聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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今年初の投稿です。文章表現というのは難しいですね……書いていて「何か変だな」と思うと手が止まってしまいますね(;^o^)


81話「真実は業火の記憶の中で Ⅲ」

フランクの攻撃を受けたゲオルグは激突した壁から剥がれるように、床へと崩れ落ちる。壁にはクレーターが出来ており、いかに強烈な一撃であったかを物語っていた。

 

 

「う……嘘だ、僕が……負けるなんて……」

 

 

未だ自分が敗北した事を受け入れられず、動揺するゲオルグ。フランクの一撃を受けてなお、辛うじて意識は保っているようであった。

 

 

フランクは床に落ちている銃を拾い上げると、ゆっくりとゲオルグへ歩み寄る。今のゲオルグに戦意は感じられない。これから始まるのは尋問である。

 

 

「君には聞きたい事が山ほどある。まずは、私の質問に答えてもらおう」

 

 

無論、拒否権はないと銃を突き付けながらフランクは尋問を開始する。致命的なダメージを受け立ち上がる事すらままならないゲオルグに、抵抗する力は殆ど残っていなかった。

 

 

メフィストフェレスの能力に圧倒され、力の差を見せつけられたゲオルグは、返答の変わりにフランクを睨み付ける。気に入らないが、今は従う他に選択肢はないと悟ったのだろう、フランクはそのまま話を続けた。

 

 

「確認するが、君はテロ組織であるアンシャン・レジーム所属の人間に間違いはないかね?」

 

 

ゲオルグの正体。テロリストによる襲撃の裏にアンシャン・レジームが関わっている事は明白である。首謀者への手がかりになるかもしれないのだ、まずは彼から情報を聞き出さなければならない。

 

 

だが、ゲオルグからの返答は予想外なものだった。

 

 

「……答えは残念ながらノーだよ。生憎と僕はただの雇われの身でね」

 

 

テロ組織の一員ではないとゲオルグはそう否定する。白を切るつもりか……そう思ったが、嘘を言っているようにも見えない。ゲオルグの言っている事が事実ならば、情報はそこで途絶えてしまう。つまりそれは振り出しに戻る事を意味していた。フランクの表情が険しくなる。

 

 

そのフランクの表情を見て、ゲオルグは静かに笑い出す。

 

 

「くく……アンタが知りたいのはフリードリヒ=タナーの事じゃないのかい?」

 

 

フリードリヒ=タナー。ゲオルグの口から出たその言葉に、フランクの顔色が変わる。

 

 

「フリードリヒ=タナーを知っているのか?」

 

 

「ああ、知ってるとも……もちろん彼の素性もね」

 

 

未だ知る事のできなかったフリードリヒの素性。ゲオルグにはフリードリヒとの面識があると言う。その詳細を知る事ができれば、居場所を突き止められる重要な情報と成りうる。だが、ゲオルグがそう簡単に口を割るとは思えない。

 

 

ならば是が非でも、情報を聞き出すまで。フランクは銃のグリップを強く握り締めながら、ゲオルグへの尋問を再開する。しかし、それに対しゲオルグは、

 

 

「慌てなくても、すぐに分かるさ。そう……すぐに、ね」

 

 

まるで何かを暗示するように、そんな意味深な言葉を漏らすのだった。そして考察する間もなく、フランクの通信機が鳴り始める。

 

 

『ーーーこ、こちらCチーム!中将、ロベルト公爵とエドガー秘書官が突然、消失しました!』

 

 

「何っ!?」

 

 

それは、フランクにとって想定外の事態であった。ロベルトとエドガーが、何の前触れもなく突然、その場から″消えた″というのである。有り得ない、一体どうやって消失したと言うのか。ましてや厳戒態勢の最中、逃走など出来るわけがない。

 

 

仮にエドガーが何らかの手段で逃走を図ったとしても、護衛のいるロベルトを拘束しての逃走は不可能に近い。

 

 

だとするならば、考えられる推測は一つ…………今フランクの前にいる男。ゲオルグのような未知の特殊能力を使用した可能性が高い。フランクは怒りを顕にしゲオルグに詰め寄った。

 

 

「貴様、一体何をした!?」

 

 

「くく…………」

 

 

次の瞬間、ゲオルグを包囲するように円状の紋章が浮かび上がり、同時に閃光弾のように強く発光する。一瞬だがフランクは視界を奪われ、視界が回復した時にはもう、紋章もゲオルグの姿もなかった。

 

 

姿を消したゲオルグ。そして突然浮かび上がった謎の紋章。これもゲオルグが持つ未知なる力なのだろうか………しかし思考を巡らせる間もなく、フランクの通信機から再び連絡が入る。

 

 

『ーーーパーティーは楽しんでいるかな?中将殿』

 

 

通信は、部下によるものではなかった。声色は加工され、男性なのか女性なのかさえも判断がつかない。ただ、その相手が明らかにテロリストであるという事だけは理解できた。

 

 

「……貴様は何者だ?」

 

 

通信機の向こう側にいる謎の人物に問いかけるフランク。しかし相手は静かに笑いを漏らすだけで問いには答えない。

 

 

『……これから面白いものを見せてあげよう。会場の奥にある展示室で待っているよ』

 

 

それだけを言い残し、通信は一方的に通信は遮断される。通信機からは虚しくノイズだけが鳴り響いていた。

 

 

(………一体何が起きていると言うんだ)

 

 

突然消失したロベルトとエドガー。そして消えたゲオルグと謎の人物。一体、何者なのだろうか。しかし、今考えている時間はない。一抹の不安を抱えたまま、フランクは言われるがままに会場の奥にある展示室へと足を進めるのであった。

 

 

 

 

会場内、展示室入り口。

 

 

フランクは周囲を警戒しつつ、拳銃を構えながら展示室のドアをゆっくりと開ける。

 

 

「………………」

 

 

展示室内は動物の彫刻や骨董品などがいくつも飾られていた。今の所、人の気配は感じられないが、いつどこで襲撃されるか分からない。五感を研ぎ澄ませながら、静かに中へと入っていくフランク。

 

 

すると、室内の中央に見覚えのある人影が横たわっていた。嫌な予感がフランクの脳裏をよぎる。そこに倒れていたのは秘書のエドガーだった。

 

 

「エドガー君…………!?」

 

 

フランクはエドガーの下へ駆け寄り安否を確認するが、エドガーは既に息絶えていた。胸には銃弾を受けた跡があり、まだ身体も暖かい。銃撃されてから時間はあまり経っていないようである。

 

 

エドガーをテロリストの一員だと疑っていたが、殺されたとなれば一体誰がこんな事を………エドガーの死体を調べようとした直後、背後に僅かな気配を感じたフランクは振り向き様に銃口を差し向ける。

 

 

そこにいたのは、

 

 

「待っていたよ、中将殿」

 

 

エドガーと共に消失した筈の、ロベルトの姿だった。別段負傷しているわけでもなく、命に別状はないようである。それどころか、この状況でも笑みさえ浮かべていた。

 

 

本来ならば、ロベルトが無事であった事に安堵すべきだろう。しかし、フランクは銃口を下ろさずにいた。否、下ろせなかった。何故ならロベルトの左手には拳銃が握られフランクへと差し向けられていたのだから。

 

 

「一体、これは何のご冗談ですか。ロベルト公爵」

 

 

これは冗談であったなら、どんなに良い事だっただろう。しかし、ロベルトは銃を下ろさず笑みを絶やさなかった。まるで、これが冗談に見えるかねと言わんばかりに。

 

 

「全ては計画の内だよ。貴方をここへ呼んだのも、この平和宣言も。そして彼の死も、ね」

 

 

言って、視線だけをエドガーの亡骸へ注ぐ。それは、ロベルトがエドガーを殺した事を意味していた。同時に、ロベルトがテロリストであるという事も。

 

 

全ては、仕組まれていた。平和主義と言う仮面を被り、本性を剥き出しにしたロベルトによって。

 

 

「何故です!?誰よりも完全平和を願っていた貴方が、このような事を…………!」

 

 

今まで信じていた物を踏みにじられ、堪えていた怒りをぶつけ激昂するフランク。それに対しロベルトは愚問だなと鼻で笑い一蹴する。

 

 

「決まっているだろう、金になるからだよ。戦争というものはビジネスだ、争いのない世界に一体何の価値がある?」

 

 

ロベルトの完全平和とかけ離れた思想に、唖然とする。今目の前にいるのは本当にロベルトなのかとさえ思うくらいに。

 

 

「貴方は……本当に、あのロベルト公爵なのですか?」

 

 

未だ信じられず問いを投げるフランクだが、ロベルトは気が狂ったのかねと嘲笑った。そして彼のさらなる本性を、フランクは目の当たりにする事になる。

 

 

「残念だが、君の知っているロベルト公爵はもういない。今ここにいるのは、そうーーー」

 

 

ロベルトが口元を吊り上げたその瞬間、フランクの周囲に紫色の光の輪が出現し、縄で縛り上げるかのようにフランクの両腕と両足を拘束した。

 

 

反応すら許されない、僅か数秒足らずの出来事。身体の自由を奪われたフランクはバランスを失い、床へと倒れ伏せる。ロベルトはフランクを見下ろし、高らかにその名を告げた。

 

 

「″双頭の紋章屋(クレストメーカー)″、フリードリヒ=タナーだ」

 

 

明かされたロベルトの正体。それは、今フランクが追っているテロリストの首謀者、フリードリヒ=タナーその人であった。平和主義者から一転、争いと殺戮を是とする悪魔へと変貌したその姿は、もうフランクの知っているロベルトではない。信じていたものに裏切られ、フランクの目が絶望の色へと変わっていく。

 

 

「何ということだ……まさか、貴方が…………」

 

 

そして、同時に静かなる怒りがフランクを震え立たせていた。フランクは身体を縛る光の輪を破壊しようと力を入れる。

 

 

「無駄だ。いくらメフィストフェレスの力を持ってしても、このウロボロスの拘束から逃れる事はできん」

 

 

言って、ロベルトは右手を翳した。右手の指には紫色の指輪がはめられていた。指輪は怪しく発光し、同時にフランクを拘束していた光の輪がさらに身体を縛り上げる。

 

 

身体を真っ二つに引きちぎられてしまいそうな痛み。だが今は痛みよりも怒りが勝っていた。全身をかけめぐる苛立ち。血液という血液が煮え滾り、軍人としての正義がフランクを突き動かす。

 

 

ロベルトはもういない。目の前にいるのは、元凶であるテロリストなのだ。ここで食い止めなければ、また新たな争いが生まれる。

 

 

散っていった仲間達の為に。平和を願う人々の為に。そして愛する家族の為に。例えこの身が引き裂かれようと、必ず生き延びて任務を全うする………その誓いを胸に、フランクは全身に力を込めた。

 

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉ……!!!」

 

 

フランクが叫んだ瞬間、拘束していた光の輪が砕け散り、粒子となって消滅した。予想していなかった展開にロベルトの表情が歪み、焦燥の色へと変わる。

 

 

「ば、バカな……ウロボロスの拘束を自力で破っただと!?」

 

 

あり得ない、と後退りしながらロベルトは再び指輪を翳すが、それを許すフランクではなかった。フランクは指輪に狙いを定め拳銃を発砲。銃弾は指輪を破壊し、光の拘束を無力化する。

 

 

「く…………おのれ……!」

 

 

指輪を破壊されたロベルトは拳銃を向けて反撃を試みるが、フランクは手刀で拳銃を叩き落とし、背後を取り一瞬の内にロベルトを拘束した。ロベルトの後頭部に拳銃を突きつけ、両手を上げろとロベルトに告げる。

 

 

「メフィストフェレス………力を見謝ったか……」

 

 

計算外だった、と自嘲気味に笑い両手を上げるロベルト。フランクは銃口を突きつけたまま、ただ静かに沈黙を守っていた。氷のように凍てついたその眼差しからは、何も感じ取れない。ただあるのは、テロリストを殲滅するいう意思だけである。

 

 

「ロベルト公爵ーーーいえ、フリードリヒ=タナー。貴方を拘束します」

 

 

怒りもなく、悲しみもない無機質な言葉がロベルトへと向けられる。この先に待っているのは断罪。その身を以て、裁かれなければならない。

 

 

それは、裁きと言う名の処刑宣告。多くの人々の命を奪い脅かした罪は、何よりも重く、消す事のできない罪なのだから。

 

 

だが、

 

 

「………私を裁くのかね?だが、それは無理な相談だよ」

 

 

「何…………?」

 

 

ロベルトの返答に、フランクの表情が僅かに険しくなる。この期に及んでまだ何かあると言うのだろうか。その言葉が合図であるかのように、部屋の奥から一人の影が現れる。

 

 

ロベルトとフランクの前に現れたのは、逃亡していたゲオルグと、

 

 

「なーーーー」

 

 

ゲオルグの手に抱えられた、傷だらけのーーー、

 

 

 

 

 

幼い、クリスの姿だった。


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