聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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15話「歪み」

「はっ―――!はっ!はっ!」

 

川神院の野外道場で何人もの修行僧が並び、拳を突き出し、鍛錬に明け暮れていた。

 

時期は夏休みに突入し、休暇を過ごす者もいる。が、殆どの修行僧はここに留まり、川神流を極めるため日々修行を重ねていた。

 

その光景を鉄心とルーが微笑みながら、修行僧達の成長を見守っている。

 

「……ふむ、皆よくやっておるのう」

 

モモも少しは見習って欲しいものじゃ、と鉄心は髭を弄りながら呟く。だが以前に比べて、少しは精神も落ち着いてきていると感じていた。

 

これもビッグ・マムの指導のおかげだ……心配の種が取り除かれ、鉄心は嬉しく思うのだった。

 

「そういえば、百代も今は現地に到着している頃でしょうネ」

 

青空を見上げながら、ルーは言った。

 

百代は現在、七浜にあるスタジアムに赴いている。

 

普段は野球の試合で使われている場所だが、今回は模擬戦闘を行う為の決闘場となっていた。百代と一度手合わせしたいという人物が現れ、喜んで七浜へ飛んでいったのだという。

 

「うむ……相手は身の丈以上もある大剣の使い手だそうじゃのう」

 

「ええ。それも小柄な少女がです……信じられませんネ」

 

鉄心やルーが聞いた話では、今回百代が会う人物は大剣を軽々と振り回す少女と、サポート役をするシスターの2人らしい。

 

詳細はよく分かっていないが、百代に挑戦してきた相手の中では、かなりの実力者であるという事だけは判明している。

 

「ワシらも決闘を見にいきたいのじゃが……今はそんな事を言ってられんからのう」

 

鉄心の表情が険しくなる。元素回路の調査が困難を極める中、ここを動く訳にはいかなかった。

 

今回の事件の責任者である自分がここを離れれば、何か起こった時に対処ができない。ルーもそうですネ、と肩を落とした。

 

また、サーシャ達も一旦川神市を離れている。戻るのは今日の夕方になると、ユーリから伝達を受けていた。

 

サーシャ達のいない今、自分達にできる事をしよう……鉄心とルーはそう思うのだった。

 

「――――じーちゃん、ルー師範代!」

 

鍛錬から帰ってきた一子が手を振って、腰にタイヤのついたロープを引きずりながら鉄心達の元へやってくる。

 

「おー、おかえりなさい一子」

 

ルーが一子を出迎え、鉄心が微笑む。やはり、孫が頑張っている姿はいつ見ても眩しい。

 

「一子も夏休みだというのに、よく頑張っておるのう」

 

「うん。アタシ、鍛錬する度にどんどん強くなっていくのを感じるの!だから、もっともっと鍛えなきゃ!」

 

この前の挑戦者(ウンウン☆マイスリー+ヘリウム5男)も一撃で倒したんだから、と胸を張る一子。そんな一子を見て、鉄心はそれは何よりじゃ、とまた微笑むのだった。

 

「ねぇ、じーちゃん。お願いがあるんだけど……」

 

一子がおねだりするような眼差しを鉄心に送りながら、言い難そうに答える。鉄心は何でも聞いてやるぞいと、ニコニコと笑っている。

 

すると、一子はホント!?と目を輝かせながら答えた。

 

「アタシ……じーちゃんと手合わせがしたい!」

 

一子の願い……それは鉄心との模擬戦であった。鉄心とルーは一瞬言葉を失ったが、すぐに答えを返す。返事は勿論、ノーだった。

 

「一子や、ワシに挑むにはまだ早いぞい。その為にはまず師範代を目指さんとのう」

 

その時が来たら、全力で相手をしてやるぞいと鉄心。やはり、今の一子では力不足だと感じる部分があったのだろう……あはは、そうだよねと一子は苦笑いする。

 

「学長、そろそろ時間です」

 

ルーが時計を指し示す。今日は川神学園で元素回路事件についての会議に出席しなければならなかった。鉄心はうむ、と頷いてルーと共に早速川神院を出ようと足を運ぶ。

 

「ワシは学園に少し用事があっての。一子、留守を頼むぞい」

 

そう言い残し、川神院を出て学園へ向かっていく鉄心とルー。一子はいってらっしゃいと手を振って、2人を見送った。

 

「…………」

 

やがて2人の姿が見えなくなると、手を下ろし、しばらくその場に立ち尽くす一子。

 

「―――やっぱり認めてくれないのね」

 

まるで別人のように声のトーンが低くなり、一子は踵を返すと、野外道場を通り抜けて川神院の中へ入っていく。

 

廊下を歩き、一子が辿り着いた先……そこは武器置き場だった。部屋の中には模擬戦闘で使用する為の武器が保管されている。

 

刀剣、短刀、弓……レプリカだけでなく本物も存在する。種類が豊富であり、もはや武器庫と呼ぶ方が相応しい。

 

「…………」

 

一子は静かに、一歩一歩部屋の奥へと進む。周囲を見回しながら、自分が探し求めている“モノ”を探し出していた。

 

しばらくして一子は足を止め、壁に立てかけられたある武器に視線を向ける。

 

それは、一子の愛用している武器である薙刀だった。しかも、レプリカではなく本物である。薙刀の先端の刃は丁寧に手入れされ、刃こぼれ一つない。

 

「―――――」

 

一子はゆっくりと手を伸ばし、置かれた薙刀を手に取る。柄の部分をぐっと握り締め、薙刀を自分の一部になる感触を体感しながら、一子は薙刀を一振りした。

 

瞬間、薙刀の一閃が風を切り、周囲にあった武器を切断して破壊する。部屋中にあった武器という武器が無残に散り、もう見る影もない程に粉々になった。

 

薙刀の刃は触れてすらいない。斬ったのは刃ではなく、一子が作り出した“気”の刃であった。

 

悪くないわ……と一子は心の中で呟きながら、普段の一子とは思えないような歪な笑みを浮かべ、残骸と化した武器置き場を後にするのだった。

 

 

 

学園で会議を終えた鉄心とルーは川神院へ戻る道程を歩き、今後の対応について考えていた。

 

「ふむ、事態は深刻じゃのう」

 

眉間に皺を寄せ、どうしたものかと髭を撫でる鉄心。元素回路は未だ消える気配を見せず、被害者は増える一方であった。

 

「痕跡がないとなると、かなり厄介ですネ」

 

ルーも腕を組み、この現状を打破できる策はないかと頭を抱えている。

 

元素回路は使用された後に消滅し、欠片すら残らない。そもそも、それらしき物を見た人間すらいないのだ。せいぜいあるのは、一部の記憶喪失という症状のみである。

 

このままでは根絶するどころか、被害を食い止める事すらできない。もはや頼りになるのは、サーシャ達アトスの人間しかいなかった。

 

情けない話だが鉄心達にとって、サーシャ達の知識は必要不可欠なのだから。

 

「――――む?」

 

川神院まであと少し……の所で、ふと鉄心は足を止めた。

 

気の流れに、違和感を感じる。それはルーも同じように感じ取っていた。

 

川神院の修行僧の“気”が、ない。30人近くの人数が鍛錬を行っていたにも関わらず、ただの1人も気配を感じなかった。

 

仮に休憩をとっていたとしても、多少の気配を感じるはずだ。それなのに、何も感じ取れないのはおかしい。不自然すぎる。

 

「学長」

 

「うむ」

 

鉄心とルーは急ぎ足で川神院へと向かう。一体何があったのだろうか……それに、一子の気配も感じ取れない。

 

様々な不安が脳裏をよぎるが、考えていても仕方がない。現状を確認するのが最優先である。

 

川神院の前まで来た鉄心達は、門を潜り抜けて野外道場へと辿り着く。

 

「――――なんと!?」

 

「――――これは!?」

 

声を揃える鉄心とルー。そこには、想像を絶するような光景が広がっていた。

 

鍛錬をしていた修行僧が全員、傷を負って倒れている。この惨状に、鉄心とルーは言葉を失う。

 

まるで大型のハリケーンにでも巻き込まれたかのように、場外に投げ出された修行僧や、場内には修行僧達の身体が転がっていた。

 

「どうしたんじゃ!?一体何があった!?」

 

鉄心が近くに倒れている修行僧の頬を叩く。しかし反応はなく起きる気配はないが、気絶しているだけで死んではいないようだった。

 

「なんて酷い……一体誰がこんな事を」

 

ルーは修行僧の一人を抱きかかえながら、苦悶の表情を浮かべる。

 

とにかく、一人ずつ中へ運ぼう……鉄心達が修行僧達を抱えたその時だった。

 

「あ、じーちゃん。ルー師範代、おかえり!」

 

2人の背後から聞き覚えのある声。振り返ると、薙刀を持った一子の姿があった。この惨状をまるで何事もなかったかのように、いつもの元気な笑顔のまま鉄心とルーを出迎えている。

 

それは、あまりにも異質。この状況で一子が笑っているその光景は、不釣り合い過ぎた。

 

鉄心とルーはある疑念を抱く。

 

“まさか、これは全て一子がやったのではないか?”

 

それはあり得ない。あって欲しくない。一子がこんな酷い事を、平気な顔でできるはずがない。それは鉄心とルーが一番よく知っている。だから、鉄心は一子に問いかけた。

 

「一子……一体、何があったのじゃ?」

 

恐る恐る一子に話しかける鉄心。一子の仕業なのではないかという、信じたくないような返答がこない事を祈りながら。

 

そして一子は笑みを絶やさず、ゆっくりと口を開く。

 

「凄いでしょ。これ全部――――――アタシが倒したのよ」

 

一子から返ってきた言葉は、鉄心とルーが予想していた通りの“悪夢”である事を告げていた。

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