聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
久しぶりの投稿です。一年越しにならなくてよかった(汗
ではサーシャ&クリスvsフランク、スタート!
迷いを捨て、再びフランクの前に立ち向かうクリス。一体何が彼女を突き動かすのか……それは父親を信じたいという心と、真実を知りたいという確固たる意志である。
「何故だクリス。何故そうまでして、あの村に拘る……?お前には何の関係もないはずだ」
解せない。あの村で起きた事はクリスとは無関係だ。偶然あの村の生き残りに会い、それに共感したとでもいうのか。クリスはフランクの問いかけに、首を横に振った。
「自分はただ……真実を知りたいだけです」
真実への探求。フランクがクリスを欺いてまで隠さなければならなかった本当の理由。それを聞くまでは、引き下がれない。
これ程までに食い下がるか……だがフランクにも意地がある。ここで折れる訳にはいかない。例え娘に刃を向けられようとも。
そうーーー最愛の娘であるが故に。
「私の答えは変わらん。これ以上踏み込むというのならーーー」
誰であろうと、容赦はしない。フランクは地を蹴り急接近し、クリスへ向けて拳を振るう。まるで肉を抉るようなその一撃は、より鋭さを増していた。まともに受ければそれこそ致命傷になり兼ねない。
間違いなく、正真正銘の全力。同時に現れる焦りという感情。愛する娘への畏れ。クリスは瞼を閉じて五感を研ぎ澄ませ、力の流れを感じ取る。僅かに許された時間の中に、必ず突破口がある。
力を受け止めては意味がない。そもそも、受け止めるには個々によって限界もある。
だからこそ相手の力を利用し、受け流す。相手の動きを見切るだけではなく、身体で感じ取る事。イメージし、体現せよとクリスの中にある闘志が鼓動した。
(受け流し、そしてーーー切り返す)
脳裏に刻み込まれたジータの言葉。それは、これまで戦い抜き、辿り着いた答え。彼女が生きた証であり、クリスが超えなければならない試練である。
思い出せ、この身に受けた全ての感覚を。
呼び覚ませ、戦いの最中で見出し手に入れた術を。
手を伸ばせば、必ずこの身に届く。ジータのように凛々しく、強く在り続けたい。その思いと信念は、クリスの心を震え立たせた。
”ーーーー負けられない、絶対に!”
フランクの攻撃が迫り、正拳がクリスに触れるその直前ーーークリスは視界を閉じたまま、身体を僅かに動かしてみせた。拳はまるで拒むように、クリスの身体をすり抜けていく。
そしてすかさず、クリスはフランクの懐に折れたレイピアの柄を向ける。柄はそのまま吸い込まれるかのようにフランクの懐へ入り、
「か、はーーー!?」
鳩尾へと直撃した。衝撃でフランクから嗚咽が漏れる。カウンターによるクリスの一撃……ついにクリスの反撃が、フランクに届いたのである。
力と力は反発し相殺される。力の流れを読み、相手の力を利用し、それを攻撃の糧とする……ジータとの戦いで学んだ戦いの術は、クリスの身にしっかりと刻み込まれていた。
(ば……ばかな……)
自分の力が跳ね返り、衝撃で僅かに意識が揺らぐ。想定外のクリスの反撃に、フランクは動揺を隠せなかった。先程とは戦い方が違う。一体クリスの中で何が起きたというのだろうか。
しかし、考えている暇はない。一矢報いた所で優劣が逆転したわけではないのだから。
まだ、十分に戦える。フランクは体勢を立て直し、迎撃を再開。クリスに向けて蹴りを放つ。しかしクリスは動じる事なく、
「ーーー見えたぞ!」
身体を反らしフランクの攻撃を受け流した。追撃も躱しきり、僅かに生じた隙をつき、着実に一撃を与えていく。
力の流れが分かる。思考しなくても、身体が全てを知っている。ジータとの鍛錬で得た経験がクリスの力となり、今この戦いの中で最大限に引き出されていた。
この状況なら、押し負けることはない。だが、決定打がなければ、勝つ事はできない。フランクの攻撃を見切る事は出来たが、それもいつまで続くかは分からない。長期戦で疲弊すればする程、反射速度は鈍っていく。
そしていつか必ずーーー限界が訪れる。
「ぐっ……!?」
突然、腹部に抉られるような激痛が走った。最初に受けたフランクの一撃が効いているのだろう、クリスの表情が苦痛で歪む。ようやく戦える術を見つけたというのに……クリスの身体が悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。
後、もう少しだというのに。立ち上がろうとするも、身体が言う事を利かない。痛みで身体が軋みを上げ、クリスの行動を束縛する。
(こんな……ところで……)
痛みで視界が霞んでいく。保ち続けていた意識が、途切れ途切れになる。ここまでのようだなとフランクの声が聞こえた気がした。クリスの戦いは、ここで終わってしまうのだろうか。
その時、クリスの前にサーシャが現れ、
「交代だクリスーーー後は、任せろ」
レイピアを手にし、再び戦いに挑もうと立ち上がった。ボロボロになり、傷を負ってもなお、その背中は頼もしく感じられた。
だが、これはクリスが乗り越えなければならない戦いである。しかしそれはサーシャも同じ。何故ならば、
ーーーひとりの戦士として戦い抜く事が、サーシャの意志なのだから。
ーーーひとりの娘として信念を貫く事が、クリスの意志なのだから。
答えは一つ。共に戦い、フランクに勝つ事。クリスも痛みを堪え、再び立ち上がる。クリスの強靭な意思が、身体を蝕む苦痛をいくらか麻痺させてくれた。
サーシャとクリス。二人の心は未だ折れず。その不屈の精神に、フランクは立ちさえ覚えていた。冷静沈着という仮面が崩れ落ち、激情に駆られた表情が露わになる。
「何故だ……何故わからんのだ!勝ち目がないと理解してなお、まだ立ち上がるというのか!?」
もう戦える身体ではないというのに。サーシャとクリスを突き動かしているものは、それ程までに強い意志なのか。もはや無謀を通り越して愚行でしかない。しかし、二人は背を向けない。
「それでも、自分はーーーー!」
この信念がある限り、クリスは足掻き続ける。たとえ傷き、この身が砕けようとも。思いの丈をぶつけるように、フランクにレイピアの剣戟を放った。彼女の刺突に迷いはない。ただ一つの信念を貫く為に、その剣を振るう。
「必ず、お前にーーーー!」
この命がある限り、サーシャは挑み続ける。たとえ朽ち果て、この身が焼かれようとも。この者に、贖いと慈悲をーーー彼の一撃に曇りはなく、フランクの全てを暴き救い出す為に、その剣を放つ。
「「打ち勝ってみせるーーーー!」」
フランクの身に放たれた、二人の剣戟。二人の意識が同調して繰り出された、サーシャとクリスの渾身の一撃。だが、フランクからしてみれば苦し紛れの同然の攻撃に過ぎない。交わすことも容易であれば、いとも容易く捌ける筈である。
それなのに、何故。
(ーーーーーっ!?)
ああ、そうかーーーと。フランクは一つの答えに辿り着く。戦術・技術では確実にフランクが勝っていた。この事実は揺るがない。しかし、二人の心の強さにだけは……勝つ事はできなかった。それに気づいてしまった。
己の心の未熟さが故の、敗北。否、フランクはもう既に敗北を認めていたのかもしれない。真実から目を背けていた事。クリスを欺き、真実から遠ざけ、それを是とした事。分かっていた。理解していた。
そう、それは紛れも無い罪の形ーーーフランクは娘の成長と、サーシャの戦士としての度量を見届けながら静かに目を閉じ、彼らの剣戟を受け入れた。