聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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13話「呼び覚まされた衝動」

ある日曜日の朝。

 

サーシャ、まふゆ、華はクリスに招待され、大和達の住む島津寮へとやってきていた。

 

サーシャ達だけでなく、一子と百代も寮に集まり、いつもの風間ファミリーのメンバーも何人か顔を出している。

 

それもそのはず、何故なら今日は待ちに待ったまふゆと手合わせをする日だからである。

 

皆庭に集まり、まふゆとクリスの対決を観戦しようと縁側に集まっていた。

 

「この日をどれだけ待ち詫びていたことか……まふゆ、早速手合わせ願おう!」

 

模造品のレイピアを構え、まふゆに宣戦布告するクリス。クリスは朝からやる気満々で、5時起きでウォーミングアップをするくらい、楽しみにしていたという。

 

一方のまふゆも、いつもより気合を入れているのか、表情は真剣そのものだった。

 

アトスの生神女(マリア)になるために修行を積み、サーシャと肩を並べられるくらいに強くなる……そう決意したまふゆの目に炎が宿る。

 

まふゆは竹刀を構え、その切っ先をクリスに向ける。

 

「負けないわよ、クリス!」

 

自分の実力はまだまだ劣るかもしれないが、戦う以上は何がなんでも負けられない。何よりもサーシャが見ている。剣道部で培ってきた実力と、修行の成果、今こそ見せる時。

 

「「いざ、尋常に―――――」」

 

まふゆとクリス―――2人の声が重なり合い、周囲の空気が張り詰めていく。戦士として、好敵手として認め合い、互いに武器を構えて対峙する。そして、

 

「「勝負―――――!」」

 

かけ声と同時に、武器と武器が衝突する。鍔迫り合いが始まり、互いにリードを譲らない。

 

まふゆの武器は竹刀であり、模造品と言えどもレイピアの硬度には耐えられない。

 

だが、まふゆはクリスの攻撃を受け流す事により、衝撃を防いでいる。これを見る限りでは武器による優劣は見受けられなかった。

 

しかし、クリスの鋭い連撃は早く、とても避けきれるものではない。受け流すにも限界がある。徐々にだがまふゆは押されつつあった。

 

「まふゆ……押されてるな」

 

サーシャは顎に手を当て、冷静に分析する。その横で、百代は興味深そうにまふゆの戦いぶりを堪能していた。

 

「まふゆのヤツ、結構やるじゃないか。だが、クリスが一枚上手ってとこだな……さて、どうする?まふゆ」

 

この戦局をどう切り抜けるか……後はまふゆ次第である。

 

「この攻撃、見切れるか!」

 

レイピアの連続攻撃が速度を増していき、まふゆも次第に後退し、追い詰められていた。

 

クリスは強い。今のまふゆでは防御するのが精一杯だ。だが、どこかに勝機は必ずある。まふゆは攻撃を受けつつも、この状況を覆す方法を模索していた。

 

「どうしたまふゆ!お前の力、こんなものではあるまい!」

 

「くっ――――!?」

 

この戦い、クリスが圧倒的に優勢だった。このままクリスの連撃を受け続ければ、いずれはまふゆが押し負けるだろう。

 

何かないのか……まふゆの中で必死に突破口を見つけようとするが、見つからない。

 

まふゆの体力にも限界が近づいていた。息が荒くなり、反応も鈍くなっていく。

 

その瞬間を、クリスは見逃さなかった。

 

「もらったぁ――――!」

 

「しまっ……!?」

 

クリスはレイピアでまふゆの竹刀を叩き落とした。これでまふゆは丸腰も同然。これで決着はついた……そう確信するクリス。

 

竹刀が地面へと落ちていく。しかしこの瞬間クリスは勝利を確信して、油断している筈だ。

 

(これなら……!)

 

まふゆは竹刀が地面につくその直前、足で竹刀を蹴り上げた。宙に浮いた竹刀を手に取り、クリスのレイピアを弾き飛ばす。

 

「何……!?」

 

レイピアは回転しながら宙を舞い、地面に突き刺さる。クリスがまふゆに視線を戻した時には既に、決着が着いていた。

 

クリスの目の前には、まふゆの竹刀の先。クリスは身動きが取れず、身体を硬直させている。

 

まふゆの咄嗟の判断が、逆転へと導いた結果だった。まふゆはクリスに告げる。

 

「あたしの勝ちね」

 

「……見事だ、まふゆ。自分の負けだ」

 

戦いが終わり、まふゆは竹刀を降ろして、クリスと熱い握手を交わす。ここに熱い戦友としての絆が生まれた。

 

するとそこへ、観戦していた百代が2人に近づいてくる。

 

「最後の最後で油断したな、クリ」

 

百代がクリスに対してフィードバックする。クリスが有利であったが、その有利さが故に生まれた僅かな驕りが勝敗を分けていた。

 

「まさか武器を蹴り上げて反撃するとは……恐れ入った」

 

クリスも流石に予想できなかったのだろう。もし油断していなければ、その行動は予測できていたかもしれない。負けを認め、勝利したまふゆを称えるのであった。

 

「――――良い戦いでした、お嬢様」

 

庭の茂みから女性の声。茂みから出てきたのは、左目に眼帯を付け、黒い軍服を身に纏った赤髪の女性だった。

 

マルギッテ=エーベルバッハ。軍人の家計に生まれた生粋の軍人である。その素質を買われフリードリヒ家に修行に出され、現在に至っている。

 

マルギッテはまふゆとクリスの戦いを、茂みから隠れてずっと見ていた。最もサーシャと百代はとっくに気付いてはいたが。

 

「マルさん!」

 

クリスは姉のように、マルギッテを慕っている。まるで姉妹のようであった。その一方で、まふゆと縁側で見物していた華は“変な人が出てきた……”と心の中で感想を漏らす。

 

すると、マルギッテはまふゆを射抜くように鋭い眼光を突きつけた。

 

「織部まふゆ、貴方の戦いも見事だった。褒めてやろう、喜びなさい」

 

褒められて悪い気はしないが、上から目線のマルギッテの態度に、思わずムッとするまふゆであった。しかし、反論しても通じなさそうなのでやめておく事にする。

 

「…………」

 

壁に寄り掛かって腕を組むサーシャに視線を向けるマルギッテ。その視線に気付いたサーシャも視線を向ける。マルギッテは意味深に笑うと、サーシャから視線を外した。一体何だったのだろう……少なくとも、サーシャに興味を持たれた事に間違いはなかった。

 

しばらくして、縁側に座っていたワン子が立ち上がる。

 

「じゃあ次はアタシと勝負よ、まふゆ!」

 

一子がまふゆに手合わせを申し込む。しかし、まふゆはクリスとの対戦で体力を消耗していた。当然、連戦などできるわけがない。

 

「ワン子、織部さんは疲れてるんだ。後にしろ」

 

と、大和。はしゃぎ過ぎた……一子はえへへ、ごめんと笑いながらまふゆに言うのだった。

 

「それなら私が相手になろう。感謝しなさい」

 

マルギッテが一子の前へと出る。日頃の修行の成果を見せるいい機会だ……一子にとって願ってもない事である。

 

「いいわ!覚悟しなさい、マルチーズ!」

 

「マルチーズではない。撤回しなさい」

 

マルギッテは両手にトンファーを持ち、構える。一子も模造品の薙刀を手に、マルギッテと向かい合った。

 

両者睨み合い、互いの出方を待つ。まふゆは縁側に座り、対決を観戦する。するとサーシャがまふゆに声をかけてきた。

 

「また強くなったな、まふゆ」

 

「え……あ、ありがと」

 

思わぬサーシャの言葉に戸惑うまふゆだったが、またサーシャに一歩近づいたような気がして、素直に嬉しく思うのだった。

 

 

 

「―――――はああぁぁぁ!!」

 

一子とマルギッテの睨み合いが終わり、マルギッテが先手を切り、トンファーを高速回転させながら一子に突貫する。

 

一子は間合いを取られないように距離を取り、薙刀で応戦する。

 

薙刀のような長い武器を使うには、寮の庭ではスペースが狭い。故に、この環境では一子は限りなく不利である。

 

「負けないわ――――!」

 

襲いかかるトンファー攻撃に防戦一方の一子だが、それでもマルギッテと渡り合えている。

 

とはいえ、それも長くは続かない。マルギッテは攻撃のペースを上げ、トンファーと蹴りの連撃で一子を追い詰めていく。

 

この戦いは状況も、能力もマルギッテが有利であった。一子は手が出せず、何もできないまま攻撃を受けるのみ。

 

やはり、才能という壁は超える事ができないのだろうか。戦う最中、一子に迷いが生じる。

 

“才能”のある人間が生き残る。“才能”のない人間はいくら努力しても報われない。取り残されて、そこで終わるだけ。

 

――――そんな理屈、認められるはずがない。

 

「終わりだっ!!」

 

ついにラストスパートをかけるマルギッテ。攻撃に拍車をかけて、ついには一子の薙刀を豪快に破壊した。無防備になった一子は成す術もなく、マルギッテの攻撃を生身で受けるしかなかった。

 

 

 

―――――“強くなりたい”。

 

 

 

マルギッテの攻撃を受ける直前、一子の心に訴えかけるように声が聞こえた気がした。

 

その声は、一子の内に秘める自身の叫びなのか、それは分からない。ただ言える事は一つ……純粋に強くなりたいという憧れの感情。

 

「――――何っ!?」

 

マルギッテは驚愕する。今目の前で起こった事象……一子の取ったあり得ない行動が理解できなかったからだ。

 

「―――――っ……ああああああっ!!」

 

一子が、トンファーを素手で叩き壊したのである。マルギッテの武器は訓練用の木製トンファーだが軍で支給された特注品であり、滅多な事では絶対に壊れない。

 

そのトンファーが真っ二つに叩き割れ、ただの木片となり果てる。あり得ない……マルギッテは動揺を隠せなかった。

 

そして一子はマルギッテが動揺している隙を突き、胸倉を掴んで地面へと投げ飛ばす。

 

「ぐあっ!?」

 

地面に叩きつけられたマルギッテは、油断していたのか受け身に失敗し、身体に大打撃を受けた。あまりの力の強さに全身に痺れが走り、しばらく身動きが取れなかった。

 

つまりはこの勝負――――一子の勝利である。

 

「……………」

 

この光景を見ていた大和やまふゆ、クリスや由紀江、京や華も驚きを隠せず、言葉も出ない。

 

不利な状況で勝ち目は薄いと思っていた分、この予想外の結果は驚愕の一言であった。

 

「マルさんが……負けた?」

 

最初に声を出したのはクリス。仰向けに倒れているマルギッテを見て口をあんぐりと開けている。マルギッテは、自分の顔を覗くようにして見るクリスに向かって答える。

 

「申し訳ございません……お嬢様。油断しました」

 

言って、ゆっくりと立ち上がるマルギッテ。折れて使い物にならなくなったトンファーを見る……百代の戦闘力ならともかく、素手で破壊された事が未だに信じられなかった。

 

「見事だ……川神一子、賞賛に値する。誇りなさい」

 

一子の戦いぶりを称えるマルギッテ。一子を一人の戦士として認めた瞬間だった。すると、大和や京達が一子に駆け寄る。

 

「すげぇよ、ワン子!見違えたぜ!」

 

「うん、びっくりだよ」

 

一子の頭をポンポンと軽く叩きながら、喜んで褒め称える大和と京。しかし、一子は自分がした事がよく分かっていないのか、何がなんだかさっぱりな表情を浮かべている。

 

「一子ちゃん、強いね!あたしびっくりしたよ」

 

「トンファー叩き壊すなんて、無茶苦茶なことするぜ」

 

「はい、すごいです。一子さん」

 

『いやあー、イイもの見せてもらったぜ。やべぇよ、まゆっち。こいつはきっと化けるぜ』

 

まふゆと華、由紀江、松風も一子の戦いぶりに驚いていた。一子は大和達に囲まれ、自分が置かれているこの状況をようやく再認識する。

 

自分は勝った―――そう分かった瞬間、一子の表情に次第に笑顔が生まれていく。

 

「やった――――勝った。アタシ、勝ったんだ!」

 

一子は勝利を喜び、嬉しさのあまりに飛び上がる。今は才能がなくても、努力をすれば必ず報われる。強くなれる……そしていつかは、目標である百代に辿り着ける。

 

信じ続けた一子の思いが、ほんの僅かだが、今確かに届いたのだった。

 

 

そんな一子の様子を、静かに見守るサーシャと百代。

 

しかし、2人は感動とは程遠いような険しい表情で一子を見ていた。見守るというよりは、どちらかというと疑念に近い。

 

(確かにワン子のアレには驚いた……けど、なんだったんだあの感覚は)

 

一子がトンファーを破壊したあの瞬間……百代はほんの僅かだが、何かを感じ取っていた。

 

刺々しく、まるで泥のような黒い闘気。口では説明できないような禍々しい“何か”。

 

百代は腕を組み考え込んだが、感じたのは一瞬だったので、気のせいだと言う事にして、考えるのを辞めるのだった。

 

その一方、サーシャは。

 

(あの瞬間、俺のサーキットが一瞬だけ反応したような気がしたが……)

 

サーシャも百代と同じように、一子から何かを感じていた。一子がトンファーを砕いたその直後、サーシャのイヤリングが僅かに赤く光出し、反応した……そんな気がしてならない。

 

サーシャの持つイヤリングは元素回路が組み込まれた物で、クェイサーの能力、元素回路に反応すると発光する仕組みになっている。

 

それが反応したと言う事は……例の元素回路の手掛かりがあるのでは、とサーシャは思う。

 

解決の糸口が見つかるかもしれない。しかしそれっきりなんの反応もなく、まるで何事もなかったかのようにイヤリングは静寂していた。

 

気のせいか……どうも引っかかるが、これ以上はサーシャは考えるのをやめた。不確定要素を考えるだけ無駄である。

 

「―――――お」

 

「―――――む」

 

ふと、サーシャと百代の視線が合う。互いに色々と考えていた所為もあり、何を話したらいいか気まずい空気が流れる。すると、

 

「お~い!サーシャ、姉さん。そろそろメシにしようぜ」

 

大和がランチの時間を、2人に告げるのだった。もうそんな時間か……百代とサーシャも居間へと移動する事にする。

 

 

 

百代とサーシャが感じた“何か”。それは分からないままだが、特に気にする事はないだろう。色々な出来事があり、過度に敏感になっているだけなのかもしれない。

 

もし本当にそれが“気のせい”であるのなら……だが。

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