聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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サブエピソード12「協力者」

川神市にある歓楽街、通称『親不孝通り』。

 

いくつもの風俗店が立ち並び、看板のイルミネーションが夜を彩るように光を放っている。

 

そこは言わば不良達の溜まり場であり、覚醒剤等の密売が日々行われ、川神学園の生徒達には迂闊に近寄らないよう、教師達や教育委員会が呼び掛けている。

 

その場所に1人、川神学園の生徒がいた。

 

源忠勝。Fクラスの生徒である。かつては孤児であったが、代行業者の雇い主に引き取られ、今では雇い主の右腕として日々活動を続けている。

 

今回の依頼内容は、川神市に蔓延る元素回路という物の調査である。その辺で使われている薬よりもたちが悪いらしく、また詳しい情報が一切掴めていないのが現状である。

 

忠勝は調査の為、今日も親不孝通りを歩いていた。

 

(……ん?)

 

しばらく歩いていると、人気の少ない路地に見覚えのある人影が2人。そしてその2人を取り囲む、柄の悪い不良達が数名。

 

物陰に隠れながら、目を凝らす忠勝。2人の人影の正体は同じクラスの華と、一年に転入したカーチャであった。

 

(桂木?それに、あいつは一年の……何でこんなとこにいやがんだ)

 

同じクラスの生徒と、一年……それも幼い留学生である。どういう経由でこの場所を訪れたのかは知らないが、厄介な事に巻き込まれているのは確かだ。

 

しかも相手は数が多い。華は男勝りな性格だが、留学生を守りながら相手をするのは分が悪い。

 

このままでは危険だ……特に留学生は、何をされるか分かったものではない。

 

(ああくそっ。仕方ねぇ――――!)

 

人数は5、6人。これなら何とかなるだろうと、忠勝は華達のいる方へと突貫した。

 

「―――――!?」

 

次の瞬間、忠勝は足を止めた。何故なら、今自分の目の前で起きている事態が、あまりに異様な光景だったからである。

 

華とカーチャの前に、突然赤い人形が空から降ってきたと思えば、気がつけば華達を取り囲んでいた不良達が銅線に縛られ、一網打尽にされていた。

 

華とカーチャは別段驚いているわけでもなく、まるでいつも見ている光景であるかのように、平然としている。

 

(なんだあのバケモンは……まさか、あいつらが元素回路ってやつの――――)

 

忠勝が後退ろうと、足を動かしたその時だった。赤い人形……アナスタシアから突然銅線が伸び、忠勝の右腕に巻き付いた。

 

「!?」

 

抵抗しようと力を入れるが予想以上に力が強く、カーチャ達の方へとと引きずられていく。

 

「それで隠れていたつもりかしら?舐められたものね」

 

忠勝の元に、カーチャと華が歩み寄る。カーチャは捕縛した忠勝を見て嘲笑っていた。

 

「げっ!お前……源!?」

 

カーチャとは対象に、華は忠勝を見て気まずい表情を浮かべている。

 

同じクラスの人間に見られてはならないような事をしているのだろうか……忠勝は臆することなくカーチャ達を睨みつけた。

 

「……てめぇら、こんな所で何をしてやがる?」

 

「お前には関係のないことよ」

 

カーチャは忠勝をまるで相手にしない。だが忠勝も引き下がらず、反論を続ける。

 

「なるほどな……言えねぇ事情があるってわけだ。まさか、元素回路をばら撒いてるのもてめえらの仕業か?」

 

忠勝から出た言葉に、カーチャと華が反応を示した。今まで嘲笑うような態度を取っていたカーチャの表情が変わる。

 

「元素回路……何か知ってるのね?」

 

「だったらどうだってんだ?」

 

忠勝が挑発するように笑うが、カーチャはニヤリと笑みを返し、宣告する。

 

「洗いざらい吐いてもらうわ――――ママ!!」

 

カーチャの呼びかけに応え、アナスタシアが反応する。先端を尖らせた鋭利な銅線が伸び、忠勝に向けられた。

 

“答えなければ命はない”。カーチャの死の宣告が、忠勝を追い詰める。

 

逃げられない……これまでか、と忠勝がそう思った時だった。

 

「―――おい、ちょっと待った!」

 

遠くから男性の声。カーチャ達が視線を向けた先にいたのは、くたびれた中年の男性―――宇佐美巨人であった。宇佐美はカーチャ達に駆け寄り、アナスタシアと忠勝の間に介入する。

 

「親父……?」

 

突然の宇佐美の登場に、一瞬戸惑う忠勝。

 

「宇佐美、どういうことかしら?」

 

不機嫌な態度を取りつつ、カーチャが尋ねる。

 

「こいつは俺の連れでな……とりあえず、手を引いちゃくれねぇか」

 

宇佐美は忠勝が自分の代行業の従業員であると説明する。するとカーチャは小さく溜め息をつき、忠勝をアナスタシアの束縛から解放するのだった。

 

「……説明しろ親父。こりゃ一体どういう事なんだ?」

 

ようやく自由の身になった忠勝だが状況が飲み込めず、宇佐美に説明を求める。

 

宇佐美は頭をかきながら、カーチャとアイコンタクトを取る。カーチャは好きにしなさいと目で訴えていたので、宇佐美は話を切り出した。

 

「この2人は、アトスから派遣された調査員だ」

 

カーチャと華がアトスの人間である事を明かす宇佐美。

 

「こいつらが……?」

 

こんな幼い少女と女子学生が……信じられないような目で、カーチャと華を見る忠勝。

 

にわかには信じ難い話であったが、先程のアナスタシアを見れば一目瞭然、普通の人間ではない事が分かる。もう信じざるを得ない。

 

少なくとも、敵ではない……事を願う忠勝だった。

 

すると、話を横で聞いていたカーチャが痺れを切らし、話に入ってくる。

 

「……話は終わりかしら?で、宇佐美。何か見つかったの?」

 

元素回路の調査の事だろう。カーチャが訪ねると、宇佐美は苦笑いして首を横に振った。

 

「相変わらず進展なしだ。そっちは?」

 

「ダメね。あそこで眠ってるゴロツキも、全員シロよ」

 

カーチャは背後で気絶している不良達を顎で指し示す。全員それらしいものは所持しておらず、強いて言うならばドラッグを少量持っている事ぐらいか。宇佐美もそうか、と言って肩を落とした。

 

「まあ、いいわ。ところで……」

 

視線だけを忠勝の所へと向けるカーチャ。見下されているようで、忠勝は無性に腹が立った。

 

「源忠勝……お前もこの一件に関わっているわけね」

 

「ああ、そうだ……なんか文句でもあんのか?」

 

生意気な態度に喝を入れようとカーチャを睨みつける忠勝。しかしカーチャは少し忠勝を眺め、侮蔑の意味を込めて笑う。

 

「ま、せいぜい私の足を引っ張らないことね……いくわよ、華」

 

「は、はい。カーチャ様」

 

 

言うだけ言って、カーチャはまた調査を再開する。宇佐美と忠勝の前から立ち去り、路地裏の暗闇へと消えていった。アナスタシアもドロドロに溶けて、赤い液体状になって消えていく。

 

「……クソ生意気なガキだぜ。ったく」

 

舌打ちをし、忌々しげにカーチャ達を睨む忠勝。幼い少女だと思えば、とんだ女狐である。

 

それにカーチャに対する華の態度。カーチャに頭が上がらないような理由でもあるのだろうか。忠勝にとってはどうでもいい話なのだが。

 

「まあ、そう怒るなよ……それより忠勝。分かってるだろうが、あの2人が潜入操作してるって事は他の生徒の連中には秘密だからな」

 

と、宇佐美。当然、カーチャ達の素性がバレれば今後の活動に影響が出る。忠勝は勿論分かってはいるが、協力関係とはいえ、カーチャとは絶対に組みたくはないと思った。

 

「にしても、あの2人がな……って事は、織部とアレクサンドルもか」

 

同じクラスに転入してきた、サーシャとまふゆ。

 

あの2人もアトスから派遣されたのだろう。サーシャが心と決闘したあの時の戦いぶりは、どう見ても戦い慣れし過ぎている部分がある。

 

何かあるとは思っていたが……そう言う事かと忠勝は理解する。

 

「アトス……あいつら一体何者なんだ」

 

同時に疑問も生まれていた。サーシャやカーチャのアナスタシア……どうにも異端過ぎる。すると宇佐美が忠勝の疑問に答えるように、まるで独り言のように呟いた。

 

「……“クェイサー”」

 

宇佐美の聞き覚えのない言葉に、忠勝は耳を傾ける。

 

「クェイサー?」

 

「詳しい事は知らないが、アレクサンドルとエカテリーナの2人はそう呼ばれてるんだとよ」

 

ユーリから一部話を聞かされたと宇佐美。しかしどのような能力なのかは定かではない。

 

ユーリ曰く“知るべきものが知っていればいい、奇跡です”だとか。

 

「よくわかんねぇな……アトスの人間は」

 

考えれば考える程ややこしくなっていく。思考を打ち切り、忠勝は宇佐美と共に路地裏から離れ、調査を再開する。

 

(クェイサー……とんだ人間が舞い込んできたもんだぜ)

 

夜空を見上げ、そんな事を思いながら忠勝は再び本通りへと戻るのだった。

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