聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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最新話投稿です。一年越しにならなくて良かった(涙)
駆け足になりましたが、クリス編完結!


84話「それぞれの歩む道」

フランクとの一件から数日。クリスは引き続き川神での滞在を許され、再びサーシャ達と共に事件を追う事になった。心の蟠りが消え、クリスにいつもの日常が戻る。

 

 

しかし、彼女の中で全てが終わったわけではない。クリスにはまだ成すべき事がある。

 

 

それはーーージータの事であった。病院の屋上で望まぬ決闘をして以降、彼女とは会っていない。フランクの事を誤解したまま、和解できず今に至っている。

 

 

このまま終わってしまうのは、嫌だ………クリスは多馬川の土手道を歩きながら、ジータがいるであろう道場へと向かっていた。

 

 

しかし、彼女が道場にいる保証はどこにもない。あんな事があったのだ。もう、この川神にはいないかもしれない。

 

 

かと言って他に宛があるわけでもなく、唯一の手掛かりは道場のみ。僅かな希望を胸に、クリスは歩を進めていく。

 

 

 

しばらく歩いていると、川沿いの近くで激しく争う声が聞こえてきた。誰か決闘でもしているのだろうか………クリスは興味本位で、声のする方角へと視線を向ける。

 

 

「………………え?」

 

 

思わず、言葉を失うクリス。そこにいたのはマルギッテとジータの姿だった。二人は互いの武器をぶつけ、鍔迫り合いになりながら激しい戦闘を繰り広げている。

 

 

「どうしても退かぬと言うのだな、軍人!!」

 

 

マルギッテのトンファー攻撃を弾き、三日月剣(クレセント)による斬撃で反撃するジータ。マルギッテはその攻撃をトンファーで受け流し、距離を取り体勢を立て直す。

 

 

「貴方こそ、手を退くつもりはないのですね………!」

 

 

ジータを睨み付け、再びトンファーを構えるマルギッテ。譲れない物を守る為、戦いへと身を投じていた。

 

 

「ーーーーーはああああああっ!」

「ーーーーーはああああああっ!」

 

 

交互に繰り出す、怒濤の猛撃。武器と武器が衝突して火花を散らし、その勢いは止まる事を知らなかった。互いの刃が砕け散るまで、彼女らの戦闘に終わりはない。

 

 

なぜなら、二人には絶対に退けない理由がある。それは、たった一つ。

 

 

「あの限定いなり寿司は、クリスの手土産にーーーん?」

「あの限定いなり寿司は、クリスお嬢様の為にーーーえ?」

 

 

武器が衝突する直前、互いの手がピタリと止まる。二人の口から出たクリスの名前………徐々に戦意が薄れ、ジータとマルギッテは武器を納めた。

 

 

「お嬢様を………知っているのですか?」

 

 

「ああ。もしかして、大切な人というのは………」

 

 

あの時、マルギッテが夜の公園で打ち明けた大切な人。それはクリスだった。そしてジータもまた、クリスの事で苦悩していた一人である。二人の行き着く先が同じであった事に、奇妙な縁があるものだと驚きを隠せずにいた。

 

 

「その………取り込み中の所悪いんだが………」

 

 

すると二人の間へ入るように、クリスが申し訳なさそうな表情で立っていた。突然現れたクリスに思わず驚いてしまうジータとマルギッテ。戦いに夢中で気付かなかったらしい。

 

 

気まずい空気だけが、三人の中で流れていく。このままでは話が進みそうにないので、場所を移す事になった。

 

 

 

 

 

「………それで、決闘に発展したと」

 

 

道場へ移った三人は室内の隅に座り込み、クリスは事の発端を二人から聞いていた。

 

 

 

クリスともう一度会って話がしたい。そう心に決めたジータとマルギッテ。二人はクリスと和解する為に、それぞれ行動を起こしていた。

 

 

しかし、手ぶらというのも気が退ける。何か手土産の一つでも買っていかなければ………そう思った二人は土産を買う為に、商店街へと赴いた。

 

 

クリスの好物は、いなり寿司である。道場での昼休憩中、いなり寿司を美味しそうに頬張るクリスの姿を思い出したジータは、いなり寿司を買いに。マルギッテもクリスの為にいなり寿司を求め、二人は店を訪れていた。

 

 

手に入れたいものは、数量限定のいなり寿司。店に辿り着いた時にはもう、残り一つになっていた。

 

 

これはもらった、と二人は手を伸ばす。そして二人は偶然その場に居合わせ、思わぬ再会を果たす事になる。

 

 

しかし、限定いなり寿司は一つだけ。互いに譲れない二人はこのいなり寿司をかけ、決闘へと発展したのである。

 

 

 

「……………」

 

 

「……………」

 

 

当事者であるジータとマルギッテは、赤面したまま恥ずかしそうに俯いている。クリスは二人を交互に見ながら、サーシャとの決闘を思い出していた。

 

 

原因はいなり寿司。今思えば本当に下らない理由である。理由を知ったまふゆや京達も、こんな気持ちで見ていたのだなと思うと、恥ずかしさで消えてしまいたくなった。

 

 

けど、それでも。自分に会いたいというジータとマルギッテの気持ちは嬉しく思うクリスなのだった。

 

 

「マルさん、この間はすまなかった。あの時はもう、何もかもが信じられなくて………冷たく当たってしまった」

 

 

病院で、見舞いに訪れたマルギッテを冷たく突き放してしまった事。彼女はただ軍の規律に従ったまで。何も悪い事はしていないのだ………理不尽な仕打ちをしてしまった事を、クリスは悔いていた。

 

 

「いえ、悪いのは私です。結果的にお嬢様を傷つけてしまいました。規律に反してでも、私はーーー」

 

 

「村の事は、父様が話してくれた。紛争の事も………自分の事も全部な」

 

 

「……………!!それでは、お嬢様の記憶も………」

 

 

マルギッテの問いに、クリスは静かに頷いた。紛争と、そしてクリスの記憶喪失。これ以上かける言葉が見つからず、マルギッテは視線を落とし動揺を隠せずにいる。

 

 

彼女はただ規律を守っていた訳ではない。フランクと同じように、記憶が戻る事でクリスの心が壊れてしまうのではないか………そんな気がして、マルギッテも不安を抱えていたのだ。

 

 

「村………記憶?クリス、それは私の………」

 

 

二人の一部始終を聞いていたジータが口を開く。彼女は村の生き残りで、当事者である。紛争で村を焼かれ、大切な家族を失い、憎しみに焦がれた日々。真実を話した所で、何も変わらないかもしれない。それでも、彼女には真実を知ってほしかった。

 

 

「はい。今日はその事で話をしにきました………聞いてもらえませんか?」

 

 

「…………………」

 

 

クリスの問いに、ジータは無言で頷いた。ジータの承諾を得たクリスは一呼吸置くと、フランクから告げられた真実を話し始めた。

 

 

 

紛争を止める為、奔走していた事。フリードリヒ・タナーの計画。平和主義者の偽装暗殺。紛争の勃発。クリスの記憶喪失。多くの人々が命を落とし、戦火の炎に包まれていった。

 

 

そして紛争の最中、ジータの村を救おうとしていた事。誰一人として死なせはしないと必死に手を差し伸べたが、結局誰も救えなかった事を、今もずっと後悔している………フランクが抱えている想いを、クリスが代弁していく。

 

 

決して見捨てたわけではない。全ては己の無力さが故に。多くの命が犠牲になったという現実だけが残った。

 

 

「父様を許してほしいとは言いません。ただ、多くの人々を守ろうとした事だけは………信じて下さい」

 

 

失われた時間は戻らない。過去を変える事もできない。それでもクリスは知ってほしかった。フランクは最後まで、目の前の命を見捨てようとはしなかったのだと。

 

 

「………そうか。私達を、助けようと………」

 

 

深く目を閉じ、クリスの想いを噛み締めるジータ。全てを知った今、思い違いをしていた自分が許せなくなった。

 

 

否、それよりも。

 

 

「たとえ父親が何者であれ、クリスはクリスだ………それなのに私は、とんでもない事をしてしまった」

 

 

憎しみの感情を抑止できず、ただフランクの娘というだけで刃を向けてしまった事への後悔。彼女は関係ないのだ………自分の未熟さが故、すまない事をしたとクリスへ謝罪する。クリスはジータの想いを受けとめ、もう自分を責めないでと彼女を赦した。

 

 

 

すれ違っていた二人が打ち解けていく。回り道にはなってしまったが、おかげで父親の過去、そして自分を知る事ができた。記憶は未だ戻らず、漠然とした不安がクリスの心を締め付けるが………すぐに振り払った。今はこのままでいい。

 

 

「もしよければ……また稽古をつけてくれませんか?」

 

 

またジータの下で稽古を続けたいと、クリスは望んでいた。彼女の強くなりたいという気持ちは、今も変わらない。

 

 

しかし、ジータの表情に影が差す。

 

 

「………その事なんだが。この間の一件で、ここは近い内に取り壊されるらしい」

 

 

「………!?そんな………」

 

 

道場がなくなる。ジータの突然の悲報に、クリスの表情が落胆の色へ変わる。児童の誘拐事件をきっかけに孤児院の責任者、近隣住民が危惧した為、近日中に取り壊しが決まったらしい。元々建造物の老朽化が進んでいた事もあり、取り壊しも時間の問題だったと道場の師範からも話があったのだという。

 

 

「子供達も残念がっていてな……かと言って、元々部外者の私にはどうするもできなかった。明日にはもう、立ち入りもできなくなるそうだ」

 

 

そう言って、ジータは肩を落とした。児童達に稽古をつけていたとはいえ、所詮は外部の人間である。師範と何度か講義を申し立てたが、取り壊しを決めた役所側は聞く耳を持たず。何もできなかった自分を悔いるばかりだった。

 

 

「……ジータは、これからどうするのですか?」

 

 

「私は一度川神市(ここ)を出る。長くいれば、アデプトの連中が刺客を差し向けてくるだろう。奴らの狙いは私だ………その所為で、他の人達を巻き込むわけにはいかない」

 

 

ジータを狙っていたアデプトの異端者は、未だ川神市に潜伏している可能性がある。自分がいる事で周囲に危険が及ぶのは、ジータにとっては耐え難いものだった。もうこれ以上、児童達のような被害があってはならない。

 

 

「それでは、もう………」

 

 

クリスが察した通り、ジータとはしばらく会えなくなる。もしくは、もう二度と会う事はないかもしれない。折角解りあえたというのに………現実は非情である事を思い知らされる。彼女から学ぶべきものは多く、今のクリスにとってジータという存在はより大きなものとなっていた。

 

 

それならば、取る行動は一つしかない。

 

 

「ジータ。最後にもう一度………」

 

 

「ああ………もう準備はできている」

 

 

ジータもクリスも、考えている事は同じだった。心残りがないように。もう一度互いの全てをかけて。

 

 

「マルさん、審判を頼みたい」

 

 

「承知しました。ではお嬢様、ジータ殿。こちらへーーー」

 

 

マルギッテが審判を担い、道場の中央でクリスとジータの間に入る。それぞれ武器を取り、互いに向き合うその姿は騎士と呼ぶに相応しい。

 

 

「ジーターーーー全力で、いきます!」

 

 

「ーーーー来い、クリス!」

 

 

もはや交わす言葉は不要。二人は見合い、武器を構えてその時を待つ。後は全力を以て、ぶつかり合うのみ。

 

 

「それでは…………試合開始!」

 

 

マルギッテの試合開始の合図と同時。クリスとジータ、両者の戦いが幕を開けたーーーーー。

 

 

 

 

 

道場からの帰り道。土手道を歩くクリスとマルギッテの姿を、夕暮れが照らしていた。

 

 

「見事な試合でした。お嬢様」

 

 

また強くなられましたね、と称賛するマルギッテ。しかし、それを聞いたクリスは気に食わなかったのか、少し頬を膨らませながらマルギッテに顔を向ける。

 

 

「マルさん、意地が悪いぞ」

 

 

見事も何もない、と傷だらけになった自分の姿を見せつけるクリス。頬には絆創膏が貼られ、いかに打ちのめされたかを物語っている。

 

 

ジータとの試合は、殆ど手も足も出ず完敗に近かった。ジータやフランクとの戦いを経て学んだ術を活かし、全力を以て挑んだものの、そう簡単に勝てる程甘いものではなかった。精々一方的な戦いにはならなかった、その程度である。マルギッテに悪気はないのかもしれないが、いっその事はっきり言ってくれた方がいいとクリスはふんと、鼻息をつくのだった。

 

 

すると、マルギッテは捻くれるクリスを見て何を思ったのか、くすっと小さく微笑んで、

 

 

「…………そうですね。はっきり言って完敗でした。私も一度手を合わせましたが、ジータ殿は相当な熟練者です。お嬢様が少し稽古をつけた程度で勝てる相手ではありません。もう少し自分を知ってください」

 

 

「なっ……!?」

 

 

ド直球とも言える程の評価を、クリスに投げ込むのだった。クリスも流石にその返しは予想していなかったのか、受け止めきれず精神的なダメージを負わされる。

 

 

「そ、そこまで言われるとは………心が痛む……」

 

 

「お嬢様がはっきり言ってくれと、そう言ったので正直な感想を述べたまでです。今後は戦闘・戦術に関する事は厳しく評価させて頂きますから、そのつもりで」

 

 

心を鬼にします、とクリスに宣告するマルギッテなのだった。それは、強くなりたいと言う彼女の願いの為に。そして軍人としてではなく親しき友人として。クリスを思うが故の決意表明だった。

 

 

マルギッテの態度にしばらく呆けていたクリスだったが、その真意を感じ取ったクリスは笑みを返し、自分を思ってくれる事に感謝するのだった。

 

 

「………望むところだ、マルさん!」

 

 

一度はすれ違い、関係に亀裂が生まれた二人。しかしそれ故に距離が縮まり、マルギッテの心境にも変化が現れた。それはクリスにとっても、マルギッテにとっても大きな前進となった。

 

 

(ジータ………自分は、もっと強くなります)

 

 

志す理想は遥か遠く。されど進むべき道に迷いはなし。道場への道を振り返りながら、別れを告げたジータにそう心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

帰り道。ジータは夕焼けに染まる空を眺めながら、クリスとの試合を思い返していた。

 

 

(………また腕を上げたな)

 

 

少し見ない間に、クリスの戦い方は変化を遂げていた。戦術を学び、技を磨き、ほんの僅かな期間で確実に力をつけている事が試合の中で感じ取れた。気を抜けば、あっという間に追い抜かれてしまうだろうなとジータは苦笑する。

 

 

無論それだけではない。以前よりも表情に凛々しさが増し、迷いの晴れた曇りのない眼。誰よりも真っ直ぐで、真の強さを追い求める彼女の姿は、輝かしく、羨ましいとさえ思う。

 

 

フランクの過去、そしてクリスの記憶。クリスは父親と、そして自分自身と向き合う事で、精神的にも成長を遂げていた。未だ記憶は戻らないと話していたが………それが彼女にとって大きな障害に成り得るものだとしても、乗り越える事ができるだろう。

 

 

(………………………)

 

 

歩いてきた道を、ジータは振り返る。一度衝突はあったがこうして彼女と和解し、大切なものを得る事ができた。クリスと過ごした時間は、決して忘れはしない。

 

 

(いずれまた会おう。強くなれ………クリス)

 

 

ジータもまた、高みを目指す。理想は彼方の先に。己が信ずる道を征く。

 

 

 

ーーーーまたいつか、会える日まで。

ーーーーまたいつか、会える日まで。

 

 

 

クリスとジータはそれぞれの道を進む。道は違えども、目指すものは変わらない。

 

 

二人は歩き続ける。いつか訪れるであろう、互いの再会を願いながら。

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