聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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70話「侵された学園」

”――――貴方はフランク=フリードリヒをご存知ですか?彼女はそのフリードリヒ家の人間……貴方の村を見捨てた、あの男の実の娘です”

 

 

唐突に聞こえ出す、言葉の断片。

 

 

”――――確かに紛争は鎮圧した……貴様の父親の活躍でな。だが、代わりに私達の村は殺された……私は決して許しはしない。あの男を――正義を騙る偽善者を!”

 

 

言葉は一向に止まない。耳を塞いでも、頭の中へと流れ込んでいく。

 

 

”――――残念だがクリス。その件については軍事機密だ。いくら親子といえども、これ以上話す事はできない”

 

 

その言葉の一つ一つが、空虚になった心に反響する。これは贖罪なのだろうか。それとも。

 

 

罰を与えるように、何度も繰り返し再生される。もうそれ以外は何も聞こえない。

 

 

今、残されているものは虚無。空っぽの心。もはや何を信じればいいのか、分からない。

 

 

全ては、深い深い闇の中。

 

 

 

 

 

「―――――おい、クリス!」

 

 

「―――――!?」

 

 

クリスを呼ぶ華の声が、クリス自身の意識を呼び戻した。一体どれ程の時間が経ったのだろう。どうやらクリスは椅子に座ったまま、何をする事もなく放心していたらしい。

 

 

「あ……その………すまない」

 

 

考え事をしていたと、クリス。しかし今のクリスの状態からして、とても考え事をしていたようには見えなかった。

 

 

「お前……大丈夫かよ?今日一日、ずっとその調子じゃんか」

 

 

「そ……そう、なのか?」

 

 

クリスの反応に、華ははぁと溜息をついた。意識がまだ追い付いていないようだが……かといって、クリスが居眠りするとも思えない。

 

 

「まあ、いいや……ところでさ、さっき千花から妙な話を聞いたんだよ」

 

 

「妙な……話?」

 

 

「ああ、実はさ―――――」

 

 

 

 

 

放課後、場所をファミレスへと移した華とクリス。クリスは千花から聞いた華の話に、耳を傾けていた。

 

 

「学園で……怪しい奴が?」

 

 

華の話によると、深夜に学園内で変質者が現れ、女子更衣室のロッカーを荒らすという事件が発生しているらしい。偶然学園を通り掛かった女子生徒が、学園から怪しい人影が出て行ったのを目撃したのだとか。

 

 

そしてその翌日、女子行為室のロッカーが荒らされていたのだという。

 

 

幸い盗まれたものはないが、その日を境に頻繁になっている為、生徒達は不安を隠せないようだ。

 

 

「女子更衣室を荒らすとは………許せんな」

 

 

何が目的かは知らないが、不法侵入した上に物色とは許せない行為。すぐに対処すべきだ。すると、華が一つ提案があると話を切り替える。

 

 

「そこで、だ。アタシ達でその犯人をとっ捕まえようぜ!」

 

 

犯人を捕まえる為に、協力して欲しいのだと言う。ちなみに依頼も受けてしまったらしい。これも世の為人の為と豪語する華だったが、クリスの目は誤魔化せなかった。

 

 

「どうせまた、報酬目当てだろう?」

 

 

「あ、いやその………別にアタシは、ケーキバイキングの無料券が欲しくて、請け負ったわけじゃないんだからな!」

 

 

要するに、報酬目当てだった。飽きれた奴だとクリスは肩を落とすが、変質者を野放しにするわけにはいかない。クリスは快く華と協力をする事にした。

 

 

「――――話は聞かせてもらったぞ」

 

 

突然、どこからともなく声が聞こえてくる。声はクリス達の席の向かい側からだった。

 

 

現れたのは変装のつもりなのか、サングラスと帽子を被った由香里と、申し訳なさそうに畏まる由紀江。そして、何やら面白そうと興味を示している京の姿だった。

 

 

「ゆ、ゆかりんにまゆっち!?京まで……!」

 

 

都合が悪そうな表情を浮かべる華。察するに、この依頼は少人数の方が良いらしかった。だが話を聞かれてしまった以上、引き下がるとは思えない。特に由香里と京は。

 

 

「華。もしかしてそのチケット、最近できた美味しくて有名な店の奴だよね?」

 

 

私も行きたいと思っていたんだ、とニヤニヤ笑う京。

 

 

「す、すみません!聞くつもりはなかったんですが………」

 

 

頭を下げる由紀江だが、その割りにはちゃっかりと聞いているじゃないかと、この場にいる誰もが思っただろう。

 

 

「私はチケットに興味はないが……クリスが行くなら是非私もイキたい、いや行きたい!」

 

 

協力しようと言いつつも、何やら危険な事を考えている由香里。どうやら是が非でも参加するつもりでいるようだ。

 

 

このまま追い返したら京の事だ、何をするか分からない。断った次の日には“華は虐められて罵られて感じて濡れてしまう、超変態ロリコン雌豚奴隷です。皆さん、可愛がってあげて下さい”と学園中に変な噂を流されかねない(ちなみに間違いではない)。

 

 

「わ……分かったよ!けど、これ以上は誰にも言うなよ?」

 

 

報酬が少なくなるからなと華は念を押し、渋々承諾したのだった。貰える報酬は分割されてしまったが、クリスに加え由香里と由紀江、京がいるとなると心強い。

 

 

これで華を筆頭に、クリス、由紀江と由香里。京が加わった。依頼決行は深夜。夜の学園を舞台に、彼女達は今動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

そして決行時間、深夜帯の学園内玄関。

 

 

華と京、クリス、由香里は川神学園へと忍び込んだ。そもそも真夜中に学園に侵入する事自体、変質者と見られてもおかしくはない。これで自分達が捕まれば笑い話だなと華は苦笑いする。

 

 

「私達はともかく、華は元々変質者だから捕まっても大丈夫だと思うよ」

 

 

だから心配ないよ、と京。

 

 

「まあ、そうだよな。実際アタシはカーチャ様に叩かれて蔑まれると興奮して、そりゃあもう身体が毎日疼いてさ――――って、何言わせんだよ京!?」

 

 

京の直球発言に、顔を真っ赤にしながらツッコミを入れる華。一瞬認めてはいるもの、考えてみれば人に知られてしまうとやはり恥ずかしい性癖である。とはいえ、変態である事には変わりないのだが。

 

 

「よ、よし。んじゃあ気を取り直し……ってあれ、まゆっちは?」

 

 

今更になって気づく華。そういえば、由紀江の姿が見当たらない。出遅れたのだろうか……真面目な性格の由紀江に限って、それは信じられない話なのだが。

 

 

すると、由香里がその事についてなんだがと話を切り出した。

 

 

「ゆっきーなら、その……寝込んでしまった」

 

 

由香里の話によると、出発する前に寝込んでしまい、とても外出するような状態ではなかったので同行できなかったのだという。京とクリスも寮が同じなので事情を知ってはいるが……一体何があったのかを訪ねると、由香里は言いにくそうにしていたが、ようやく説明を始めた。

 

 

「じ、実はだな……」

 

 

 

 

 

出発前の出来事。

 

 

部屋で学園へ向かう準備を整え終えた由紀江と由香里。準備は万端、後は時間を見て寮から出るばかりである。

 

 

「ゆっきー。準備には念を入れた方がいい」

 

 

正座して待機していた由香里が腕を組み、この準備では物足りないと言わんばかりに由紀江に抗議する。由香里の表情は真剣そのものだった。

 

 

「この先、一体何があるか分からないし……何があってもおかしくはない」

 

 

それは、サーシャ達が敵対するアデプトの事だろう。学園にどんな敵が潜んでいるかわからない。万が一相手がクェイサーだとしたら、返り討ちどころか命を落とすかもしれないのだ……由香里の言う事も最もである。

 

 

「由香里……そうですね。でも、他にできる準備は――――」

 

 

突然、由紀江の身体が由香里によって、敷いてあった布団へ仰向けに押し倒される。由紀江は何が何だか分からず困惑していたが、これから何が起ころうとしているのか……何となくだが想像はついていた。

 

 

「あ、あの……由香里?」

 

 

「もちろん、聖乳(ソーマ)の補給だ!」

 

 

「えっ!?あの、ちょ、ちょっと待って………由香―――あうぅっ!?」

 

 

由紀江の制止も虚しく、由紀江の着ていた服は剥かれ、下着も取り去られた。露わになった乳房に由香里の唇が触れる。その瞬間、彼女の聖乳の吸引が始まった。

 

 

激しく吸われていく由紀江の聖乳。いつにも増して由香里の吸引は激しかった。そして由紀江は吸われれば吸われる程、さらに意識ごと吸われていくような不思議な感覚に襲われる。

 

 

由紀江の全てが吸われていく。由紀江の中にあるものが、由香里の身体に取り込まれていく。この感覚に耐えきれず、由紀江は暴れ狂いそうになるが、僅かな理性がそれを制止させる。

 

 

 

しばらくして、由香里の聖乳の補給がようやく終わる。由紀江にとっては、とても時間が長く感じたに違いない。

 

 

「んく……これだけ吸っておけば、しばらくは保つだろう。よし、そろそろ出ぱ―――ん?」

 

 

口についた聖乳を手で拭いながら、放心している由紀江を見下ろす由香里。だが、肝心の由紀江は放心どころか、頬を赤らめながら意識を失っていた。身体を小刻みに震わせ、何度も小さな息を漏らしている。

 

 

「あ……ゆっきー?」

 

 

気を失った由紀江に、恐る恐る声をかける由香里。しかし反応はない。身体を揺さぶっても、頬にキスをしても、何をしても起きる気配はなかった。

 

 

「…………」

 

 

由香里は考える。この状態の由紀江が同行させるわけにはいかない。何より由紀江に危険が及ぶ。ここは休んでもらった方が安全だろう。そう思った由香里は由紀江の洋服を元に戻し、そっと布団をかけると、小さくすまないと言って部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

「―――――とまあ、こんな所だ」

 

 

一通りの説明を終えた由香里。都合が悪くなるような肝心な部分の説明が省かれている。少なくとも分かった事は、由紀江が聖乳を吸われ過ぎて絶頂し気絶してしまったという事実だけである。

 

 

由紀江が来なくなった原因はそれかと呆れ返る京とクリスだったが、華だけは身体――――特に胸の辺りが敏感に何かを感じ取った。同じく吸われる身であるが故の共感作用という奴だろう。

 

 

「と、とにかくここにいてもしょうがねーし、早いとこ変質者をとっ捕まえ――――おっ?」

 

 

突然、何かが落ちたような音が校舎内に鳴り響き、華達のいる場所まで反響する。華達は音がした方角へと顔を向けた。

 

 

廊下の奥へと続く暗闇。照らしているのは緑色に点灯した非常口のランプのみで、それがかえって不気味さを演出している。

 

 

変質者が現れたのかもしれない……華達は互いに頷くと、懐中電灯のスイッチを入れ、廊下の奥へと足を踏み入れた。

 

 

薄暗い廊下を進み、周囲を見渡しながら警戒して歩く華達。程なく歩き続けると、男子トイレと女子トイレの入り口が見えた。

 

 

「………?」

 

 

それは、ほんの一瞬だった。人影のようなものが女子トイレへと駆け込んでいく。その姿は僅かだったが、華達は見逃さなかった。人相は暗くて見えないが、間違いなく人間である。

 

 

「見つけたぜ、変態野郎!」

 

 

「あ、待って華――――!」

 

 

逃がすかよと言わんばかりに、華が一目散に駆け出した。声をかける京だったが、今の華には変質者=報酬しか見えていないだろう。耳を傾ける筈もない。

 

 

本当に変質者かは定かではないが、こんな時間帯に、しかも女子トイレに駆け込むとなるとますます怪しい。華は勘を頼りに女子トイレへと入っていく。

 

 

が、次の瞬間。

 

 

「うわあああああああああああああああああああああああ!?」

 

 

女子トイレから華の絶叫が鳴り響いた。言わんこっちゃない、と京とクリス、由香里。まだ変質者とも決まっていない上、相手がどんな人間かすらも判断できないのだ。迂闊に飛び込めば、何が待ち受けているか分からないというのに。

 

 

華に続き、京達も女子トイレへと駆け込んでいく。華に危険が迫っている……中へ入ると、華が持っていた懐中電灯が床に転がっていた。

 

 

そして、女子トイレの奥で京達を待ち受けていたものは―――――。

 

 

「……………」

 

 

宙吊りにされ、赤い人形らしき物体に身体を縛られた華の姿だった。その異様な光景に、京達も思わず言葉を失った。恐怖とはまた違う、別の意味で。

 

 

何故なら危機感もなければ緊張感もない、華の本質的な姿がそこにあったからである。

 

 

「あーーーーー!!た、助け………いや、やっぱり助けないでぇ!やっ!?あんっ!?痛いっ!?叩かないで!あ、でもやっぱり、叩いてえええぇぇぇぇぇえーーーーーーー!!!」

 

 

痛みと快楽の狭間を行き来しながら叫ぶ華は、幸せそうであった。人形から伸びる、赤い線状のものによって身体中に鞭打ちを受け悦びを得ている華を、変態と言わずしてなんと言おう。もういっその事、華が変質者ですと突き出して終わりにしてしまいたいと京達は思うのだった。

 

 

そして、華を捉えているあの赤い人形。京達には見覚えがある。そう、見間違える筈がない。カーチャの操るアナスタシアである。アナスタシアがいるとなれば、当然カーチャも近くにいる筈だが、カーチャの気は感じられない。

 

 

「一体誰かと思えば………何してるのよ、あんた達」

 

 

背後から聞こえてくる、幼き少女の声。京達が振り返った先には、女子トイレの入り口に立つ小さな少女の影。気配を消して何かを待っていたのだろうか……そこにはカーチャの姿があった。

 

 

 

 

 

カーチャと華達はその後、女子トイレから空き教室へと移動する。

 

 

「それで?お前はくだらないチケットの為に、変質者とやらを捕まえるつもりでいたわけ?笑わせるじゃない。誰が一番変質者か分かってるくせに。ほら、答えなさいよ。変質者は一体どこにいるのかしら?」

 

 

アナスタシアに捕縛された華に手にした鞭を放ちながら、さらに罵倒を浴びせるカーチャ。その度に華は歓喜して恍惚の表情を浮かべる。

 

 

「は、はい!ここです!!ここにいます!あたしが変質者です!!ど、どうかカーチャ様、あたしにご褒美……じゃなくて罰を与えてくださいぃぃ!!!」

 

 

もはや傍観している京達の視線すらも気にならない。カーチャのご褒美という名の罰を身体に受けながら、華はただ悦びを貪り続けている。彼女のマゾヒズムは、止まる事を知らない。このまま変質者として捕まえられてもいいと思うくらいに。

 

 

すると、痺れを切らしたクリスがカーチャと華のやり取りに割って入る。

 

 

「二人ともこんな事をしている場合か!こうしている間にも、変質者が校内に潜伏しているかもしれないのだぞ!?」

 

 

少しは気を引き締めろ、と叱責するクリス。カーチャはふんと鼻であしらうと、鞭をしまい机の上にポンと座り込んだ。

 

 

「まあ、あんた達がいるのは予想外だったけど、雌奴隷が使えなくなったからちょうどいいわ」

 

 

このまま華を連れていくと、カーチャ。どうやらカーチャもマリア(奴隷)も同行させるつもりだったらしいが、何か事情があったのか、現在はカーチャ一人である。恐らくだが、カーチャの奴隷も由紀江と同じような境遇にあったに違いないと、京達の勘がそう働かせていた。

 

 

「ところで、“変質者”とやらを探しているようだけど……仮にその“変質者”を捕まえたとしても、根本的な解決にはならないわよ?」

 

 

先に忠告しておくわ、とカーチャ。まるで何か知っているかのような口ぶりである。

 

 

否、実際には知っているのかもしれない。それにカーチャがいるという事は、少なからずアデプトが絡んでいる可能性が高い。

 

 

知っているのならば、詳しい状況を聞きたかった……だがそれも束の間、この空き教室の外から感じる気配によって打ち切られる事になる。

 

 

空き教室の扉が開き、その気配の主達がニヤニヤと笑いながら入り込んでくる。肩に刺青の入った人相の悪い男達が数人。恐らく学園に侵入していた例の変質者達だろう。

 

 

「ようよう。こんな夜中に何してんの?」

 

 

「もしかして、肝試しとか?んなことよりさ、俺達ともっとゾクゾクする事しね?」

 

 

ひひひ、と下品に笑う男達。漫画やドラマに現れるような、いかにも悪人である彼らはカーチャ達を舐め回すように眺めている。どうやら男達は彼女らに手を出すつもりでいるようだ。

 

 

「一応聞いておくが……お前達の目的はなんだ?」

 

 

もうこの手の悪党は見飽きたと言わんばかりに、クリスは腕を組みながら男達に問いかけた。すると、男達の内の一人がゲラゲラと笑いながら答える。

 

 

「何だ何だオイ、答えたらパンツでも脱いでくれんのかよ?」

 

 

その解答に、どっと笑い出す男達。そして呆れて怒りの感情すらも湧き上がらないクリスとカーチャ達。もはや酌量の余地もない。そしてこの時点で、彼らが変質者であると断定した。

 

 

後は、粛清するのみ。

 

 

「――――いや、その答えだけで十分だ」

 

 

これで裁きを下す理由ができたと、先に動いたのは由香里だった。由香里はいつの間にか男達の背後に回り、男達が遅れて後ろを振り向いた時にはもう、全てが終わっていた。

 

 

男達は断末魔もあげないまま、床に倒れ伏せている。由香里が手刀で首筋を打ち、気絶させたのだろう。僅か数秒足らず。粛清は一瞬にして終わりを告げた。

 

 

「武器を取るまでもないな。パンツを被って出直してこい!」

 

 

「何というひどい決め台詞……」

 

 

決め台詞を放ってドヤ顔をする由香里と、ツッコミをいれる京。余計な一言で何もかもが台無しであるが、由香里の活躍によって事件は解決した。

 

 

後はこの男達を警察に突き出して、依頼終了。あっけない終わり方であった。これで事件は完全に解決……したかに見えた。

 

 

「………な」

 

 

突然、さっきまで倒れ伏せていた男達が立ち上がり出したのである。加減が甘過ぎたかと少し驚く由香里だが、そう簡単に意識を戻すとは思えない。

 

 

しかし男達の様子は先程とは違い、表情は一変し、まるで理性を無くした獣のような目で由香里を睨んでいた。涎を垂らし異様な気を漂わせているそれは、まさに獣という一言に尽きる。

 

 

「……パンツ……ぐへへ……よこせぇ!」

 

 

「女……犯す……!」

 

 

精神状態が明らかに異常を起こしている。元々異常ではあったものの、さらにその異常さが増していた。これは普通ではないと、気を緩めていた京達は身構える。

 

 

そして、男達の首筋や肩に光り出す怪しげな紋章。紋章は黒と紫の入り混じったような色の煙を揺らめかせ、まるで男達の欲望を表すかのように怪しく光を放っていた。

 

 

怪しげに光る紋章。あれは間違いなく、川神市に蔓延る謎の元素回路(エレメンタル・サーキット)である。

 

 

「例のサーキットね……しかも操られてる」

 

 

ち、と舌を打つカーチャ。男達は本能のままに動いている。元素回路の影響で、本能が更なる欲望を呼び、もはや人間としての知性さえも失ってしまった獣の成れの果て。カーチャ達には彼らがそう見えてならなかった。

 

 

今の男達は普通ではない。それ以上に、“異端”である。その現実がカーチャ達に突きつけられていた。元素回路によって狂気と化した彼らには、話し合う余地すらもないだろう。

 

 

もとより、カーチャ達は話し合うつもりもない。立ちはだかる敵は、全て打ち倒すのみ。

 

 

「肩慣らしにはちょうどいいかしら――――華、いくわよ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

カーチャの呼び声に答え、縛り上げていた華を下ろしアナスタシアが動き出す。

 

 

「お前達の血は―――私が銀色に染める!」

 

 

「クリスティアーネ=フリードリヒ、参る!」

 

 

「椎名京、行くよ!」

 

 

由香里、クリス、京もそれぞれ武器を手に戦いへと身を投じる。負けるわけにはいかない。自分達が過ごす学び舎を……日常を、守る為に。

 

 

深夜の学園を舞台に、異端との対峙が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

一方、学園の別の教室。

 

 

薄暗い闇に包まれた伽藍堂の教室。唯一の照明は、窓から照らし出される月明かりだけである。

 

 

その教室の教卓に足を組んで座り込み、不気味に笑う少女が一人。少女の人差し指には糸が巻き付けられ、糸の先には不気味な濃い紫色の光を放つクリスタル―――ペンデュラムがゆらゆらと揺れている。そのクリスタルの中には黒い紋章が浮かんでいた。

 

 

「あっはっはっは……!マロードって奴も、なかなか面白い玩具(おもちゃ)くれんじゃん!」

 

 

まるでプレゼントに喜ぶ子供のように、ペンデュラムを何度も揺らしながら無邪気に笑う少女。否、無邪気という言葉は似つかわしくない。“邪気”と呼ぶ方が何よりも相応しいだろう。

 

 

「さぁて………せいぜい楽しませろよな、雌豚どもおおぉぉ!!」

 

 

そう、彼女―――エヴァのクローン体であるV(ファオ)にこそ、与えられるべき称号なのだから。

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