聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
続けて更新です。ここからはフランクの過去編となります。
激闘の末、サーシャとクリスの戦いは幕を閉じた。
フランクは衝撃で朽ちかけた壁に身体を叩きつけられ、ぐったりともたれ懸かり、表情を俯せていた。額からは血を流し、重症ではないものの、戦える程の力はもう残っていない。
「………私も、衰えたものだ」
何という様だと自嘲し、力なく笑うフランク。サーシャとクリスの攻撃を真正面から受けてもなお、メフィストフェレスの効力は維持されたままであった。だが、受け続けた傷までは回復が追いつかなかったようである。
もう、フランクに戦意は感じられない。クリスはフランクへと歩み寄った。クリスが求める真実を明らかにする為に。今一度、問わなければならない。
「父様……自分は、父様を信じたいのです。だから、真実が知りたい」
その真実の先に何がのあるかは、分からない。先にあるのは、フランクを信じたい気持ちを裏切る結果になり、残酷な真実となってクリスに突き付けられるかもしれない。
しかし、それでも。フランクの口から語られるまでは、今は信じて待つことしかできないのだから。
すると、フランクは遠い日の記憶を呼び起こすように思慮に耽った後、静かに口を開くのだった。
「………クリス。お前はあの村を見捨てたと言ったな。だが…………いや、これは言い訳だな。見捨てたと言われても、私に弁解をする資格はない」
「………?それは、どういう事ですか」
あの時病院の屋上で、ジータはクリスに村を見捨てたと言っていた。それをフランクは肯定した。しかし、弁解をする資格がないとは、一体何を意味しているのだろうか。フランクは後悔の念を吐き出すように、小さく声を漏らした。
「私は………救えなかったのだ」
救えなかった。その言葉が意味する事。これから語られるフランクの過去。それは、業火の記憶。紛争で起きた真実が、今明かされようとしていた。
そう、それは数年前に起こった紛争。フランク率いるドイツ軍は、紛争を止める為に派遣された。しかしフランク達を待ち受けていたのは、彼らの想像を遥かに超えるものであった。
ーーー数年前。某所軍事基地にて。
フランク率いるドイツ軍は、某国の依頼によりあるテロリストの行方を追っていた。フランクは会議室にて部下を集め、作戦会議を行なっている。
「今回の我々の最終目的は、テロリスト組織ーーーアンシャン・レジームの殲滅と、首謀者のフリードリヒ=タナーの身柄の拘束である」
アンシャン・レジーム。欧州で暗躍しているテロリスト組織であり、その目的は未だ不明である。判明している事は、戦争や紛争を誘発、特定の人物を抹殺……所謂死の商人のような存在という事だけである。
そして、フリードリヒ=タナー。その姿を見た者は少ない。彼は決して表舞台には立たず、変装の使い手、女性説、様々な噂が独り歩きしている。また、『双頭の
しかし、某国の諜報部の人間がスパイとして潜入に成功し、アンシャン・レジームの情報を掴んだとの報告があった。その情報を頼りにフランク達は派遣され、現在に至っている。
「情報によれば、ゲリラ部隊が和平派による平和宣言パーティーの襲撃する為に雇われ、近辺に潜伏しているようだ。恐らくこれを機に和平派の人間を始末し、紛争の引き金を弾くつもりだろう。まず我々は襲撃を阻止し、パーティー参加者全員の安全を確保しなければならない」
作戦内容を確認し、詳細を説明するフランク。最終目的は組織の殲滅と首謀者の確保だが、最優先事項は和平派及び参加者の人間全員の安全である。平和主義者はテロリストにとって邪魔な存在。彼らが殺されたとなれば、それは必ず争いの火種となる。それだけは絶対に避けなければならない。
「パーティーは明日行われる。君達は明日に備えて体調を万全にしておくように。私からは以上だ」
会議が終了し、この場は一時解散となった。部下達は敬礼し、会議室を後にしようとした時、フランクが彼らを呼び止める。もう一つ重要な任務を告げておかなければならない、と。
「ーーー必ず生きて戻れ。死ぬ事は許さんぞ」
それは、フランクが部下達を思う最大の任務であった。その思いは部下達に伝わり、もう一度彼らはフランクに敬礼するのだった。
何としてでも任務を遂行する。フランクの……ドイツ軍の誇りにかけて。
そして、平和宣言パーティー当日。
会場の外はドイツ軍の部隊が配置され、万全な体制が整われていた。そこに一切の死角はなく、最悪の事態を想定し、各チームが連携を取り行動できるよう警護に当たっている。
その一方で、会場内には主催者やパーティーの参加者が集い、場内は華やかな衣装と装飾で彩られていた。彼ら彼女らは、平和を願う者達の宴を今かと待ち続けている。
フランクは数名の部下と共に、会場内の警護任務を任されていた。今の所、不審な人間の姿はない。最も、入場者には全て念入りなチェックが行われており、また侵入の可能性がある場所は全て軍が警備している。外部からの武力介入は、まずあり得ないのだが。
「流石は中将殿が率いるドイツの軍隊。万全な体制ですな」
正装に身を包み、白髪に整った髭を生やした老人がフランクを賞賛する。彼はロベルト公爵。この平和宣言パーティーの主催者である。
「彼らはとても優秀な部下達です。公爵殿の安全は、我が軍が保証致します」
「はっはっは、これは頼もしい」
君達に依頼をして正解だった、とロベルトは笑う。フランク率いるドイツ軍の名は世界に知れ渡っている。希代の名将と呼ばれ、今やその名を知らない者はいないと言う。数々の功績をあげた彼らならば、必ず任務を遂行してくれるだろうと誰もが確信していた。
しばらくして、ロベルトとフランク達の前に、黒のスーツに身を包んだ身なりの良い男性と、白のスーツの青年が近づいてくる。ロベルトは彼らに手を振って合図をしていた。男性と青年は一礼して挨拶をする。
「紹介しよう。彼は私の秘書で、同志であるエドガー君だ」
ロベルトがフランクに紹介したエドガーという男性は、長年ロベルトの秘書を務めており、平和宣言パーティーに招かれていた。エドガーは改めてフランクに挨拶を交わす。
「お目にかかれて光栄です、中将殿。私は秘書官のエドガー=クリストフ。こちらは弟のゲオルグです」
「弟のゲオルグです。以後お見知り置きを」
エドガーとゲオルグ。どちらも礼儀正しく、気品のある男性と青年。由緒ある生まれなのだろうとフランクはすぐに分かった。彼らはフランクと同じドイツ人であり、フランクと出会える事を心待ちにしていたと言う。
「彼らは君のファンでね……特にゲオルグ君がどうしても会いたいとエドガー君に懇願したらしくてな。中将の立場にある君には、普段は滅多に会えないだろう?」
有名人に会える貴重な機会だぞとロベルト。隣でお恥ずかしい限りですと笑うエドガーとゲオルグ。確かに、フランクは多忙な日々を送っている。改めてこうして有名人扱いされると複雑な心境ではあったが、尊敬してくれる人間がいる事は、軍人として誉れである。
「エドガー秘書官に、ゲオルグ君だったね。君達の安全は必ず保証する。安心してパーティーを楽しんでくれ」
フランクの頼もしい言葉に、心強いですとエドガーとゲオルグ。フランクは彼らを見て思う。こういう若者達の為にも、未来ある時代を築き上げ、そして彼らに意志を受け継いでほしいものだと。
会話を弾ませている内に時間が経ち、エドガーは腕時計を確認すると、ロベルトにそっと耳打ちをする。
「公爵。そろそろ打ち合わせの時間です」
「おぉ、もうそんな時間か」
話につい夢中になってしまったとロベルト。ロベルトはまた後程と言ってフランクに手を振ると、エドガーとゲオルグと共にその場を後にした。フランク達も持ち場へ戻ろうしたその時、一人の女性に声をかけられる。
「すっかり有名人ですね、ミスター・フランク」
声をかけてきたのは、ブロンドの髪を靡かせ、銀の縁の眼鏡をかけた美女であった。フランクはこの女性を知っている。彼女は妻の友人、エヴァ=シルバー。以前妻の友人の結婚式に出席した時に紹介され、何でも科学分野での研究をしているらしい。
「これはミス・エヴァ。まさか、ここで会えるとは思いませんでしたよ」
「知り合いに招待されたんです。奥様とクリスちゃんはお元気ですか?」
「ええ。この前の結婚式では、娘が失礼を致しました」
「失礼……?ああ、あまり気になさらないで」
まだ子供ですしね、とエヴァは笑う。結婚式でクリスがエヴァと顔を合わせた時、人見知りをしたのかクリスは”おばさん、怖い”とエヴァの前で言ってしまったらしい。呆気にとられたエヴァは可笑しくなり思わず大笑いしたという。
「それより、警備も大変ですわね。このまま何も起きなければいいのだけれど……」
不安げにエヴァは表情を曇らせた。確かに、エヴァの言う通りそれに越した事はない。無事にパーティーが終わり、取り越し苦労だったと安堵ができればどれだけ良い事か。
だが、フランクの勘がこう告げている……良からぬ何かが起ころうとしていると。
「……申し訳ありませんが、そろそろ私共は持ち場へ戻ります。では素敵なパーティーを」
パーティー開催の時間が迫りつつある。フランクと部下はエヴァに一礼し、持ち場へと戻っていく。エヴァはありがとうと言って、彼らの背を見送った。
「ええ。きっとーーー
何か深い意味が込められた彼女の言葉。その言葉がフランク達の耳に届く事はなかった。
開催時間まであと僅か。フランク達はそれぞれ待機し、厳戒体制で場内を警戒していた。各部隊に無線で連絡を取り異常がないか確認をするが、今の所周囲に不審な人物はいない。
しかし、あまりにも静か過ぎる。だが、この嵐の前の静けさのような状況は、数々の任務で何度も経験している。今更驚く事ではないのだが。
それからしばらくして、ついにパーティー開催の幕が上がろうとしていた。ロベルトが現れ演台に上がると、会場内が拍手喝采で包まれていく。
「皆様、本日は平和宣言パーティーにお越し頂き、誠にありがとうございます」
ロベルト公爵の演説が始まる。平和主義を掲げる者達が集う宴が、ついに始まりを告げた。