聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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71話「異形-Variant-」

元素回路(エレメンタル・サーキット)によって狂化された男達が一斉にカーチャ達に襲いかかる。男達にはもう、目の前の獲物しか視認できていない。

 

 

捉え、暴力でねじ伏せ、そして犯し尽くし、更なる欲望を生み出す獣。力の象徴であり、そこには人としての理性はなかった。

 

 

だが、たとえ力を得たのだとしても、カーチャ達に敵う道理などありはしない。

 

 

「バカの一つ覚えね―――――ママ!」

 

 

何の戦略もなく、猪突猛進に向かってくる男達。その姿は酷く滑稽だと嘲笑うカーチャ。カーチャが操るアナスタシアは男達を迎え撃ち、無数の銅線で輪舞曲(ロンド)と言う名の洗礼を浴びせながら次々と葬っていく。

 

 

「近づくんじゃ―――――ねぇ!」

 

 

男の顎に強烈な蹴りを入れる華。男はそのまま勢いよく吹き飛ばされ、泡を吹きながら倒れ伏せる。ミハイロフ学園のある街で不良グループのリーダーをしていただけあり、喧嘩も人並み以上に慣れきっていた。

 

 

しかし迎撃してもすぐに、華の背後を狙う男が襲いかかる。華が振り返った時はもう、男は眼前まで接近していた。

 

 

だが、

 

 

「――――させないっ!」

 

 

京の放った矢の一撃が男の横顔に直撃し、男は華に一撃報いることなく沈黙した。華の接近戦と京の遠距離攻撃。隙のない連携である。

 

 

「いくぞ、クリス!」

 

 

「ああ!」

 

 

由香里とクリスも互いに背中を預けながら、剣戟で男達を薙ぎ払う。反撃すらも許さない程の彼女達の攻撃は、男達を一瞬にしてねじ伏せたのだった。

 

 

 

 

”――――――ほら、寝てないでさっさと立ちな”

 

 

 

 

倒れていた男達が再び立ち上がる。その表情は酷く虚ろで、感情の宿らない人形に命を吹き込まれ、ただ敵を倒す為だけの機械と化す。もはや彼らの動物的本能は既にない。

 

 

そして身体で不気味に光を放つ元素回路。その光は更に禍々しさを増しているように見えた。

 

 

考えられる事は一つ。男達を操っている何者かが、元素回路を使って使役している……それも、男達の意志とは関係なく、生命活動が停止するまで。まるで使い捨ての道具のように。

 

 

「く、これじゃあ………」

 

 

キリがない、とクリス。倒しても再び立ち上がり、何度もそれを繰り返す。身体が傷付いたとしても、そこに男達の意志はない。何故なら彼らは人形でしかないのだから。

 

 

「完全に息の根を止めるか、四肢でも切断しない限り止まりそうにないわね」

 

 

カーチャの冷酷な発言に、凍り付く京達。しかし、そうでもしなければ解決しない事もまた事実。ゾンビを相手にしているような物である。

 

 

「!?こいつら、さっきよりも力が………!」

 

 

男達の猛攻を受け止めつつ、再び剣戟で打ち払っていく由香里。だが、男達の力は先程よりも強さを増していた。恐らく元素回路の影響だろう。一子と同様、強制的に限界以上の力を引き出されているに違いない。

 

 

このままでは男達の身体が悲鳴を上げ、破壊されていくのは目に見えている。仮に拘束できたとしても、腕を引きちぎってでも立ち上がるだろう。操られている以上、彼らも被害者なのだ。変質者とはいえ、殺す道理はない。

 

 

「ここから出て、本体を探し出すわよ」

 

 

止めるには、それしかないとカーチャ。このまま戦いを繰り返していても時間の無駄である。ならば本体を探し出すしかない。カーチャ達は一度男達を全て殲滅させると、教室から脱出し学園内を奔走するのだった。

 

 

(…………ん?)

 

 

その最中、クリスはふとある物に気づく。この教室を出る直前、窓の向こうにある向かい側の学園の窓が一瞬だけ光ったような気がした。遠い距離からでの視認であった為定かではないが、何かあるとクリスの勘がそう告げていた。

 

 

「自分は向こう側から調べる!」

 

 

廊下へと出たクリスはカーチャ達と離れ、別行動を取る事を選択した。この状況を打開できる突破口を見つけられるかもしれない。

 

 

「なら、二手に分かれよう!」

 

 

一人じゃ危険だ、と由香里。状況が把握できていない今、単独行動は自殺行為である。何が起こるか分からない上、傀儡された男達が追いかけてくるのだ………クリスは頷くと、由香里と共に廊下を走り出した。カーチャ達もそれと同時に反対の方向へと足を向ける。

 

 

クリスと由香里。そしてカーチャと華、京はそれぞれ動き出した。サーキットを傀儡している本体を探し出す為に。

 

 

 

 

 

一方、学園に潜伏していたV(ファオ)

 

 

教卓に座り込みながらペンデュラムを弄んでいた。しかし飽きがやってきたのか、大きく溜息をつくと持っていたペンデュラムを首にかける。

 

 

「………やっぱつまんねぇわ」

 

 

直接痛ぶるほうが相に合う、とV。Vの性格上、他者を操作する戦い方は気に入らなかったらしい。興味本位で使っては見たものの、面白かったのは最初だけのようだった。

 

 

後は何もせずとも、勝手に男達を傀儡するだろう。ペンデュラムへの興味は完全に失せてしまっている。Vはつまらなそうに教卓から投げ出した足を動かしていた。

 

 

「―――――随分と退屈そうだな」

 

 

だが、空き教室内に響いたV以外の声と気配によって、その退屈は打ち破られた。

 

 

Vは教室の入り口へと目を向ける……そこにいたのはクリスと由香里であった。手分けして居場所を嗅ぎつけてきたのだろう。しかしVは驚きはしなかった。むしろ彼女らが現れた事により歓喜している様子である。

 

 

ようやく退屈を殺せると、彼女の欲望が疼いた。

 

 

「あっははは!餌が掛かったと思えば、騎士様気取りのお嬢様とババアの出来損ないかよ!」

 

 

狂い笑いながらクリス達に侮蔑の意味を込めた暴言で名指し、吐き捨てる。明らかに挑発としか思えない言動がクリス達を苛立たせた。しかし、挑発に乗ってしまえば相手の思う壺である。

 

 

「……あの男達を操っているのはお前の仕業か?V」

 

 

常に抜刀出来るように構え、Vに問いかける由香里。するとVはああ、これねと首にかけたペンデュラムのクリスタルを見せつける。

 

 

元素回路によって作られたペンデュラム。クリスが窓越しから見た光の正体。月明かりでクリスタルが乱反射して見えた物。Vの居場所も、その光のおかげで突き止める事ができた。

 

 

もう逃がさない――――クリスと由香里は身構え、Vを包囲する。

 

 

だが、何の目的で学園で騒ぎを起こしているのだろうか。少なくとも、エヴァやフールから何らかの指示を受けている筈である。

 

 

「貴様の目的は何だ?」

 

 

レイピアの先端を突きつけながら質問を投げるクリス。尤も、これで素直に答えてくれれば苦労はしないのだが。Vは相変わらずうざってぇと吐き捨てると、予想だにしない解答をクリス達に投げかけるのだった。

 

 

「はぁ?目的?んなもんねぇよ」

 

 

ただの暇潰しだと、そう答えたのである。目的はなく、自分の都合で他者を利用していたに過ぎないと。欲望を満たす為の玩具として。

 

 

あまりにも身勝手な理由で、心の底まで歪み切った欲望。クリスは自分の中で、憤怒の感情を煮えたぎらせた。彼女の行いは、決して許される事ではない。己が正義を以って、斬り伏せなければ―――クリスはレイピアの切っ先を向け、Vに宣告する。

 

 

「V……貴様の起こした非道、許しはしない!己が義を以って、成敗する!」

 

 

闘気を迸らせ、クリスの本能が叫ぶ。戦士として。騎士として。正義を貫く為に。

 

 

正義……聞くだけで虫酸が走るとVは吐き捨てた。正義感の塊であるクリスの存在自体が、彼女にとっては気に食わない。同時に、彼女の本能が潰せと命令する。

 

 

「正義正義って……マジでうっとおしいわ。正義だの悪だの、そんなくそ見てーな哲学に興味なんざねーんだよ!」

 

 

誰が正義で、誰が悪なのか。Vには興味はない。本能の赴くままに潰したいから潰し、犯したいから犯す。Vにあるのは、ただそれだけである。

 

 

クリスとは相反する存在のV。もはや諭す猶予もない。理解できないのならば、その身に刻み込むまで………そう、クリスの正義の刃によって。

 

 

「ならば、教えてやろう。自分の正義を!父様の正―――――」

 

 

その言葉を口にしようとした瞬間。クリスの思考が停止した。まるで息が詰まるような感覚がクリスを襲った。それはあまりにも突然過ぎる静寂の訪れ。その訪れは、クリスの闘気さえも、戦う意思さえも奪い去っていく。

 

 

"フランクの正義"。それはクリスの誇りであり、信念でもある。思考を止める理由などない。ただ、それを貫き通せばいい。

 

 

それなのに――――どうして。

 

 

「父……様の………」

 

 

クリスの心に、迷いが生まれてしまっているのだろう。迷いだけではない。追い打ちをかけるように、さらに恐怖心がクリスを塗りつぶしていく。

 

 

レイピアの持つ手が、震え出す。息が急に荒くなる。おかしい。こんな事、今までの一度もなかった筈なのに。

 

 

「クリス……どうした?」

 

 

クリスの異変に、由香里が声を掛ける。動揺しているようにも見えるが……一体クリスに、何が起こっているのだろう。

 

 

当然、Vも異変に気付いていた。闘気に満ちていたクリスからは、戦意が消えている。理由は分からないが、恐怖と動揺に染まったクリスの姿は酷く滑稽で、Vにとって愉快でならなかった。

 

 

「……はあ?父様ぁ?父様がどうしたって?」

 

 

クスクスと笑いながら、何度もVは繰り返す。まるで甘い蜜を啜るように。そして、じわじわと追い詰めるように。

 

 

このままでは、剣を握れない。戦えないという不安に支配される。クリスは強引に渦巻く感情を振り払い、Vに向かって力任せに叫んだ。

 

 

「父様の……軍人である、父様の"正義"と、"誇り"だ!」

 

 

信念を口にした事で、いくらか不安が和らいだような気がした。迷いと恐怖は消えたわけではないが、少なくとも戦う事はできる。これで剣を振るう事ができる。

 

 

すると突然。何を思ったのか、Vは吹き出しながら笑い転げた。

 

 

「……あっははははははは!マジ傑作!騎士様の父親が軍人かよ!!」

 

 

クリスの言葉に涙を浮かべながら笑いつづけるV。よほどおかしかったのか、腹まで抱えている始末。そのVの巫山戯た態度に、クリスは何がおかしいと怒号する。

 

 

「何がおかしいって?これが笑わずにいられるかよ!だってさ――――」

 

 

ふと、彼女の笑いが止まり、彼女のあどけない少女のような表情が悪魔へと切り替わる。そして、クリスを射抜くように視線を向けながら、

 

 

「軍人って―――――”人殺し”じゃん」

 

 

クリスにとって、最も致命的で残酷な言葉を向けるのだった。

 

 

軍人は人殺し。その言葉は、フランクに対する侮蔑の意味が込められ、クリスの掲げていた信念さえも容易く打ち砕いた。

 

 

まるで、正義は犠牲の上に成り立っていると。そう訴えかけているように。

 

 

「ち、違う!父様は人殺しなんかじゃない!」

 

 

否定をするも、クリスの信念は揺らいでいた。不安が一気に膨れ上がっていく。同時に、フランクに対する思いも、変わっていく。

 

 

Vの言葉はクリス―――フランクへの許し難い侮辱である。沸き起こる感情は怒り。それなのに、ある迷いがクリスの邪魔をし剣を鈍らせる。

 

 

そして、今まで思いもしなかったフランクへの感情が、心の奥底へ眠っていたかのように、疑念となってクリスへ訴えかけた。

 

 

 

”軍は……父様は、本当に―――――”

 

 

そこから先を、頭の中で強引にシャットアウトした。それは、フランクを人殺しと認めてしまうようなものだ。違う、違うと何度も自分で自分を抑え込み続けた。しかし、迷いや疑念は未だに消えないまま、クリスを苛ませている。

 

 

その一方、苦しむクリスを眺めるのは愉快でならないと笑うV。まだ苦しませたい。それ以上に苦しみを味合わせたいと、サディストの本能がVの感情を昂らせた。

 

 

もっと、彼女に苦しみを。Vは更なる行動に出る。

 

 

「だったらさぁ――――証明してみせろよ」

 

 

Vが掲げたペンデュラムが発光した瞬間、教室の天井、床。その隙間から湧き出るように銀色の液体―――水銀がVの背後へと収束する。水銀は銀に輝く光沢が月明かりに照らされ不気味に光り、収束を繰り返しながら徐々に形状を整えていく。

 

 

それはようやく形を成し、"異形"となってクリス達の前に姿を現した。

 

 

目や鼻。表情のない、人のような頭。異常に伸びた両腕。針のように尖った指。細い胴体と足。背中にはヒレのような物体が生えている。形状が不完全なのか、身体中は水銀が垂れ落ち、溶けているようにも見えた。

 

 

「なんだ………そいつは」

 

 

これがVが生み出した異形。それを目の当たりにし、クリスと由香里は言葉を失う。

 

 

今目の前にいるのは、人でもなければ動物でもない。そもそも、生物と呼べるのかさえも怪しい。あるのは殺意の塊。生けるもの全てを殺しつくす化け物である。

 

 

「―――――」

 

 

異形は何も言わず、ただVの背後で佇んでいる。Vの命令を待っているのだろうか。異形には目がないのにも関わらず、クリス達には見られているような気がした。まるで、獲物を狩る飢えた獣のように。

 

 

Vは証明して見せろと言った。それが何を意味するのかは分からない。だがこの異形を倒し、Vを退けない限りこの状況は変わらない。

 

 

迷っている暇などないのだ―――――クリスはレイピアの柄を強く握りしめた。今は戦うしか、開ける道はないのだから。

 

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