聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
年月は経ちましたが、少しずつ執筆を続けています。
見て下さっている方、少しでも楽しんでもらえれば幸いです。
京が案内された場所は、川神市内にある教会だった。ユーリは一時的に教会を借りアトスの支部ーーー拠点及び資料保管庫として使用しているらしい。
(川神にこんな場所があったなんて………)
教会の中を見渡す京。鮮やかなステンドグラスの窓で彩られた内装は、神々しく全てを包み込むような優しさと慈愛に満ちている。
ユーリの言われるがままに廊下を進んでいくと、"資料室"と書かれた扉の前に辿り着く。ユーリは京にここで少し待っていて下さいと言い残し、踵を返して立ち去っていった。
「…………おじゃまします」
資料室の扉を開ける。扉を開いた瞬間、古書の独特の香りが鼻をついた。室内には大量の書物を保管した棚が配置され、まるで図書館の一角を切り取ったかような空間が広がっている。
棚に陳列された書物を眺めつつ、京は室内を進んでいく。ここにあるものは全て、クェイサーや元素回路に纏わる書物なのだろうか。手掛かりが見つかればいいのだが………目についた書物を手に取り、項目を捲り始める。
(…………?これって、もしかして………)
内容は偶然にも、
無数に広がる情報の波。京は文字の一つ一つを目で追いながら、取り憑かれたように項目を捲り続けた。
しばらく読み続けていると、ある文献へと辿り着く。それは元素回路の"始まり"とされる、
始原の元素回路。
かの錬金術師によって編み出されたとされる、元素回路の起源。七つ存在すると言われており、それぞれが異なる性質を持つ力の紋様。
"剣の
"黄昏の
"沈黙の
"再生の
"雷の
残りの二つは文字の劣化が激しく、掠れていて読めない。それ以降の記録は一部だけ粗雑に破かれてしまっていた。他にも何か記されていた痕跡がある………気になる所だが、今知るべきは雷の携香女である。
そして、
手当り次第、読み漁っていくしかない。京が他の書物に手を伸ばそうとした時、資料室の扉が再び開かれる。入ってきたのはユーリだった。ユーリは手に書物を抱えながら、おまたせしましたと京に声をかける。
二人は資料室の読書スペースへ移動し、向かい合わせになるように席へ着いた。
「では、京さん………まずはどこからお話ししましょうか?」
話を始めるにしても、下準備が必要ですからねとユーリ。しかし、それには及びませんと京は読んでいた書物を提示する。
「元素回路については、これを読んで何となく理解したつもりです」
ユーリが来るまでの間に、大体は読み込んだと京。するとユーリは目を見開き、感心したのか驚いたような表情を見せる。
「驚きましたね………川神学園では、古代ギリシャ語を専攻されているのですか?」
「ご丁寧にも日本語訳されていたので」
「………………?まあ、ともかく。それなら話が早くて済みます」
言って、手に抱えていた書物を京に見せるユーリ。厳重に管理されているのか、書物には鎖が何重にもかけられていた。その中央には紋章の刻まれたアミュレットが取り付けられ、黒と紫が入り混じったような禍々しい光を放っている。
「いかにもヤバい感じの書物。そして漂うタブーの香り………」
目を光らせる京。有害図書………否、それ以上の物である事は間違いない。
「ええ。これから紐解く物はまさにタブー。クェイサーの歴史における禁忌に触れるのですから」
ユーリはアミュレットに手を翳すと、アミュレットが消失したと同時に、鎖が塵となって霧散して消えていく。封印を解かれた書物は、見た者を押し潰すような重圧と存在感を放っていた。まるで生きているのではないか、そんな錯覚さえ覚えるくらいに。
「………………」
触れてしまえば、もう後戻りはできない。そう確信する。しかし引き返すつもりはなかった。求めていた答えが、ここにあるのならーーーー京は手を伸ばし、項目を捲り始めた。
″
それは二つの魂が重なり合う事で、雷の携行女の真の力を解き放つとされる伝承上の存在。その昔、神の遣いの象徴として人々から崇められていたという。
"依代と
依代となる肉体と雷の携香女を宿した魂。二つの魂が一つになり、神子として具現すると記されている。絵画には二人の女性が両手を組み祈りを捧げる姿と、胸に携香女の紋章が刻まれた神子の姿が描かれていた。
その背中には六枚の白い翼を携えている………まるで天使のようだと京は思った。
「共鳴者ーーーまたの名を光の神子。神に等しきその力はクェイサーをも凌ぐと言われています。しかし、未だかつて適合者が現れたという記録はなく、この文献以外、詳細は何も解っていないのが現状です」
それ故。ただの御伽話だと存在を否定する者も多いとユーリ。情報が少なく信憑性がない事から歴史の底に埋もれ、やがて忘れ去られていった。所詮はただの空想か………そう諦めつつも、記憶の片隅へと留めておいた。
しかし時を経て、このような形で再び耳にする事になろうとは。
「恐らく京さんは力の一端に触れた事で、携香女の性質の一部を垣間見たのでしょう」
これで共鳴者の存在が現実味を帯びてきましたと、ユーリは複雑な表情を浮かべていた。禁忌と呼ばれているだけあって、存在が証明された事は喜ばしいと言えないのだろう。
「…………………」
京は学園で起きた一件を思い出す。クリスを助ける為に、華と共に携香女の力を行使した。
ーーーーもしも自分に、共鳴者の素質があるのだとしたら。
夢に現れた彼女の事を信じるなら、きっとサーシャ達の力になれるかもしれない。夢で起きた事を詳しく伝えておこうと口を開いた京だったが、
「あの、実はーーーー」
「ーーーさて、本題はここからです」
その言葉を遮るかのように、ユーリはもう一つの資料を取り出した。その資料はまだ新しく、黒いファイルで閉じられている。つまり共鳴者の伝承は前座に過ぎず、禁忌とされている本当の理由がこの先にある事を示していた。
「この資料は………?」
「とある組織の研究記録です。閲覧するかどうかは貴方にお任せしますが………責任は持ちませんよ?」
気持ちのいい内容ではありませんからね、とユーリは釘を刺す。何を今更と京は呆れた口調で言葉を返した。毒を喰らわば皿まで。禁忌に触れた以上、最後まで見る義務がある。
ファイルを手に取り、静かに項目を開く。ファイルの中には焼け焦げた跡が目立つ、古びた研究資料が保存されていた。
もう、躊躇う必要はない。突き動かされるがままに、京は資料を読み進めたーーーー。
資料を読み終える頃には日が沈みかけ、空は茜色に染まっていた。京はユーリの車で寮まで送られ、ユーリにお礼を言って別れを告げる。
車を見送り、寮の入口の戸に手をかけた時。車内でユーリに言われた言葉が不意に蘇った。
"ーーーーくれぐれも、早まった真似だけはしないように"
あれは一体、何を意味していたのだろう。ただ、心の内を見透かされていた気がする。恐らく最終警告である事は間違いない。
夢を見た原因は携香女の性質だとユーリは言っていたが………冷静に考えれば、自分が共鳴者になれるという確証はどこにもない。所詮、夢は夢でしかないのだ。少しでも浮かれてしまった自分が馬鹿みたいだと京は自嘲した。
それに、安易に行動すれば取り返しのつかない事になる。それこそ、資料に書かれていた人達と同じ運命を辿る事になるだろう。
ーー………ーーーー………ーーーー。
「ーーーーーーえ?」
一瞬、ノイズと共に流れ込む映像の断片。まるで、自分がその場で体験したような錯覚さえ覚える。記録を見た影響で感化されたのだろう………脳裏に焼き付く程の現実感が、京に何かを訴えかけていた。
(………………あれ)
唐突に感じる、頬への違和感。触れたその指先には、無自覚の涙。
(…………何で私、泣いてるんだろう………)
それは失われていった命への悲しみか。自分の抱いた感情を認識した瞬間。その涙は止めどなく、溢れるがままに京の頬を伝い流れ続けていた。
京が見た実験記録のお話は、後日投稿予定です!