聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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これは以前にじファン様とアットノベルス様で投稿した期間限定のエピソードです。ゲストとして「まじこい×クェイサー」とは異なる原作のキャラが登場します。
このエピソードはあっても無くても本編に支障はありません(ない方がいいと思われる方は、このエピソードを無視しても構いません)。

時系列は、本編の44話~47話の間に起きた出来事が描かれています。また、及川麗(聖痕のクェイサー)がクローン黛と対決して使用したスキルと繋がりがあります。


それでは、どうぞ。


secret episode「再会の杯」

川神市内、某繁華街。

 

 

時間は深夜0時を過ぎようとしているというのに、まだ人通りがある。飲み会や残業の帰宅途中のサラリーマンや、彷徨い歩くホームレス。これからさらに二次会へ赴く会社員……行く人々は様々だ。

 

 

そんな人達で賑わう夜の繁華街の一角に、古びれたBARがある。中にはコップを丁寧に拭く初老のバーテンダーと客が一人。

 

 

水で割られたウイスキーを頼み、飲み干しては煙草を吹かす。それを永遠と繰り返している客の正体は麗だった。

 

 

川神市に来てから、どこかいい雰囲気で飲める場所はないかと探していた麗は偶然この店を見つけ、以来ここに通い続けている。

 

 

客は殆ど入らず、不気味な程に静かな酒場。今にも潰れてしまいそうな場所だが、この物静かな雰囲気は麗にとって好ましい環境だった。チェーン店の酒場のようにガヤガヤした騒音はなく、ジャズの音楽がゆったりと流れている。音楽を聞きながら酒と煙草に浸るこの時間は、麗の最高の安らぎだった。

 

 

しばらくして再び何本目かの煙草に火をつけようとした時、来客を知らせるドアのベルが店内に鳴り響いた。殆ど客が来ない店に客とは珍しい、と麗は思った。マスターにはだいぶ失礼な話なのだが。

 

 

「――――何年経っても、この店は変わらんな」

 

 

現れた来客は、オレンジのコートに大きな鞄を持ったスタイルの良い、赤みがかった髪の女性だった。

 

 

女性はこの店のマスターと面識があるのか、いつものヤツを頼むと言って、カウンターに向かってかつかつと歩み寄る。

 

 

そこで女性はようやく、麗の存在に気付いた。

 

 

「……この店に客とは珍しい」

 

 

と、麗と同じような感想を述べるのだった。麗は着け損ねた煙草に再び火をつけながら、こんな古びたBARにやってきた物好きな客人に顔を向ける。

 

 

「この街に来て偶然見つけてね。その口ぶりだと、アンタもここの常連――――」

 

 

麗と女性が顔を合わせた瞬間、ほんの僅かの間だけ、時間が止まったような気がした。女性はぽかんと口を開け、麗はうっかり煙草を落としてしまいそうになる。

 

 

そして空白の時間が終わりを告げ、ようやく2人の口が開く。

 

 

そうそれは予期せぬ、

 

 

「――――橙子」

 

 

「――――麗か」

 

 

2人の、何年かぶりの再会だったのだから。

 

 

 

 

 

「……驚いた。まさか、橙子が封印指定を受けてるとはね」

 

 

ウイスキーを煽りながら、麗は橙子との再会を喜んでいた。彼女の名は蒼崎橙子。かつてロンドンで知り合った同期である。

 

 

彼女は魔術師であり、一流の人形師と呼ばれているが、その行き過ぎた技術が仇となり、魔術協会から追われる身となっている。現在は追手から逃れ隠匿しているらしい。

 

 

「お前こそ、中退してから何をしているのかと思えば学校の保険医か。まあ、昔から面倒見がよかったからな。素行は最悪だったがね」

 

 

「もう魔術はたくさん。大体、アタシには合わないのよ」

 

 

学生時代の話に花を咲かせる麗と橙子。思えば、学院を中退してから橙子とは一度も顔を合わせていない。またこうして出会う事になろうとは、予期していなかっただろう。

 

 

いつも飲む酒が、一層より深く味わいが増す。

 

 

「マスター、ビールくれ」

 

 

「あんたホントよく飲むわね……あ、マスター。ウイスキー追加で」

 

 

「お前もな」

 

 

際限なく飲み続ける橙子と麗。酒と煙草が進み、酔いに浸りながら偶然という名の時間を堪能していた。

 

 

しばらくして、酒を飲み終えた橙子が煙草に火を付けながら、静かに口を開く。

 

 

「―――ところで麗、お前本当は何をしてるんだ?ただの保険医にしては、随分と物騒な物を持ち歩いているな」

 

 

「…………」

 

 

見透かすような橙子の視線。否、実際に見透かされているのだ。麗は観念したのか、溜め息交じりに笑い出した。

 

 

「うまく隠してたつもりなんだけどね」

 

 

麗が隠していた物は、コートの袖に折り畳み式の脇差が一本。脇には小型の拳銃が一丁。ブーツの中には痺れナイフが一本ずつある。

 

 

どう見ても一般の保険医が持っているものではない……マスターの表情が険しくなったので、橙子が危険はないとフォローする。

 

 

「まさか、それが治療の道具だとはいうまいな?」

 

 

「ただの護身用よ。これでも一応減らしてる方だけど」

 

 

「いっそ手品師にでもなれ。それなりにウケるぞ」

 

 

言って煙草の煙を吹かす橙子。保険医の手品師も悪くないか、と冗談交じりに麗は笑うと、グラスの残りのウイスキーを一気に飲み干すのだった。表情から笑顔が消え、空になったグラスを見つめながら、

 

 

「……少なくとも、魔術がらみじゃない事だけは確かだね」

 

 

静かにそう答えた。察するに保険医というのは名目上で、本当の仕事は人に言えるようなものではないようだ。橙子は追求する事もなく、それ以上は何も追及はしなかった。

 

 

互いの沈黙が続く中、先に口を開いたのは麗であった。

 

 

「――――橙子、完璧な人間っていると思う?」

 

 

麗がふと口にしたその疑問は、黛由紀江と関係していた。彼女のクローンの存在が、唐突に気になったのだ。橙子が何を哲学的な事を言い出すかと思えば……とタバコの煙を吐く。

 

 

「……人間は常に欠陥を抱える生き物さ。もし全ての欠陥を克服した人間がいるのなら、そいつは人間を捨てた何かだ」

 

 

と、哲学的な疑問を哲学的に返す橙子。麗はカウンターテーブルに膝をつき、納得いったような、いかないような表情で橙子を白い目で眺めていた。何か言いたげな表情である。

 

 

「……おい、何だその目は。まるで私を化け物か何かみたいに」

 

 

そんな麗の視線が気にいらなかったのか、橙子はやたらと不機嫌であった。いや、そうじゃないんだけどさと苦笑いする麗。

 

 

――――ただ、遠くを見るような目でカウンターを眺めながら、昔を思い出すように。

 

 

「それ、橙子が学生時代に言ってた言葉だよね。でもさ―――」

 

 

それでも。麗から見れば学生時代の橙子は何もかもが完璧で。人間としても、魔術師としても優秀であった。だから、

 

 

「アタシは……そんな橙子が羨ましくて、憧れだった」

 

 

麗は橙子の背中を、追いかけていたのかもしれない。それは今も変わっていない。

 

 

学院を中退した身分が何を言っているんだかと、自分で自分を笑う麗。そんな事を思っていたのか……と橙子は意外に驚き、思わず失笑してしまう。

 

 

「皮肉に聞こえるかもしれないが、生憎と私はれっきとした人間だよ。欠陥だらけさ」

 

 

「封印指定が言う台詞とは思えないわね」

 

 

互いに皮肉っぽい事を言い合い、笑う二人。二人は最後の一本になった煙草を吸い終え、吸殻に押し付けてからゆっくりと立ち上がった。もう夜も遅い……夢のような再会の時間が終わりを告げる。

 

 

「さて、そろそろ出るか」

 

 

「そうね……ところで橙子、性格変わった?」

 

 

「ん?……ああ、これはスイッチのようなもので―――お?」

 

 

言いかけて、橙子はオレンジのコートのポケットに手をいれ、何かを取り出した。

 

 

その手に握られているのは、装飾の多いコンパスだった。コンパスの針は、異常なまでに勢いよく回転している。

 

 

「橙子、それは?」

 

 

「ああ、知り合いからの貰い物でな。まあ私が使う事はないんだが……それにしても、何だこの異常な反応は?」

 

 

止まる事なく永遠と回転を続けているコンパスを眺める橙子。何でも魔術か何かに干渉すると反応を示す代物なのだが……橙子曰く周囲に魔術の反応はないらしい。魔術でなければ一体なんだと言うのか。

 

 

(………!)

 

 

そこで麗はある事に気付く。麗の勘が告げる……それは紛れもなくクェイサーの力。恐らくクローン黛が動き出したのだろう。

 

 

それは、黛由紀江本人に危険が迫っているという事に他ならなかった。

 

 

「橙子、それ借りてく!」

 

 

「え―――」

 

 

橙子の手からコンパスを取り上げ、麗はBARの入口の扉を開けて走り去っていく。呼び止めようとしたが……あまりにも急だったのでそんな暇さえなかった。

 

 

「あ………」

 

 

そして同時に橙子はある事に気付く。自分の置かれている状況がいかに深刻であるかを。

 

 

「くそ、やられた……!麗のヤツめ」

 

 

そう、BARの飲み代を押し付けられたのだ。麗にその自覚は……あるに違いない。本当に学生時代から変わってないなと腹を立てるが、どこか憎めなかった。仕方なく橙子は麗の料金も一緒に払う事にする。

 

 

「やれやれ……」

 

 

BARから出た橙子は、ただ意味もなく夜空を見上げる。今度飲む時は、殺してでも返してもらうとするかと企みながら。

 

 

そして、ふと思う。

 

 

学生時代から素行が悪く、学院で名を馳せた橙子とは別の意味で有名だった麗。それでも面倒見が良く、自由奔放で“何にも囚われない”彼女の姿。だから、

 

 

「……羨ましかったのは、むしろ私の方さ」

 

 

そんな麗に憧れていた自分が、あの頃にはあったのかもしれない。それは、きっと今も変わらない。橙子は新しい煙草を取り出し、火をつけ加えながら繁華街を歩いていった。

 

 

 

 

 

麗は橙子から借りたコンパスを片手に、携帯を耳に当てながら走っていた。

 

 

「カーチャ、クローン黛が動き出した。今現場に向かってる!」

 

 

『……そう。思ったより早かったわね』

 

 

それだけ言って通話を切り、コンパスの反応を頼りに走り続ける。クローン黛……そして黛由紀江のいる場所へと。

 

 

 

 

 

――――これは誰も知る事のない、麗と橙子の物語。ほんの小さな再会と別れ。いずれは消えゆく小さな物。

 

 

きっとまたいつか。こんな事があるかもしれないと、そう願って。

 

 

 

どうか、束の間に起きた奇跡に祝福を。

 

 

 

 

 

 

 

そして読者の皆様と――――この場所で数多の物語を紡ぐ人々に……未来への祝福を。

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