聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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14話「目覚めた感情」

何もない暗闇の中で、ワン子は夢を見ていた。

 

“アタシ、お姉さまみたいに強くなるの”

 

“アタシハ、オネエサマヲコエタイ”

 

聞こえる。自分の中に眠る、心の声が。

 

“お姉さまは、アタシの目標だから!”

 

“アタシハ、オネエサマニカチタイ”

 

自分の中にある、強さを求める感情。それは偽りのない、純粋なる欲望。

 

“お姉さまは、アタシにないものをたくさん持ってるわ!”

 

“デモ、アタシハソンナオネエサマガガユルセナイ”

 

何故だろう、百代に対する感情が次第に歪んでいく。あんなに自分の姉を慕っているのに。

 

“アタシも修行を積んで、もっともっと強くならなきゃ!”

 

“モットツヨイチカラデ、オネエサマヲタオシタイ”

 

力が足りない。才能がない。ただそれだけで決めつけられる人生なんか、認めない。

 

“だからアタシは、お姉さまを―――――”

 

 

“アタシノチカラデ、ネジフセテシマイタイ”

 

全ては己が望む欲望の為に。その為ならば、何もかも失っても構わない。

 

何故ならば、どんな犠牲を払ってでも、手に入れなければならない物なのだから。

 

 

 

――――――――。

 

 

 

ジリリリリ…………。

 

目覚まし時計のアラームが一子の頭を刺激する。一子は目を覚まし、欠伸をしながら時計のアラームスイッチを止める。

 

「また何か変な夢を見たわ……」

 

目を擦り、ふわああとまた欠伸をかく一子。眠気が取れず、まだウトウトしていた。

 

ここ最近夢を見る事が多い。その所為か眠りが浅く、身体に怠さを感じていた。

 

まるで、自分の中にいる何かに呼びかけられるような感覚。それが夢なのか現実なのか、判断すらつかないくらいのリアリティがある。

 

呼びかける声は夢を見る度に次第に大きくなり、一子の心を浸食していくような錯覚に陥る。

 

日常生活には問題はない。ただ唯一変わった事といえば、自分が修行を重ねる毎に、強くなっているという実感が湧いている事だけだ。

 

それは一子にとっては非常に嬉しい事なのだが、自分の中で確かな違和感を感じている。

 

(ん~まあいいや。力がついてるから、そう感じるだけかもしれないし)

 

これ以上考えても仕方がない。というより考え事は一子には似合わない。首を振って眠気を吹き飛ばし、頬を両手で叩く。

 

気持ちを切り替え、早速朝の鍛錬の準備に取り掛かろうと布団から飛び起きる一子。

 

「今何時かしら……」

 

何気なく目覚まし時計の時間を確認する。現在の時刻は………。

 

『8:05』

 

時計の針は、無慈悲にも登校時間(大和達が登校する時間帯)を指していた。しかも大和達との待ち合わせ時間まで、後僅かしかない。

 

そして一子は気づく。昨日の鍛錬でだいぶ疲れが溜まり、ウトウトしながら目覚まし時計をセットして眠ってしまった事を。

 

これはつまり………。

 

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!!遅刻だわーーー!!!」

 

一子は絶叫し、大慌てで制服に着替え始めた。大和達が待っている事や、何故百代やルー師範代が起こしにきてくれなかったのか。色々頭の中で駆け巡ったが、結局は自分が悪い。

 

「ん……むにゃ……どうしたワン子。そんなに慌てて」

 

一子の部屋の障子が開き、そこから眠そうな顔をした百代が中を覗いていた。おまけに、寝巻きのままである。

 

「だだだって今日は学校だよ!お姉さまも早く支度しないと遅刻しちゃうわ!!」

 

一子は制服に着替え終え、バッグの中に教科書、ダンベル、葡萄と砂糖を詰め込んでいる。

 

百代もこんな時間なのに何を呑気に構えているんだろうと思いつつも、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。

 

「学校ってお前……今日は祝日で休みだぞ?」

 

「………え?」

 

一子は動きを止める。考えてみれば、金曜日に梅子が“月曜日は祝日だ、間違ってこないようにな”と言っていた気がする。

 

段々と冷静さを取り戻した一子は、その場にへなへなと座り込んでしまった。そんな一子を見て、可愛いやつだなと百代は笑う。

 

「疲れが溜まってるんじゃないのか?鍛錬もいいが、たまには休めよ……ふわあああ……」

 

もう一回寝直そうと、百代は自分の部屋へと戻っていく。一子はしばらく放心していたが、力が抜けて布団の上へ仰向けに倒れこんだ。

 

「何だ……休みか……」

 

はあああ~と大きくため息をつく一子。このまま眠ってしまおうかと思ったが、目が冴えてしまい、眠ろうにも眠れなかった。

 

「ん~……」

 

最近疲れが目立つ。たまには休むのも悪くないだろう……一子は横になり、目を閉じようとした時、ふとある物に目が入った。

 

「あ………」

 

それは、夕暮れの土手で出会った金髪の男性から譲り受けたアミュレットだった。一子は大事に、いつもそれを側に置いている。

 

何気なく手に取り、ぎゅっとそれを握り締めた。何故だろう、力が漲ってくるような気がした。

 

(休みも大事だけど……やっぱり、じっとしてなんかいられないわ!)

 

一子は飛び起き、制服を脱ぎ捨てて体操服に着替えると、身体にタイヤ付きのロープを結びつけ、鍛錬に出掛けるのだった。

 

「さて――――今日も“ゆーおーまいしん”よ!!」

 

 

 

多馬川の土手を走り、鍛錬を続ける一子。

 

しばらく走っていると一子の目の前に見覚えのあるような、ないような人物が待ち構えていた。

 

黒の革ジャンとジーパンに身を包んだ不良―――そう、いつしか学校へ向かう途中に現れ、そして百代にあっさりと敗れ去ったウンウン☆マイスリーとヘリウム5男であった。

 

彼らは絆創膏や包帯をしていて、以前会った時よりは威勢がないように感じる。

 

「貴様……あの川神百代の仲間だな?」

 

金髪の不良1がへっへっへと下品に笑いながら尋ねる。しかし一子は首をかしげ、

 

「えっと……おじさん達、どこかで会ったっけ?」

 

覚えてないや、と笑うのだった。おまけにおじさん扱いされ、不良達の怒りが大爆発する。

 

「いや会っただろうがよ!俺達は川神百代に勝負を挑んだ、“ウンウン☆マイスリー”と」

 

「そしてこの俺ヘリウム3兄弟、5番目の弟!」

 

忘れ去られていた自分達の存在を、必死に一子に思い出させようと説明する不良達。

 

一子は腕を組み、う~んと唸ってしばらく考え始める。そして手のひらをポンと軽く叩き、ようやく彼らを思い出した。

 

「あっ!あの時の……!」

 

「ようやく思い出したか。ふっふっふ……俺たちの恐怖が脳裏に――――」

 

「お笑い芸人!!」

 

一子の言葉に、不良達は大ショックを受けた。確かに、一子の中で彼らの存在が記憶に残っていたようだ……お笑い芸人という形で。

 

不良達の怒りは最高潮に達し、それぞれ武器を構えて一子と対峙する。

 

「貴様……よくも俺達をコケにしたな!」

 

「あの時は油断したが、今日は勝たせてもらうぜ!」

 

「いくぜ、野郎ども!」

 

「フルボッコにしてやんよ!!」

 

前触れもなく一斉に襲いかかる不良達。一子は微動だにせず、ただ彼らの攻撃を待つのみ。

 

以前の一子なら、さすがに4人相手……特に鍛錬した人間とでは無理があっただろう。しかし、今の一子は自身に満ち溢れていた。

 

何にも負けない、“自分を信じる”という力。超えなければならない目標があるからこそ、強くなり続けるのだから。

 

不良達との距離が縮まっていく。武器が一子の身体に触れる僅かな瞬間、一子は腰に結びつけていたロープを引っ張りあげ、そして括り付けていたタイヤを、

 

「せりゃあああああああああああああああ!!」

 

力を込めて不良達に叩きつけた。タイヤの重みと衝撃が不良達の身体を直撃し、ドミノのように綺麗に並び、倒れて吹き飛んでいく。

 

不良達は川へと転落し、戦闘不能。そのままプカプカと気絶したまま流されていった。

 

一子はふぅと息を吐くと、自分の手のひらを見つめる。

 

「アタシ……強くなってる」

 

自分の成長を実感し、少しずつだが百代に近づいていると喜ぶ一子なのだった。

 

「見てたぞ、ワン子」

 

後ろから声をかけられ、背後を振り返ると百代が立っていた。散歩の途中で一子の姿を見つけ、一子の戦いぶり(と言っても一瞬で終わったが)をずっと見ていたらしい。

 

百代が見ていてくれていた……一子は素直に嬉しく思った。

 

「どうお姉さま?アタシどんどん強くなってるわよ!」

 

自分の成長している姿を、胸を張って誇らしげに語る一子。百代は一子の頭を撫で、よくやったなと褒め讃える。

 

「確か、いつしか私に挑んできた奴らだよな……まあ、対して強くもなかったからな。あいつらを倒したからって、浮かれるなよワン子」

 

ちょっと姉らしく、厳しい事を言ってみたと百代は笑った。

 

「―――――」

 

その何気ない百代の一言に、一子は一瞬言葉を失う。まるで、自分が否定されたように感じ取った。今まではそんな風に思った事は一度もなかったのに……と、複雑な気分になる。

 

「ワン子、どうかしたのか?」

 

一子の様子を変に思ったのか、百代が心配そうに尋ねる。一子は我に返ると、ぶんぶんと首を振るのだった。

 

「う……ううん。なんでもないわ!」

 

「そうか……ならいいんだが――――ん?」

 

何かを察知したのか、百代は視線を別の方向へと向ける。その先には、麗しき美少女という名の女子学生の姿があった。どうやらナンパをする気らしい。

 

「私好みのタイプだな――――よし、今日はあの子で決まりだ!」

 

一子に鍛錬、頑張れよと励ましのエールを送ると、百代はターゲットを定め、女子学生に向かって駆け出していった。一子はそれを手を振って見送っている。

 

百代のナンパ癖は相変わらずだな……と、一子は苦笑いしながらそう思うのだった。

 

“ソウヤッテ、イツモヒトヲミクダスコトシカシナイノネ”

 

「うっ……!?」

 

急に激しい頭痛に襲われ、ワン子は頭を抱えて蹲る。

 

“コンナニガンバッテイルノニ、ドウシテミトメテクレナイノ”

 

何かが一子の中で呼びかけ続ける。頭が割れるような痛みが続き、膝をついて苦しみ出すワン子。

 

“ユルサナイ。ユルサナイ。ユルサナイ。ゼッタイニ”

 

徐々に頭痛が引いていく。一子は膝をついて蹲ったまま、動かない。

 

「……め、させなきゃ」

 

声を震わせながら、一子は小さく呟いた。頭を抱えながら百代のいる方角を睨みつけている。

 

その目は、今までの一子とは別人のような……闇色に染まった瞳がそこにあった。

 

「認め……させなきゃ」

 

百代に自分という存在を認めさせる。一子の心に、確かな“黒い感情”が宿り始めていた。

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