聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

24 / 135
サブエピソード10「致命者VS猟犬」

“アレクサンドル=ニコラエビッチ=ヘル。昼食後、多馬川の土手道へ来なさい”

 

島津寮の廊下で、すれ違いざまにマルギッテに告げられたサーシャは、マルギッテの言う通り多馬川の土手道にやってきていた。

 

面倒な話だが特に断る理由もなく、散歩もかねて土手道を歩くサーシャ。

 

しばらく歩いていると、サーシャの視界に多馬川を眺めるマルギッテの姿が目に入った。

 

マルギッテはサーシャの気配を察知し、サーシャへと視線を向けてニヤリと笑う。

 

その眼光は鋭く、まるで獲物を見つけた獣のようだった。サーシャもマルギッテを睨みながら、早速呼び出した理由を聞き出す。

 

「俺に何の用だ?」

 

サーシャの問いに、マルギッテはただ笑うだけであった。島津寮の時と全く同じ表情で。

 

「…………」

 

ピリピリとした空気が漂い始める。何か来る……サーシャは身構え、マルギッテに対してある種の敵意を抱いた。

 

あの獲物を狩るような獣の目。間違いなく、サーシャは狩りの対象とされている。

 

そしてマルギッテは左目につけた眼帯を外し、ようやく口を開く。

 

「待っていたぞ、アレクサンドル=ニコラエビッチ=ヘル―――“致命者サーシャ”!

 

瞬間、マルギッテはトンファーを両手に持ち構え、サーシャに突貫した。

 

「震えよ――――!」

 

サーシャはクェイサーの力を使い、大鎌(サイス)を錬成して応戦する。大鎌の刃とトンファーがぶつかり合い、火花を散らす。互いの武器を押しつけながらの鍔迫り合いが始まった。

 

(こいつ……さっきよりもパワーとスピードが格段に違う!)

 

一子と戦っていた時よりも、パワーとスピードが桁違いに増している。サーシャが見る限り、マルギッテが左目の眼帯を外している事から、島津寮での戦いは本気ではなかったという事が伺えた。

 

あの眼帯は抑制か何かか……少なくとも分かっている事は、マルギッテが本気でサーシャに戦いを挑んでいる事だけである。

 

「――――!」

 

鍔迫り合いが終わり、サーシャとマルギッテは後退して距離を取り、体制を立て直す。

 

「貴様、一体何の真似だ!?」

 

大鎌の切っ先をマルギッテに向け、真意を問うサーシャ。しかしマルギッテは答えないまま、ただ不気味に笑っている。

 

この戦いを、心底楽しんでいるかのように。

 

それにあの口ぶりは“サーシャ”を知っている。だとするならアデプトの人間か、もしくは今回起きている元素回路の事件の関係者か……憶測をすればする程、キリがなくなる。

 

だが、今現時点でサーシャにできる行動は一つ。目の前の敵に集中する事だけだ。

 

再びマルギッテがサーシャ目掛けて疾走する。

 

「Hasen Jagt!」

 

感嘆するように叫び、回転させたトンファーをサーシャに叩き付けるマルギッテ。サーシャは大鎌の柄で攻撃を受け止めた。

 

衝撃で柄は真っ二つに折れ、力の反動でマルギッテの体制が前屈みになる。この瞬間を、サーシャは狙っていた。

 

トンファーが自分の身体に直撃する刹那、バックステップをして攻撃を回避する。そしてサーシャは両手に持つ大鎌の鉄片を再錬成し、刀剣とダガーに変化させた。

 

「うおおおおっ!!」

 

「はああああっ!!」

 

マルギッテの隙を狙い、刀剣とダガーを突き出すサーシャ。

 

出遅れながらも体制を戻し、身体を捻らせながらトンファーを振りかざすマルギッテ。

 

両者の攻撃が――――ほぼ同時に交差した。

 

 

 

「――――――」

 

サーシャの持つ剣の刃先が、マルギッテの喉仏の直前でピタリと止まっている。急所をつかれ、マルギッテは身動きを封じられていた。

 

「――――――」

 

マルギッテのトンファーもサーシャの首の側で止まっている。下手な動きをしていれば、サーシャの首は今頃吹き飛んでいただろう。

 

しばらく睨み合いが続いたが、ようやくマルギッテはサーシャの首に突きつけたトンファーを放す。同時にサーシャも、マルギッテの喉仏から刀剣の切っ先を退き……互いに武器を収める。

 

この戦いの結果は、一時引き分けという形となった。

 

「さすがだ、致命者サーシャ。アトスの秘蔵と言われるだけの事はある」

 

試させてもらったとマルギッテはサーシャの強さを認め、称える。

 

「………」

 

どうやら敵ではないようだが……そんなサーシャの疑問に、マルギッテは先立って答えた。

 

「元素回路……私もこの一件に関わっている。決してお前の敵ではないと理解しなさい」

 

マルギッテも、今回の事件を知る関係者の一人だった。アトスからの協力要請があり、軍の命令で動いているとの事だ。しかしサーシャ達と同じく、詳しい情報は掴めていないという。

 

「互いに進展はなし……か」

 

川神学園に転入してから随分と経っているというのに、まるで進展がない。軍の介入があるにも関わらず、捜査が難航するのはアトス側にしても、サーシャとしても焦りを感じるのだった。

 

話を終えたマルギッテは左目に眼帯を装着すると、自分の腕時計を確認していた。どうやら何か用事があるようだ。

 

「すまないが、私はこれにて失礼させてもらおう。お嬢様に買い物を頼まれている」

 

言って、サーシャの前から立ち去ろうと踵を返すマルギッテ。いきなり勝負を挑み、そして突然帰っていく……どこまでも勝手な奴だとサーシャは思った。

 

「致命者サーシャ」

 

足を止めて、サーシャに振り返るマルギッテ。

 

「今日は存分に楽しめた。感謝するぞ」

 

またいつか手合わせ願おうと、そう言い残してマルギッテは立ち去っていった。サーシャはその背中を見送りながら、思う。

 

マルギッテ―――サーシャと渡り合えるほどの実力者。あれが敵であったなら、相当厄介な相手になっていただろう。

 

(俺もまだまだ……か)

 

百代といいマルギッテといい、ここは強い人間が多い。自分の未熟さを戒めつつ、サーシャは島津寮へと戻っていくのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。