聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
この後もう一つだけ話が続きます
大剣に巻かれた包帯が解き放たれ、その刀身が真の姿を表す。
白銀に輝く、研ぎ澄まされた刃。刀身の中心には剣の形をした空洞があり、そこから大剣使いの姿が垣間見えた。視線が一子を捉えた瞬間、大剣使いは地面を蹴り一気に一子との距離を詰める。
「……………っ!?」
振り下ろされた大剣の剛撃を、一子は紙一重で躱す。衝撃で風圧が生じ、大剣は地面を容易く粉砕する。大気をも切り裂く怒涛の一撃………まともに受ければ、命はない。
「はあああああっ!!」
休む間もなく、大剣使いの二撃目が一子を襲う。攻撃は大振りだが切り返しは早く、反撃の隙すらも見せない。辛うじて躱してはいるが、限界は必ず訪れる。既に一子の体力はもう底を尽きかけていた。
(………っ!?身体中が、軋む…………!)
攻撃を躱す度に、一子の身体が声なき悲鳴を上げる。全身に激痛が走り、保っていた意識が少しずつ"壊れて"いく。防戦一方の戦い………反撃しなければという焦りと戦えなくなるという不安が鬩ぎ合いになり、その肉体と精神は確実に追い詰められていた。
(このままじゃ、やられる…………こうなったらもう一度、あれを使ーーーーーあ、え)
大剣使いの攻撃を避けようと身構えた瞬間、全身の力が抜け落ち、一子はまるで糸の切れた人形のように地面へと崩れ落ちた。
突然やってきた、身体の限界。それを認識した時にはもう、大剣の一撃が一子の腹部へと直撃していた。幸いにも剣の背による峰打ちだったが、その衝撃は凄まじく、一子の身体は容易く吹き飛ばされ地面へと叩き付けられる。
「はーーーあ、ぐ………ゔっ………ごほっ!げほっ!?げほっ!?」
内臓を抉られるような、鋭く重い一撃。一子は咽返り胃液を何度も吐き出した。呼吸がうまくできず、苦痛に顔を歪ませながらその場に蹲る。もし峰打ちでなければ、一子の身体は真っ二つに両断されていただろう。
一子は既にもう、立ち上がる事すらできなくなっていた。それでも、意識を保っている事が不思議なくらいである。
「ーーー君は本当に強かったよ。でももう、身体は限界みたいだね」
動けない一子の前に立ち塞がる、大剣使い。そして同時に、その手に持つ白銀の大剣が大きく振り上げられた。これで終わりだ、と告げるように。
「…………………く………あ」
一子の視界が、歪む。体はもう動かない。
これ以上ーーー先に進む事はできない。その認識が保っていた意識を蝕んでいく。
これで全て終わり。師範代になる夢も、百代のように強くなりたいという願望も、自分自身を制する事さえも。何も成し遂げられないまま、一子の意識は深い闇の底へと沈んでいった。
"ーーーーーーーーまだ、戦える!"
「…………………!?」
振り下ろされた大剣が、突然止まる。否、止められていたのだ………一子の手によって。予想だにしなかった行動に、大剣使いは動揺を隠せない。
もはや風前の灯火だった一子の意識。しかし一子は再び目覚め、大剣を素手で掴み抑え込んでいた。その手からは血が滲み、鮮血が生々しく滴り落ちる。
「歩むは…………果て、無き……荒野…………」
聞こえる。自分の中にある、心の声が。その声に耳を傾けるように、一子は小さく言葉を連ねていく。
「奇跡も、無く……標もなく………ただ、夜が………広がる、のみ………」
擦り切れたような声を上げながら、地面を蹴り大剣を徐々に押し返していく一子。まだ
「揺るぎ、ない意志を………糧、と………して」
それは、一子の精神に刻まれた魂の形。心の叫び。恐れず前に進み続ける、揺るぎない信念。
「…………闇の旅を………進んで、い、く………勇往、邁進………!」
絶対に諦めない。この命の炎が消えない限り、戦い続けるーーー全身全霊を以って。咆哮を上げ、迫りくる大剣を退けてみせた。一子は大剣使いから距離を取り、体制を立て直す。
もうこれ以上、戦える程の力は残されていない。限界はとうに超えている。だからどうしたと自分に言い聞かせた。それなら一撃で仕留めればいいだけの事。たとえこの身が砕けようとも、戦い抜くと決めた。
「………はーーーあ………あああああああああああああああああああ!!!」
一子の身体の周囲に、再び電気が迸った。全身が焼き切れ、引き裂かれてしまうような痛み。心が壊れてしまいそうになる………それでも一子は堪えた。限界の、さらにその先へ進む為に。
ーーーー元々、武の才能がなかった一子。それは自分でも理解していたが、認めたくはなかった。認めてしまえば、夢も目標も閉ざされ消えてしまうから。
諦められなかった。強さが欲しかった。しかしその純粋さが故に心に隙が生まれ、不本意とはいえ元素回路に手を染めてしまった。
やがて強くなりたいという願いは強者への憎しみへ変わり、仲間を傷つけ、自分の居場所さえも見失いかけた。サーシャ達がいなければ、今頃は力に溺れた化け物になっていただろう。
だが皮肉にも、一子の才能は歪んだ形で
けど、それでも。
「才能だの、何だの………関係ない。このままじゃ、情けなくて、悔しくて………お姉様に、いやーーー」
一子の闘志は、決して消えない。
「ーーーー自分に、顔向けできない!!!」
身に纏った電撃が、さらに勢いを増す。一子は右腕の拳を力強く握り締めた。拳に電撃が蓄積され、放電しながら蒼白く光を帯びていく。乱れた呼吸を整え、目の前の敵ーーー大剣使いを眼に焼き付ける。
その拳は、敵を穿つ雷鳴の如く。一子が日々の鍛錬の末に実現した答え。そして
「川神流ーーー無双正拳突き・迅雷!!!」
雷を纏った強烈な正拳突きを、全力を込めて撃ち放った。一気に距離を詰め、大剣使いへと拳を叩き込む。
(ーーーーぐっ!?何て、重い一撃…………!!)
大剣を盾代わりに、防御し応戦する大剣使い。しかし一子の攻撃は想像以上に重く、大剣を通して身体全体が軋みを上げる。さらに攻撃による重圧が足下の地面を抉り、大剣使いの身体が後ろへと戻されていく。
一子は止まらない。たとえこの身が砕けようとも、前へ進み続ける。そして遂に、一子の拳は………大剣使いの刀身に亀裂を生じさせた。
「………!!エクスカリバーに
大剣使いの表情が焦りの色へと変わる。単純に力だけは、一子が上回っていた。このまま大剣を砕き折り、拳が届くのも時間の問題………勝利を確信したその矢先、
「………………………………っ」
突然全身の力が抜け、一子はその場へ崩れ落ちた。眼は虚ろ色に染まり、拳からは光が消えていく。限界を超え酷使し続けた一子の身体は、もう言う事を聞かなくなっていた。地面に横たわるその姿は、まるで魂の抜け殻。
(……………あと、少し……だったのになぁ…………)
消えていく意識の最中、一子は自分の無力さを噛み締めていた。後に残るのは悔しさと、自分自身への不甲斐なさ。泣いても笑っても、この結果が全てを物語っている。
最後の最後で、届かなかった………どうしようもない現実を受け入れたその瞬間、一子の意識は完全に消失した。