聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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66話「強く有る為に」

模擬戦を終え、道場を出て多馬川の土手に座るクリスとジータ。

 

 

日は落ち始め、オレンジ色の夕暮れが空を彩っていた。

 

 

「……対等でありたい、か」

 

 

ジータは夕暮れを眺めながら、クリスの話に耳を傾けている。

 

 

 

―――戦いとは、互いの力を全力で発揮し、ぶつかり合いながら競うものである。

 

 

手加減は一切せず、自分の持つ全てを出し切る。それがクリスの思う戦いであり、クリスが掲げる“義”であった。

 

 

全力を出しても勝てなかったのなら本望。それならば納得もいく。だが、出し惜しみや手加減をされて負けたのなら、それは対等ではない。相手に対する侮辱である。

 

 

だからこそ、クリスは対等に見てほしかったと……サーシャとの戦いで感じた事を全て、ジータに打ち明けた。

 

 

そして同時に、もっと強くなりたいという事も。

 

 

溜めていた事を話し終えたクリス。表情は清々しかった。肩の荷が降りたような感覚。

 

 

「……話したら、いくらか楽になった。すまないなジータ」

 

 

付き合わせて悪かった、と付け加えてクリスは笑った。ジータはいいやと首を振る。むしろジータには、クリスの境遇に共感さえ覚えていた。

 

 

自分も強さを求め、修行を重ねてきたジータ。クリスの強くありたいという気持ちは、かつての自分を思わせていた。

 

 

今でも修行は続けているが、それに終わりはない。人はどこまでも強くなれる……ジータにはそう思う事ができるのだから。

 

 

だからこそ、クリスに手を差し伸べたかったのかもしれない。

 

 

「クリス。時間があるなら、また道場へ来るといい……いつでも相手になる」

 

 

突然のジータからの誘い。クリスも思わず目を丸くした。暇があれば、今後は道場で相手をしてくれると言うのだ。

 

 

圧倒的な強さと、優れた武術を持つジータ。少なくとも、今のままではジータには勝てない。しかしジータと戦えば、必ず何か学べるものがある筈だ。

 

 

もっと強くなり、変わりたい。クリスの中の向上心が強くなっていく。クリスには、断る理由などなかった。

 

 

「ジータ、自分を鍛えてくれ……いや、鍛えて下さい。よろしくお願いします!」

 

 

クリスは敬意を払い、深々とジータに一礼した。気合の入ったクリスの意気込みにジータは気に入ったのか、こちらこそと言って笑うのだった。

 

 

 

 

 

数日後、川神学園2-F。

 

 

クリスは放課後、毎日のように道場へ通い、ジータからの稽古を受け続けている。

 

 

勿論手も足も出なかったが、クリスの心は充実感で満たされていた。

 

 

そして放課後。クリスは今日も、稽古の為に道場へと向かおうと教室を出る。

 

 

すると、後ろからクリスの名前を呼ぶ生徒がいた。まふゆと一子である。

 

 

「クリ、今日集会来れそう?」

 

 

クリスを金曜集会に誘う一子。ジータの稽古が始まってからというもの、放課後はファミリーのメンバーと顔を合わせる事が少なくなった。

 

 

当然、集会も来れない。申し訳ないとは思っているが、これも鍛える為だ……クリスは首を横に振った。

 

 

「すまない、一子。今日も用事があってな……みんなによろしく伝えてくれ」

 

 

クリスの返答に、そっかあと残念がる一子。一体クリスが何をしているのか……しかし一子はそれ以上の詮索はしなかった。信頼してくれているのだろう……隠し事をしているわけではないのだが、断るのは心苦しかった。

 

 

「最近、クリス忙しいみたいだからみんな心配してるみたいなの……何か困った事があったら、相談してね」

 

 

まふゆも何も聞かず、クリスを心配してくれていた。まふゆだけでなく他のメンバー達もである。クリスはありがとうと二人に告げ、挨拶を交わすと教室を後にした。

 

 

ある程度稽古が済んだら集会に顔を出そうと、そう思いながら。

 

 

 

 

 

クリスがジータのいる道場に向かうその一方、密かにクリスを尾行する者がいた。

 

 

その人物は気配を消し、物影に隠れ、草むらに擬態し、段ボールに隠れる等を駆使しながら後をつけている。

 

 

(…………)

 

 

そう、由香里である。由香里は最近見なくなったクリスを心配(クリスを拝めないからついに耐えきれなくなって尾行に走った)し、どこへ行くのかを調べていた。由香里は段ボールに隠れ、小さな穴を覗き込みながら、クリスの後ろ姿を追い続ける。

 

 

尾行を続けて数分が経過。一体どこまで行くのだろうか。クリスの行く先に一体何があるのだろう。由香里の中で様々な妄想が働き始める。

 

 

アルバイト、遊び……しかし、いくら思考してもクリスには結びつかない。

 

 

となると、一体何なのだろう。由香里は段ボールに隠れながら、う~んと唸り始めた。

 

 

そして考えるに考えた末、ある考えに辿り着く。それは学生にはよくある事で、由香里にとっては信じたくないもの。

 

 

そう、それは………。

 

 

「はっ……!ま、まままさか、クリスに男ができたのでは―――」

 

 

「……何やってんだ、お前」

 

 

由香里を覆っていた段ボールが、突然引き剥がされる。しまったと、思った時にはもう遅かった。由香里は後ろを振り替える。

 

 

そこにいたのは呆れ返った表情をした百代の姿であった。誰かと思えば……由香里はほっと胸を撫で下ろす。

 

 

「まあその、なんだ……メタル○ア・ソリッ○を少々」

 

 

「……よくわからんが、とりあえずバレバレだったぞ」

 

 

他にもっと方法があるだろうと百代。時々だが、由香里は天然の気があるようだ。

 

 

「クリの後をつけてたのか」

 

 

百代の問いに、由香里はこくりと頷いた。放課後クリスが殆どいない事に痺れを切らし、とうとう尾行するという手段に出たのだのだという。

 

 

百代は暇なヤツだなと溜息をついた。むっとした由香里は百代こそ、ここで何をしているのかと訪ねると、

 

 

「無論、私もクリスの尾行していたところだ」

 

 

「…………」

 

ここにも同じ暇人がいる事が発覚した。百代もクリスを尾行している最中、段ボールに身を隠していた由香里を見つけたらしい。

 

 

同じ目的を持つ百代と由香里。しばらく沈黙が続いた後、何かが通じ合ったのか、お互いに握手を交わすのだった。

 

 

「よし、二人でクリを尾行するぞっ」

 

 

「うむ」

 

 

由香里と百代。二人は気配を消し再びクリスの尾行を開始した。

 

 

 

 

 

クリスを尾行してから更に数分後。

 

 

二人が辿り着いた先は、古びた道場の建物であった。クリスがその中へ入っていくのを確認した百代と由香里は建物の裏に回り込み、その窓から中の様子を覗き込んだ。

 

 

中には練習試合をしている子供達と、そしてクリスがいた。クリスは道場の壁に寄りかかり、子供達の試合を眺めながら誰かを待っているようである。

 

 

しばらくして、一人の女性―――ジータがやってきて、クリスに挨拶を交わす。クリスも挨拶を返すと、子供達に混じり道場の中央に移動し、一礼。それぞれ武器を構え、模擬戦を開始した。

 

 

互いに激しく武器をぶつけ合うクリスとジータ。ジータの動きからして、相当な熟練者である事が見て取れる。

 

 

それに対しクリスは苦戦を強いられ、殆どが防戦一方であった。しかしそれでも、クリスは諦めずジータに向かい続けている。

 

 

何度も打ち負かされ、身体がボロボロになりながらも、根を上げる事なく立ち上がるクリス。そのクリスの姿を見て百代と由香里は、小さく微笑むのだった。

 

 

「……そろそろ大和達の所に戻るか」

 

 

あいつらも私がいないと寂しがるからなと百代。由香里もそうだなと言って、道場から立ち去ろうと踵を返した。

 

 

二人は、これ以上関わろうとはしなかった。

 

 

今、クリスは更に強くなろうとしている。そのクリスの意志を、邪魔する訳にはいかない。武人として。そして仲間として見守る事を選んだ。

 

 

「おいゆかりん。基地まで競争するぞ。負けたら明日一日、お前は私のおもちゃだ」

 

 

「望むところだ。ならモモ先輩が負け――――なっ、フライングとは卑怯な……!」

 

 

全力疾走する百代と、それを追いかける由香里。二人は基地へと続く帰り道、を全速力で駆け抜けていくのだった。

 

 

 

 

 

次の日の午後。

 

 

クリスはいつもの道場へ足を進めていた。今日も鍛錬に付き合ってくれるという。

 

 

ジータと稽古を重ねてから随分と日が断つ。まだまだジータには届かない。だが、ジータに打たれる度に自分の欠点が見えてくる……少しずつだが、稽古が身になりつつあった。

 

 

しばらく歩き、道場の前へと辿り着く。今は弱くても、いつか必ずジータに届いてみせる……クリスはよしと心の中で意気込みながら、道場の扉をそっと開けた。

 

 

「………え」

 

 

クリスは、道場の中の光景に絶句した。目の前には、信じ難い惨状が広がっている。

 

 

道場には―――ジータも、子供達もいなかった。あるのは練習用の薙刀が散らばっているだけである。床や壁には傷。まるで、争ったような跡。

 

 

一体、何があったのだろう……周囲を見回す。誰か残っていないだろうか。クリスは道場の休憩室の扉を開ける。

 

 

「―――――!」

 

 

休憩室の中には、頭から血を流し、壁に横たわる先生の姿があった。クリスは先生に駆け寄り、安否を確認する。まだ意識はあるようでクリスは安堵した。

 

 

一体何があったのか。先生に訪ねると、

 

 

「子供達が……怪しいヤツに……」

 

 

「何……!?」

 

 

子供達が、何者かに攫われたらしい。先生は抵抗したが、手も足も出なかったという。ジータはまだ来ていないようだが……これでは稽古どころではない。

 

 

「……私なら、大丈夫だ。それよりも、子供達を……」

 

 

先生が手紙をクリスに手渡した。クリスはそれを受け取り、手紙を広げる。

 

 

“――――――子供達を返して欲しければ一人で来い”

 

 

それは犯人からの脅迫状だった。子供達が囚われている場所の詳細も書かれている。

 

 

幸い、先生の怪我は軽傷だった。まずは子供達を助けにいかなければ……クリスは手紙を先生に返すと、足早に道場を後にした。

 

 

本当ならジータを待つべきだが、事態は一刻を争う。それに相手は一人で来いと要求している。後は自分だけで何とかするしかない。

 

 

 

不安と焦りを覚えながら、クリスは走り出した。子供達の元へ。

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