聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

132 / 132
※このエピソードはクェイサーの原作において、オリジナルの設定が入ります。


京エピソード①「携香女(マグダラ)の伝承 Ⅰ」

夢を見ていた。

 

 

視界に広がるのは無限に広がる地平線と、何もない真っ白な空間。僅かな音も聞こえず、静寂無垢なこの場所で京はただ一人立ち尽くしている。

 

 

(……………何もない)

 

 

しょーもない夢を見ていると、溜息を漏らす京。悪夢よりはマシだが、ここまで虚無一色となると返って気味が悪い。

 

 

「………………ん?」

 

 

背後に気配を感じる。京は後ろを振り返ると、そこには京ーーーー自分自身の姿があった。

 

 

「私…………なの?」

 

 

目の前にいる自身の姿に、違和感を覚える。確かに京なのだが、京であって京ではないとも言える。それ故に自分であると確信が持てない。何故なら京には、

 

 

「違う…………私じゃなくて、華?」

 

 

華にも見えていたからである。しかしそれもまた、華であって華ではない。この哲学的状況は、一体何を意味しているのだろう。

 

 

すると()がゆっくりと京へ歩み寄り、両手を取り互いの手を合わせる。指と指を絡めつつ徐々に顔を近づけ、そして、

 

 

「…………………っ!!」

 

 

唇を重ね、そっと口付けを交わすのだった。拒む隙も与えない程の刹那的瞬間。突然の出来事に思考が働かず、京は彼女の接吻を受け入れる事しかできなかった。夢だと言うのに、その感触はあまりにも現実味が色濃く感じられる。

 

 

「ーーーーーーー」

 

 

唇を離し、優しく微笑む()。長くも短い接吻が終わりを告げ、京の思考がようやく動き出す。次第に状況を理解し始めた京は、

 

 

(え…………ええぇええええええぇぇぇえええ!?)

 

 

この上なく動揺していた。異性からではなく、同性によるキス。しかもその相手が自分(?)自身。もう訳がわからない。冷静でいろと言う方が無理な話である。

 

 

しかし………不快感はなかった。むしろ嫌ではないとさえ感じてしまう。それが不思議でならない。

 

 

 

"ーーーー汝、我を愛せよ。我もまた、汝を愛せん"

 

 

 

心に直接語りかける、彼女の声。その言葉が何を意味しているのかは分からない。

 

 

「あなたは、誰なの?私?華?それとも………」

 

 

京の問いに対し、()はただ笑みを返した。そして再び、京の心に声を響かせる。

 

 

"ーーーーー(アタシ)は、"

 

 

京であり、華でもある彼女の存在。夢の中で、何を伝えようとしているのだろうか。京は彼女の言葉を受け入れ、目を閉じ静かに耳を傾けた。

 

 

 

 

 

"共鳴者(レゾネイター)"

 

 

 

 

「ーーーーーーーー!!」

 

 

唐突に夢が終わり、京の意識は現実へと引き戻された。目を開けると、視界には見慣れた天井。ここは島津寮で自分の部屋である事を認識する。

 

 

(………………変な夢)

 

 

説明のつかない夢の顛末。人が見る夢の内容の殆どは解釈できないと言うが………これは如何なものか。考えた所で無意味だと分かっていても、詮索せずにはいられない。しばらく頭を捻っていたが、所詮は夢なので京は思考を打ち切った。

 

 

(でも夢とはいえ、私のファーストキスが奪われるなんて………)

 

 

何とも目覚めが悪い、と肩を落とす京。どうせ夢なら、大和にされた方がよかった………そんな事を思いながら、京は朝の支度を始めるのだった。

 

 

 

 

 

放課後、川神市某図書館にて。

 

 

授業を終え下校した京は寮には戻らず、一人で図書館へと足を運んでいた。歴史書や伝承の類の物等、あらゆるジャンルの書物を手に取っては、ひたすらに項目を捲り続けている。

 

 

夢の中で聞いた彼女の言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。たかが夢の内容なのに、一体何をやっているのだろうと呆れている自分がいる。それでも京は手を止めず、探し続けた。

 

 

(…………やっぱり、ないよね)

 

 

結局探している物は見つからず、積み立てられた本の山を眺めながら途方に暮れる京。元々期待はしていなかったが、公共の図書館にクェイサーや元素回路(エレメンタル・サーキット)の文献が記された書物など、取り扱っているわけがない。

 

 

歴史の裏で戦いを繰り広げてきた、クェイサーという存在。そして元素回路。サーシャ達に出会うまでは存在自体知らなかった。知っている人間はごく一部のみ。

 

 

そもそも、何故()の言っていた事がクェイサーと結びつくと考えたのか………理由も根拠もない。ただ求めている答えがそこにあるのではいか。その衝動が、京を突き動かしていた。

 

 

彼女に導かれている、そんな気がして。

 

 

「ーーーー調べ物ですか?京さん」

 

 

ふと、後ろから京に声をかける男性の声。振り返るとそこにはユーリの姿があった。気配がなく、幽霊のような存在感。そして右眼の眼帯。相変わらず不審者そのものにしか見えない。

 

 

「まあ、そんな所です。そしてユーリさんは背後から私を視姦………NOMORE性犯罪。摘発しないと」

 

 

「はは………これは手厳しいですね」

 

 

京のノリをさらりと笑顔で躱すユーリ。掴み所のない怪しさ全開の中二病神父(京の個人的見解)。突くと一体何が出てくるのだろう………いっそ眼帯の秘密でも聞き出してみようかと考えていると、ユーリは積まれた書物を手に取り適当に項目(ページ)を捲り始めた。

 

 

「………もしかして、クェイサーの歴史について知りたいのではありませんか?私でよければ、できる範囲でお答えしますよ」

 

 

京の心情を読み取るように、涼しげな表情で答えるユーリ。察しの通りである。夢で告げられた彼女の言葉………それがクェイサーと関係しているのかは分からない。知らないと言えばそれまで、ただの夢だったと話は終わる。

 

 

しかし、ただの夢だとは思えない。知りたい、知らなければという一種の使命感が京の中で芽生え始めていた。ユーリならーーーアトスの人間なら何か情報知っているかもしれない。僅かでも可能性があるのなら………と、京はユーリに訪ねた。

 

 

「………''レゾネイター''って言葉、知りませんか?」

 

 

「ーーーーーーーー」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、項目を捲るユーリの手が止まる。二人の間に流れる空気が重くなり、張り詰めた糸のような緊張感が京の肌に伝わる。まるで触れてはいけない何かに、触れてしまったように。

 

 

「…………………………………それを、どこで?」

 

 

刺し貫くようなユーリの鋭い視線。先程の表情とは一変、感情のない無機物へと変貌したユーリに、京は恐怖を感じていた。命の危険さえ、覚えてしまう程。

 

 

「あ………その……………夢、です。夢で聞いたんです。クェイサーの事と、何か関係あるのかなって。それで…………」

 

 

絞り出した京の声は、微かに震えていた。心臓の鼓動が早くなり、全身が脈打つ感覚。逸らす事すらも許されないユーリの視線は、逃すまいと京を射止めている。

 

 

(夢………………成程、そういう事ですか)

 

 

思考した末に一人納得するユーリだったが、同時に京の表情が引き攣っている事に気付く。余程自分が怖い顔をしていたのだろう、ユーリは表情を崩し、これはすみませんでしたと一言置いた。

 

 

「京さん、少し時間はありますか?」

 

 

「……………はい?」

 

 

唐突なユーリからの誘いに、思わず変な声を上げてしまう京。場所を移し、話がしたいのだという。それはつまり、ユーリが"知っている"事を意味していた。

 

 

 

「貴方にお話しておきましょう。雷の携香女(マグダラ)における伝承ーーーー"共鳴者"(レゾネイター)について」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。