聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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(・3・)ノノどうも、作者です。
だいぶ遅くなってしまいましたが、最新話書き上げました。
また「secret episode」はそのまま残す事に致しました。消えないかもしれないし、消えるかもしれません(笑)


それでは、本編をどうぞ。


69話「理想は儚く消えゆく」

ジータとの一戦から翌日。

 

 

授業を終えた放課後、クリスは大和とサーシャ、まふゆと帰り道を歩いていた。

 

 

「昨日は何塞ぎ込んでんのかと思ったら……そういう事かよ」

 

 

大和はクリスが塞ぎ込んでいた理由を聞き、拍子抜けしていた。

 

 

昨夜、偶然知り合った友人と試合をした結果、手も足も出ずボロボロに負けてしまったらしい。最も、勝つ見込みなど最初からなかったのだがとクリスは苦笑いする。

 

 

放課後は学校を出てすぐ、道場で稽古をつけてもらい、鍛えてもらっていたと話すクリス。怪我もその時にできたものだと言う。

 

 

「ふ~ん、武術の達人か……どんな人なんだろう」

 

 

会ってみたいな、とまふゆは関心を寄せる。クリスが手も足も出ない程、腕の立つ人間なのだ……百代がいたなら、すぐに勝負だと飛んでいった事だろう。

 

 

「まあ、そんなわけだ。昨日は心配をかけてしまったな……本当にすまないと思ってる」

 

 

そう言ってクリスは謝罪した。今まで黙っていたのも、強くなった自分を見せて驚かせたかったという思いからだった。余程サーシャに負けた事が悔しかったのだろう、クリスの負けず嫌いな性格が伺える。

 

 

「………」

 

 

しかし、サーシャはクリスに違和感を覚えていた。

 

 

理由はきっとそれだけではない。何かを隠している……聖乳を吸えばすぐに分かるが、用もないのにそんな事をしたら、クリスが激怒する上、まふゆが何をするか分かったものではないので、これ以上の詮索は辞めることにした。

 

 

「――――すまないが、自分はこれで」

 

 

しばらくして、クリスが用事があると言って大和達に別れを告げる。これから父親のフランクと会う約束をしているらしい。

 

 

フランクは日本を視察する為、不定期に来日しているのだとか。最もそれは名目上で、本当はクリスの様子をチェックをしにやってきているのだが。

 

 

クリスは大和達と別れ、フランクのいる所へと歩き出した。久方ぶりの父親との外食である。会うのが楽しみな反面、不安と疑念がクリスに恐怖を抱かせていた。

 

 

それは、真実を知ろうとする恐怖。フールが言っていた真実が虚偽だとするならば、ただの思い過ごしで済むだろう。尊敬する父親なのだ、何を迷うとクリスは自分に言い聞かせる。

 

 

だが、もし本当であったなら……自分が今まで信じてきた父親の理想が崩れ消えてしまう。あの時のジータの目は、憎しみに駆られていた。嘘を言っているとも思えない。

 

 

(……考えていても、仕方がない)

 

 

クリスは思考を打ち切った。フールの言う通り、真実を知りたければ直接フランクから聞けばいいだけの話だ。それで全てが解決する。

 

 

たとえそれが、クリスの知る真実ではなかったとしても。

 

 

 

 

 

某高級ホテル、レストラン一室。

 

 

天井に吊るされたシャンデリアの照明が煌びやかに一室を照らし出し、より一層豪華な演出を引き立てていた。部屋の中央には、純白のクロスのかかったターンテーブル。その上には色とりどりの料理が並べられている。

 

 

ターンテーブルを囲うように座っているのはクリス、マルギッテだ。

 

 

そして二人の間に座る、威厳のある男――――クリスの父親でありドイツ軍の中将、フランク=フリードリヒである。

 

 

三人は料理に舌鼓をしながら、久しぶりの外食を楽しんでいた。

 

 

「こうして食事をするのは久しぶりだな」

 

 

料理を口に運びながら、クリスとの食事を喜ぶフランク。クリスもそうですね、と笑う。

 

 

外食はクリスの提案である。フランクもクリスから誘われた事が余程嬉しかったのか、勢い余って高級レストランまで予約をしていた。クリスは普通の店でいいと言ったのだが、そのフランクの気持ちは嬉しかった。

 

 

「ところでクリス、怪我の具合はどうかね?」

 

 

クリスが負傷した事は、当然フランクの耳にも届いていた。クリスは軽傷で済んだと説明しているのだが、フランク自身、心配で夜も眠れないのだとか。

 

 

「怪我の方は、なんとも……」

 

 

日常生活に支障はない、とクリス。フランクもそうかと言って納得したものの、内心はまだ心配しているに違いない。自分の娘が傷を負ったのだ、親ならば黙っていられるわけがない。そもそも、自分の過信が招いた事なのだ……クリス自身にも責任はある。

 

 

「お前の様子については、マルギッテから報告を受けている。学園生活の方は上手くやっているようだな」

 

 

「ええ、まあ……」

 

 

クリスが学園生活を満喫している事に何よりだと喜ぶフランクだが、それに対し、クリスは生返事をするばかりだった。折角父親との外食だというのに、楽しめない。

 

 

(…………)

 

 

唐突に、ジータとフールの言葉が蘇る。クリスの視線は食べかけの料理に向けられていた。食欲がないというわけではないのだが、思わず手が止まってしまう。

 

 

「浮かない顔だな、クリス。何かあったのか?」

 

 

クリスの様子が気になったフランクが声をかける。食事が口に合わなかったのだろうか……クリスはフランクの声に気づき、ようやく返事を返す。

 

 

「あ……いえ、何でもないです」

 

 

考え事をしていたのか、フランクの声がかかるまでクリスの意識は上の空だった。学園生活で何かあったのか……それ以外考えられないとフランクは解釈する。

 

 

「まさか……学園でイジメを受けているのか!?許せん!クリスを泣かせる外道は、我が軍が殲滅する!!!」

 

 

激昂したフランクは携帯を取り出すと、ドイツ軍本部へ連絡し、日本へ派遣命令を下そうと立ち上がろうとした所、クリスとマルギッテがが引き止めた。イジメなどない。そもそもあったとしても、クリスの戦闘力と性格からしてそれはあり得ない。

 

 

「………ならば、一体どうしたというのだ?」

 

 

学園生活も充実し、何不自由なく生活をしているというのに。クリスに何があったというのか。だがクリス自身、その理由がうまく言い出せずにいた。

 

 

知っている。分かっている。ただフランクを食事に誘ったわけではない。その本当の理由は、別にあるのだから。

 

 

ジータとフールから聞かされた、紛争で起きた出来事。それが真実なのか否かを、直接フランクに聞き出す為に、クリスはここにいる。

 

 

勿論、それが真実とは思えない。思いたくもない。だが聞かなければ、フランクへの疑念が晴れることはない。自分の父親に疑念を持ったまま接するのは、堪らなく嫌だった。

 

 

だからこそ、問わなければならない。二つの国で起きた紛争の真実の全てを。

 

 

「……父様、聞きたい事があります」

 

 

意を決し、クリスは重い口を開いた。真実を知る事に恐怖し、僅かに唇が震える。

 

 

言葉にしようとする度に、ジータの顔が脳裏をよぎる。あの憎しみに染まった、彼女の顔を。

 

 

間違いだ――――間違いに決まっている。フランクから全てを知り、間違いだったとジータに伝えればそれでいい。それで何もかもが解決する。

 

 

「父様は昔、二つの国で起きた紛争の事は……知っていますよね」

 

 

それは銃弾と兵器が飛び交い、多くの人々の命が失われた、二つの国の大きな紛争。無論、軍人であるフランクが知らない筈がない。フランクはうむと首を縦に振ると、まるで遠い過去の記憶を掘り起こすように、思い返す。

 

 

「ああ、勿論だとも。あれは本当に悲劇と言わざるを得なかった。あの業火に焼かれた光景は、今でも覚えているよ」

 

 

まだクリスが幼かった頃の話。

 

 

フランク率いるドイツ軍は、紛争の鎮圧に赴いていた。燃え盛る業火の中で、そこで多くの人々を救い、犠牲者も最小限で済んだとフランクは話す。もう二度とあんな紛争は起きてはならないと、そう切に願いながら。

 

 

そう。それが紛争の――――フランクの真実。だが、そこまではいい。クリスが知りたい真実は、更にその先にある。

 

 

緊張と恐怖からか、クリスの心臓の脈が速くなる。このまま話を終わらせてしまいたい。それならばどんなに楽な事だろう。

 

 

しかし、それでは意味がない。逃げてはならない。クリスには娘として、家族として。真実を知る義務がある。

 

 

「では……その二つの国の間の小さな国に……村があった事も、知っていますか?」

 

 

ようやく口から出す事ができた言葉。ジータの村で起きた出来事。するとフランクは意外に思ったのか、少し驚いたような表情を見せたが、すぐに表情を戻した。

 

 

そして、クリスが最も聞きたくなかった言葉が、フランクの口から聞かされる事になる。

 

 

「ああ……村は殆ど焼かれてしまったよ。だが村の住人の殆どは、奇跡的に助かったがね」

 

 

―――――――。

 

 

ほんの一瞬だけ、クリスの時間が止まった気がした。

 

 

気のせいだろうか。フランクの口からは村人は殆ど助かったという。おかしい。何か引っかかる。何故ならジータの村の住人は、紛争で亡くなっているからだ。

 

 

真実が矛盾する。クリスの中で混乱が起きる。落ち着けと自分に言い聞かせながら、冷静に全ての情報を整理する。

 

 

フランクは村の住人は殆ど救助されたという。しかし、ジータの話では皆亡くなり、生き残ったのはジータの兄と、ジータを含んだ二人だと聞かされた。どちらが真実なのだろうか。

 

 

クリスはさらに質問を投げかけた。

 

 

「……人、ですか」

 

 

今にも消えてしまいそうなクリスの小さな声。視線は自分の足元へと注がれていた。ここから先は、もう後戻りできない、そんな気がして。

 

 

「………?すまない、クリス。よく聞こえなかったんだが」

 

 

フランクの顔を直視できない。今まで気を使い、親子の会話を黙って聞いていたマルギッテも、クリスに呼びかけている。

 

 

これが最後の質問だ……クリスはすぅと息を吸い、震えた声でもう一度フランクに投げかけた。

 

 

「……何人、助かったんですか?」

 

 

―――――――。

 

 

その瞬間、室内に沈黙が訪れた。クリスはもう、フランクの表情を見る事ができなかった。ただ視線を落とし、フランクの回答を待つばかりである。

 

 

そもそも助かったのならば、何を躊躇う必要があるのだろう。全員助かったと言えば済むはずだ。フランクが何かを隠そうとしているのではないか。沈黙が続けば続く程、クリスの中で疑念が膨れ上がっていく。

 

 

そして、その長く感じていた沈黙がようやく破られた。

 

 

「クリス……何故そのような事を聞く?」

 

 

フランクの声色が少しだけ低くなっている事を、クリスは感じ取った。これでクリスは確信する……フランクは何かを隠している、嘘をついていると。

 

 

自分の尊敬する父、フランク。誇り高き軍人。信じたかった。それなのに……裏切られた。今のクリスには恐怖よりも、怒りが勝った。父親に対し、初めて怒りの感情が芽生え始める。

 

 

もはや躊躇いも、恐怖心も拭い去られた。あるのはただ純粋な怒り。クリスの感情が、徐々に静かな怒りを露わにしていく。

 

 

「……父様こそ、どうしてすぐに答えてくれないのですか?」

 

 

怒りに震えたクリスの声。もはや、この怒りは止められない。抑えきれない。尊敬していた父親だけに、これ以上ないくらい許せなかった。俯いていた顔を上げ、クリスはフランクを睨み付ける。

 

 

「あの村の住人達は……皆、業火に焼かれて命を落とした!助かったのは……本当は二人だけだった!違いますか!?」

 

 

声を荒げ、テーブルに手を叩きつけながら問い詰めるクリス。感情が荒ぶったクリスを……何より父親に対し怒りを露わにするクリスを見るのは、フランクも、マルギッテも初めてであった。

 

 

「お嬢様、落ち着いて下さい!一体どうしてしまったのですか!?」

 

 

突然の事に戸惑いを隠せないマルギッテ。だがしかし、フランクは冷静であった。

 

 

「クリス、何故その事を……」

 

 

「自分は、あの紛争で生き残った人物から話を聞きました。あの村は――――あの村の人達は、父様に見捨てられたと!」

 

 

クリスはさらに声を荒げる。フランクの口ぶりからして、ジータから聞かされた事はほぼ事実に違いない。だが、その事がさらにクリスの感情を高ぶらせていく。

 

 

何故、隠そうとしていたのか。何故本当の事を話してくれないの、分からない。

 

 

だがその反面、クリスはフランクを信じたかった。嘘だと言ってくれと心が叫んでいる。クリスの中で、どこかで希望を求めていたのかもしれない。

 

 

だが、その希望さえも。こうも簡単に消えてしまおうとは。

 

 

「――――残念だがクリス。その件については軍事機密だ。いくら親子といえども、これ以上話す事はできない」

 

 

「え―――――」

 

 

フランクからの回答は、それで終わった。“軍事機密”という、ただそれだけの理由で。

 

 

今まで渦巻いていた感情の全てが、真っ白になって消えていく。怒りも何もかも、全て。そして、父親に対する感情さえも。クリスはそのまま力なく、椅子に座り込んでしまった。

 

 

しばらくしてフランクは腕時計を確認し、すまないが時間だと言って席を立った。クリスとマルギッテに背を向け、部屋から出ようと足を進める。

 

 

「あ、待って―――――」

 

 

遠ざかっていくフランクの姿を追おうとクリスは席を立とうとするが、力が入らない。

 

 

すると、フランクは最後にこんな言葉をクリスに残した。

 

 

「クリス――――――これは大人の問題だ」

 

 

それは、クリスとフランクの家族関係ではなく、子供と大人という越えられない関係を示した言葉だった。要するに、大人の話に口を出すなという事だろうか。どちらにせよ、拒絶された事実だけは動かない。

 

 

フランクが出て行き、クリスとマルギッテだけが残される。ただあるのは静寂のみ。

 

 

「お嬢様……」

 

 

意気消沈してしまったクリスに声をかけるマルギッテ。だがクリスには反応がなく、まるで魂の抜け殻のようにも見えた。

 

 

「マルさんは……マルさんは何か知っているんですか」

 

 

突然、ぼそりと小さく呟くクリス。そして急にスイッチが入ったように立ち上がり、マルギッテにすがり付き始めた。

 

 

「教えて下さい!父様は……父様は本当に……あの村を見捨てたのですか!?」

 

 

何度も、何度も。クリスは救いを求めるようにマルギッテに訴える。その目には父親に裏切られた悲しみと、父親を信じたいという気持ちが入り混じっていた。マルギッテは口を開こうとしたが……フランクの言葉が脳裏を過る。マルギッテはクリスから目を逸らし、

 

 

「申し訳ございません、お嬢様……軍事……機密です」

 

 

フランクが口にした事と、同じ言葉を口にしたのだった。クリスは絶望し、マルギッテにつかみかかっていた手を話すと、がっくりと膝を崩して項垂れた。

 

 

フランクも。そしてマルギッテさえも。真実を教えてはくれなかった。それはジータとフールの言う通り、本当に村を見捨てたという事なのだろうか。

 

 

クリスの理想が……誇りが、何もかもが消えていく。父親への思いが濁り、真っ黒になっていく。何色もの色が混ざり、もう何の色なのかさえ、分からないほどに。

 

 

 

 

――――――全てが、儚く消える。クリスの信じる、己の“義”の心と共に。

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