聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
シリアスな話が続いているので、ここで一服……。
その一方、京と華は打撲と打ち身だけで済んでいた。身体には異常も見られず、一日二日安静にすれば問題ないとの事である。
そう、医師からして見れば、一般的な知識上では何の問題もない。ただ一つ、京の身体の中で起きている見えない異常を除いて―――――。
「………」
「………」
京と華は由香里が眠っている病室を後にする。由香里の怪我は命に別状はないものの、しばらくは動けないとの事らしい。病室の中では由紀江が付きっ切りで、今も看病を続けている。
「………まゆっち、ずっと泣いてたね」
ぼそりと呟く京。由香里が負傷したと知ってすぐ、由紀江は寮を飛び出して病院へと駆けつけた。その時の表情は不安一色と言わんばかりに青ざめ、由香里の姿を見た瞬間、溜め込んでいた感情を爆発させながら泣き崩れた。その後は目が覚めるまでここにいますと言い、現在に至っている。
きっと、由香里の意識が戻るまで眠らないつもりなのだろう。京と華はこれ以上、由紀江に声をかけるつもりはなかった……否、かけられなかった。そもそも自分達の都合で、こんな事に巻き込んでしまったのだから。
病室を後にした京と華は、待合室のソファに座り込む。早朝の待合室に、人気は殆どなかった。もうすぐ大和達が合流する……すると華が俯き加減に、小さく声を漏らした。
「アタシのせいだ。みんなを誘わなけりゃ、こんな事には……」
もし、京達を誘っていなければ、こんな大惨事にならずに済んだ。自分の我儘で仲間を巻き込んでしまった事に、華は罪悪感を感じていた。
しかしそんな華に対し、京はううんと首を振る。
「華のせいじゃないよ。だって、
自分を責めないでと京は華の肩にそっと手を置く。京の手は暖かく、そしてとても優しかった。京はそのまま続ける。
「それにもし、私達を誘ってくれなかったら……きっと華とクリスはもっと酷い目にあってたと思う。私はその方が、ずっと嫌」
「京……」
京にとって本当に怖い事。それは自分が傷つく事ではない。大切な仲間が傷つく事。それは自分が傷つく事よりも、たまらなく苦しい。仲間だから……と、その京の優しい気持ちが、華の胸の中を熱くさせた。
「……ありがとうな」
涙を堪えながら、照れ臭そうに華は笑ってみせるのだった。
出会った頃は無愛想だった京。互いの境遇はあまりにも正反対で、過去の事で喧嘩もした。すれ違いもあった。しかし、今では信頼し合える親友と呼べる間柄である。本当に不思議なものだ、と華はしみじみ思うのだった。
(……それにしても)
そんな中、京は身体に違和感を感じていた。医師の診断では異常はないと言っていたが……身体中が這い寄られているようなこの感覚は、一体何なのだろう。
(何か、身体中が……ずっと、ビリビリしてる……)
思えば、異変を感じるようになったのは、華が雷の
うまくは表現できない。身体の内側から、常にくすぐられているような感覚。何と言うか、むず痒い。内側から来る痺れは、やがて肌を通して感じるようになっていた。
痺れる。力がうまく入らない。風邪をひいた時と似ている。この感覚が止まらない。
「お……おい、京。さっきからお前何か変じゃないか?」
大丈夫かよ、と京の肩を叩く華。そして、華が京の肩に触れた瞬間。
「ひゃうううううううぅぅ!?」
突然、ウサギのように身体を跳ね上がらせ、素っ頓狂な声を上げたのである。一気に身体の力が抜け落ち、座位が取れなくなり、京はソファに凭れかかる。
触れられただけなのに。ただそれだけで、まるで電流を流し込まれたような……いや、実際に流し込まれている。マグダラの加護を受けた京の身体の中に、まだ余力が残っているとでも言うのだろうか。少なくとも、今の京の身体が非常に敏感になっている事だけは理解できた。
しばらくして、京と華を呼ぶ声が二人の耳に届いた。現れたのは大和とユーリだった。
「おう。二人とも怪我は……って、京?」
大和が最初に目にした光景は、腑抜けになった京の姿と、京の異変に驚いている華。いったい何があったのか。
「そ、それが、京の肩を触ったら急に……」
華は京との一部始終を大和達に説明する。京の肩に触れた途端、京の身体が飛び跳ね、へたれ混んでしまったのだという。しかし、説明を受けた大和は困惑していた。何が何だか理解できない。理解できないのは華も同じなのだが。
「―――――サーキットの影響ね。華がマグダラの力を使ったのよ」
話に割り込み、現れたのはカーチャだった。つまり、華のマグダラの力による一時的な後遺症だと大和に説明する。華も若干の心当たりはあったのか、う、と小さく声を上げた。
雷の携香女。
「で、でもカーチャ様。もしあの時使わなかったら、クリスが……」
あの時、マグダラの力を使わなければクリスは水銀体の餌食となっていた。やむを得なかったと華。しかし、カーチャはそんな事はどうでもいいわと首を振る。
「華が誰に使おうと、興味ないわ。私が許せないのは―――――」
そう言ってカーチャは足で華の顔を踏み、踵で頬をぐりぐりと抉るように押し付けた。
「――――主人に黙って、マグダラを使った事よ!」
カーチャが気に入らない事。それは京にマグダラを使った事ではない。何よりもカーチャに何の許可もなくマグダラを……自分の所有物を無断で使われた事に腹を立てていた。
「自分の立場は弁えているとばかり思ってたけど、馬鹿でどうしようもないド変態の桂木華には、まだまだお仕置きが必要みたいね!」
カーチャの踏み付けがより一層強さを増す。華の頬は押し潰され、痛みに耐えながらもその表情は恍惚で染まっていた。しかも、大和達にまで見られている。そう思うと更に興奮し、華の全てが快楽へと変わる。
「あ……い、痛い!?ああっ、そ、そこ!すみませんすみません!物覚えの悪い雌犬でごめんなさい!だからもっと……もっと強く、アタシを痛めつけてくださぁい!」
反省しているのか、悦んでいるのか。もう大和達にとってはどちらでもよかった。それよりも、心配なのは京だ。マグダラの加護を受けた京の身体。一子の一件が脳裏に蘇る。
「後遺症なら心配いりませんよ、大和君。そもそも京さんは普通じゃないようですし」
それは京が武士娘だからなのか。それとも性格的な意味合いなのか。ユーリはにこやかに答えた。ユーリが言うのだから、確証はある。それに言われてみれば……と思わず納得してしまう大和だが、それでも心配なのは変わりない。
しかし、次の京の取った行動が、その心配を跡形もなく打ち砕く。
「や……大和……」
京は大和の足に絡み、縋り付きながら上目遣いで大和を見上げていた。目は明らかに誘っている。いつもの京だと安心したと同時に、とてつもなく嫌な予感がよぎった。
「今すぐ私を抱いて……身体が痺れて、何かすごく気持ちいいの。こうして大和にしがみ付いているだけでも……ああ、もう私、死んでもいいかも!」
何故か幸せそうにうっとりしている京。マグダラの後遺症をもろともせず、寧ろそれを楽しんでいる。そして呆然と見下ろす大和。別の意味で心配が増えてしまったと頭を抱えた。
「大和~……私を……あっ、身体が痺れ……早く抱いて……」
「あはっ!?痛いっ!気持ちいい!も、もももっと奥まで!奥まで!アーーーッ!!」
心配して病院に駆け付け、早々に目の当たりした現実。カーチャに痛めつけられ、快楽の海に溺れる華。マグダラの後遺症に酔い痴れ、ひたすら大和に求め絡み続ける京。
これが奇跡の代償だとでもいうのか。だとしたら奇跡なんか糞食らえだと、大和はこの光景を目に焼き付けながら思うのだった。
「大和君、今の心境を一言」
「俺、もう帰っていいかな」