聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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駆け足になりましたが、次話投稿します。
仕事が忙しい為、更新が難しい状況ですが、それでも見てくださっている方々、本当に感謝です。ありがとうございます。


82話「真実は業火の記憶の中で Ⅳ」

ゲオルグの手に抱えられた、傷だらけのクリス。顔色は青く憔悴した様子だが、幸いにも生きていた。だが気を失っており、小さく呼吸をしているその姿は、今にも命の灯火が消えてしまいそうな程に弱りきっていた。

 

 

「中将殿の言った通りだったよ。切り札は最後まで取っておくものだってね」

 

 

ゲオルグは歪に笑いながら、皮肉を込めた言葉をフランクに投げつける。だが、フランクはゲオルグには目もくれず、ただクリスがこの場所にいるという現実に動揺を隠せずにいた。

 

 

何故クリスが此処に………その疑問に答えるかのように、ロベルトが静かに笑う。

 

 

「君の活躍を自分の目で確かめようと、軍の車両に忍び込んだそうだ」

 

 

健気な娘じゃないかと、感心するロベルト。クリスはフランクの活躍を見たいが為に、軍の目を盗み車両へと乗り込み、戦地へと赴いていたらしい。

 

 

何と言う不運。何と言う不覚。何故今まで気付く事ができなかったのか。自分の大事な娘を、テロに巻き込んでしまった自分自身を呪った。フランクの冷徹な表情が崩れ落ち、怒りを露にしていく。

 

 

「……………クリスを離せ!」

 

 

フランクはゲオルグに激昂した眼差しを、静かな怒りと共に差し向けた。フランクにはもう、冷静な判断はできなくなっていた。娘の命が脅かされているのだ、冷静でいられる筈がない。

 

 

「まずは公爵から手を退いてもらうよ?逆らえば、勿論……」

 

 

ゲオルグは右手の指輪を、クリスの頭の横に突きつける。従わなければ、娘の命はない。言葉のない脅迫に、フランクはロベルトから拳銃を下ろし、ゲオルグの足元へと放り投げた。

 

 

「実にいいタイミングだ、ゲオルグ。この男の能力は少々計算外だったが、全ては順調に進んでいる」

 

 

フランクの拘束から解放されたロベルトはポケットからスペアの指輪を取り出し、右手へとはめ直した。そして再びフランクを光の輪で拘束し自由を奪う。

 

 

「安心したまえ、殺しはせんよ。君には"役者"になってもらわねばならんのでね」

 

 

言って、右手の指輪を天上へ掲げるロベルト。指輪は紫色に発光し、天井に巨大な円状の紋様を描いていく。一体、何を始めようと言うのだろうか。

 

 

「―――パーティーにご参加された皆様、私の声が届いていますか?ロベルトはこの通り無事です!」

 

 

ロベルトが言葉を発したと同時に、その声は会場外からさらに市内へと響き渡る。紋様は発声機としての役割を果たしているようであった。聞いている人々は恐らく、ロベルトの無事に安堵している事だろう。その彼自身が、テロリストの首謀者である事も知らずに。

 

 

「まずはこのような事態を招いてしまった事に対し、同胞の代表として皆様に一つ申し上げたい。この度は、本当に――――」

 

 

尚も演説を続けるロベルトだったが、次の瞬間表情が一変、歪な笑みへと変わり、平和主義者から悪魔へと変貌した。

 

 

「――――愉快で、滑稽で、実に良い茶番劇でしたよ」

 

 

これまで平和を願ってきた者達への侮蔑と、裏切り。ロベルトの発言は一瞬にして、功績と信頼の全てを踏みにじったのである。ロベルトの本性………誰も信じられる筈がない。戸惑いと動揺の色に染まる人々の表情が、フランクの心に突き刺さる。

 

 

テロリストが目前にいるというのに、何もできない。しかし、下手に動いてしまえばクリスの命はない。黙って見ている事しかできない自分に苛立ちを覚えながら、フランクはロベルトとゲオルグを睨み付ける。それが今できる唯一の抵抗だった。

 

 

「平和という甘い蜜の味は如何でしたかな?さぞ甘美だった事でしょう。しかしながら皆様、パーティーのメインイベントはここがらが本番です」

 

 

演説は続く。誰もが耳を覆いたくなるような呪いの言葉が、ロベルトの口から人々へと放たれる。もうやめろ、喋るなとロベルトへの怒りがフランク自身に募っていく。だが彼は止まらない。

 

 

「では、改めて自己紹介をさせて頂きます。完全平和主義者・ロベルトは仮の姿、しかしてその正体は―――」

 

 

今、明かさようとしているロベルトの本性。ロベルトは声高らかにその名を宣言する。

 

 

「"フリードリヒ=タナー"。私こそが、アンシャン・レジーム率いるテロリストの首謀者です!」

 

 

平和主義者の実態。テロリストの首謀者、フリードリヒ=タナー。人々から希望を奪うには、十分すぎる程に残酷な真実だった。

 

 

平和主義を謳うその裏で、紛争を引き起こし、殺戮や略奪、血で血を洗う所業を繰り返していたロベルト。まさに悪魔と呼ぶに相応しい、戦争の火種を生み出す元凶である。

 

 

「いかがでしたかな?平和など所詮は夢幻。どうですか、裏切られた気分は?私はとても気分がいい。しかし、皆様の表情が絶望の色に変わる瞬間が見れないのは、非常に残念な事です」

 

 

ロベルトは用意していたワインボトルを片手に、グラスへと注ぎ込む。その液体は赤く、これから起きる新たな争いを暗示するかのように、グラスから溢れ出していた。

 

 

「では最後に。私の手の中で踊らされた、哀れな人々に血の祝福があらんことを――――」

 

 

ロベルトの手からワイングラスが離れ、床へと落ちる。グラスはその赤い液体と共に飛散し、無惨に砕け散った。床にはグラスの破片と、絨毯に染み込んだワインが、ただ虚しくそこに在るだけである。

 

 

「何とも素晴らしい……完璧な筋書き通りのシナリオだ」

 

 

ロベルトが演説を終えると同時に、天井の紋様が消滅する。これで全ての準備が整ったと、自身の所業に酔いしれながら静かに笑っていた。

 

 

「筋書き通り、だと……?貴様、一体何を考えている!?」

 

 

ロベルトの真意が理解できず、問い質すフランク。しかしロベルトはいずれ分かるとだけ言ってフランクに背を向け、展示室を後にしようとする。

 

 

「………ああ、すっかり忘れていたよ」

 

 

ふと、ロベルトは足を止め視線をゲオルグ―――クリスへと向ける。何か良からぬ事を察したのか、フランクの背筋が、一瞬にして凍り付いた。

 

 

「生憎、私の描いたシナリオの役者は君一人だけでね。これ以上のキャストは不必要だ。残念だが、あの娘には"舞台"を降りてもらわねばならん」

 

 

殺せ、とゲオルグに命令する。クリス生かすつもりなど、端からなかったのだ。フランクの表情が更に凍り付き、生気の色が消え青ざめていく。

 

 

テロリストの事など、信用できない。そんな事はフランクでも理解していた。それだと言うのにロベルトを止められず、最愛の娘の命さえ守れないというのか………行き場のない激しい怒りとクリスを失ってしまう事への悲しみの二つの感情が暴れ出していた。

 

 

クリスが、目の前で殺される………が、しかし。ゲオルグは手を出さず、表情を渋らせていた。

 

 

「それが公爵………あの女からの伝言で、"協力した代わりにこのガキには手を出すな"、だそうです」

 

 

何を考えているんでしょうね、と困り果てるゲオルグ。伝言を聞いたロベルトはしばらく顎に手を当て思考すると、

 

 

「………まあいい、奴に恩を売って損はないだろう。ゲオルグ、その小娘は置いていけ」

 

 

君は幸運だな、とフランクに残して展示室から立ち去るのだった。ゲオルグもそら、とクリスの身体をフランクへ向けて放り投げた後、ロベルトの後を追い消えていく。

 

 

彼らの姿が見えなくなってすぐに、展示室入り口の外から紫の光が発光した。恐らく紋様によって逃亡したのだろう。

 

 

同時に拘束していた光の輪が砕け、再び自由の身となったフランクはクリスの元へと駆け寄り、その身を抱き抱えた。

 

 

「クリス……!クリス……!」

 

 

傷だらけになった我が子を抱き締め、何度もすまない、怖い思いをさせたと自責の念に駆られるフランク。全ては自分の所為だ、と己の無力さを嘆きながらただ悔やむことしかできなかった。

 

 

 

 

 

程なくして、フランクの部隊が展示室へと駆けつけた。部下達もロベルトの演説を聞いていたらしく、未だに信じられないと耳を伺う者達が殆どである。無理もない、平和主義者として活動していた人間が転じてテロリストへと変貌したのだから。

 

 

クリスも応急処置を受けた後、市内の病院で手当てを受ける手筈となっている。幸いにも命に別状はなく、すぐに回復するだろうとの事だった。

 

 

しかし、ロベルトの演説によって事態は大きく変わってしまった。避難したパーティーの参加者の中にはショックで立ち直れない者や、裏切られ憎む者、ひどく悲しむ者と様々だ。この状態では平和宣言はおろか、やがてはロベルトに対する憎しみが大きくなるのも時間の問題だろう。

 

 

それこそが、ロベルトの真意なのかもしれない。人間の悪意の芽生え。戦争の火種。フリードリヒ=タナー……彼はフランクが思っている以上に、強大な敵である事を再認識するのだった。

 

 

「中将。秘書官エドガー=クリストフのご遺体の移送準備が整いました」

 

 

「……そうか」

 

 

担架に乗せられ、担ぎ込まれたエドガーの遺体。真実を知りさぞ無念だっただろうと、フランクは冥福を祈る。そして、必ずこの手でフリードリヒ=タナーを討つと近いながら。

 

 

だが、その決意は思わぬ形で裏切られる事になる。

 

 

「……!?エドガー君の身体が……」

 

 

フランクは目を疑った。突然、エドガーの遺体から紋様が出現し、外殻が溶けるように身体が塵となって霧散したのである。そして、そこに姿を表したのはエドガーではなく、ロベルトの姿だったのだ。

 

 

「ロベルト公爵!?何故、ここに………!?」

 

 

テロリストだった筈のロベルトが、ここにいる。それは、今まで退治していたロベルトが偽物である事を意味していた。

 

 

自らフリードリヒ=タナーを名乗ったロベルト。間違いなくそれは事実。フランクはこの時点で、彼が描いたシナリオを理解した。

 

 

彼は何らかの手段で変装し、ロベルトをテロリストとして演じる事で人々の憎しみを集中させた。そしてロベルトの遺体とフランクを現場に合わせる事で、テロリストを討った英雄として祭り上げられる。フランクをその"役者"として。

 

 

さらにロベルトに裏切られた事で人々の心に憎しみが芽生え、争いへと転じる最悪の結末を迎える………フランク達は最初から踊らされていたのだ、フリードリヒ=タナーによって。

 

 

全ては彼の計画で、テロリストとして演説したロベルトは偽物だと説明しても、平和という希望を失った今、人々は信じる筈もない。

 

 

真実を語ってくれ……そう懇願するフランクだったが、亡骸となったロベルトにはもう届かない。

 

 

真相は闇の中へと消える。フリードリヒ=タナーの筋書き通りに。

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