聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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21話「仲間として」

一子の騒動が起きてすぐ、学園の全校生徒は強制的に下校となった。

 

それから数時間後、サーシャ達一行は鉄心達が入院している、川神市最大の病院である葵紋病院へと足を運んでいた。

 

 

鉄心の意識が戻ったとの報告を受け、サーシャ、まふゆ、華、ユーリの4人は病室を訪れ、面会へと赴いている。

 

「何という事じゃ。まさか、一子が……」

 

学園での騒動の一報を耳にする鉄心。ベッドから上半身だけを起こし、鉄心は表情を険しくした。事態はさらに深刻化している状況である。

 

「サーキットを装着してから、かなり浸食が進んでいます。一刻も早く取り除かなければ、彼女の身が危険です」

 

我々がもう少し早く気づいていれば……とユーリ。

 

サーシャが見た一子の元素回路は、黒い紋章のようなものだった。それは、一子の身体と同化するように根を張り巡らせている。

 

詳細が不明なである以上、どんな作用をもたらすかは分かっていない。だが、一子の人格の変化と戦闘力の向上は異常である。

 

このままサーキットが浸食すれば一子はさらに力を増し、暴走を続けるだろう。

 

そしていずれは以前の百代……否、それ以上の存在になる。そうなってしまってからでは遅い。

 

「どうにかして、一子から元素回路を引き剥がせないかのぅ」

 

と、鉄心。一子から元素回路を取り除くにはそれしかない。強行手段だが、それには誰かが暴走する一子を止めなければならない。

 

「いえ、元素回路は無理に引剥がせば人体に害が残り、最悪死に至る可能性があります」

 

ただ剥がすだけでは危険だ、とユーリ。

 

「一子を助けてやりたいが、今のワシには何も出来ん。すまんが、後は頼めるかの」

 

鉄心には、元素回路の知識がない。その上、この怪我では動こうにも動けない。後はサーシャ達に頼る他なかった。ユーリは頷き、一子を止める事を約束する。

 

「後は私たちが対処致します。ですが――――」

 

目を細め、鉄心に何かを訴えかけるユーリ。鉄心は思わず息を呑んだ。

 

「万が一最悪の事態になった場合、その時は……」

 

「…………」

 

万が一……それは一子の身は保証できなくなる、という事を意味していた。

 

サーシャ達の役目は“川神市から元素回路を取り除く”事である。

 

一子の症状が悪化し、川神市に危害を加える可能性も考慮しなければならない。そうなれば当然、一子を“異端者として討伐”しなければならない。

 

最も、そのような事態になればの話だが。

 

すると、

 

「――――話は聞かせてもらったぜ」

 

男性の声と同時に、病室の扉が開く。そこにいたのは、キャップ率いる風間ファミリーのメンバーと忠勝だった。壁越しに話を聞いていたらしい。

 

「お前たち……聞いておったのか」

 

気を感じ取れる程身体が回復していないのだろう、鉄心は彼らの存在に気付けなかった。迂闊であったと自分を責める。

 

「じじぃ。元素回路って何なんだ?ワン子に何が起きてる?」

 

百代が鉄心の前へ出て、話が見えないと説明を求める。百代だけではない。大和も、キャップも。卓也や岳人。京、由紀江、クリスもである。

 

「………」

 

鉄心は躊躇していた。確かに、一子は彼らにとって大事な仲間である。だができる事なら、無関係の生徒達を巻き込みたくはない。

 

話していいものか……鉄心が悩んでいると、しばらく黙っていたユーリが口を開く。

 

「構いません。こうなった以上、彼らには知るべき権利があります」

 

「ユーリ殿……」

 

一子が巻き込まれてしまった以上、もはや彼らが無関係とは言えない。鉄心は頷き、承諾した。

 

「では、場所を移します」

 

詳しい話は、鉄心に変わって私が説明するとユーリは告げた。

 

 

 

 

川神院へと移動し、客間を借りて大和達、サーシャ達は向かい合うように座る。

 

ユーリは全員を見渡すと、少し間をおいてから話を始めた。

 

「では、鉄心さんに変わって私が説明しましょう」

 

これから語られる、川神市の今の真実。

 

川神市に蔓延る、謎の元素回路。そして、サーシャ達の正体と任務の事を。

 

 

鉄心がサーシャ達、アトスを派遣した事。

 

サーシャ達が川神学園に潜入し、謎の元素回路を根絶しようとしている事。

 

今も、その元素回路が川神市内で出回っている事。

 

 

「鉄心さんと川神市長の依頼で、我々は派遣されました。そして元素回路に対処できる唯一の存在が、サーシャ君達――――クェイサーなのです」

 

サーシャが能力者“クェイサー”である事。まふゆ、華が生神女(マリア)である事。

 

そして一子が元素回路が渦巻く事件に巻き込まれている事、その全てを。

 

「くぇいさー……?その言葉、どこかで……」

 

百代には聞き覚えがあった。思考を巡らせ、記憶を辿る。

 

「あ、確かあの時やつらもそんな言葉を……!」

 

先に思い出したのは大和であった。多馬大橋で出会った、百代に挑んできた挑戦者達。ウンウン☆マイスリーとヘリウム5男。彼らもクェイサーと口にしていた事を思い出す。

 

まさか、彼らも今回の事件と関係あるのでは……と思う大和だったが、

 

「それはない。そいつらはただの野良クェイサーだ」

 

サーシャが雑魚だと一蹴して終わった。

 

「お前らがクェイサーだってのはわかった。それより、一子に何が起きてるんだ?」

 

本題は一子の事だ、と忠勝。忠勝にとって一子は孤児院で一緒に育った仲であり、それ故に心配でならなかった。そうでしたね、とユーリはさらに話を進める。

 

「あなた方が見た通り、一子さんの胸に張り付いてるものが元素回路です。彼女が豹変したのも、恐らくあれが原因でしょう」

 

一子に装着されている元素回路。それは性格、能力をも変えてしまう代物であるという事は大和達にも理解できる。

 

それと同時に、親不孝通りに出回っているような薬より、危険な存在である事も。

 

「……率直な話、犬は助かるのか?」

 

誰もが口にし辛かった一言を、クリスは尋ねた。するとユーリは目を閉じ、静かに語る。

 

「……我々の目的は、川神市から元素回路を取り除く事にあります。このまま一子さんを放っておく訳にはいきません」

 

放っておけば元素回路の力がさらに一子を浸食し、暴走する可能性がある……なんとしても一子を止めなければならない。

 

だが、元素回路を直接剥がす訳にはいかないとユーリは説明を付け足した。

 

「一子さんを止める方法は―――――」

 

そしてユーリは、彼らにとって最も残酷な現実を突き付ける。

 

「元素回路ごと、破壊するしかありません」

 

場の空気が一瞬で凍りついた。すると岳人が立ち上がり、ユーリの胸倉をつかんで叫ぶ。

 

「てめえ、ワン子に死ねってのかよおおぉ!?」

 

激情し、怒鳴り散らす岳人。一子を異端者として殺す……それがユーリの判断であった。大和達も立ち上がってユーリに講義する。

 

「何か方法があるはずだろ!?何でワン子が死ななきゃなんないんだよ!」

 

「認めねぇぞ!一子は殺させねぇ!」

 

絶対に死なせないと、大和と忠勝。しかしユーリは動揺せず、あくまで冷静に受け答える。

 

「ですが一子さんを放っておけば、多数の被害が出ます。そうなっては遅いのです」

 

たった1人の人間の為に、市内の大勢の人間を巻き込む訳にはいかない。川神院で起きた惨状をあなた達も見たはずですと、ユーリは反論する。

 

すると今度は百代がユーリに詰め寄り、説得を試みる。

 

「ワン子は私との決闘を望んでいる!私が勝って、ワン子を止めれば――――」

 

「――――仮に止めたとしても、彼女が暴走しない保証などどこにもありません」

 

ユーリはどこまでも冷静だった。そしてさらに、

 

「――――我々とは別に、神罰執行部(メテオラ)という組織が存在します」

 

神罰執行部(メテオラ)。一年前、サーシャ達が闘争を繰り広げた組織である。それが何だと百代は一蹴するが、ユーリは構わず話を続けた。

 

「彼らは元素回路に関わった者達を、一人残らず“神の御身(みもと)へ送ります”。この意味が、お分かりになりますか?」

 

「なっ――――!?」

 

百代だけでなく、大和達の思考が凍りつく。何故なら一瞬で意味が理解できたからだ。元素回路に関わったもの全てを殺す、という事である。

 

メテオラは本来、特級秘積に指定された始原の回路(ハイエンシェント・サーキット)を見た者、知る者を罪人として消し去るのが主である。

 

 

しかし今回は正体不明の元素回路。この事が知れ渡れば、メテオラが動かない筈はない。

 

「―――――――」

 

百代はそれ以上何も言えなくなり、床に膝を突き俯いた。もう一子は助からないと分かり、絶望感に襲われる。

 

どうにもならない。どうする事も出来ない。大和達も黙っている事しかできなかったが、ただ1人だけは諦めていなかった。

 

「俺は認めないぜ」

 

そう、キャップである。

 

キャップはユーリに向かってそう言った。絶対に一子を助ける、と。ユーリは微動だにしないまま、ほっと息を漏らした。それは呆れから来るものなのかは分からない。

 

「―――――と、ああ言っていますが。いかがですか、サーシャ君」

 

視線を向けず、サーシャに話を振った。大和達の視線が、サーシャに一斉に注がれる。

 

それに対しサーシャが言った一言は、

 

「―――――犠牲にしていい命など、ない」

 

一子を助けるという意志が込められていた。大和達とそして、まふゆ達にも笑顔が戻っていく。

 

「まふゆの剣の生神女の力を使えば、ワン子の身体から元素回路を“切断”できる」

 

まふゆの持つ“切断”を司る剣の生神女の力があれば、如何なるものでも断ち切る事ができる。それが一子を救い出せる唯一の方法であった。

 

「しかし、一子さんのサーキットは詳細が不明のままです。どんな影響を及ぼすか分かりません。それでもあなたは――――彼女を救い出せると?」

 

サーシャの方法で一子が確実に救い出せるのかと、覚悟を問うユーリ。だが、サーシャの決心は揺るがなかった。

 

「当然だ。どの道、お前はこうなると分かっていたんだろう?」

 

サーシャは横目でユーリに問う。当の本人は何の事ですかと、笑ってとぼけるだけである。

 

「私も忘れないでほしいわね」

 

聞き覚えのある声。客間に入ってきたのは、カーチャだった。意外な人物の登場に、思わず声を失う大和達。

 

「か、かかかかかかかかかカーチャさまあああ!!!!」

 

そして、華はとても喜んでいた。

 

「あれ、君って一年の………エカテリーナ、さん?」

 

「確か、まゆっちと同じクラスだったよね」

 

と、カーチャに声をかける卓也と京。何故ここにいるのか……すると、代弁するようにユーリが代わりに答える。

 

「ああ、いい忘れていました。彼女もクェイサーです」

 

「「「えぇっ!?」」」

 

大和達は驚愕した。こんなに小さい子が……信じられない。忠勝は知っているから驚かないが。

 

『まゆっちー、チャンスだー!友達宣言いっとこーぜー!』

 

「えぇっ!?そそそそんな松風、このような状況でそれは……」

 

『しゃらくせー!そんな事言ってたら、いつまでたってもダチは作れねーべよ!』

 

現れたカーチャを前に、松風と相談し始める由紀江。それを眺めながらカーチャは溜息をつき、

 

「言わせてもらうけど、私は友達は作らない主義なの。ましてや、独り言が激しい知り合いなんて死んでも願い下げだわ」

 

ズバッと、そして突き刺すように吐き捨てるのだった。

 

「ガーン!!ショックです、松風……」

 

『うわー!遠回しにオラの存在否定された!っていうかクラスにいる時と全然性格ちげー!』

 

心に多大なダメージを受け、カーチャ友達計画は失敗に終わった。由紀江と松風を一蹴したカーチャは、早速話を本題に戻す。

 

「川神一子、だったかしら?あんたたちと協力するつもりはないけど、私の奴隷に手を出した以上、見過すわけにはいかないわ」

 

カーチャは私情で、一子自身に用があるらしかった。おそらく心の事だろう。知っているのはカーチャだけなのだが。

 

しばらくして、

 

「――――よっしゃ、決めたぜ!」

 

突然、キャップが何かを決心したように意気込み始めた。全員がキャップに視線を向ける。

 

「聞いてくれみんな!俺から重大な発表がある」

 

急に何を言い出すのだろう。疑問に思うサーシャ達だったが、大和達は何となく察していた。

 

そう。それは、

 

「サーシャ、まふゆ、華、カーチャ、ゲンさん。今日から俺達、風間ファミリーのメンバーに任命するぜ!」

 

サーシャ達と忠勝を、ファミリーのメンバーとして迎え入れる事だった。まふゆや華は何がどうなのか、訳が分からずにいる。

 

「ふぁ、ファミリー?」

 

「……えと、どういうこと?」

 

疑問だらけの華とまふゆに対し、京が答えてくれた。

 

「まあ、簡単にいうと私たちの仲間って事。ちなみに毎週金曜には集会があるからね。これ以上人数が増えるのは賛成できないけど……キャップがああ言ったら聞かないから」

 

しょーもない、と京。歓迎しているのかしないのか、よく分からない華とまふゆだった。

 

「好きにしろ。俺は構わない」

 

サーシャは相変わらずの反応。

 

「は?冗談じゃないわ。私はお断りよ」

 

明らかに嫌な表情を浮かべるカーチャ。しかし、キャップはそんな事は気にしない。

 

「もう決めたもんね!お前がなんて言おうと今日からファミリーの一員だ!」

 

もはや強制だった。カーチャは調子が狂い、キャップから視線を外す。

 

「勝手にすればいいわ。いくわよ、華」

 

そう言って、カーチャは華を連れて客間から出ていく。まるでゲンさんみたいなヤツだなと、キャップは思った。

 

「ってか、俺もかよ。めんどくせーな」

 

何時の間にかメンバーに入れられ、めんどくさそうに腕を組む忠勝。

 

「んなこと言うなって、ゲンさん。俺、前々から誘おうと思ってたんだぜ?」

 

忠勝と肩を組み、スキンシップを図るキャップ。忠勝は仕方ねぇと諦め、ファミリーとして迎え入れられる事に同意した(ほぼ強制)。

 

「さっすがゲンさん。話が分かるぜ!」

 

「勘違いすんな。断ってギャーギャー騒がれるのがうぜぇだけだ」

 

重かった空気が、次第に晴れやかになっていく。サーシャもややこしい事になったと思いながらも、悪くない……そう感じていた。

 

するとそこへ、大和がサーシャの前へとやってくる。

 

「直江?」

 

「大和でいい。改めてよろしくな、サーシャ」

 

そう言って大和は手を差し伸べ、握手を求める。躊躇うサーシャだったが、照れを隠すように視線をそらし、そっと自分の手を延ばして握手を交わす。

 

こうして、サーシャ達は風間ファミリーの一員となった。

 

 

 

百代と一子の決闘まで、後数時間。

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