聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
深夜0:00。
百代と一子との決闘の時間が、ついにやってきた。百代は目を閉じ、この場所で一子が現れるのを静かに待っている。
客席には大和達と、サーシャ、まふゆ、華、カーチャが待機していた。
一子に会えると言う期待と、憎しみに染まった一子と向き合うと言う不安。相反する両局面の感情を抱きながら、彼らは一子を待ち続ける。
「――――――」
気を沈めながら、百代は精神を研ぎ澄ませ、気配を探る……一子は徐々に近付いてきていた。
気配が近付くに連れ、次第に川神院が黒い気配に包まれていく。
禍々しく、そして憎悪に満ちた気配に。
「―――――来たな」
一子の気を完全に察知し、目を開ける百代。その直後、百代の目の前に黒い闘気を纏った一子が降り立った。
一子は、笑っていない。怒りと憎しみに満ち、敵意を剥き出しにしていた。
百代に否定され、彼女の目標は消えた。今の一子は、百代を倒す為だけに存在している。
どうしてこうなってしまったのだろう……こんな戦い、望んでいないというのに。
「ワン子、私は――――」
「前置きはいいわ。アタシ達に言葉なんていらない」
百代の言葉を遮る一子。もう語るつもりはない、後は拳で語るのみだと。
「アタシはアタシを否定したアンタを許さない。アタシはアンタを倒して、アンタを超える」
断言する。百代は相槌もしなければ動揺もせずに、ただ黙って聞いている。
すると、立会いをする為大和が2人の間に入ってきた。大和は2人の顔を見た後、声高らかに、真剣に宣言する。
「―――――これから、決闘の儀を行う。二人とも、前へ出て名乗りを上げよ!」
大和の声と共に、百代と一子が一歩前へと出る。
「――――2-F、川神一子」
「――――3-F、川神百代」
互いに名前を交わす。一子は薙刀を構える。百代は構えない。百代の様子が気になり、声をかける大和だったが百代は始めてくれと促した。
大和は頷いて、決闘の合図を送る。
「いざ尋常に―――――始め!」
決闘の狼煙が上がる。大和は百代に危険だから下がっていろと言われ、客席へと戻っていく。
「――――――」
「――――――」
2人は睨みあったまま、微動だにしない。互いの動きを待ち、様子を伺っていた。
「―――――ワン子、これだけは言わせてもらうぞ」
「――――――」
一子は答えない。百代は沈黙を承諾したという意味で受け取り、話を続ける。
「私は決闘をするつもりはない。私はお前を―――――止める」
決闘という形であっても、あくまでこれは決闘ではないと告げる百代。是が非でも、一子との決闘は望まない。一子を止めるという一心で、百代はこの戦いに身を投じていた。
“この力は、大切な仲間を守る為にある”
大和達を守り、一子も救い出す。甘ったるい正義かもしれない。それでも、仲間として、姉として一子と向き合う為に拳を振るう……そう覚悟を決めたのだから。
それに対し一子は、
「………どこまで、」
歯を食い縛り、侮辱を受けたと感じ、怒りで身体を震わせていた。身体から滲み出る黒い闘気が、さらに濃度を増していく。
憎しみが彼女を強くする。百代を倒せと命令する。一子は負の感情によって支配されていた。
「どこまでアタシをバカにすれば気が済むのよ、アンタはああああぁぁぁ!!!!」
闘気を爆発させ、猛スピードで突貫する一子。先手を取り、薙刀の連撃を繰り出した。百代は回避行動を取るが、
(くそっ、思った以上に早い……!)
神速で繰り出される一子の攻撃を前に回避しきれず、身体中に切り傷を負う。だが、この程度で怯む百代ではない。
「川神流奥義――――――」
気を高めながら、拳に力を込めて反撃を開始する。
「
最後の斬撃の隙をつき、懐に潜り込む様に、一子の身体を殴りつけた。殴った箇所から波紋が広がっていき、一子の身体を内側から破壊する。
「がっ―――――ごっほっ!?」
身体中を破壊され、ごぶりと血を吐き出しながら吹き飛ばされていく一子。道場の壁に叩きつけられ地面に伏すが、よろよろと立ち上がり、口に溜まった血を吐き捨てる。
「―――――瞬間回復!」
気を集中し、身体中に受けた傷を回復させた。禍々しい闘気が、一子の身体を食いつぶすかのように不気味に揺らめいている。
百代は構え、更なる反撃に移ろうと試みる。だがその刹那、
「―――――!?」
百代の視界から、一子の姿が消えていた。周囲を見渡すが、どこにもいない。どこから仕掛けてくるのか、その気すらも読み取れない。
「後ろよ―――――!」
百代の背後から一子の声。振り向いた時にはもう、薙刀の一撃が腹部にめり込んでいた。衝撃で百代の身体が吹き飛ばされていく。
「川神流―――――」
一子の攻撃は終わらない。薙刀を投げ捨て両手に気を集め、
「―――――星殺し!!!」
エネルギー砲を百代に向けて発射した。憎悪で膨れ上がった紫色の砲撃が百代を襲う。あれをまともに受ければ、いくら百代でも瞬間回復では補いきれないだろう。
吹き飛ばされた体勢で回避できない。それなら……と、百代の取る行動は一つしかなかった。
「川神流―――――」
百代は
「―――――星殺し!!!」
繰り出された同じ技を、一子のエネルギー砲に向けて解き放った。互いの闘気と闘気がぶつかり合い、相殺した衝撃で爆発が起きる。
「はあああああーーーー!!」
「はあああああーーーー!!」
爆発と同時に、百代と一子が衝突する。体術と体術による高速戦闘が始まり、どちらも全くリードを譲らない。
激しい攻防が続く中、流れを先に掴んだのは百代だった。百代は一子の左腕に掴みかかる。
「――――川神流・炙り肉!!」
自らの気で右腕を紅蓮の炎に変化させて反撃にかかる百代。高温の炎は一子の体力を徐々に奪う。
だが、一子は動じない。紅蓮の炎と化した百代の右腕を掴み、
「――――川神流・雪達磨!!」
気で右腕を絶対零度の冷気に変化させて、百代の右腕を凍りつかせようと攻撃を仕掛けた。
炎と氷。相性は明らかに百代が有利である。一子が冷気で対抗したとしても、炎で溶かされてしまうのが道理。
「―――――な!?」
一見、有利に感じていた百代。だが右腕の異変を感じ取り、危険を察知して一子の腕を振り払って後退した。
百代の右腕を包んだ紅蓮の炎が、消えている。まるで死んでいるように右腕の肌は青ざめ、ぶらりと力なく垂れ下がっていた。
(こいつ………
冷たくなった右腕を庇うように押さえる百代。そう、一子は直接冷気を放ったのではない。狙ったのは百代の右腕の内部であった。
内部の細胞組織を冷気で一時的に活動を停止させ、百代の炙り肉を無効化したのである。
「―――――瞬間回復」
気を熱に変え、機能を失った右腕を修復する百代。ここまで互角……否、それ以上に戦う事になるとは予想していなかった。百代は一子の歪んだ強さを改めて再認識する。
だが、それでも。
これを決闘として認める事はできない。一子がどれだけ強くなったとしても、元素回路によって得た強さなど、紛い物に過ぎないのだ。
一子を止める。一子を救い出す。そして、一子と真っ向から向き合う。だからこそ、ここで倒れるわけにはいかない。
「はああああーーー!」
地面を蹴り上げ、百代は一子に向かって走り出す。同時に一子も走り出し、百代を迎え撃つ。
距離が次第に縮まり、2人が衝突するその直前、一子は地面に投げ捨てていた薙刀を蹴り上げ、手に持ち構えて百代を刺突する。
「くっ……!?」
百代は僅かな殺気を感じ取り、紙一重で攻撃を回避した。薙刀の切っ先が、百代の喉を掠める。一子の攻撃はそこで終わらず、突きの雨を百代に浴びせていく。
一子の一つ一つの動作を、百代は見極める。一撃、二撃、三撃……攻撃にできた綻びを探し、反撃の隙を伺う。次の瞬間、
「見切ったぞ!!」
百代は指で一子の刺突を止めてみせた。一子は切っ先を退こうと力を入れるが、薙刀はピクリとも動かない。そして、
「目を覚ませ、ワン子―――――禁じ手・富士砕き!!」
百代は渾身の一撃を一子の身体に叩き込んだ。一子は衝撃で吹き飛び、地面を転がっていく。
「―――――」
一子は、まるで糸が切れた人形のように動かない。これで終わりだろう……と、息を切らしながら一子の様子を伺う百代。
が、しかし。
「瞬間、回復………」
一子はまたしても立ち上がり、再び受けた身体の傷を全て塞いでいく。もはやその姿は、修羅そのものであった。
「川神百代……アタシは、アンタが憎い」
薙刀を百代に向けながら、溜め込んだ怨嗟を吐き出す一子。百代は一子に対して、始めて恐怖を抱いていた。
一子をここまで駆り立てているものは、一体何なのだろう……ただの憎しみとは思えない。元素回路の影響とはいえ、あの闘気には“川神一子としての闘気”が色濃く残っているように感じた。
「ワン子、お前……どうしてそこまで……」
百代は問う。一子の内に秘めた思いを。一子は忌々しげな表情を浮かべながらその問いに答えた。
「何度も同じ事を言わせないで。アンタを倒すためよ。アンタを倒して、アタシが武神になる」
百代を倒して、自らが武神になる。“百代と肩を並べられるくらいに強くなる”……そんな彼女の願いは、いつしか歪んでいた。
「アタシは……アンタを許さない。アタシを認めてくれなかったアンタを」
「ワン子………」
何故だろう。一子の言葉にある憎しみの中に、認めてくれなかった事への悲しみが、百代の胸に伝わってくる。
「……ずっと、アタシは憧れてた。アンタみたいに強くなるって。だから、アタシはどんな辛い修行にも耐えてきた。いつか、アンタと対等になれる……そう信じてた」
「…………」
百代はもう何も答えない。ただ黙って、一子の言葉に耳を傾けていた。
「でも、結局認めてくれなかった。アタシには武術の才能がないって知ってて……アタシを期待させておきながら……最後は突き落とした!!!」
「………!!」
百代は思い出す。百代が戦いをやめると言って、一子に勝負を挑まれた時の事を。
“お前には武術の才能がない”
あの時は怒りに任せ、感情的になり言ってしまった言葉。
それが、どんなに心無い言葉だったか。どんなに一子を傷付けたか。
「アンタには川神の血が流れてても、アタシにはない!アンタに分かる!?才能のない人間がどれだけ這いつくばっても、届く事のないこの苦しみが!?そうよ分かるわけがない!!分かって溜まるもんか!!!!」
秘めていた叫びは百代だけでなく、由紀江や京、クリス。サーシャ達にも向けられていた。
「もう一度言うわ。アタシは……川神百代、アンタを倒す!絶対に許さない!!」
一子の抱えていた苦しみが、憎しみとなり、全てを百代に向けて吐き出した。それは、一子が決して表に出さなかった、負の感情だった。
「そう、か……お前は……そんなにも……」
一子の気持ちが、痛い程に、胸を貫きそうなほどに伝わってくるのがはっきりと分かる。こんなに近くにいたのに、何でもっと早く気付いてやれなかったのだろう。
百代は悔しくて、自分で自分を消してしまいたかった。一子がこうなってしまったのは、自分の責任だ……百代にとって、それは何よりも重い罪だった。
百代は身体中の闘気を収め、一子に戦う意思が無い事を伝える。
「………どういうつもりよ?」
戦いを放棄した百代を睨み付け、薙刀を握りしめる一子。すると、百代はそのまま、一子に向かってゆっくりと歩き始めた。
「ずっと………苦しんでたんだな」
百代はうっすらと笑いながら、一子との距離を縮めていく。何のつもりなのか……一子には全く理解ができなかった。
「何よ……またそうやってバカにするの!?構えなさいよ、川神百代おおぉぉ!!!」
一子は薙刀に気を纏わせ、気の斬撃を百代に向けて放つ。だが、百代は避けようとはしなかった。斬撃は百代の右肩に直撃し、勢いよく血が吹き出す。
どうせまた瞬間回復を使うだろう……一子はそう思っていたが、その期待は裏切られる。
百代は、何もしなかった。傷付きながらも、一子に向かって歩み続けている。一子はそんな百代に対し、恐怖した。
「何よ……何なのよ。わけがわかんない……」
一子の声は震え、さらには薙刀を持つ手までもが、震えていた。
「私は……何も、気づいてやれなかった……最低だな……最低の、姉だ……」
自分を罵りながら、百代は歩を進める。
「いや……来ないで……」
一子の思考は、憎しみよりも恐怖が先に支配していた。戦意を失った百代に、何故ここまで恐怖を抱かなければならないのだろう。
「ワン子……私は……」
百代と一子との距離が無くなっていく。ワン子は次第に追い詰められていた。そして、
「来ないでっていってるでしょおおおおおおおおおおおぉぉ!!!!」
薙刀の切っ先を前に突き出し、百代に向かって駆け出した。
――――――――。
一瞬、時間が止まったような気がした。一子は、ゆっくりと目を開ける。
「―――――え」
一子の目の前には、百代の姿があった。一子の身体は強く、優しく抱きしめられている。
一子は周囲を見渡した……誰もが目を見開いていた。大和も。キャップも。卓也も。岳人も。忠勝も。京も。由紀江も。クリスも。
そしてサーシャ、まふゆ、カーチャ、華までもが言葉を失っている。
「…………」
一子の持つ薙刀は、百代の身体を貫いていた。百代の制服から血が滲み出し、ポタポタと血を滴らせている。
百代は一子の思いを、全てを受け入れた。それが、百代の“罪の形”だった。
「……ごめん、な……ワン、子。お前の苦しみに、気付いてやれなくて」
全部私のせいだと、口から血を吐き出しながら、一子に囁く百代。一子は何が起きているのか分からず、動揺を隠せずにいる。
「……ごほっ、卑怯だと、思うかもしれない……こんな事で、許して、もらおうだなんて……思ってない。けど………」
一子の背中にそっと手を回しながら、百代は力なく笑う。
「私が、できることは、これしか……思い浮かばな、かった。はは、かっこ、悪いよな……」
百代の意識が、徐々に消えていく。一子は何も言えず、ただ百代の声をずっと聞いていることしかできない。
「……本当に、…本当に、ごめん。ごめんな、ワン子……不器用な、姉で……さ」
百代は最後に微笑み、意識の灯火が消えた。一子を抱きしめる手が、力なく落ちる。一子はよろよろと後退っていく。
百代の身体を貫いていた薙刀が抜かれ、その傷口から血が零れ出していた。
そして百代は……一子の目の前で、地面に倒れ伏せた。地面に夥しい血が広がっていく。
「―――――」
一子の制服は、百代の返り血で赤く染まっていた。一子は、百代の血で真っ赤になった掌をまじまじと眺める。
「あ………あ……」
“―――――自分が、百代を倒した。”
“―――――自分が、百代を殺した。”
その現実が、一子の頭の中を駆け巡った。
孤児院から引き取られてから、何をするにも、百代と一緒だった。厳しい修行の毎日だったが、百代と一緒なら、どんなことでも乗り越えられた。そんな思い出が走馬灯のように蘇る。
百代という目標が、側にいたから今の自分がある。何故今まで、そんな大切な事を忘れてしまっていたのだろう。
その百代に、手をかけた自分がいる。憎んでいたのに。百代の……姉の本当の優しさに触れ、一子の黒い感情がすぅっと、消えていった。
それと同時に、自分のした行いが、感情の波となって押し寄せる。そして、
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
一子の絶叫が、川神院に響き渡った。
決闘を見届けていたサーシャは席から立ち上がり、まふゆに顔を向ける。
百代との約束を果たす。一子を救い出すという約束を。
「まふゆ!」
「うん!」
まふゆは胸を曝け出し、サーシャに聖乳を与える。サーシャはそっと乳房に口付けをした。
そして聖乳を吸い終えたサーシャは大鎌を錬成し、戦闘体勢に入る。
「行くぞ、まふゆ!」
「うん。一子ちゃんを、助けよう!」
サーシャとまふゆは進む。一子を助け出す為に。
「―――――震えよ!畏れと共に跪け!!」
サーシャ達の戦いが、始まった。