聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
川神学園、夏休み登校日。
Fクラスでも夏休みの話題で盛り上がっていた。
「あたい、この夏休みでぜってーイケメンゲットする!」
「あはは、無理よ無理!」
千花と黒子は相変わらず恋の話に花を咲かせている。
「スグル。8月の夏コミ、◯◯のキャラの抱き枕が出るよね」
「即買いだ。早急に並ばないと完売確実だからな。殺してでも奪い取るぞ」
「あはは、気合入ってるね」
卓也とスグルは、8月に開催される夏コミの話に夢中だった。
そんな夏休みを満喫している話の中で、サーシャ、まふゆ、華は3人で集まり、クラスメイトと話している一子を観察していた。
特に変わった様子はない。普通に、いつものメンバーと楽しく会話をしている。
「特にいつもと変わんねぇな」
華は腕を組み、一子の様子を伺っている。華から見れば、別段異変は感じない。いつも通り、一子は活き活きとしていた。
「……ううん、変だよ」
そんな華に対し、まふゆは変だと言う。まふゆは一子にある違和感を感じていた。
確かに一子は元気そのものである。変わらずに明るく話をしていた。
そう――――“いつもと変わらず”に。
鉄心やルー達が襲われてから数日が経つ。にも関わらず、一子は暗い表情を全く見せていない。まるで、何事もなかったかのように。
もっと悲しみ、落ち込んでもいい筈なのに……あまりにも明るすぎる。空元気にしても妙である。それでも一子は笑っていた。それも気味が悪い程に。
「やっぱり織部さん達もそう思うか」
サーシャ達の前にやってきたのは、大和とキャップだった。大和とキャップも、一子の異変に気付いていたらしい。
「ワン子のヤツ、どうもおかしいんだよな。元気すぎるっつーか……」
キャップは頭をボリボリと描きながら、一子の様子を懸念する。
もちろん、大和とキャップだけではない。クリスや京、卓也と岳人もクラスメイトと話しつつ、一子の様子を気にしている。
長い付き合いだ……仲間の事は大和達が一番よく分かっていた。
「………」
すると、黙っていたサーシャが席から立ち上がる。
「サーシャ?」
「面倒だ。直接聞く」
「えっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!」
まふゆの制止も振り切り、サーシャは一子の前へと進んでいく。大和、キャップ、まふゆ、華も続いてサーシャの後を追った。
「へえ、そうなんだ!」
「でね、アタシは……」
「おい、一子」
サーシャは、クラスメイトと話している一子に声をかける。
「え、何?サーシャ」
「お前に聞きたい事がある」
サーシャは冷たく、鋭く光る碧色の瞳で一子を睨み付けた。一子の表情が思わず強張る。
「あ……えっと、アタシ何か悪い事した?」
サーシャに何かをした覚えはない。何故あんな怖い顔をしているのだろう……一子には分からなかった。サーシャは静かに答える。
「俺と来い。話はそれか――――」
「――――いつもいつも、ぎゃーぎゃーと五月蝿いのじゃ!」
怒鳴り声と共に教室の扉が開かれる。やってきたのは心だった。こんな時にタイミングの悪い……サーシャは溜息をつく。
突然の心の乱入に、クラス中からブーイングの嵐が吹き荒れるとともに、心の制服姿に誰もがツッコミを入れた。だが心には関係ない。教室の中を進み、怒りを爆発させる。
「お前たちが騒ぐと、迷惑なのじゃ!隣にいるこっちの身にもならぬか山猿ども!」
自分の不運を嘆き、それを不満と共ににぶちまける心。一子はそれをアタシに言われてもなぁと困った表情を浮かべる。
Fクラスのブーイングがさらに大きくなっていく。すると心はクラスの生徒全員を睨みつけ、
「ええい、五月蠅い黙らぬか!!!」
声が潰れるくらい全力で叫んだ。ブーイングが消え、一気に静まり返る。
「身の程を弁えよ愚か者ども!此方は不死川家の息女。此方が一声かければ、お前たちを退学にさせる事ぐらいわけないのじゃ!」
不死川家という権力を使い、生徒達を黙らせる心。自分は不死川家の人間。これこそ、本来あるべき自分の姿なのだと体感する。
Fクラスの生徒達は反発はしないものの、敵意の視線を送っていた。
(……ほっほっほ、此方が本気を出せばざっとこんなものじゃ)
今まで溜め込んでいた鬱憤が晴れていく。Fクラスの生徒達が黙っているのを見て心は気を良くしたのか、嫌味にさらに拍車がかかる。
「此方とお前たちと何が違うか分かるか?それは“格”じゃ。所詮は無能の集まり。無能は無能らしく、大人しくしていれば良いのじゃ」
心は言うだけ言って、すかっとした表情で教室から立ち去ろうと踵を返す。これだけ言えば、しばらくは大人しくなるだろう。
そもそも、これは殆ど八つ当たりのようなものなのだが。
「―――――待ちなさいよ」
ふと、静かな怒りを込めた低い声が心を呼び止める。心はやれやれまだやるか……と不憫に思いながら、背後を振り返った。
「なんじゃ、まだやる気か?懲りないやつじ――――」
振り返った瞬間、まるで突き刺さるようなその視線が心の身体を凍てつかせた。その視線は一子からだった。一子は鋭く冷たい視線を、敵意と共にに向けている。
こいつもこんな目をするのか……心は一子の豹変に驚いていた。
もちろん、心だけではない。一子の周囲にいた生徒達も、まるで別人ではないかと思う程に驚きを隠せないでいた。
一子は詰め寄るように心に一歩近づき、口を開く。
「“無能”って、言ったわね?」
「……そ、それがどうしたというのじゃ?無能を無能と言って、何が悪いのじゃ!!」
心の反論に対し一子は睨みつけたまま、何も言い返さない。すると、一子は突然ポケットからバッジを取り出し、心の前に突き付けた。
決闘。心に対する挑戦状である。
「決闘よ、不死川心。今すぐアタシと勝負しなさい」
一子は表情を変えないまま、心に決闘を申し込んだ。だが心は、何を言い出すかと思えばと扇子を広げ、口元を覆いながら笑う。
「ふん、此方と決闘?やめておけ。お前が恥をかいて、惨めな思いをするだけじゃ」
勝てるわけがないと、心は声高らかに笑い出す。しかし一子は挑発に眉一つ動かさず、まるで心を小馬鹿にするようにクスリと笑う。
「何よ、怖いの?世間知らずの箱入りお嬢様」
「な……!?」
挑発をする筈が逆に挑発を受け、激情して一子を睨み付ける心。こうなっては心も黙ってはいられず、ポケットからバッジを出し机に叩きつけた。
「……そんなに恥をかきたいのなら、望み通りにしてやるのじゃ!」
心は決闘を受諾した。一子もバッジを心のバッジに重ねる。
一子と心の決闘……周囲が騒然となった。
「すぐに始めるわ。校庭へ来なさい」
一子と心はそのまま、教室を出て校庭へと向かう。
「ワン子、急にどうしちゃったんだろう……」
「あんな一子さん始めて見たよ」
「ちょっと怖いかも……」
皆一子の変わり様に戸惑いながらも、決闘見たさに一斉に教室を出た。決闘の情報はあっという間に広まり、全学年の生徒達が校庭に集まり始めていた。
「俺たちも行くぞ」
サーシャ達も校庭へ向かう。何かが起こるという、胸騒ぎを抱えながら。