聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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連続投稿になります。
ここからは、ある人物の過去にオリジナルの設定が入ります。


サブエピソード31「少女が忘却(なく)した記憶」

ドイツ軍が任務を遂行している一方で、とある一人の少女が会場へ向かおうと足を運び、人通りの多い街を歩いていた。

 

 

ブロンドの髪を靡かせ、可愛らしいドレスを見に纏い、両手に収まるくらいの熊の縫いぐるみを抱きしめる可憐な少女。まだ年もいかない幼き少女の目的は、人探しである。

 

 

(とうさま……どこにいるんだろう)

 

 

街を歩き彷徨う少女。しかし、宛てがないというわけではない。場所は既に知っている。ロベルト公爵が主催である平和宣言パーティの会場に、少女の尋ね人がいる。

 

 

それは、父親であった。父親は軍人でとても偉い立場にあり、今は会場で警備をしているのだ―――その勇姿を見てみたいと少女はこっそり家を抜け出し、軍の車両に隠れ、父親の後を追い現在に至っている。

 

 

父親が任務へ赴く前日、少女は連れて行ってとせがんだものの、危ないから家にいなさいと断られた。当然と言えば当然である。これから戦場になるかもしれない場所へ行くのだから、大事な娘を連れて行くわけがない。

 

 

それでも少女は諦めなかった。自分が尊敬する誇り高い父親の姿を、この目で確かめたい。その純粋な気持ちが、少女をここまで突き動かしていた。

 

 

会いに行けば、きっと喜んでくれるだろう。否、叱責されるかもしれない。それでも構わなかった。父親に会いたい……その思いを胸に秘めながら、少女は歩き続けた。

 

 

 

出歩く人々に道程を聞きながら、少女はようやく会場へと辿り着く。会場の周囲には人だかりが出来ていて、さらにはドイツ軍が警備を行なっている。

 

 

このまま正門から通れば、警備している軍人に見つかってしまうだろう。何故なら今警備をしているのは全員、父親の部下だからである。しかも少女とは顔見知りで、黙ってついてきたと分かればすぐに家に返される。そうなっては父親の活躍を見る事ができない。

 

 

どこかこっそり入り込める場所がないだろうか。すると急に人だかりが騒がしくなり、散り散りになって会場から足早に離れていった。警備していた軍人も中へと消えていく。会場で何か起きたようだ。

 

 

(よし……いまなら!)

 

 

今だと言わんばかりに少女は駆け出し、正門を潜り会場へと入っていった。

 

 

 

会場へ入ってすぐに、銃声が聞こえてきた。今、父親の部下達が悪者と戦っているんだ……そう思えば思う程、早く父親に会いたいという気持ちがさらに強くなる。

 

 

ここは、戦場である。戦場は命のやりとりをする危険な場所だという事は、父親によく教えられていた。しかし、実際の所はよく分かっていない。

 

 

テレビで目にする、正義の味方が悪を倒す場面(ワンシーン)。今の少女が膨らませられるイメージは、それくらいだった。きっと父親や軍も悪と戦っているに違いない。少女は危険を省みず、先へと進む。

 

 

進むにつれ鳴り響く銃声が大きくなっていく。近い……そう感じた少女は次第に駆け足になっていき、気がつけば大きな廊下へと辿り着いていた。

 

 

それと同時に、銃声がピタリと止む。どうやら戦いが終わったらしい。廊下には銃を装備した軍人が数名、周囲を警戒していた。少女は彼らに見つからないよう、近くにあった大きな棚に身を潜める。

 

 

「こちらAチーム、侵入したテロリストの殲滅を確認」

 

 

軍人の一人が無線で誰かと連絡を取り合っていた。少女は棚の影に隠れながら、辺りを覗き込む。

 

 

そこに広がっていたのは、あまりにも残酷で、少女の想像していたものとはかけ離れた光景だった。

 

 

(……………………!!)

 

 

思わず悲鳴を上げそうになるも右手で口を塞ぐ少女。少女の目に写ったのは、血を流して倒れている人間の死体だった。それも一人ではない。辺りに何人も床に横たわっている。恐らく彼らは軍人達が倒した敵である。

 

 

これが、戦場。命のやり取りをする場所。少女は生まれて始めて、戦場が何であるかを目の当たりにした。テレビで見るような生易しいものではない。ここでは人が当たり前のように血を流し、当たり前のように死んでいく。そんな場所で、父親や軍は日々戦っている………いつ自分が命を落とすかも、分からないと言うのに。

 

 

(………………うっ)

 

 

幼い少女には刺激が強すぎたのか、口元を押さえ込み、喉の奥から胃液が込み上げそうになるのを必死に堪えていた。怖くない、と手にしている縫いぐるみを強く抱き締める。自分も父親の―――軍人の娘なのだ、こんな事で怖がっていてはいけないと自分に強く言い聞かせた。

 

 

時間が経つにつれ少し慣れてきたのか、次第に落ち着きを取り戻していく少女。だがそれも束の間、軍人達が銃を構え動き出した。廊下の奥から人が現れたようである。

 

 

現れたのは白いスーツを着こなし、両手に高価な指輪を幾つもはめた身なりの良い若い男性だった。見た所、避難に遅れたパーティーの参加者だろう。軍人達は銃を下ろすと、男性に近寄り声をかける。

 

 

「君、ここは危険だ!すぐに避難し―――」

 

 

だが、声をかけたその刹那。軍人の背中から一筋の光が直線状になって突き抜けた。まるでレーザーで撃ち抜かれたように、小さな穴が空いている。

 

 

「が…………あ…………」

 

 

声にならない、軍人の嗚咽。軍人は力なく膝を突き、男性の目の前で床に伏した。軍人の身体からは血が溢れ出し、海のように広がっていく。

 

 

「き…………貴様!!」

 

 

仲間が殺された。敵だと認識した軍人達は一斉に銃を構え男性に向けて発砲を始めた。しかし男性は慌てる様子もなく両手を掲げ、はめている指輪を軍人達に向ける。

 

 

次の瞬間。指輪が光を放ち、レーザー状の光線となって軍人達を次々と撃ち抜いていた。それも僅か数秒で。軍人達は成す術もなく倒れていく。

 

 

「こ、こちらAチーム!テロリストの残党と思われる人物と交戦中―――う、うわあああああ!?」

 

 

生き残っていた軍人が通信機に連絡を入れた直後、男性の放ったレーザーによって撃ち抜かれた。軍人は後退りしながら、そのまま少女の隠れていた棚の近くに倒れ込む。

 

 

「………………っ!!」

 

 

軍人が倒れた拍子に、少女の顔や服に何かが飛び散った。少女は恐る恐る顔についたものを手で拭い、掌をまじまじと見つめる。

 

 

「………………え」

 

 

それは、真っ赤な鮮血だった。召し込んでいたドレスや縫いぐるみにも、返り血が飛び散っている。

 

 

少女には、状況が理解できなかった。父親を探す為に会場へ入り込み、戦っている姿をこの目に焼き付けたい。ただそれだけの為にやってきたのに………どうしてこんな事になっているのだろう。

 

 

分からない。それとも、分かりたくないと思考が拒否しているのか。少女の抑えていたものが堪えきれなくなり、胃液が逆流し激しく嘔吐する。

 

 

「うぇっ………げほっ、げほっ!」

 

 

息ができないくらい、嘔吐が続き、胃の中の物が全て吐き出されていく。苦しい、助けてと心の中で少女は叫んだ。

 

 

「全く、人をテロリストの残党(雑魚)と一緒にしないで欲しいね――――ん?」

 

 

男性は少女の嗚咽に気付き、棚から覗き込む。少女は男性に気付くと、小さく悲鳴を上げ身体を震わせながら後退りする。今すぐ走って逃げてしまいたかったが、恐怖で足がすくみ立つことさえままならなかった。

 

 

「こんにちは、お嬢さん。迷子にでもなったのかい?」

 

 

男性は少女に笑みを浮かべる。優しく声をかけながら笑う男性の表情が、少女には堪らなく恐ろしいと感じていた。

 

 

「――――ちょっと。殺すなら、もう少し静かにやってほしいものね」

 

 

突然、少女の背後から女性の声が聞こえる。現れたのはブロンドの長い髪に眼鏡をかけた女性だった。男性はこれは失礼と軽快に笑う。

 

 

「仕留めるなら一瞬。そして音もなく綺麗に解体(バラ)す………それが真の芸術というものよ」

 

 

自分の美学を語り出す女性。人を殺める事が芸術………この人達は本当に同じ人間なのだろうかとさえ思うくらいに、少女の思考が恐怖で凍りついていく。

 

 

「ところで、このお嬢さんは迷子…………あら?」

 

 

女性が少女の顔を覗くと、一瞬驚いたような表情を見せた。心当たりがあるのか、突然くすくすと笑い出す。男性は知り合いかと訪ねると、女性はええと頷いた。

 

 

「それにしても………本当に偶然ね。まさか貴方がここにいるなんて」

 

 

女性はしゃがみ込み、少女と目線を合わせながら顔を近付けると、にっこりと少女に微笑む。

 

 

「――――おばさん(・・・・)の事、覚えてる?」

 

 

「………………っ!!」

 

 

今にも消えてしまいそうな、少女の小さな悲鳴。この瞬間、幼い少女の意識はそこで消えた。

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