聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

17 / 135
8話「失ったもの」

川神百代が敗北した……その噂は、学園中に知れ渡った。

 

ビッグ・マムとの決闘後、百代は救護班に運ばれた。現在は保健室で眠り、傷が癒えるのを静かに待っている。

 

勁を打ち込まれ、封じられた瞬間回復も徐々に機能し始め、戦いの傷跡も完治しつつあった。

 

ただ心に受けた傷跡は未だに消える事なく、今も百代を戒め続けている。

 

“――――お前は戦う時点で、既に心が負けているんだよ”

 

ビッグ・マムに言われたあの言葉が、百代の頭の中で繰り返し再生される。心の弱さ……百代は薄々とは気付いていた。

 

だが、こうして向き合わなければならない日が来ようとは思わず、どうしたらいいか答えを出せずにいるのだった。

 

(戦いの………理由……)

 

今まで考えた事もなかった自分が戦う“意味”を、天井を仰ぎながら自分自身に問う。当然、答えは返ってこなかった。

 

戦いたいから戦う。本能のままに戦い続けてきた百代。それは理由ではないと否定され、始めて自分の戦いの在り方を再認識する。

 

やはり、それでも答えは出ない。考える度にまるで出口のない迷路に迷い込んだように、百代の思考は深い溝へと落ちていくのだった。

 

「目、覚めたみたいだね」

 

ベッドの周囲を覆っていたカーテンが開き、ここの保険医であろう人物が顔を出す。

 

「貴方は……?」

 

「アタシは及川(うらら)。聖ミハイロフ学園から臨時で赴任した保険医だ。よろしくね」

 

グラマーな身体に、私服の上に白衣を着込んだ女性の名前は、及川麗。聖ミハイロフ学園の保険医で、川神院で出会ったユーリと同様、サーシャ達の保護者的存在である。

 

「私は、いつからここに?」

 

「3時間……かな。それにしても随分と怪我の回復が早いじゃない。若いっていいわね」

 

そう言って、麗は部屋の窓を開ける。ポケットからライターとタバコを取り出し、外を眺めながら喫煙を始めた。

 

「――――――あ」

 

百代はふと、ベッドの横に飾ってある花に視線がいく。花だけではない、お菓子や手紙が山のように置かれている。

 

「百代ちゃんが寝てる間に、ファンの子達が来て置いていったよ」

 

モテモテだね、と麗は笑う。百代を心配したファンの生徒達がお見舞いに来てくれていた。

 

純粋に嬉しいと感じた百代だが、今の心境ではあまり喜べなかった。喜べないというよりは、虚ろで何も感じないという方が正しい。

 

しばらくして、保健室の扉が開く音が聞こえ、生徒達が数人入ってきた。

 

「お、本命が来たか」

 

麗はタバコをやめて、彼らを出迎える。

 

やってきたのは大和、キャップ、卓也に岳人。一子、京。そしてクリスと由紀江。

 

いつもの風間ファミリーのメンバーだった。

 

「姉さん、具合はどう?それと、これ差し入れ」

 

大和はお土産の入った袋を百代に渡す。中に入っていたのは、百代の好物の桃だった。

 

「……さすが私の舎弟だ。気が利いてるな」

 

嬉しそうに受け取って笑う百代だったが、どこか活力を感じなかった。

 

まるで何かが抜けてしまったように、百代としての存在感が欠けているように感じる。

 

「凄かったよ、モモ先輩。あんな戦い始めて見たよ」

 

卓也は負けた事はあえて言わず、当たり障りのない話題を振る。しかし百代は気を遣われていると察したのか、思わず苦笑いした。

 

「気遣う必要はないぞモロロ。私は負けたんだ、はっきりとそう言ってくれたほうがいい」

 

「あ、いや。僕は……」

 

口籠ってしまい、狼狽えてしまう卓也。気まずい空気が流れ始める。すると、ここぞと言わんばかりにキャップがフォローを入れた。

 

「モモ先輩らしくないぜ?一回や二回負けたくらいで、そんなくよくよすんなって」

 

「……そうか。そうだったな……」

 

素っ気ない返事で返す百代。キャップなりに励ましてくれているのだろう。百代は気持ちは嬉しく思ったが、それでも気持ちは晴れない。

 

負けた事に関してはあまり気にはしていなかった。ただ、ビッグ・マムに言われた言葉がどうしても心にしこりを残している。

 

「モモ先輩。ど、どうか気を落とさずに……」

 

『そうだ、まだまだ人生これからだぜ!』

 

由紀江と松風も元気を出すよう声をかける。クリスや岳人、京も気持ちは同じだった。

 

しかし今の百代には耳から耳へと抜けていくだけ。どんな言葉も響かない。

 

「た、確かに負けたけど、お姉さまはすごいわ!アタシなんか手も足も出なかったし……」

 

一子は百代を賞賛するが、その顔には影が射していた。やはり、百代が負けてしまった事がショックなのだろう。

 

自分の目指すべき人が敗れてしまった……それでも一子は姉であり、目標である百代が好きだった。その気持ちが、痛いほど大和達に伝わる。

 

「はっはっは、ワン子は可愛いな。さすが自慢の妹だ」

 

そう言って百代は窓の外を眺め始める。そんな百代の表情には覇気がなく、例えるなら魂の抜けた人形のように、虚無に沈んでいた。

 

「なあ……みんな」

 

ぼそっと百代が大和達に呟く。視線を向けず、窓の外をひたすら眺めながら。

 

「私は今まで……なんのために戦っていたんだろうな」

 

その百代らしからぬ台詞に、大和達は言葉を失った。返す言葉がない。

 

 

すると、大和達の様子が気になった麗が顔を出す。

 

「もう少しで授業の時間よ。そろそろ教室に戻りなさい」

 

次の授業の時間まで後数分。大和達は仕方なく保健室を後にする事にした。

 

「じゃあ姉さん……また来るから」

 

大和達は百代に手を振ると、それぞれの教室にへ戻っていく。百代はその後ろ姿を、声もかけずに見送っていた。

 

「……さて、百代ちゃんはこれからどうする?身体の方はだいぶ良くなったし、授業には出れると思うけど、まだここで休む?」

 

再び喫煙を始め、麗は壁に寄りかかりながら百代に尋ねる。

 

次の授業はなんだったかと、思考を巡らせる百代。しかし、こんな気持ちでは授業に身が入らないだろう。状態はどうあれ、どの道勉強する気が起きないのは変わらない。

 

「もう少し、休みます」

 

「そう、分かった。ま、気の済むまでココにいなさい」

 

そう言って麗はカーテンを閉めると、自分の机へと戻っていった。

 

(…………)

 

身体を倒し、天井を見上げる百代。自分の中の答えを探すように、ただ天井を眺めている。

 

未だに心は晴れない。百代はしばらく、自分自身に問い続けていた。

 

自分が戦い続ける本当の理由、そしてその意味を。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。