聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
ですが、ストーリー自体に変更はありません。
激闘の末、姉である百代に手をかけてしまった一子。憎しみが消滅し正気に戻った一子だが、負の感情は元素回路の影響によって身体に残留したままだった。
鉄心やルー、修行僧達に手を掛けた事。仲間に刃を向けた事。学園の生徒を傷付けた事。
そして、百代。姉であり、自分の目標。これまでしてきた事への罪悪感が、一子を苛ませていた。
「あ……あ、アタシ……お姉さまを……あ、どうして、こんな……あ、ああああああああああああああああああああああ……!!!」
負の感情に押し潰されそうになる。一子はただひたすらに叫び続けていた。一子の身体を纏った黒い闘気は消える事はなく、膨れ上がる一方である。
怒り、憎しみ、悲しみ。罪の意識はさらなる闇を呼び、彼女の精神を狂わせていた。
一子が“壊れて”しまう……サーシャとまふゆは彼女の下へと駆け出した。
(まずい……サーキットが暴走している!)
くそ、と舌を打つサーシャ。
一子の胸に装着されている元素回路が、バチバチと音を立てながら火花を散らしている。
元素回路の暴走。恐らく一子の精神状態が不安定になってしまい、一子の身体とリンクしていた元素回路自体が、壊れかかっているのだろう。
元々破壊が目的である為に好都合だが、同時に一子の身体にも影響する。一秒でも早く元素回路を取り覗かなければ……サーシャは一子に向かって突進する。
だが次の瞬間、一子に更なる変化が起こった。サーシャは寸前で足を止める。
「………ああ……うぅ……」
叫び続けていた一子の声が、次第に静寂を帯びていく。頭を抱えながら地面に俯き、彼女の表情は見えない。
「うぅ……ふ、ふふ……ふふふ」
悲痛な叫び声から、次第に笑い声に変わっていく。サーシャは戦慄した。
そして彼女の闇は、予想もしない形で現れる事になる。
「ふふ……あは、あははははははははははははは!!!」
夜の空に向かって、突然歓喜し始めたのである。まるで何かを勝ち取ったかのように。否、勝ち取ったのだ、自分の目標である百代をこの手で、倒す事が出来たのだから。
「やった……アタシは……お姉さまに勝った。今までずっと越えられなかったお姉さまに!」
百代を倒し、百代を超える。一子の夢見ていた事が実現した。それは彼女に取って何よりの喜びであった。もう自分が犯した罪など、もはやどうでもいい。些細な事だと切り捨てている。
全ては自分の願いの為。それならば、どんな手段や犠牲も、厭わない。たとえそれが、大切な仲間であったとしても。
一子は自分の目の前に横たわる百代の姿を見下ろした。そして、
「お姉さま……いつもこうして、アタシを見下ろしてたのね。でも今度はアタシがお姉さまを見下ろす番よ。今なら……誰にも負ける気がしない……!」
願いは果たした。ならば次は更なる高みへと昇るのみ。より強き者を求め、戦い続けるという終わりの見えない闘争心が、今の一子を震えたたせていた。
今なら誰にも負ける気がしない。それは以前の百代と同じ、本能がままに戦う獣。百代を倒してしまった事で、さらに歪んでしまった彼女の姿。
元素回路を取り除かない限り、一子の正気は戻らない。姉に対する思いは、彼女の闇によって埋れてしまっている。
なら、呼び覚ますしかない。サーシャの手で。
一方、百代と一子の戦いを見届けていた大和達は、傷付いた百代を助ける為に観客席から身を乗り出し、動き出していた。
一子はサーシャとクリス達、女性陣に任せるしかない……後は自分達にできる事をしよう。
だが百代の横たわる道場に乗り出そうとした瞬間、異変は起こった。
「………何だよ、これ!?」
客席と道場の間を隔てるように、見えない壁のような物が大和達の行く手を阻んでいたのである。戦いが始まるまではこんな物はなかったのに……大和は見えない壁に何度も拳を叩きつける。
しかし、幾度繰り返してもその壁が割れる事はなかった。まるで最初からそこにあったように立ち塞がっている。
壁の向こう側には百代がいるというのに……何もできないもどかしさが大和を苛立たせていた。
「くそ、何なんだこの壁は!?」
「大和、こっちもダメだぜ。びくともしねぇよ!」
クリス、岳人も壁に向かって攻撃を試みるが、壁は一向に壊れる事はない。京や由紀江、カーチャ達も同じである。
一体何が起こっているのだろう。このままでは先へ進めない……そう思っていた矢先だった。
「―――――彼女は、より高みへと登ろうとしています」
離れた観客席から聞こえる、男性の声。それは大和達に向けられていた。大和達は声のする観客席へと視線を向ける。
その先には、サーシャと一子の戦いを見届ける男……フールが立ち尽くしていた。
「僕達にはそれを見届ける義務がある……そうは思いませんか?」
この戦いに介入すべきではないとフールは大和達に問う。
突然現れた謎の男。明らかに普通の人間ではない。一体何物なのだろう……するとフールの姿に見覚えがあるのか、カーチャ、華が反応を示す。
「フール……そういう事。この結界もあんたの仕業ね」
面倒な事をしてくれたわね、と舌打ちをするカーチャ。カーチャの口振りから、この見えない壁はフールが作り出した物のようだ。
そして、その異能の能力……カーチャ達が知っている存在。フールはクェイサーの類であると大和達は理解した。
「てめぇ……今すぐこの壁を消しやがれ!」
怒号のような岳人の叫びが道場に響き渡る。しかしフールは岳人の言葉を一蹴するように、静かな笑みを浮かべた。
「言った筈です。彼女は今高みへ登ろうとしていると。僕達に彼女を止める権利はありません」
肯定せず、否定もしないフールの曖昧な返答。それは岳人だけでなく他のメンバーにも憤りを感じさせた。邪魔をするな、という事だろう。
そんなメンバーの中、結界の事など気に掛けず静かに怒りを燃やす男がいた。キャップである。
「あんた……ワン子に何した?」
一子が変貌してしまった原因。それはフールである事をキャップは確信していた。それに対しフールはまさか……と白を切るように返答する。
「僕は彼女にきっかけを与えただけですよ。それに、力を望んだのは彼女自身……そう。彼女の意思なのですから」
全ては一子が選び、一子が望んだ事。更なる強さを求めるという歪んだ欲望が、一子を突き動かしているとでも言うのだろうか。
しかし、それが事実だとしても、大和達は一子を止めなければならない。大切な仲間として。
「それでも、私は一子さんを止めます―――――!」
仲間を救う為に剣を取る。抜刀し闘気を身に纏う由紀江。由紀江は疾走しながら、神速ともいえる一閃をフールに放った。距離は一瞬で縮まり、反応する隙すら許さない由紀江の一撃。
だが、
「―――――!?」
その攻撃は、空振りに終わった。由紀江の前にフールの姿はない。攻撃が触れる直前までは、確かにフールは存在していた筈だ。
「流石は黛十一段のご息女……見事な剣捌きです」
由紀江の背後からは、賞賛と侮蔑の意味を込めたフールの声。フールはいつの間にか由紀江の後ろに立っていたのである。由紀江の攻撃に、フールは汗一つすらかいていない。
「貴様――――!」
続いてクリスがレイピアを突き出し追撃をかける。すると、フールは懐から数枚のタロットカードを取り出し、その内の1枚を突貫するクリスに向けて投擲した。
タロットカードは綺麗に円を描きながら回転し、クリスのレイピアの切先に接触する。次の瞬間、突然紋章のようなものが浮かび上がり、攻撃を防ぐと同時にクリスを身体ごと吹き飛ばした。
由紀江、クリスすらも軽くあしらう程の圧倒的な力。フール……予想以上に強い相手である。
「お前、何が目的だ!?」
睨み付ける華。しかしフールは相変わらず意味深な笑みを浮かべるだけである。そして、
「全ては……サルイ・スーの導きのままに」
残りのタロットカードをフールの立つ右側に翳した。するとタロットカードが怪しく発光し、空間が歪みゲートが出現する。恐らく逃げるつもりだろう。
「逃がさない――――!」
遠距離から、京の放った矢がフール目掛けて飛んでいく。しかし京の攻撃も虚しく、フールはゲートの中へと姿を消した。後に残るは数枚のタロットカードが散らばるのみである。
「……カーチャ。この結界を破る方法は?」
フールを取り逃がしてしまったが追い掛けるわけにもいなかい。大和は思考を切り替え、まずこの現状を打破する事を最優先とした。
「どこかに結界を作り上げている元素回路がある筈よ。それを一つ一つ潰すしかないわ」
面倒だけどね、とカーチャ。それが分かっただけでも十分だ……大和は他のメンバーに告げる。
「聞いての通りだ。手分けして元素回路を探すぞ、みんな!」
この結界を解いて、一子達の所へと急ごう……メンバーは力強く頷くと、それぞれ一斉に動き出すのだった。