聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
サーシャ達が転入してから数日が過ぎた。
川神市に流出している謎の
サーシャ達が調査しているエリアは親不孝通り。その名の通り治安が悪く、如何わしい店やドラッグの密売が頻繁に行われている。しかし、元素回路に関しての情報は全くない。
サーシャ達の調査は、困難を極めていた。
朝のHR前、サーシャ、まふゆ、華の3人は現在作戦会議&現状報告の最中である。
「見つからないわね、元素回路」
まふゆは肩を落とし、窓の外を何気なく眺めていた。まふゆはサーシャと同行し、親不孝通りを見て回ったが、ドラッグの常習犯を一人捕まえただけで、それ以外何も進展はなかった。
「アタシもカーチャ様と周辺を探ったけど、進展なしだぜ……っていうかカーチャ様、てっきり川神院に来ると思ってたのに、滞在場所が別だなんて……」
華は別の意味で肩を落としていた。カーチャの滞在場所は別で手配したらしく(カーチャが勝手に決めた)、華に置き手紙を残して去っていったという。
ちなみに置き手紙の内容は、
『お・あ・ず・け☆』
と、カーチャの似顔絵とこの四文字だけである。要するに放置プレイという奴だ。
「我慢しろ。
サーシャが腕を組み、真顔で答える。華はねーよ!と言って機嫌を損ねるのだった。
「ったく……お?」
ふと、華の目に留まったのは福本の姿だった。福本は自分の席に座ったまま、何もせず大人しそうに席に座っている。
いつもなら盗撮を図るのだが、今日はカメラを持参してない上にやけに物静かだった。
何か企んでいる……華はニヤリと笑い、早速からかいにいく事にする。
「やけに大人しいなヨンパチ。今日はカメラ持ってないのかよ?」
嫌味のように話かける華。しかし福本は黙ったまま、まるで電池の切れた機械のように無機質な表情を浮かべていた。無視されたような気がして、華は福本を睨み付ける。
「おい、聞いてんのか?」
「………」
それでも、福本の態度は変わらなかった。不思議に思った華は福本の顔を覗き込むように見る。福本の表情はまるで、感情のない人形のようだった。
「あれ、どうしたの桂木さん」
華に声をかけてきたのは卓也だった。側には岳人もいる。
「ヨンパチのやつ、声かけても何の反応もしないんだぜ?コイツどうしちまったんだよ」
無反応な福本の身体を指で突く華。しかしそれでも反応は返ってこない。すると、岳人がヨンパチの前に出てくる。
「昨日AV見て抜き過ぎたんじゃねぇの?ま、こいつを見りゃ元のヨンパチに戻るって。ヨンパチ、例のヤツ手に入れてきたぜ~」
岳人が手に持っていた紙袋の中に手を突っ込み、一冊の本を取り出した。
『豊作!美少女巨乳乱獲祭!~もぎたて夏の果実たち~』と書かれたタイトルの本だった。表紙には巨乳の水着美少女達が恍惚な表情をして写っている。要するに、エロ雑誌である。
岳人は早速雑誌をパラパラと捲り、特集ページを福本の目の前に突きつける。
「―――――――」
福本の表情が、僅かに動いた。目の焦点が雑誌に集中する。徐々に身体が震え、男としての本能が福本を震え立たせた。
「うわあああああああああああああああああああ!!!おっぱい怖いよ~!!!!!!」
そして恐怖と共に、悲痛の雄叫びを上げた。それと同時に卓也と岳人……クラス全員が驚愕し、揃えて声を上げる。
「ええええええっ!?ちょっと待ってよ、一体何があったのさヨンパチ!?」
福本の豹変が信じられず、卓也は驚きを隠せなかった。岳人も予想外の反応に面食らい言葉も出ず、持っていた雑誌を落として口をあんぐりと開けている。
女性の美を追求し続けてきた福本。24時間セックスしか考えていないと豪語していた福本。そんな彼から女性の胸に恐怖を抱くなどと、一体誰が予想できただろうか。できるはずがない。
「2人とも、何かあったの?」
騒ぎを聞いて京がやってくる。
「京、ヨンパチがおかしくなっちまった……」
岳人は福本を指差す。ヨンパチは恐怖に震えていた。
「ふーん」
興味なさそうに福本を見る京。すると、京は岳人が落としたエロ雑誌を拾い上げ、
「ほーれ」
再び特集ページを福本に突き付けた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
福本は恐怖のあまり、机の下に隠れてしまった。
「うん、重症だね」
「京、それ面白がってやってるよね!?」
卓也の突っ込みが入る。京はくくく、と笑うと自分の席へ戻っていった。確信犯である。
「皆さん、もうすぐウメ先生が来ますよー!」
予鈴のチャイムが鳴り、真与が生徒達に声をかける。生徒達は席へ戻り、HRの体制に入った。
教室の扉が開き、梅子が入ってくる。委員長が号令をかけて挨拶をすると、いつものように朝のHRが始まりを告げた。
「おはよう諸君。朝のHRを始める」
梅子は一通りの連絡事項を手短に生徒達に伝え、早めにHRを切り上げた。咳払いをし、もう一つの連絡事項を生徒達に伝える。
「それと1時限目の体育の授業だが……今日は特別講師に来てもらっている」
と、梅子。クラス全員がざわつき始めた。梅子は「静粛に!」と鞭を捌き、場を沈める。
「その方は多くの戦場を潜り抜けてきた戦いのプロだ。存分に鍛えてもらうといい……では教官、宜しくお願いします」
梅子は教室の扉に向かって声をかける。
聞こえてきたのは足音。梅子とは違い、重苦しく圧し掛かってくるような威圧感があった。
教室の扉が勢いよく開く。現れたのは黒の修道服を着た、引き締まった体格を持った巨漢の女性。
そう、その正体はサーシャ達の師匠―――ビッグ・マムだった。ビッグ・マムは堂々と教室に入り、Fクラスの生徒達と向き合った。
「紹介しよう。この方はとある養成所から派遣された格闘及び戦術教官、ビッグ・マム講師だ」
「――――――――――」
クラスの生徒達は全員、目を見開いている。ビッグ・マムの圧倒的な存在感に声も出せずにいた。
「「「ビッグ・マム!?」」」
声を出して驚いていたのはサーシャ、まふゆ、華だった。
「久しぶりだねぇ、サーシャ、まふゆ、華。ここに転入したと聞いていたが……まさか最初の授業がお前達のいるクラスだとはねぇ」
これも因果か、必然かと言ってバキボキと拳を鳴らすビッグ・マム。反射的に、サーシャ達の背筋が一瞬で凍り付いた。
ビッグ・マムとの再会。喜ぶべきか、悲しむべきか。サーシャ達にとって複雑な心境である。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!出たあああああああああああああああああああああ!!!」
そしてもう1人、声というより悲鳴を上げていたのは福本だった。福本はビッグ・マムの姿を見て失禁し、恐怖に慄いていた。ビッグ・マムは福本の方へ顔を向け、ニヤリと笑う。
「ほう。お前は昨日の盗撮小僧じゃないか」
「ひいいぃいいいいい!!!許してええええぇぇぇぇえええええ!!」
福本の感情は恐怖に支配されている。もはやビッグ・マムがトラウマと化していた。
「福本、お前また何かやったのか!?」
梅子が問い質そうと鞭を構える。が、福本はおっぱい怖いと連呼するだけで、とても受け答えができるような状態ではなかった。
すると、ビッグ・マムが変わりに答える。
「なに、女性のおっぱいがどうしても吸いたいというもんだから、アタシのを思う存分吸わせてやっただけの話さ」
「は、はあ……」
ビッグ・マムは自分の胸を強調するように述べる。梅子もそれで納得するしかなかった。
一方、そんなビッグ・マムの姿を見た男子生徒一同に悪寒が走る。
あの巨漢に無理やり胸を吸わされて……男にとっては羨ましいシチュエーションの筈なのに、何故か真っ先に感じたのは恐怖だった。
「……さて」
ビッグ・マムが再び生徒達に向き直る。
「お前たち、何をぼさっと突っ立っているんだい!さっさと表へ出る準備をするんだよ!」
怒号のような声を撒き散らし、生徒達に指示をするビッグ・マム。生徒達は動揺し、どうしていいかおろおろしている。
「―――ん?」
ビッグ・マムは窓際の方へ顔を向けると、窓から身を乗り出そうとしているキャップの姿を発見した。キャップと目が合う。
「やべっ」
キャップは次の瞬間、そのまま窓から飛び出し、逃走を図る。授業の内申を捨てている、キャップにしかできない行為だった。
「こら、風間!……全く、仕方のないやつだな。教官、あれはもう放っておいて構いません。早く授業を―――」
「―――面白いじゃないか」
ビッグ・マムは両手を鳴らし、キャップが逃げた方角を見てニヤリと笑った。どうやらキャップを捕まえる気でいるらしい。
「度胸だけは認めてやろう。だが、所詮はヒヨっ子。このアタシから逃げようと思った事をたっぷりと後悔させてやる!!」
“ア゛ーイッ!”と声を上げて、窓ガラスを豪快に割って飛び出すビッグ・マム。梅子が止めに入るが時既に遅し。ただ呆然と見ている事しかできなかった。
「へっ。キャップがそう簡単に捕まるかよ」
腕を組みながら岳人が笑う。“気まぐれな風”と呼ぶだけあってキャップは早い。捕まえられる人間は百代ぐらいしかいないだろう。
捕まえられるはずがない……クラス全員もそう思っていた。
「……無理だ」
ボソッと、サーシャが呟く。サーシャはビッグ・マムの恐ろしさを知っているが故に、結果はとうに見えていた。
「なあ、サーシャ。あの人ってそんなにヤバイ人なのか?」
大和が訪ねると、サーシャはゆっくりと頷いた。あのクールなサーシャの表情が、恐怖の色で染まり切っている。
「例えどこへ逃げようと……ビッグ・マムは地獄の果てまで追ってくるぞ」
「キャップが捕まるとは思えないけどな。それにキャップが今まで捕まった事なんか――――」
大和とクラス全員がキャップの逃走劇を見物しようと窓から顔を出した次の瞬間、
「ア゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイッ!!!!!!!!」
ビッグ・マムの声と共に轟音が校庭に響いた。あまりの声の大きさに思わず耳を塞ぐ生徒達。何が起きたのだろうと再び窓を覗いた時には、キャップとビッグ・マムの姿はなかった。
何故なら、ビッグ・マムは既に教室の窓から乗り込んでいたのだから。
そしてその脇には……キャップが抱えられていた。顔には×印のような痣があり、ぐったりとした表情で力尽きている。
その光景に、クラス全員……梅子までもが驚愕していた。ビッグ・マムは抱えていたキャップを床へと投げ捨てる。
「うぇ……この人、強ぇ……」
キャップのかすれ声が聞こえる。キャップは逃げきれず、ビッグ・マムの制裁を受けていた。
「う、嘘だろ……キャップが捕まるだなんて」
岳人は信じがたい光景を前に唖然とする。あの風のようなキャップが捕まった……それはクラス全員を戦慄させた。
そしてビッグ・マムは生徒達を見て叫ぶ。
「いいかよく聞きな、ヒヨっ子ども!!アタシが来たからには、お前たちのぶったるんだ空気をぶっ飛ばしてやる!!!」
ビッグ・マムの喝が生徒達を震撼させ、Fクラスの空気を支配していく。
「分かったら準備をして外へ出な!!!」
「「「……は、はい!!!」」」
生徒達は声を揃え、ビッグ・マムの指示に従った。
キャップが捕まった以上、もうビッグ・マムから逃れる事はできない。それを見せつけられた生徒達は1時限目の授業の準備をすると、一斉に更衣室へと向かっていった。
「素晴らしい統率力です。感服いたしました」
ビッグ・マムの指導力を見せつけられ、教師としての未熟さを知った梅子。まだまだ自分も修行が足りないと痛感する。
「うむ。さて……まずはこの学園の生徒達がどれ程のものか、調べないといけないねぇ」
右手をわきわきと鳴らすビッグ・マム。川神学園のレベルが如何なるものか……戦術教官であるビッグ・マムとしては、興味があった。
もうすぐ、1時限目の授業が始まる。この学園に、早くも暗雲(別の意味合いで)が立ち込めようとしていた。