータの武術も、見事なものだった。それに比べて自分はまだまだだ」

 

 

互いに賞賛しあい、笑う二人。微笑ましい光景である。

 

 

「クリス。少し気になったんだが……」

 

 

「………?」

 

 

突然、ジータから笑顔が消え、真剣なものへと変わる。クリスはどうしたと首を傾げた。ジータはクリスの目をまっすぐに見据えながら、答える。

 

 

「クリスの剣に、迷いが見えた」

 

 

「…………!」

 

 

ジータの疑問……否、それはまさに確信だった。心の内を読まれたようで、クリスの表情が強張ってしまう。

 

 

それはジータとの戦いで感じ取ってしまった雑念。それが剣を鈍らせてしまった事。ジータは、既に気づいていたのだ。

 

 

クリスが抱えている、戦いへの迷いに。

 

 

「…………」

 

 

しばらくして、クリスはようやく口を開いた。

 

 

「………ジータ。実は、聞いてほしい事があるんだ」

 

 

ジータになら、話せる。相談に乗ってくれるかもしれない。 クリスは苦悩している自分の思いを、打ち明けるのだった。

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