聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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お久しぶりです、作者です(・3・)
気が付けば2年が経ち、クェイサーの漫画も連載が終わっていました……が、それでもひっそりと小説は書き続けていました。物語を考え、文章にするのは本当に楽しいです。クェイサーが終わっても、自分はまだ書き続けます!


80話「真実は業火の記憶の中で Ⅱ」

争いのない世界。

 

 

それは多くの平和を願う人々達が望み、打ち砕かれてきた遠き理想。武力を棄て去り、憎しみも悲しみもない純白なる清浄の世界。その実現の為に、ロベルトは立ち上がった。平和を担いし者達の代弁者として。

 

 

「争いのない世界の実現……ここへ辿り着くまでに、我々はあまりにも多くの同胞を失いました。今こそ示さなければなりません―――戦争の愚かさを。血で血を洗う歴史に、終止符を打つ時が来たのです!」

 

 

ロベルトの演説に、人々から共感と称賛の声が上がる。完全平和への大きな一歩を、今踏み出そうとしているのだ。その彼等の意思を、踏み躙られるわけにはいかない。

 

 

演説から数分が経過し、フランクは携帯していた小型無線機を手に取った。周囲の状況はどうなっているだろうか……会場内部及び、外部の各箇所に警備をしている部下に連絡を入れる。

 

 

「―――こちらフランク。各部隊、状況を報告せよ」

 

 

何もなければそれに越した事はない。しかし、常に必ず何かある事を想定しなければならないのだ。連絡をして間も無く、各部隊から連絡が入る。

 

 

『こちらAチーム。会場内部、今の所異常はありません』

 

 

『こちらBチーム、各箇所、異常ありません』

 

 

『こちらCチーム、会場周辺にも、異常ありません』

 

 

『こちらDチーム。外部にも異常なしです。不審な人物は見当たりません』

 

 

各部隊から状況報告が入るも、周囲に異常は確認されなかった。まずは部下が全員無事である事に少し安堵する。最も、フランク率いる部隊がそう簡単に倒される筈はないのだが。

 

 

しかし、相手はアンシャン・レジーム率いるテロリスト。その背後にはフリードリヒ=タナー。実態が分からない以上、こちらの想定を上回る事態は起きる。どのような策を講じたとしても、戦場では必ず覆されてしまうのだ……それに淘汰されるか、生き延びるかは己次第である。

 

 

「各部隊、了解した。引き続き周囲に警戒し警備にあたってくれ」

 

 

そう言ってフランクは通信を切る。恐らくではあるが、会場内部・外部周辺には今の所は何も起こらないだろう。フランクの勘がそう告げていた。

 

 

さて、と再び通信機に手をかけるフランク。現在最も警戒すべきは会場内ではなく外部でもない。あり得ない盲点となりうる場所である。その為に用意したフランクの切り札の一つ―――。

 

 

「特殊部隊Xチーム、聞こえるか?」

 

 

そう、特殊部隊である。バイオテロ等の特殊兵器に対抗できるよう訓練を受けたプロフェッショナルであり、数多の戦場を生き抜いてきたドイツ軍が誇る最高の精鋭達。彼等は会場より遠く離れた場所で警備にあたっていた。

 

 

そこは現在使われていない、廃墟と化した作業所。その建物に以前から不審な動きがあったとの情報を掴んでいた為、フランクはそこに目をつけ、特殊部隊を配置していたのだ。

 

 

『特殊部隊Xチーム。先程廃墟内部に潜入し、潜伏していたテロリスト10名全員を拘束しました』

 

 

特殊部隊の報告に、やはり読み通りだったかとフランク。灯台下暗し……その逆である。敵は必ずしも近くにいるとは限らない。部下の命を預かる立場である以上、ありとあらゆる事態を想定し指揮を取らなければ、戦場では生き残れないのだから。

 

 

しかし、解せないのは拘束されたのが僅か10名だという事。しかも、遠距離で一体どうやって会場を襲撃しようというのか。謎は深まるばかりだ。

 

 

「ご苦労だった。周辺に何か異常はないか?」

 

 

『現在、建造物内部を捜索中ですが……ん、何だこれは?』

 

 

フランクの通信機の向こう側で、部下が何かを見つけたようだ。部下は通信を続ける。

 

 

『壁に巨大な円状の紋様(もんよう)が発光し、浮かび上がっています。それも、一ヶ所だけではないようです』

 

 

壁に浮かび上がる、発光する円状の紋様。しかも、一つだけではない。建造物の各箇所に複数存在しているようだ。一体何を意味しているのだろうか。魔術の類か――非科学的であり、何より根拠がない。だが、あり得ない事ではないかもしれない。詮索が詮索を招く。

 

 

『中将。テロリストの一人から情報を聞き出しました』

 

 

「何か分かったのか?」

 

 

『それが……"演説が始まり次第、この円状の紋様に向けて撃て"と命令されただけで、後は何も知らないようです』

 

 

部下が聞き出した情報によれば、紋様に向けて発砲しろと言う単純な指示を受けただけで、他は何一つ知らないと言う。所謂、雇われテロリストに過ぎなかった。彼らは例の組織から"和平派を潰すいい話がある"と持ちかけられ、言われるがまま行動したに過ぎない。

 

 

つまり考えられる結論は囮。まんまと作戦に乗せられたか……しかし仮に囮だとして、気になるのは部下達が発見した謎の紋様である。ただのフェイクだとは思えない。

 

 

(まさか………いや、だが可能性はゼロではないかもしれん)

 

 

状況、場所、テロリストの人数。そして壁に浮かび上がった謎の紋様。フランクにはある推論が頭に浮かんでいた。

 

 

万が一、紋様がどこか別の場所へ繋ぐ装置であり、奇襲をかける為にテロリスト達を待機させていたとしたら。一見子供じみたお伽話にしか聞こえないが、それが事実だとすれば説明がつく。

 

 

"元素回路(エレメンタル・サーキット)"―――奇跡を起こす、力を持った紋様。そんな都市伝説のような事を聞いた事がある。根も葉もない噂話だと思っていたが、フランクの脳裏によぎったのはまさしくそれだった。きっと心のどこかで、フランクは信じていたのかもしれない。可能性が少しでもあるならば、それに食らいつくまで。

 

 

たとえこれが杞憂であったとしても、火種は摘み取らなければならない。

 

 

「特殊部隊、各隊員に告ぐ。ただちに建造物を爆破し、拘束したテロリスト10名と共に離脱せよ」

 

 

『了解』

 

 

跡形も残すなと隊員達に告げると、フランクは通信を切った。少なくとも、これで一つ相手の手段が消える事になる。それと同時に、潜伏しているテロリスト達も動きがあるだろう。安心はまだできない。

 

 

 

―――ロベルトの演説から始まり数十分が経つ。演説も終盤に差し掛かり終わりを迎えようとしていた。それだと言うのに、何も起こらない。

 

 

「では……集いし同胞達と、平和を願う全ての人々に祝福があらん事を」

 

 

ロベルトがワインの入ったグラスを天へ掲げる。会場にいる人々もグラスを掲げ、ロベルトの乾杯の合図を待ち続ける。平和宣言まで、秒読みの段階に入っていた。

 

 

これで、戦争に塗れた歴史に新たな項目が刻まれる。平和という理想へ向けて。そう誰もが確信していた時だった。

 

 

「きゃ……な、何!?」

 

 

「じゅ……銃声だ!」

 

 

会場の廊下で突然銃声が鳴り響く。会場内には悲鳴が飛び交い、その悲鳴がさらなる混乱を招く。

 

 

やはり動き出したか、とフランク。警備をしていた部下達がテロリストと交戦しているようだ。

 

 

「皆様、落ち着いて下さい!皆様の安全は我々軍が保証します!」

 

 

フランクの呼びかけが、会場内に響き渡る。そうだ、私達にはフランク率いるドイツ軍がいると……人々は徐々に冷静になり落ち着きを取り戻し始めた。同時に警備をしていた部下達も動き出す。部下達は会場内にいた人達を全員避難経路へ誘導しながら、速やかに外へと脱出していく。

 

 

「ロベルト公爵、今の内にエドガー君と脱出を!後は我々にお任せ下さい!」

 

 

フランクが会場内に残っていたロベルトとエドガーに向けて声を張り上げた。テロリストの狙いは主催者のロベルトである。ここにいては危険ですと脱出を促す。

 

 

「し、しかし……」

 

 

「公爵、中将殿の言う通りです。ここで公爵に命を落とされては、それこそ戦争の火種になり兼ねません!」

 

 

主催者である自分が逃げるわけには、とロベルトだったが、ここで撃たれれば終わりですとエドガーの説得により、フランクに後は頼むと告げて二人は会場内を後にした。

 

 

 

 

しばらくして、鳴り響いていた銃声が止み、会場内に静寂が訪れる。どうやら部下達がやってくれたようだ。

 

 

『こちらAチーム、進入したテロリストの殲滅を確認』

 

 

『Bチーム。こちらも殲滅を完了しました』

 

 

『こちらCチーム。会場内にいた参加者の安否を確認。現在Dチームと共に安全な場所まで移送中です』

 

 

各チーム全員からの吉報の連絡が入る。進入したテロリストは迎撃し、壊滅。パーティの参加者も無事生存を確認。それも、隊員も誰一人欠ける事なく。お前達は最高の部下だ、と心の内で彼らを褒め称えた。

 

 

「皆、よくやってくれた。だが油断するな、まだテロリストの残党が潜伏しているかもしれん」

 

 

そう、気を緩めるのはまだ早い。この任務の最終目的……首謀者フリードリヒ=タナーの身柄を拘束しなければならないのだから。

 

 

―――とはいえ、ここまで制圧し打撃を与えていれば、相手もそれ故に慎重になる。これ以上不利が続けば撤退される可能性も有り得るのだ。

 

 

だが、決して逃しはしない……そう思った矢先だった。

 

 

『こ、こちらAチーム!テロリストの残党と思われる人物と交戦中―――う、うわあああああ!?』

 

 

突然、銃声と隊員の断末魔がフランクの通信機から流れ出す。

 

 

「どうした、Aチーム!?応答しろ、何があった!?」

 

 

通信機に何度も応答しろと繰り返すフランクだが、Aチームからの返答が帰ってくる事はなかった。恐らくは、もう……フランクの脳裏に一抹の不安が過ぎる。

 

 

「Bチーム、こちらフランク。応答せよ!応答せよ!」

 

 

Bチームの安否を確認の為に連絡を入れるが、応答はなかった。反応がないという事は、彼らも……だが、まだ死んだと決まったわけではない。フランクはホール内を出て、チームが警備している廊下へと走り出した。

 

 

 

 

AチームとBチームが警備していたのはホール内を囲うように設置されている西と東の大廊下である。まずはAチームが警備していた場所へと辿り着く。そこには目を覆うほどの惨状が広がっていた。

 

 

「こ、これは……」

 

 

あまりの惨状に、フランクは絶句する。大廊下は返り血と弾痕で荒れ果て、その周囲には部下と交戦したと思われるテロリスト達の死体が転がっていた。

 

 

そして、この前まで"必ず生きて戻れ"と誓いを交わしたばかりの部下達の姿。その部下達が、フランクの前で絶命している。信じ難いが、これが現実。彼らは抵抗するも命を落としたのだ。

 

 

「…………」

 

 

フランクは無言のまま、部下の見開いた目を手で覆い、安らかに眠ってくれと祈りを捧げるようにその瞼を落とす。一体誰がこんな事を……すると、フランクに近づく一つの足音が聞こえてきた。

 

 

「これは中将。会場の警備ご苦労様です」

 

 

悠々とフランクの目の前に現れた人物。その正体は秘書であるエドガーの弟、ゲオルグであった。


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