聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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10話「百代の決意(前編)」

大和達の住む、川神市の一角。

 

多馬川の付近にある廃ビルの中に、風間ファミリーの秘密基地はある。

 

場所は5階。中は綺麗に掃除され、私物を持ち込み、もはや一つの部屋と化していた。

 

大和達はこの基地を使い、毎週金曜日に”集会”を行っている。

 

大和、卓也、岳人、一子に由紀江、京と百代はいつものように集まり、他愛の無い雑談に花を咲かせていた。

 

リーダーであるキャップはまだ京都から帰ってきておらず、未だに連絡はない。時間を忘れ、京都を満喫しているのだろう。

 

「うぅ……今日もカーチャさんに話しかけられませんでした」

 

『挫けんな、まゆっち。まだ明日がある』

 

ソファに座り、がっくりと肩を落としているのは由紀江。そしてそれを慰める松風。

 

今日もカーチャと友達になるため話しかけようと勇気を以って挑んだが、その寸前で親衛隊に割り込まれて失敗。結局友達どころか、話しかけることすらできていない。

 

「運が悪いというか、不器用というか……しょーもない。ちなみに明日は学校休みだから」

 

京もほとほと呆れている様子。しかしちゃんと突っ込みを入れていた。

 

「今度の日曜日、まふゆたちが寮に来てくれるそうだ。ああ、日曜が待ち遠しい!」

 

クリスは嬉しそうに顔を綻ばせる。いつかまふゆと手合わせをする……その日程が決まり、サーシャ、まふゆ達が島津寮を訪れるらしい。

 

ついでに言うと、マルギッテも付き添いでクリスの側にいるのだとか。

 

「慌ただしい日曜になりそうだな……」

 

折角の日曜だから、飼っているヤドカリを観察しながらまったり過ごそう……そう考えていた大和だったが、早速その予定はなくなってしまうのだった。

 

卓也は岳人のナンパ失敗談をうんうんと頷きながら聞いていた。

 

「――――――」

 

一方の百代はその光景を眺めながら、いつ話題を切り出そうかを考えていた。

 

ビッグ・マムとの戦いで自分が導き出した、一つの答え。考えて、考え抜いて、そしてようやく辿り着いた百代の答え。

 

それが正しいかどうかは正直言って分からない。ただ、自分のけじめをつけるには十分な回答である事を理解していた。

 

きっとみんな分かってくれるだろう……百代の表情は、以前より晴れやかではあった。

 

その隣で、一子は百代の様子を暖かく見守っている。

 

(お姉さま……答え、見つけたんだね)

 

今まで活力のない百代を見るのは、正直辛かった。それでも一子は百代に付き添い、稽古や組み手をして、少しでも力になれるように勤め続けていた。

 

それが実ったのか、それとも百代自身が乗り越えたのか。どんな結果であれ、一子にとっては喜ばしい事であった。

 

(――――よし)

 

しばらくして、百代はゆっくりと立ち上がる。自分の決意を大和達に伝えるために。

 

「……みんな、聞いてくれ」

 

百代の一声に、大和達が反応して百代を一斉に見る。百代はひと呼吸おいてから話し始めた。

 

「ビッグ・マムとの決闘から、ずっと色々考えていた。私の何がいけなかったのか、私の……何が足りなかったのか」

 

百代の話を、大和達は静かに聞いている。自分の答えを待ってくれている、百代は嬉しく思った。

 

「それをふまえて……私は自分にけじめをつけようと思う。私は―――――」

 

百代はすっと静かに息を吸い、自分の決意を大和達に告げる。

 

「もう戦いを……引退しようと思う」

 

それが、百代の出した答えであった。

 

 

百代は考えた末に、自分の中で結論を出す事ができなかったのだ。

 

戦う意味がなければ、戦えない。戦う理由がなければ、拳は震えない。戦いそのものに意味を出さずに戦い続けていた自分に対する罰であると、百代は自粛するという選択を選んだ。

 

当然迷いはある。だが、今の自分にはこれしかない。

 

大和達は百代の決意に驚きを隠せず、それに対する返事すら出せずにいた。勿論、側にいた一子も笑顔が消えている。

 

全員、百代の答えに納得がいくはずもなかった。

 

「やめるって………どういうこと、お姉さま?」

 

今までやってきた自分の行為が裏切られたようで、一子は動揺していた。そんな一子に対し、百代は悲しみの入り混じった笑顔で一子の頭を優しく撫でる。

 

「ごめんな、ワン子。私を元気付けようとしてくれたのは、すごく嬉しかった。でも……もう決めた事なんだ」

 

今更答えは変えられないと、百代は諭す。一子はショックのあまり、声も出せなかった。ただ悲しそうに目を見開いている。

 

「ちょっと待ってくれよ、姉さん!」

 

次に声を張り上げるように出したのは大和だった。百代の決意に納得がいかず、怒りを露わにしながら百代に反論する。

 

「戦いをやめるって……ビッグ・マム講師に負けたからか!?一度負けたくらいで――――」

 

「違うんだ、大和。負けたとか……そういうのじゃないんだ。私には―――――戦う理由が、見つからなかったんだ」

 

分かってくれ、と百代はまた悲しそうに笑う。大和はそんな百代の態度に苛立ちを感じ始めた。

 

「だから戦いをやめるってのかよ!?そんなのおかしいだろ!?」

 

大和はバンッとテーブルに手を叩きつけ、百代を責め立てる。すると、黙っていた卓也や岳人も反論を始めた。

 

「大和の言う通りだぜ。モモ先輩らしくもねぇ」

 

「そうだよ。考え直す事はできないの!?」

 

卓也と岳人の説得も虚しく、百代は首を横に振るだけだった。

 

「自分も納得がいかない!詳しく説明してくれ、モモ先輩」

 

「私もそう思う。いくらなんでも安易すぎるよ」

 

「わ、私もです。何があったかは知りませんが、どうか考え直してください」

 

クリス、京、由紀江も百代の説得を試みた。

 

きっと分かってくれると……そう思っていた百代の表情も次第に影が差し、受け入れてくれない悲しみが怒りに変わる。

 

「何が……分かる」

 

怒りでわなわなと身体を震わせながら、百代は大和達全員を睨み付けた。

 

「お前たちに……私の何が分かる!!!?」

 

怒号のような百代の叫びが、部屋全体に静寂を呼ぶ。

 

百代の苦しみは、百代にしか分からない。大和達は何も言い返せず、ただ黙っている事しかできずにいた。こんな感情を剥き出しにした百代を見たのは……初めてだった。

 

気まずい空気が漂う。怒鳴り散らした百代は我に返り、表情が悲しみに消えていく。

 

「……すまない、怒鳴るつもりはなかった。外で頭を冷やしてくる」

 

冷静になり、謝罪した百代は屋上へ行こうと部屋を後にする。それは頭を冷やすという名目の、逃避だった。今は自分はいない方がいい、空気が淀んでしまうと判断し、立ち去っていく。

 

「待って、お姉さま!」

 

と、百代を引き留めたのは一子だった。

 

「お願い、考え直して!アタシ、アタシ……何でもするから!」

 

涙を流し、百代を説得しようとする一子。

 

目標が消えてしまうという恐怖と、自分の知っている百代がいなくなってしまうという恐怖が入り乱れ、一子の思考がぐちゃぐちゃになる。

 

それでも、一子は百代が好きだから……どうしても諦められなかった。

 

「本当にごめんなワン子。出来の悪い姉を――――許してくれ」

 

百代はそう言って、一子を横切ろうとする。一子は何も言ってはこなかった。さすがに諦めたのか……本当に悪い事をしたと、百代は自分を責め立てる。

 

それでも、自分が選んだ道を引き返す事はできない。これは自分自身への贖罪なのだから。

 

だがその時、百代に予想だにしない出来事が起こった。

 

「―――――――!?」

 

百代の頬に何ががあたり、勢いで身体が吹き飛びソファに叩きつけられる。百代は何が起きたのか分からず、目を見開いていた。

 

それは、大和達も同じである。全員が口を開け、あり得ない光景に動揺を隠せずにいた。

 

何故なら……一子が百代を、自分の拳で殴りつけていたのだから。

 

一子は身体をぶるぶると震わせながら視線を落とし、ゆっくりと口を開く。

 

「よく分かったわ。もうお姉さまは……アタシの知ってるお姉さまはもう……いないんだって」

 

一子の涙がぽたぽたと床に垂れ、カーペットに染み込んでいく。そして、一子はいつもの元気な表情とは違った……怒りと悲しみに満ちた表情で百代を睨み付けた。

 

「今、アタシの前にいるのは……自分から逃げた、ただの腰抜けよ!!」

 

本気で怒りを露わにする一子の姿を見るのは、大和達にとって複雑だった。大和は一子を宥めようと声をかけようとするが、今の一子には有無を言わせないオーラが漂っている。

 

「何が最強よ!何が武神よ!こんな……こんな腰抜けがアタシの目標だったなんて……ホント、どうかしてたわ」

 

自分から湧き上がる感情が、まるで溢れ出るように一子の口から吐き出されていく。もう、自分の怒りを鎮める事はできなかった。

 

「もう……アンタをお姉さまとは呼ばない!アンタみたいな腰抜けは……アタシが、アタシが倒してやるわ!」

 

一子は倒れている百代に歩み寄り、胸ぐらを掴んで言い放つ。

 

「立ちなさいよ川神百代!アタシは………アンタに決闘を申し込む!」

 

決闘し、百代を倒す。できるはずがないと分かっていても、今の一子には関係なかった。一子の思考は怒りで支配されている。

 

散々一子に罵倒され、流石の百代も黙ってはいられない。百代は胸ぐらを掴んだ一子の手を払いのけ、ソファから立ち上がって一子を睨みつける。

 

「……知った風な口を聞くな」

 

仲の良い姉妹に、亀裂が入った瞬間だった。互いに睨み合い、敵意をむき出しにしている百代と一子を、止める術はない。

 

「表へ出ろ」

 

百代は顎で屋上を指し示す。誰にも予想できなかった、姉妹の対決が始まろうとしていた。

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