聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
長い間体調を崩しておりましたが、取り敢えず復活です。
また途絶えるかもですが、よろしくお願いします。
サーシャとクリスの前に突如として現れたフランク。そしてドイツ軍の軍隊。フランクは静かにサーシャ達に立ちはだかり、逃がさないと言わんばかりに軍隊の包囲網を張り巡らせていた。
「こんな夜中に出歩くのは関心しないな」
フランクの表情は変わらない。無表情と言った方が正しいか。それも声にも感情が感じられない。二人には分かる。軍人として感情を押し殺していても、フランクとしての尋常ではない、静かな怒りが確かに満ちていた事を。
クリスは父親に対し、初めて恐ろしいと感じた。こんなフランクは、今まで見た事がない。
「こんな夜中にわざわざ軍隊を連れ歩いて巡回とは、ご苦労な事だな」
皮肉の意味を込めて、サーシャはフランクに投げかける。しかしフランクはなおも表情を変えず、サーシャ
に視線だけを注ぐ。
「君の事は知っているよ。アトスのクェイサー……アレクサンドル=ニコラエビッチ=ヘルーーー致命者サーシャ」
娘が世話になったね、と。淡々とした口調で喋るフランク。フランクはそうサーシャに告げると、これ以上サーシャに興味を示す事はなく、すぐにクリスへと視線を戻した。
フランクの目的は逃亡したクリスを連れ戻す事だ……他の事など眼中にはない。
「アトスの人間にはもう関わるなと言った筈だが?」
腕を組み、フランクは今一度クリスに問いかける。病室で告げられたフランクの言葉。仲間達と別れ、サーシャ達アトスとの関わりを断つ。だが、そんなもの認められる筈がない。たとえフランクの娘であろうとも、クリスはクリスなのだから。
「……それは自分が決める事です。父様が何と言おうと、自分はここを離れるつもりはありません」
フランクに見せたクリスの意思は固く、そこに迷いはない。サーシャに諭された事で、クリスは現実と向き合おうとしていた。もう逃げない。真実を語らないのならば、語るまで抗い続けるのみ。
一方、フランクはこうなる事を予想していたのか、表情は冷静そのものだった。フランクは腕を組み直すと、静かにこう告げた。
「ーーーそうか。なら強引にでも連れて帰るまでだ」
瞬間、空気が一変した。フランクの一声で軍隊がクリス達に銃を向け、彼らの動きを束縛する。呼吸一つすら許さない程の完全包囲。逃走は無論、皆無。
だが、軍人とはいえこの人数を相手に戦えないサーシャではない。相手がいかに訓練と実戦を重ねてきた手練れであろうとも、サーシャは死地を潜り抜け、これ以上の敵と戦ってきたのだ……臆する理由などありはしない。
それに、フランクはクリスを連れ戻すのが目的である。殺してでも連れ帰るとなれば話は変わるが……軍人である以上、可能性は否定できない。そこまでするとは思えないのだが。
するとサーシャの思考を読み取ったのか、安心したまえとフランクが前置きをする。
「彼らの装備している銃に実弾はない。だが代わりにある特殊弾を装填してある……君達アトスがよく知っている、元素回路を組み込んだ特殊仕様だ。着弾すればサーキットが体内に進入し、クェイサーの力の源であるソーマエネルギーを破壊するーーーまさに悪魔を殺す”銀の弾丸”といったところか」
元素回路が組み込まれた対クェイサー用に支給された特殊弾。それは、サーシャがいるという事を予め想定した上での対策。この男、ただの軍人ではないとサーシャはあらためて痛感した。クェイサーに通じているという事は、異能力者とも交戦している事が理解できる。フランクの言っている事が事実ならば、着弾したら最後、サーシャはただの人間に成り下がる。ハッタリとも思えない。
ならば、どう戦う。特殊弾の嵐を掻い潜りながらクリスを守るのか。あまりにも無謀過ぎる。それに特殊弾をうまく退けたとしても、フランクがいる。フランクの戦闘力は未だ未知数。迂闊に手は出せない。
「……もう一度言おう。クリス、今すぐ手を退け。退かないのならば是が非でも連れ帰る」
二度はないぞ、とフランクの目がそう訴えていた。フランクは、どんな手段を駆使してでもクリスを連れ帰るつもりでいる。
「……父様、どうしてそこまでサーシャ達クェイサーを敵視するのですか?」
クリスからサーシャ達を引き離す理由。何かがある事だけは事実。フランクの意思が変わらないのなら、クリスも聞き出すまで動かない。するとフランクはようやくその真意を語り始めた。
「お前は彼らと関わり、そして理解した筈だ。クェイサーに関われば、一体どういう事になるのかを」
クェイサー……アトスと関わりを持つという事。それは常に危険と死の隣り合わせ。いつアデプトのクェイサーが襲撃してくるか分からない。娘の身を案じ、娘を思うフランクの気持ちはクリスにも痛い程伝わってきた。
だがそれでも、クリスには守りたい仲間達がいる。だからこそ、譲れない。
「危険に晒されるという事は重々承知の上です。しかし、今こうしている間にもアデプトの人間はーーー」
「ーーーそうではない!」
クリスの言葉を遮り、フランクが激昂する。それは、軍人としてではなく純粋な父親としての怒り。
「クリス、どうやらお前はまだわかっていないようだな。確かにクェイサーは強力な存在だ……だがその代価として必要なのは聖乳。つまり、それはーーー」
明かされるフランクの真意。クリスやサーシャ、隊員達もが息を飲んだ。そして今この瞬間、フランクから告げられた真実。それはーーー。
「私の愛しい娘が、クェイサーに聖乳を吸われるという危険に晒されてしまう事だ!そんな事は、たとえ神が許しても私が許さん!!」
…………。
場の空気が、沈黙した。
サーシャはもちろん、隊員達の誰もが言葉を失った。明かされた驚愕の事実。隊員達はなんとなく予想はついていたのか、動揺は見られない。しかし、これでサーシャのフランクに対しての警戒心が一瞬にして消え失せた。ようは、ただの親バカなのだ。
だが、それよりも驚愕を通り越し表情を真っ赤に染めているのはクリスである。何故なら、先程サーシャに吸引されたばかりだからだ。動揺が表情に現れ、言葉が出ない。
「む……?」
クリスの異変に気づくフランク。様子がおかしい。まさか……と、フランクの脳裏に不安が過ぎった。そんなはずはないと強引に不安を拭い去るフランクだったが、その不安はサーシャの一言で確信へと変わる。
「お前の考えている通り、そのまさかだ……一足遅かったな」
サーシャはまるで勝ち誇ったかのように、静かに笑って見せた。フランクの表情が、一瞬にして凍りつく。
そして、
「き………貴様ああああああああああ!」
フランクの怒りが、押さえ付けていた感情と共に音を立てて弾けた。周囲の空気が一変、肌を突き刺すような殺意がサーシャ達を襲う。恐らくこれが、フランク自身の戦闘力。サーシャの警戒心が再び警告する。この男は危険であると。
隊員達もフランクの気迫に触発され、サーシャ達に銃口を突き付けた。しかしフランクをそれを制し、銃を下ろせと命令する。
「お前達は待機だ、手を出すな。この少年だけはーーー私が直接手を下さなければ気が済まない」
大切な娘に手を出した、その代償は大きい。フランクは自らの手で鉄槌を下すとサーシャを睨み付けた。隊員達は銃を下ろすと、サーシャ達から離れ、廃工場内から消えていく。
これで銃撃される危険性はなくなった。状況は一変、フランクと一対一で戦う事ができる。少しは部があるかと判断したサーシャだったが、フランクは思い上がるなとその思考を一蹴する。
「これで戦局が有利になったと……そう思っているのだろう?だがそれは大きな間違いだ。見せてやろう、私の本来の力を」
フランクが目を閉じた瞬間、フランクの身体が徐々に変化を始めた。そして同時に放たれる得体の知れない気。それはクリスですらも知らなかった、フランクの力。肉体が活性化していき、表情もまるで若返ったように皺が消えていく。
否、実際に若返っているのだ。サーシャ達の目の前で、あり得ない事象が起こっている。次第にフランクの髪が伸び、銀幕のような銀色の長髪をなびかせながら、フランクはその姿を表した。
ーーメフィストフェレス。ドイツの一族に伝わる若返りの秘術。肉体を活性化させ、本来の力を引き出す人知を超えた力。
「と……父様が、若返った?」
見た事のない父親の姿を前に、驚きを隠せないクリス。それもその筈、今まで見せる機会など、これまでにはなかったのだから。
「メフィストフェレス……噂には聞いていたが、まさか本当に実在していたとはな」
サーシャもその存在を認知していたが、ここで目の当たりにするとは夢にも思わなかっただろう。しかしサーシャは驚いているようには見えなかった。何故ならその類の人物を知っていたから。
「かのミス・エヴァとは似て非なる技術だ。尤も、私の秘術は一時的なものに過ぎないがね」
フランクが持つ技術は一時的な肉体の活性化によるもの。エヴァは自らのクローンを糧に肉体を補い、若さを維持する技術。どちらにせよ、脅威である事に変わりはない。
「……さて」
フランクがサーシャ達の前へ、静かに一歩ずつ歩を進め、サーシャ達との距離を縮めていく。静かなる怒りと威圧感が、サーシャ達の精神に重圧をかける。
「クリス……お前は下がっていろ」
こいつは俺が倒すと、サーシャは歩み寄るフランクを睨み付けた。しかしクリスは首を横に振った。自分も父親と戦うと、新たに決意して。怯んでなど、いられない。
「ーーー少年、私の娘に手を出した罪、その身で償ってもらうぞ」
フランクとサーシャ、そしてクリス。彼らの戦いの幕が上がる。