聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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サブエピソード13「空に轟く咆哮」

七浜中華街本通り。

 

百代は七浜スタジアムでの模擬戦闘を終え、中華街で買った(殆ど通りすがりの女性に奢ってもらった)お土産を片手に、中華まんを頬張りながら通りを歩いていた。

 

「もぐもぐ……戦った後の中華まんはうまいな」

 

中華まんを一つ食べ終えてはまた一つ頬張り、中華街の食べ歩きを満喫する百代。ご機嫌な足取りで中華街をしばらく歩いていると、ふとある店の宣伝看板に目が入った。

 

『今だけ!期間限定ボルシチまん 発売中!』

 

ボルシチまんと書かれた看板の横に、蒸し器に大量に盛られたボルシチまんが、ホカホカと湯気を立たせながら店頭に並んでいた。

 

ボルシチまんは組み合わせ的にどうかと思う百代だったが、人集りが少し出来ているだけあって、思いの外売れているらしい。

 

(そういや、サーシャがボルシチ好きだったな……)

 

島津寮で、サーシャがボルシチにがっついていた時の事を思い出す。

 

同じ川神院で暮らしている仲だ、まふゆ達に買っていってやるか……百代はボルシチまんを購入しようと、人集りの中へ足を進めた。

 

『~♪』

 

百代の携帯の着うたが鳴り響く。ポケットから携帯を取り出し、画面を確認すると大和の名前が表示されていた。百代は早速携帯に出る。

 

『―――もしもし、姉さん?』

 

受話器からは大和の声。

 

「大和か、どうした?」

 

『もう模擬戦は終わったの?』

 

「ああ、ついさっきな……もぐもぐ」

 

大和と会話しつつ、また中華まんを頬張る百代。食べるか喋るかどっちかにしてくれ……と大和がボソッと呟いていた。

 

「もぐ……ごくん、すまんすまん。いやぁ、中々に楽しめたぞ」

 

模擬戦闘の感想を、楽しそうに百代は語る。

 

百代の対戦相手は、大剣を使う少女だった。分子振動による高周波を発生させ、物質を両断する剣を振るい百代を圧倒したが、太刀筋を見切られ、最後は百代の一撃で幕を閉じたという。

 

戦闘時間は5分程度。百代との戦いにしては、長い方である。

 

『そりゃよかった……ところで、姉さんはいつ戻るの?』

 

「もう少し中華街を歩き回ろうと思ってる。ああ、そうそう。ボルシチまんってのが売っててな、サーシャが好きそうだから買って――――」

 

瞬間、空が震えた気がした。

 

「――――!?」

 

黒い咆哮が、七浜の空に響き渡る。

 

そして百代の耳に聞こえてくる、嘆き、憎しみ、妬み、蔑み……様々な負の感情が、百代の身体を襲った。あまりの負の濃度に、吐き気さえ覚えるくらいに。

 

しかし、周囲の人間は何も感じてはおらず大通りを歩いている。感じたのは百代だけだった。

 

『うっ……ぐ……』

 

受話器の向こう側で聞こえる、大和の呻き声。大和もこの感覚を感じ取っていたのだろう。百代は大和に呼びかける。

 

「大和どうした。一体何があった!?」

 

『わ、分からない……急に吐き気が……』

 

「私も感じた。何なんだ、この禍々しい気は……けど、どこか懐かしさを感じる」

 

禍々しさの中に、まるで不純物のように入り混じった懐かしい感覚。何故だろう……それが思い出せない。

 

『この感覚……川神院の方角からだ……』

 

「川神院!?」

 

川神院……大和のその言葉に、百代は驚愕した。強大な気の強さに大和も感じ取れたのだろう。

 

川神院に何があったのだろうか。あそこには鉄心やルー、修行僧。そして……一子もいる。不安が一気に押し寄せ、百代はいても立ってもいられなかった。

 

「待ってろ大和、すぐに戻る!」

 

『ま、待って姉さ―――』

 

百代は一方的に電話を切り、持っていたお土産を放り出し、最寄駅へと駆け出した。

 

 

 

近くの駅に辿り着いた百代は、早速改札の入り口の中へ入る。しかし、中は大勢の人でごった返していた。駅員が中にいる人達を誘導し、何かを説明している。

 

『只今人身事故の影響で、運転を見合わせております――――』

 

駅の中でアナウンスが入る。電話は人身事故により、運転を停止していた。

 

「くそっ――――!」

 

こんな時に……百代は舌打ちをすると、踵を返して駅を後にする。

 

電車は使えない。タクシーを呼ぼうにも、持ち合わせが足りない。それならば、走るしか手立てはないだろう。

 

道路沿いを走り、百代は川神院を目指す。

 

 

少し時間はかかるかもしれないが、体力は十分にある。気がかりなのは川神院の安否だ。あの禍々しい気はただ事ではない。間違いなく何かが起こっていた。

 

しばらく走っていると、百代と並ぶようにバイクが道路を走っていた。するとバイクは急に加速し、角を曲がった所で百代の前に止まり、立ち塞がる。

 

バイクの乗り手はヘルメットを外し、その素顔を晒す。その正体は保険医の麗だった。

 

「乗って、百代ちゃん!」

 

麗はバイクの後ろに掛けられたヘルメットを百代に投げる。どうしてここに……と問う暇はない。百代は頷き、ヘルメットを被りバイクに跨る。

 

百代が麗の背中に捕まった事を確認すると、麗は再びバイクを発進させた。

 

 

 

――――その一方。サーシャ達も車を使い、川神院へと急いでいた。

 

「まずい事になりましたね」

 

ハンドルを握りながら、ユーリは目を細める。助手席にはサーシャ。後ろにはまふゆ、華。そしてカーチャ。

 

川神市から川神院で異変が起きているとの報告があり、連絡を受けたサーシャ達は途中で訪れていた七浜をすぐに出発した。

 

「俺のサーキットが異常な反応を示している……くそっ、目の前に手掛かりがあるというのに!」

 

サーシャは唇を噛んだ。サーシャの左耳に着いているイヤリングが、真っ赤に発光している。

 

サーシャ達も禍々しい気を感じ取っていた。イヤリングが反応している以上、元素回路が関っている事は明白である。

 

それも、現在地の七浜から反応しているという事は、それだけ強大な力があるという事だ。川神市に近づくにつれ、サーシャのイヤリングが大きく揺れ動き、発光がさらに強くなっていく。

 

「でも、あの感覚……どこかで感じた気がする。それも最近」

 

う~ん、と腕を組んで考えるまふゆ。まふゆもあの気の中に、何かを感じている。だが、思い出せなかった。

 

『~♪』

 

まふゆの携帯が鳴り出す。取り出して確認すると、画面には麗の名前があった。まふゆはすぐに電話を取る。

 

「もしもし、麗先生?」

 

『―――その声、まふゆか?私だ、百代だ!』

 

電話の相手は麗ではなく、百代だった。

 

「モモ先輩!?どうして……」

 

『今麗先生のバイクで川神院に向かってる!聞いてくれ、川神院の様子がおかしいんだ!』

 

焦燥しきった百代の声が電話を通して伝わってくる。百代も麗と共に向かっているらしい。

 

「私たちも今向かってます!鉄心さん達、無事だといいんだけど……」

 

『ああ……とにかく、川神院で落ち合おう。切るぞ!』

 

通話が途絶える。まふゆは携帯を閉じると、ユーリとサーシャが座る席の間に顔を出した。

 

「麗先生とモモ先輩も向かってるみたいです。ユーリさん、急いで!」

 

「ちょ……お、押すなよ織部!」

 

「ちょっとまふゆ、ただでさえ狭いのに――――!」

 

まふゆは身を乗り出した。同席していた華とカーチャともみくちゃになり車が揺れ動く。

 

「あまり揺らさないでくださいよ。それに……急いでいるのは私も同じです」

 

ユーリは車のアクセルを踏み、スピードをあげて走行する。

 

(鉄心さん……無事でいるといいのですが)

 

一抹の不安を抱え、ユーリは川神市へと車を加速させるのだった。

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