聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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17話「悲劇の爪跡」

嘆き、憎しみ、妬み、蔑み。

 

一子の闘気に宿る様々な感情が、黒い咆哮となって鉄心達を襲う。

 

それはまるで、負の重圧。鉄心達は避ける術もなく、その咆哮に飲み込まれた。

 

瞬間、一子の放った闘気が暴発し、道場全体に凄まじい爆発を起こす。爆風が巻き起こり、砂埃が周囲を覆った。

 

やがて爆風が収まり、砂埃が消えていき、次第に視界が鮮明になっていく。

 

「―――――」

 

そこには、身体が壁にめり込んだ鉄心の姿があった。その側にルーの身体も横たわっている。

 

3人は一子の星殺しの直撃を受けて重傷を負い、意識を失っていた。死んではいない。だが、2人の受けたダメージは深刻である。

 

「……はぁ、はぁ」

 

星殺しで相当の気力を使った一子は息を荒げ、鉄心達の倒れた姿を眺めていた。

 

川神院総代である鉄心と、師範代のルーを倒したという事実。一子にとって、それは大きな進歩であった。

 

これでまた、百代に近付いた。だが一子は笑わない。笑う必要がない。何故ならそれは、これもまた“小さな一歩”に過ぎないのだから。

 

(お姉さまの気だわ……)

 

百代の気を感じ取る一子。徐々に気配が大きくなり、川神院へ向かっているとすぐに理解した。

 

今の自分の置かれた状況を再確認する。鉄心とルー、そして修行僧達も意識を失っている。一子が倒したと悟られるのは、今の段階では都合が悪い。

 

隠れなければ……一子は気配を消し、野外道場から院内へと戻っていった。

 

 

 

「着いたわ」

 

七浜からバイクで直行した百代と麗は、ようやく川神院の前まで辿り着いた。正門には何人もの人集りが出来ていて、皆何事かと外から様子を伺っている。

 

百代と麗はヘルメットを外してバイクを降り、早速川神院の中へ入っていく。

 

「―――姉さん!」

 

「―――モモ先輩!」

 

途中で大和達と合流する。キャップや岳人達も川神院の異変を感じ取り、駆けつけていた。

 

「何があるか分からないわ。みんな気をつけて!」

 

麗と百代を先頭に、大和達は奥へと進み、異変が起きている野外道場で足を止める。

 

そこに広がっていたのは、想像を絶するような惨劇の光景だった。

 

「な……何だ、これは」

 

惨状を目の当たりにして、大和は言葉を失う。他のメンバーや麗も悪夢を見ているようで、むしろ夢ではないかと錯覚を覚えるくらいに。

 

修行僧達が、気を失って倒れている。道場の周囲も酷い有様で、まるで嵐にでもあったように荒れ果てていた。

 

「しっかりしてください!何があったんですか!?」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

倒れている修行僧達に駆け寄り、介抱する由紀江とキャップ。他のメンバーも修行僧達の介抱を始める。麗は携帯で病院に連絡し、救急車の手配を要請していた。

 

「…………」

 

この惨状に、何よりもショックを受けているのは百代だった。瞳孔を震わせ、言葉を失い、目の前で起きた現実を受け入れられずにいる。

 

自分の家が。大切な人達が。そして道場の奥に……鉄心とルーの無残な姿があった。

 

「じじぃっ!!!」

 

百代は一目散に鉄心とルーの所に駆け寄った。壁にめり込んだ鉄心の身体を剥がし、何度も鉄心やルーに呼びかける。

 

「しっかりしろじじぃ、ルー師範代!何があった!?」

 

「「―――――」」

 

何度呼びかけても、鉄心とルーが目を開き、意識を取り戻す事はなかった。死んではいないようだが……身体の傷からして、重傷である事は見て取れる。

 

鉄心は誰かと戦っていた……が、鉄心を負かせる人間はそうはいない。

 

だが、今の百代にとってはどうでもいい事だった。大事な家族を傷付けられ……百代は守れなかった悔しさと悲しみに打ち拉がれ、項垂れていた。

 

「モモ先輩――――!」

 

百代の背後から声がする。駆け寄ってきたのはまふゆとユーリだった。ユーリ達もたった今到着し、サーシャ、華、カーチャに別れて状況を確認している最中である。

 

だが百代は、まふゆの呼びかけに対して全く反応を示さない。身体を震わせ、気を失った鉄心の身体を、そっと横たわらせた。

 

百代の中の悲しみと悔しさが、次第に怒りへと変わっていく。鉄心やルー、そして修行僧達に手をかけた者への、抑えられない程の怒りが爆発する。

 

「……誰だ……一体誰がこんな事をした!?」

 

拳を地面に叩きつけ、百代は憤慨し、叫ぶ。やがて手をかけた者に対する殺意が芽生え始めた。

 

「くそ……くそ、くそくそ!!殺してやる!!出てこい!私が相手になってやる!」

 

百代の身体から闘気が溢れ出す。行き場のない怒りが、百代を復讐へと駆り立てていく。今にも暴走してしまいそうな程に。

 

「落ち着いてください、百代さん。今は鉄心さん達の救助を優先しましょう」

 

怒り狂う百代を、ユーリが制する。そのユーリの冷静な態度に、百代はさらに激情する。

 

「落ち着いてなんかいられるか!じじぃがやられたんだぞ!?川神院の修行僧達もだ!!」

 

今の百代は怒りで周りが見えていなかった。冷静さを失い、怒りに身を任せてしまっている。それだけ、鉄心達がかけがえのない存在なのだろう……自分の大切な家族なのだから。

 

「あれ……?」

 

ふと、まふゆは今になって気付く。もう一人、ここにいない人間……一子がいないという事に。

 

「そういえば、一子ちゃんは……!?」

 

一子がこの場所にいない。まふゆの言葉を聞き、百代の血の気が引いていく。冷静さが戻り、不安が百代の怒りを凍りつかせた。

 

この時間帯なら、一子は既に川神院へ戻っているはず。それなのに一子の姿がない。百代の不安が焦りへと変わる。

 

「そうだ……ワン子はどこだ……ワン子ーーーーー!!」

 

じっとしていられなくなった百代は、一子の名前を叫びながら院内へと駆け込んでいった。続いてまふゆとユーリも後を追う。

 

百代は虱潰しに部屋中を駆け回り、がむしゃらに部屋の中を探す。

 

あの部屋も、この部屋も、まるで見つからない。一つ一つ部屋を探す度に、不安と焦りがどんどん大きくなっていく。

 

そして、最後の部屋に差し掛かった―――一子の部屋である。ここにいなければ……百代は血眼になって一子の姿、気配を探る。

 

「―――――?」

 

すると、ガタ……と押し入れから僅かに物音が聞こえた。百代は押し入れに視線を向ける。

 

「ワン子……?」

 

そこにいるのか、と小さく呼びかける。返事はない。だが、僅かに気を感じる。恐る恐る襖に近づき、そっと手をかけた。

 

もし、中に潜んでいる人間が一子ではなく、川神院を襲った人物であったら……百代は迷う事なく拳を突き出しているだろう。もう自分を抑えられる自信がない。

 

しかし、一子であって欲しいという希望もある。どちらが出るか――――百代は勢いよく、押し入れの襖を開けた。

 

「ひっ……!」

 

小さく悲鳴が上がる。中にいたのは一子だった。小さく座り込み、頭を両手で覆いながら蹲るようにして震えている。

 

「ワン、子………」

 

一子は無事であった。一子の姿を見て安堵し、力が抜け落ちて膝をつく百代。すると、百代の声に反応した一子が顔を上げる。

 

「お姉………さま?」

 

震えた声で、百代を見上げる一子。百代の瞳に涙が浮かび、ああと頷いて、一子の身体を引き寄せ抱き締めた。一子も百代にしがみついて泣き叫ぶ。

 

「お姉さま……ごめんなさい、アタシ、何もできなかった……!」

 

「いい……いいんだワン子。お前だけでも、無事でよかった……!」

 

震える一子の頭を、優しく撫でる百代。よっぽど怖い思いをしたのだろう……一子の身体の震えがひしひしと伝わってくるのが分かる。

 

「じーちゃんが急に、危ないから隠れてなさいって……そしたら……じーちゃんとみんなが倒れてて、アタシ、怖くなって……」

 

「もう何も考えるな……お前は休め。後は私が何とかする」

 

よく頑張ったな、と百代。二度と離れる事のないよう、一子の身体をずっと抱き締め続けていた。

 

しばらくして、追いついてきたまふゆとユーリが一子の部屋を訪れる。

 

「……!!よかった、一子ちゃんが無事で……」

 

安堵の息を漏らすまふゆ。ユーリも一子の無事を確認すると、部屋を後にして左耳に装着したインカムのスイッチに手をかけた。

 

「――――サーシャ君、聞こえますか?一子さんの無事を確認しました。そちらの状況は?」

 

サーシャに連絡を入れ、応答を待つユーリ。返事は直ぐに返ってきた。

 

『―――たった今、負傷者全員の搬送を確認した』

 

「ご苦労様です。では、引き続き調査を行って下さい。それともう一つお願いがあります」

 

『なんだ?』

 

「野外道場に武器の傷跡がないか、念入りに調べてもらえますか?」

 

『傷跡?』

 

そんなものを調べて何になるのか……そのサーシャの疑問に対し、ユーリはさらに続ける。

 

「院内の武器置き場が、何者かによって荒された形跡がありました」

 

百代の後を追う最中、武器置き場に目を止めたユーリは中へと入り、現場を確認したという。

 

「少し調べてみたのですが……“ある武器”だけがありませんでした」

 

ある武器が、武器置き場から消えていた……ユーリはその武器の詳細をサーシャに告げる。

 

「彼女も注視しつつ、調査を進めてください」

 

と、再び命を下すユーリ。サーシャはしばらく無言だったが、

 

да(了解)

 

そう言って、ユーリとの通信を切るのだった。

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