聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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サブエピソード19「ワン子、限界突破!?」

川神院、野外道場にて。

 

サーシャは鉄心とユーリの監督の下、道場を借りて百代と模擬戦闘を行っていた。側にはまふゆと一子。大和もその戦いを観戦している。

 

もちろん模擬戦闘とはいえ互いに本気であり、激しい攻防を繰り広げていた。

 

「――――そこまで!」

 

立会いをしていた鉄心が声を上げ、模擬戦の終了の合図を告げた。サーシャと百代は戦いを止め、お互いに一礼して挨拶をする。

 

「……さすがに瞬間回復なしはキツいな。っていうか、血液操るとかお前チートだろ」

 

サーシャの能力に対して文句を垂れる百代。

 

―――――そう、サーシャは鉄のクェイサーである。

 

 

人間の血液中の鉄分も操る事ができ、百代が瞬間回復を使用した瞬間、血液中の鉄分を操作され細胞の活性化を止められてしまうだろう。そうなってしまえば圧倒的に不利になる。

 

「お前の瞬間回復も似たようなもんじゃわい」

 

と、百代達に近付きながら苦笑いする鉄心。

 

鉄を操るクェイサーと、瞬時に回復する力を持つ最強の武神。どちらも負けず劣らずである。

 

「いい試合だった」

 

サーシャが百代に握手を求める。百代は笑って、

 

「ああ。次も頼むぞ」

 

互いに握手を交わすのだった。

 

「すごい、2人ともやっぱり強いわね!」

 

一子が百代に向かって抱きついてくる。百代は可愛い妹だと、優しく一子の頭を撫でていた。

 

――――あの戦い以来、しばらく一子の相手をしていない。一子自身も気を使っているのか、あまり手合わせを申し出てはこなかった。

 

「………なあ、ワン子。たまには組み手でもしないか?」

 

「えっ……」

 

百代の突然の申し出に、目を丸くする一子。本当にいいのだろうか……一子は鉄心を見る。鉄心は快く承諾してくれた。一子の表情が、みるみる笑顔になっていく。

 

「うん、するする!」

 

「よし。そうと決まったら早速やるか……じじぃ、立会いを頼む!」

 

鉄心にそう伝えると、百代と一子は向かい合って一礼する。

 

「さあ、来い。ワン子!」

 

「はいっ!」

 

2人の手合わせという名のスキンシップ。少しでも一子の傷を癒してやりたい。少しずつ、ゆっくりと時間をかけて。

 

「はああああ――――!」

 

先手は一子。一子は持ち前のスピードで百代に向かって疾走し、蹴りの一撃を与える。

 

――――その時、それは(・・・)起こった。

 

「―――――!?」

 

いつもなら身を躱す百代であったが、条件反射で身体が防御行動を取った。百代は左腕で一子の蹴りを防いでいる。

 

防いでいるまではいい。しかし、百代の防御した左腕の骨が衝撃に耐えきれず、軋みをあげて折れ、赤く腫れ上がっていた。

 

「あ……あれ?」

 

一子自身も驚いている。もちろん立会いをしていた鉄心や、サーシャ達もである。

 

「………瞬間回復」

 

百代は無表情のまま、自分の身体に受けた傷を回復させた。折れた左腕が元に戻っていく。

 

 

そして、

 

 

「………ワン子、組み手はなしだ」

 

「え?」

 

「――――今から死合うぞ!」

 

百代にスイッチが入り、一子を押し切るように怒涛の攻撃を繰り出した。拳と蹴りの嵐が一子を追い詰める。こうなってしまっては手も足も出ない。

 

だが、

 

「―――――!!」

 

一子は百代の動きを読み取りながら回避し、全ての攻撃を払いのけていた。

 

(この動きのキレ、威力。これじゃまるで―――――)

 

百代は驚愕する。元素回路を装着したあの時の一子と戦っているような感覚だった。

 

 

いつの間にこんなに強くなったのだろう。威力は劣るかもしれないが、強さは十分である。黒い闘気は感じられない。純粋な、一子としての強さであった。

 

だからこそ、百代は歓喜する。一子とこうして、互角に戦えるこの喜びを。

 

「面白くなってきたぞ!!川神流―――――」

 

とうとう心に火がつき、ヒートアップした百代は拳を突き出してカウンターを狙う。

 

「―――――?」

 

異変を感じ取った百代は拳を引っ込めた。一子の気が急に消えたからである。

 

「――――――」

 

一子の身体がふらつき始め、ついには糸が切れた人形のように、力なく地面へと倒れ伏せた。

 

「ワン子!?どうした、しっかりしろ!」

 

一子の身体を抱き起こし、必死に呼びかける百代。だが返事はない。意識はなく、身体中から大量の汗をかいている。

 

思わぬ事態にサーシャ、鉄心達が駆け寄り、一子は川神院の休憩室へと運び込まれた。

 

 

 

 

―――――川神院、客間。

 

「後遺症だね」

 

一子の急変に呼ばれた麗が、客間に集まっているサーシャ達に告げる。

 

後遺症。それは、装着した元素回路によるものであった。

 

症状はこうである。一子が装着した元素回路によって身体能力が限界以上まで引き出され、取り除いた後も能力は一部を除き(星殺し等のデタラメな技)そのままの状態になっているらしい。

 

だが、身体が自身の能力についていけず、力尽きて倒れてしまう……それが、麗が診断して出した結果だった。

 

「……戦えたとしても、あの状態だとせいぜい一分が限界ってところかな」

 

煙草を吹かす麗。もう一子は戦える身体ではない……その現実が受け入れられず、大和や百代が何とかならないかと講義した。

 

すると、麗の代わりにユーリが前に出て答える。

 

「残念ですが、もう一子さんの身体は元に戻る事はないでしょう。元素回路は元々、一般人が使用すると危険な代物ですからね」

 

一子は何らかの形でサーキットを装着し、その力を行使した代償として、本来引き出される事のなかった力を扱い切れていないのです、とユーリは説明する。

 

日常生活に支障はないが、少なくとも今のままでは戦う事はおろか、トレーニングすらも難しいだろう。無理に実行すれば、症状がさらに進行して悪化するばかりだ。

 

「そん、な―――――」

 

項垂れ、絶望する百代。一子はもう戦えない。修行も組み手も、何一つできない。あんなに師範代を目指すと、ここまで頑張ってきたというのに。

 

「……お、姉さま」

 

休憩室で眠っていた一子が目を覚まし、身体をふらつかせながら部屋に入ってきた。顔色も悪く、今にも倒れてしまいそうな程に。

 

「ワン子……聞いてたのか」

 

「……うん、ごめん」

 

百代は一子の身体を、そっと支える。聞かれていた以上、一子はきっと絶望するだろう。しかし、一子はそんな素振りなど微塵も見せず、百代に笑顔を向けるのだった。

 

「……いいの。こうなったのもアタシのせいだし。きっと、バチが当たったんだね」

 

「違う……私のせいだ。私のせいで……」

 

「謝らないでお姉さま。ほらアタシ、元々才能なかったみたいだし……だから、もういいんだ」

 

師範代は諦める、と百代や鉄心達に伝える一子。鉄心は何も言わず、ただ一子の出した答えを受け止めていた。

 

「―――――諦めるんじゃないよ。川神一子」

 

突然部屋の襖の扉が開く。中へ入ってきたのはビッグ・マムであった。何故ここにいるのか……すると、ユーリがにこやかに笑みを浮かべて理由を説明する。

 

「実は、頼んで来て頂きました……一子さんのリハビリの為に」

 

ええっ!?と声を揃えるサーシャ達一行。ユーリは予め、一子の為の手配をしていたのだ。

 

「いいかい?よく聞きな、一子。今のままじゃお前は満足には戦えない。だがお前さえよければ、アタシが鍛えてやろう」

 

リハビリと言う名の戦闘訓練……一子の承諾さえあれば、ビッグ・マムが付きっ切りで訓練をしてくれるのだという。それを聞いた一子の目が、少しずつ輝きを取り戻していくように見えた。

 

「アタシ……を?」

 

「そうとも。最初に言っておくが、アタシの修行は並大抵の物じゃない。中途半端な覚悟じゃあ乗り切れないよ。もちろん、断っても構わないが……どうする?」

 

ビッグ・マムの修行は、ギリシャにあるスコーレと言う養成所で行われる。そこで数ヶ月間滞在し、鍛錬を行うというのが修行の内容だった。

 

一子が今まで川神院で受けた修行よりも、ずっと辛い物になるだろう。しかし強制ではない。戦う事を諦め、普通に学園生活を送るのも一つの選択だ。

 

だが、一子の答えは一つ――――考える余地もない。何故なら既に覚悟は決まっていたから。

 

「アタシ――――やります!もっと強くなりたい!」

 

力強く、そしてビッグ・マムをしっかりと見据えながら答えた。ビッグ・マムは一子の目に迷いがない事を悟ると、満足げに頷くのだった。

 

「よく言った。日程は決まり次第知らせる。今はゆっくりと身体を休めておくといい」

 

「はい!ありがとうございます、ビッグ・マム講師!」

 

一子の目には一筋の希望。それは一子が目指していた師範代という道が、百代と肩を並べて戦えるという道が、開けたという事。

 

「よかったな……よかったなワン子!」

 

「うん!アタシ、絶対強くなるから!それまで待ってて、お姉さま!」

 

喜びを分かち合い、約束を交わす一子と百代。それを見守る大和達と鉄心。そしてサーシャ達。

 

―――――一子の物語は、まだ始まったばかり。

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